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特集:聞く力&伝えるココロ
聞き上手になるための4つのヒント
日経DI2014年4月号

2014/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年4月号 No.198

 投薬カウンターで患者と向き合い、病状などを尋ねてみるけれど、話してもらえない─。そんな悩みを持っている人は、まず、「聞く」態度が取れているかどうかを確認しよう。

 「人は、自分が『話したいな』と思う相手にはどんどん話すけれど、『聞いてくれていないな』と思う相手には話そうとしません」。福井大学病院総合診療部の医師、林寛之氏がそう指摘するように、話を聞く時の薬剤師の態度によって、患者の話しやすさは大きく変わってくる。

 林氏が掲げる傾聴の基本態度は、頭文字を取って「あいうえお・かきくけこ」の10項目(表1)。

表1 林寛之氏が伝授する傾聴・共感のキホン態度

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 例えば、話を聞く時の体勢。投薬カウンターを挟んで患者と向かい合ったら、過度のプレッシャーを与えない程度に、患者の目を見つめ、アイコンタクトを取ろう。その際、上半身をやや患者の方に傾けると、「熱心に聞いてくれている」ことが伝わりやすくなる。加えて、うなずきや笑顔など、共感していることを示すサインを出すと、患者は一層話しやすくなる。

 態度だけでなく、患者の話を聞こうとするココロも欠かせない。「大前提となるのは、『事実』と『意見』を分けて聞くことです」と林寛之氏。

 「医療従事者は、患者の意見が医学的な事実と食い違っている時に、つい意見を正そうとしてしまいがちです。まずは患者の意見を受け止めるよう心掛けて」(林寛之氏)。肯定し承認しようとするココロは、態度になって表れ、患者にも伝わる。「聞く」モードの時は、「でも」「しかし」はぐっと我慢しよう。

 医療従事者によくある心の“クセ”が、傾聴を妨げる要因になることもある。

 「例えば服薬コンプライアンスが悪い患者さんに対して、『飲まないと症状がひどくなりますよ』と頭ごなしに説教しても、なかなかコンプライアンスは改善しません」。こう指摘するのは、筑波大学大学院の橋本佐由理氏。

橋本 佐由理氏
Hashimoto Sayuri
筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学准教授。ヘルスカウンセリングやストレスマネジメントスキルについて研究や講演を行う。著書に『ナースの「聴いて・伝える」コミュニケーション術』(ぱる出版、2013)。

 このような医療従事者の「思い込み」や「説得したい」という意識は、心理学用語では「ブロッキング」と言い、表情や態度に表れて傾聴を妨げる要因になることが知られている(表2)。

表2 患者の話を聞く時は、“心の壁”を意識的に取り除こう

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 「ブロッキングが起こりそうになった場合は、意識的に脇に置くようにして。それだけでも、患者は進んで話し出してくれると思います」と橋本氏はアドバイスする。

 患者が話している最中に、“分かったつもり”になって話を遮ってしまうのもNG。「患者さんは最初は当たり障りのないことを話して、『聞いてくれそうだな』と思ったところで本音を語り出します」と東京理科大の後藤氏は付け加える。

Let's try! 傾聴の大切さを実感できる「沈黙のゲーム」

 患者に「話したいな」と思わせるためには、傾聴の姿勢を示すことが不可欠。その大切さを実感できる、「沈黙のゲーム」をやってみよう。

 ルールはこうだ。2人1組になり、「話す役(スピーカー)」と「聞く役(リスナー)」になる。スピーカーは、趣味や過去1週間の出来事についてリスナーに話して聞かせる。リスナーは声を発してはならない。

 リスナーはまず、スピーカーの目を見て、うなずいたり表情で興味を示したりしながら話を聞く(1分間)。次に、リスナーはそっぽを向いたり、携帯電話をいじったり、机にある書類に目を通したりして、スピーカーの話を聞いていないふりをする(1分間)。以上でゲームは終了だ。

 スピーカーは、リスナーの態度の違いによってどう感じたか、感想を発表しよう。興味を持って聞いてもらえた時には、話したいことが次々湧き出てきたはず。対して、話を聞いてもらえないと、空しく感じるだけでなく、何を話せばよいのか分からなくなってしまった人も多いのでは。

 薬局の投薬カウンターでも、患者の話を聞く姿勢が取れているかどうか、今一度チェックしてみよう。

 「聞く」ための心構えと態度を身に付けたら、次に覚えたいのが、相づちやうなずきといった、共感を示すサイン(表3)。「受け身でただ聞いているのではなく、患者さんの話すペースに合わせて、『ちゃんと聞いていますよ』というサインを積極的に出し、患者が話しやすい雰囲気をつくることが必要です」とファイン調剤薬局の近藤氏はアドバイスする。

表3 知って使おう! 共感は言葉と態度でこう示す

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 相づちのバリエーションが少なくて困っているに人は、林寛之氏が考案した“愛のソナタ”をご紹介。「そうなんですか」「なるほど」「確かに」の3フレーズが自然と口をついて出るようになれば、患者の意見をそのまま受け止めるという傾聴の基本もできている証拠だ。

 コミュニケーションの指南本などでよく目にする「おうむ返し」は、相手が話したことをそのまま繰り返すわけだが、乱用は禁物。単調に繰り返しているだけでは、「真剣に聞いているの?」と患者を怒らせかねない。

 そこで、「同じ意味を持つ別の言葉に置き換えながら返すと、解釈しながら聞いていることが伝わる」と林寛之氏はアドバイス。患者が「頭がズキズキして、昨日は一日中横になっていました」と話したら、「頭がズキズキ痛んで、体を起こすのもおつらかったのですね」と受ける─という具合だ。ただし、「拍動性の頭痛がするのですね」などと、難しい専門用語に置き換えないようご注意を。

 話を真剣に聞く時は、つい表情も硬くなりがちだが、いわゆる「真顔」は、コミュニケーションの場面では相手をおびえさせてしまう。話の内容や患者の心情に合わせて、表情を柔軟に変化させよう。休憩時間や出勤時のあいさつなどを利用して、日ごろから表情をほぐす練習をするのもお勧めだ。

Let's try! 「笑顔」の練習をしよう

 「笑顔をつくる時は、ややオーバー気味くらいがちょうど良い」と後藤氏は話す。自分が思っているほど、喜びや感謝の気持ちは、表情に出ていないことが多いからだ。鏡を見て練習したり、休憩時間に「スマイルタイム」を設けて、同僚同士でお互いの表情の癖を指摘し合ったりするといい。

 笑顔をつくる“魔法の言葉”として林寛之氏が勧めるのは、「ハッピー!ミッキー!ウイスキー!」。大きく声に出して言うと、満面の笑みに。それから自然に口を閉じると、来局した患者に向けるのに適した笑顔になるという。

 患者の“言葉にならない思い”や気持ちの変化をくみ取るためには、患者の話に耳を傾けつつ、五感をフルに活用して、患者の様子を注意深く観察することが必要だ(表4)。

表4 五感をフル活用して患者の本心に迫る

 例えば薬剤師が、「症状は良くなりましたか」と尋ねた時、患者が明るい声でにこやかに「はい」と言うのと、目を伏せて弱々しく「はい」と言うのでは、同じ「はい」という言葉であっても、言葉の裏にある意味は違ってくる。

 「患者の表情や態度から、常に患者との最適な距離感、間合いを測り、次の相づちや表情を変えるための“心の準備”をしておくと、会話がスムーズに運びます」と近藤氏は話す。

 特に、患者の表情がぴたっと止まった時は、患者の心に何かしら引っ掛かるものがあるということ。「このタイミングで、すかさず『何か気になることはありますか』と臆せず聞いてみて」と後藤氏はアドバイスする。この時、「何か(What)」や「どのように(How)」で始まる開いた質問(opened question)を使うと、患者は自分の考えや気持ちを自由に話すことができるそう。

 「患者が来局し、待合にいる時から、患者の様子には目を配るようにしています」と話すのは、アイセイ薬局松河戸店(愛知県春日井市)の林きよみ氏。絶えず観察することで、例えば時計をしきりに見ている患者には「お待たせして申し訳ありません」、包帯を巻いた手首をさすっている女性には「家事にご不便はございませんか」などと、いたわりやねぎらいの言葉を自然に掛けることができるからだ。それにより、心理的な距離感がぐっと縮まるという。

こんな時どうする?! <聞く編1>

患者さんが黙ってしまった!

 「薬剤師には、沈黙に耐えることが苦手な人が多い印象があります」と後藤氏は指摘する。服薬指導の最中に、患者が突然黙ってしまい、慌てて次の質問をしたり、脈絡もなく話題を変えてしまったりした経験はないだろうか。

 だが、「沈黙には、『自分の話をきちんと受け止めてくれているんだ』ということが聞き手に伝わる効果もあります」と後藤氏。林寛之氏も、「沈黙も会話の一部。患者が言葉を選んでいる最中に、薬剤師の側から無用に話し掛けて思考を遮るのは避けて」とアドバイスする。

 特に、他の患者が大勢待っていると、早く終わらせなければという焦りが裏目に出て、患者をせかしてしまいがち。全ての患者に時間を掛けることは難しいものの、話をじっくり聞く必要がありそうな患者には、傾聴の姿勢を維持するよう心掛けよう。

こんな時どうする?! <聞く編2>

患者さんの話が止まらない!

 おしゃべり好きの患者がテレビ番組や家族の話を楽しそうに延々と語る─。患者と薬剤師の間に信頼関係が築けている証である半面、他の患者の手前、一人の患者に付きっ切りになることは難しい。

 そんな状況の切り抜け方として、あさひが丘薬局勝川店(愛知県春日井市)薬局長の牛田誠氏は、(1)「お待ちの方がいるので、ごめんなさい」と正直に打ち切る、(2)言葉は返さず、うなずきのみにする、(3)途中で薬剤師側からまとめに入り、「だからうれしかったのですね」などと“感情の言葉”で締めくくる─という3つの方法を伝授する。(2)と(3)は、自然と話を終える効果があるそうだ。「他の薬剤師や事務スタッフに、“助け舟”として患者に話し掛けてもらうと、患者は我に返って話をやめます」(近藤氏)というアイデアも。

 「人として信頼されるかどうかは、第一印象で決まります」。こう指摘するのは、医療従事者向けの接遇研修などを行うウィ・キャン(東京都中央区)の島川久美子氏。「人は外見、態度、話し方、話の内容の順に、相手の第一印象を評価します。せっかく高い専門知識を身に付けていても、外見や態度から、医療のプロフェッショナルとしての心構えがうかがえなければ、患者に不快感、不信感を与えてしまいます」。

ウィ・キャン代表取締役社長
濱川 博招氏
Hamakawa Hiroaki

ウィ・キャン取締役企画部長
島川 久美子氏
Shimakawa Kumiko

同社では医療機関における患者応対などのコンサルティングを行う。共著書に『第一印象が良くなるナースのマナー』(ぱる出版、2014)などがある。

 白衣の汚れや整えていない無精ひげ、度を超えた茶髪など、清潔感のない服装や身だしなみはNG(表5)。流行や自分の好みではなく、周囲に不快感を与えないかどうかを基準にする。

表5 第一印象は「見た目」で決まる

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 自分では気付きにくいのは、「におい」。喫煙する人は、業務に戻る前に歯を磨いたり口臭消臭剤を使用したりするのがエチケットだ。

 ちなみに、感染対策としてマスクを着用する薬剤師もいるかもしれないが、マスク越しでは声が聞こえにくく、表情も読み取れない。薬剤師がかぜを引いている場合などを除いて、服薬指導はマスクを外して行った方がいいだろう。

 あいさつや初対面の患者に名乗るといった、基本的なマナーも大事。コミュニケーション能力の高い人が犯しがちなマナー違反は、言葉づかい。例えば高齢者に対して、「おばあちゃん」「おじいちゃん」となれなれしく呼んだり、子どもをあやすような口調で話し掛けたりすると、不快感を覚える人もいる。「親しき仲にも礼儀あり」と心得よう。

 一人でも身だしなみが乱れていたり、マナー違反の薬剤師がいると、その薬局自体の株が下がってしまう恐れもある。お互いにチェックし合い、万全の態勢で患者応対に臨もう。

Let's try! 自分の名前、名乗っていますか

 「初対面の人、久しぶりに会った人に名乗るのは礼儀です」と近藤氏は話す。薬剤師が名乗ることで、患者は薬剤師個人をはっきり認識し、話を聞こうという意識が芽生えるからだ。「名乗ることは、『プロとして、仕事に責任を持ちます』と誠意を示す意味もあります」(島川氏)。

声に出して練習しよう!
「お待たせしました。今日、お薬の説明をさせていただく【日経太郎】です。よろしくお願いします。」

 さらに、ちょっとした工夫で薬剤師の第一印象を良くするのが、「名札」だ。ファイン調剤薬局(岐阜市)では、名前、職種名などのほか、患者に心地よい親近感を持ってもらうことを目的に、各スタッフが自由に選んだ顔写真とキャッチコピーを名札に入れている。

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