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Interview
質問家 松田充弘氏
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

まつだ・みひろ
質問家。しつもん経営研究所代表、日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー。1973年生まれ。カウンセリングとコーチングの理論をベースに独自のメソッドを開発。著書に『ビジネスで一番大切なしつもん』『しつもん仕事術』(ともに日経BP)、『起きてから寝るまでの魔法の質問』(サンマーク出版)などがある。

コミュニケーションの基本である質問。問い掛け方によって相手との心理的な距離を縮めたり、モチベーションを高めたりできる半面、使い方を誤ると嫌な気分にさせることもある。相手のためになる良い質問の仕方について、医療関係者に講演する機会も多い「質問家」の松田充弘氏に聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本宗明)

─名刺の肩書に「質問家」とありますが、どういう仕事をするのですか。

松田 質問家とは、聞きたいことを聞くのではなくて、相手のためになる問い掛けを行う仕事です。コンサルタントに似ていると思うかもしれませんが、コンサルタントは知識と経験を基に物事を教えるのに対して、質問家はその人が持っている答えを導くための質問をするのがその役割です。本当の答えを見つけるお手伝いをするような感じです。

 ベースは心理学のカウンセリングとコーチングです。最初はコーチングに興味があって学び始めたのですが、コーチングは前向きなエネルギーを持った人を対象にしています。ところが世の中には前向きな人ばかりではなく、どうすればいいだろうかと悩んでいる人もたくさんいます。そういう人にはカウンセリングの要素の方が生かせるのです。それで、この二つの要素を組み合わせて、「質問」を することにしました。

─問い掛けによって、その人が持っている答えを導くというのは、相手の気付きをサポートするようなものですね。例えば患者さんに生活習慣の改善などを指導する際に役立ちそうです。

松田 仲間で健康の指導をしている人がいますが、正しい答えはアドバイスできるけれど、相手がやりたいと思わなかったら行動を起こさないと言っていました。教えられたことはなかなか身に付きませんが、自分から出た答えは行動につながりやすいものです。そして、行動すれば何らかの変化を実感できるので、継続する意欲も出てきます。

 それから、「何を」言われるかよりも、「誰から」言われるかが重要です。例えば自分に共感してくれるお医者さんから言われるのと、否定しているお医者さんから言われるのとでは受け止め方は違います。だからアドバイスをするにしても、最初に心理的な距離を近づけるために相手を認める質問をし、信頼関係を作っておくことが大切です。

─松田さんの著書の『ビジネスで一番大切なしつもん』を拝読したのですが、質問には「利己的な質問」と「利他的な質問」があって、利他的な質問が重要であると書かれています。

松田 そうです。適切なアドバイスをするために相手の情報を得る質問をするのは構わないのですが、知っておいた方がすっきりするという感じで行うようなら、それは利己的な質問です。

 利己的な質問の多くは「尋問」と呼ばれる、相手を責めるためのものです。良くない質問の第一がこの尋問で、「何でやらなかった」など、「何で」で始まる場合が多いですね。尋問すると相手からは言い訳しか出てこないし、気分も落ち込ませてしまいます。そうではなく、相手を前進させるような問い掛けをすることが大切です。良くない質問の第二は答えがあるものに関する質問で、これはクイズになってしまいます。相手は自分が試されるようで、嫌な気分になります。三つ目は命令質問と呼ばれるもので、一見質問のようですが、実は選択肢がない命令になっているものです。この三つを行わないようにすれば、「良い質問」になっていきます。

─本の中では質問する側のマインドが重要だとも言っています(表1)。

表1 質問をする人のマインド

(出典:松田充弘『ビジネスで一番大切なしつもん』日経BP、2013 年)

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松田 質問は、誰が、どのような状態で行うかがすごく大事なので、質問者の心得を挙げました。

 中でも特に重要なのは「聴き上手になる」です。シーンやシチュエーションによっても違うのですが、相手のことを知らずに、いきなり質問はできませんよね。「どこにお勤めですか」といった「疑問」を投げかけることはできますが、相手のためになる質問をするには、たくさん話を聞かなければなりません。

─聴き上手になるための技術のポイントも整理して示されています(表2)。

表2 聴く技術のポイント

(同上)

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松田 これは聴くための基本スキルです。特に、沈黙が苦手な方は多いですね。会話とは言葉を交わし続けなければならないものと思っていて、沈黙があると何かしゃべらなければと焦ってしまうような方です。でも、沈黙は悪いことではないと認識しておくと、会話が少し楽になるかもしれません。

 相づちやうなずきによって、相手と同じ波長になることも大切です。そうすると安心感が生まれます。テンポが速い人には速く、ゆっくりの人にはゆっくり相づちを打ってあげるといいと思います。

教えられたことは身に付かないが、自分で出した答えは行動につながりやすい

─良い質問を自分自身に投げ掛ければ、自分のモチベーションを高められるということですが、その際に重要なものは何でしょう。

松田 「その先を知る」ということです。プロジェクトをやっているとしたら、それが終わった後に何があるのか。働いている人はその先に何があるのか。先が見えるとやる気が生まれてきます。だから、その先を確認するための質問、「終わった時にどうなっていたら最高かな」とか、「これが実現できたら何が手に入るかな」といった質問を、自分に投げ掛けてみるといいと思います。

─4月なので、新入社員がこの記事を目にする機会もあると思います。そういう人がモチベーションを維持できるような質問はどんなものでしょうか。

松田 今の話にも通じるのですが、例えば「1年後にどんな姿になっていたら最高か」と問い掛けることです。これは、ゴールを明確にするためのものです。

  もう一つは、「どんな感情を得たいのか」を知ることです。というのは、ヒトは行動をしたいのではなくて、その行動の先にある感情が欲しいから行動すると言われています。仕事をするのも、仕事がしたいからではなく、何かの感情を得たくてやっているわけです。やりがいなのか、達成感なのか、優越感なのか、どんな感情が欲しいのかを知って、それを感じるために今週できることは何だろうと問い掛ける。例えば、達成感が欲しいと分かったら、「今週、達成感を得るためにできることは何だろう」と自分に問い掛けながら毎日を過ごすわけです。すると行動が変わるので、必ず変化を実感できます。

インタビューを終えて

 質問で人の行動が変わるのは、問い掛けによって元々自分の中にある答えに気付かされるからでしょう。考えてみれば、医薬品には免疫などの生体反応を誘導して効果を発揮するものも多く、患者が元来持つ力を利用して病を克服するのは医療の在り方の一つです。服薬に関するコツやノウハウは教えられるかもしれませんが、健康を維持したり、生活習慣を変えるには患者自身の動機付けが不可欠です。薬剤師が質問力を身に付ければ、活躍の場は大いに広がりそうです。(橋本)

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