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社長はつらいよ
新卒の採用は社長の忍耐力試験?
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

 「在宅に力を入れていること、この地で地域に根差した薬局展開をしていること、自宅から通えること。それが御社を志望した理由です」─。2015年春入社の新卒の採用試験が始まり、既に10数人の薬学5年生と面接しているが、このセリフを何度聞いたことか。学生は、判で押したように、同じセリフを口から発する。

 確かに、うちの薬局は数年前から在宅に力を入れている。単なる“お届け在宅”ではなく、薬学的管理がしっかりできる在宅医療を目指して、ノウハウを構築してきたつもりだ。健康フェアの開催など、企画から運営まで現場の人間が主体となって行い、患者さんに喜んでもらえる機会も、他の薬局より多い。阪神エリアに薬局が集中しているのも、転勤を嫌う薬剤師にはアピールポイントの一つだと思っている。しかも、自分でいうのもなんだが、うちの薬局はちょっとカッコいい。だから、薬学生の志望理由は、決して間違ってはいない。そうか、そうか。うちが第一志望なのか。そう思いながらも、恐る恐る聞いてみる。

 「どこか他の採用試験を受けていらっしゃいますか」。

 すると、これも判を押したように、「秋には、病院の採用試験も受けようと思っています」という答えが返ってくる。病院か、まあ仕方がないと思いつつも、何とか薬局に心を向けさせようと

 「病院では、患者さんとの付き合いは入院中のみだけど、薬局なら患者さんの一生に寄り添ってケアできるよ。それに病院で専門薬剤師になっても、病院内では医師がピッチャーの野球型で、薬剤師は守備だけ。それに比べて薬局は、みんなが専門家としてパスを出し合い、誰もがシュートできるサッカー型のチーム医療ができる。臨床家としての役割を発揮できるんじゃないかな」と、熱弁を振るう。

 しかし、薬学生の病院志望を覆すのは容易なことではない。そこで「地域の基幹病院ならいいけれど、中小病院ならうちの方が教えられることは多いと思うよ。大病院がだめなら、うちに来てくれるかな」と、これまた恐る恐る聞いてみる。すると「いえ、実は別の薬局も受けているんです」。ずるっ。

 「ど、どこなの?!」と聞くと、在宅活動にあまり力を入れていない、見た目が爽やかな外来調剤中心の大手調剤チェーンの名前を挙げてくる(これも、みんな同じパターンだ)。その薬局じゃあ、在宅もできないし、転勤も避けられないじゃないか!!

 ここでボクは頭を抱えてしまう。既に実務実習を終えているにもかかわらず、薬剤師としての具体的な将来ビジョンを描けていない学生がこんなにいるという事実に驚く。薬学教育のせいなのか、はたまた実習先のせいなのか……。

 もう一つ、理解に苦しむことがある。社長の面接で、「あんたの会社には就職しないかもしれないよ」といったことを、なぜ平気で言えるのか。正直に話してくれることはありがたいが、本来、採用試験は、いかに自分を採用してもらうかをアピールする場ではないだろうか。「他に受けているところはあるか」と聞かれたら、言葉を濁しつつ「御社が第一志望です」と答えるのが“お約束”ではないのか。就職活動というものが、まるで分かっていない。大学の就職指導は一体、どうなっているのか。

 そんな疑問や怒りを抱きつつも、薬剤師不足の折、新人の確保は社長の大命題だ。つかんだ腕を振り払われないように身を乗り出し、必死に熱弁を振るうしかないのであった。(長作屋)

筆者プロフィール
関西エリアを中心に展開する薬局チェーンのオーナー(非薬剤師)。
15年前に製薬会社を辞めて薬局を開設、今では25店舗を経営。

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