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早川教授の薬歴添削教室
多数のリスク因子を持つ脂質異常症の長期的な管理
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

 今回は、エルム調剤薬局名取店に来局する73歳男性、末永功さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。

 末永さんは、約5年前に脂質異常症を指摘されて通院していましたが、主治医の退職に伴い転院し、自宅近くのエルム調剤薬局名取店に来局するようになりました。

 同薬局では、脂質異常症患者に対して継続的かつ積極的な介入を行うことでアウトカムの改善を目指す「脂質異常症改善プログラム」を実施しています。検査データと照らし合わせつつ、どのタイミングでどのようなケアを行うことが望ましいかを考えながら、オーディットの内容を読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師AとB、症例検討会での発言者が薬剤師C~Hです。(収録は2013年7月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
エルム調剤薬局名取店(宮城県名取市)

 エルム調剤薬局名取店は、宮城県・福島県・岩手県に18店舗の薬局を展開する株式会社プリスクリプション・エルムアンドパームが1987年に開局した。応需している処方箋は月2000枚ほど。近隣にある内科、整形外科、歯科診療所を中心に、大学病院や癌専門病院の処方箋も受けている。

 同薬局には、20代3人、40代1人の薬剤師が勤務している。電子薬歴を採用し、SOAP形式で記載している。薬歴を記載する際は、指導内容の記録にとどまらず、患者ケアに活用できるよう心掛けている。S・O情報には過去の事柄、A・P情報には未来の事柄を書き分け、チェックすべき項目がすぐに分かるようにしている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 この患者さんは、以前もプリスクリプション・エルムアンドパームの別の薬局にかかっていたそうです。これまでの経過を、サマリーとして薬歴の表書きにまとめています(【1】)。経過をきちんと把握して治療管理に取り組む姿勢は非常に良いと思います。

 サマリーを見ていくと、脂質異常症、糖尿病型、脳梗塞の既往があり、脊柱管狭窄症と高血圧も併発しています。多くのリスク因子を抱えていることが分かります(【2】)。サマリーから、どのような患者の印象を受けますか。実際に対応したことがない人も、推定で構わないので教えてください。

A 検査値を手書きのメモで記録していることから、治療に真面目に取り組んでいる印象を受けました。

C 生活習慣に問題がありそうです。

D 短期間で多くの合併症を発症しているので、心血管イベントに対してかなり注意が必要です。

早川 自分の生命予後に対する認識が不足しているという印象ですね。

E 脊柱管狭窄症で足の痛みがある場合、生活習慣を改善するための運動には制限が出てくるかもしれません。

F 減量したにもかかわらず間食が増えていることから、油断しやすい性格なのかなと思いました。

早川 気の緩みに対して、何らかの形でフォローが必要という見方ですね。

 では、1月23日の初来局の経過記録を見ていきましょう。転院を契機に処方が変更されました(【3】)。まずは処方面で、どこに焦点を当てていくかを考えてみます。降圧薬の変更についてはどう評価しますか。

B 配合剤1剤にして飲みやすくしたのだと思います。

早川 フルイトラン(一般名トリクロルメチアジド)も、コディオに含まれるヒドロクロロチアジドも、サイアザイド系利尿薬ということで共通していますね。用量としては?

A ほぼ同じくらいです。

早川 降圧薬の変更に関しては、問題なさそうですね。では、スタチンの変更についてはいかがでしょうか。

A LDLコレステロール(LDL-C)の低下効果は、リポバス(シンバスタチン)とクレストール(ロスバスタチンカルシウム)でだいぶ違うと思います。脂質コントロールがうまくいっていないのではないでしょうか。

早川 サマリーを見ると、治療開始以降、改善傾向にありましたが、途中から検査値の記録がありません。「コントロール不良の脂質異常症」をプロブレムとして挙げておきましょう。脊柱管狭窄症についてはいかがでしょうか。

A オパルモン(リマプロスト アルファデクス)は後発品に変更になり、モービック(メロキシカム)はセレコックス(セレコキシブ)に切り替えられました。特に問題はないと思います。

処方と病態の両面で評価

早川 処方の面から、やはり最も注目すべきは脂質異常症であることが分かりました。今度は、動脈硬化性疾患の観点で、リスク因子を挙げてください。

B 喫煙。

F 慢性腎臓病(CKD)、高齢、糖尿病、脂質異常症。

C 高血圧。

A 非心原性脳梗塞の既往歴。

G 末梢動脈疾患(PAD)。

早川 早発性冠動脈疾患の家族歴もリスク因子です。この患者は、高齢、脂質異常症、高血圧、脳梗塞の既往が該当します。喫煙は3年前まで。糖尿病は予備軍です。CKDと家族歴、PADについては、今後確認していく必要があることが分かりました。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』では、冠動脈疾患の既往がないので1次予防となり、脳梗塞の既往があるのでカテゴリーⅢですね。サロゲートエンドポイントのLDL-Cの目標値は?

C 120mg/dL未満です。

早川 このように、様々な情報があることで、ケアの視点と目標値を認識することができました。次に、血圧についてもアセスメントと治療目標を確認しましょう。

F 『高血圧治療ガイドライン2009』によると、脳心血管リスクは第3層、高リスクに当たります。

早川 目標値はどれくらいでしょうか。

A 脳血管障害患者と捉えた場合、140/90mmHgです。

C 高齢者も140/90mmHgです。

G 予備軍ではありますが、糖尿病患者という見方では130/80mmHgです。

早川 さて、どう対応しますか。

A 脳梗塞の既往歴があることから、糖尿病があると仮定して厳しめに目標値を設定した方が良さそうです。

早川 脳梗塞のタイプは分かりますか。

A しびれを自覚して、自ら病院を受診しており、急激に倒れたわけではないようです。入院中も外科的処置はなかったと聞いています。

早川 ここでは結論付けられませんが、発症様式や背景に高血圧があることから、ラクナ梗塞の可能性も否定できません。その場合、140/90mmHgよりも低い目標値を設定することもあります。

患者像を基に方針を立案

早川 続いて2月19日。患者の娘さんが代理で来局しました。同薬局では、同意を得た患者を対象に、特にきめ細かな病歴聴取や指導を行う「脂質異常症改善プログラム」を導入しており、それについて説明しています。脂質異常症の定義と管理目標値に関する資料を渡しています。では、患者像のアセスメント結果をベースに、ケアプランを立ててみましょう【4】。

B この段階で検査値は聞けていなかったので、次回からは検査値を聞き取れたらいいなと思います。

D コレステロールを目標値まで下げることで、どれくらい予後が改善するか、図を使って具体的に見せたいです。

早川 認識強化のための対応ですね。どれくらいの期間行いますか。

D  なるべく初期に、1~3カ月間は続けた方がいいと思います。

早川 そのほかにはどのような基本方針が考えられますか。

A 患者さんが運動しなければいけないことは家族も把握しているようですが、予後についてはどの程度認識しているかは分かりません。食生活を改善していく上で家族の協力も必要になるので、うまく巻き込んでいければと思います。

早川 なるほど。「治療に真面目に取り組む意思がある一方、なかなか継続できない」という患者像に沿ったアプローチですね。

F この時点では運動など努力している様子がうかがえるので、しばらく見守り、気の緩みが表れそうな3カ月後をめどに認識強化を図っていきます。

早川 脊柱管狭窄症に対するケアプランはいかがでしょうか。

E 運動内容や足への負担の有無をチェックした方がいいと思います。

早川 そうですね。「体を動かす努力はしている」という家族の言葉からは、努力はしているものの思うように動けていない可能性も考えられます。

腎障害の進展防止も重要に

早川 続いて2月26日。前回の受診からわずか1週間しかたっていません。フェブリク(フェブキソスタット)が処方されています【5】。ここでは水分摂取について指導していますが、そのほかにどのような対応が考えられますか。

D 尿酸が脳心血管イベントのリスク因子として話題に上ったタイミングで、生活習慣が関わる合併症について説明します。

早川 重要ですね。では、フェブリクの処方の妥当性についても念のため確認しておきましょう。

A 尿酸値9.1mg/dLと高値なので、薬物治療開始基準は満たしています。

D むしろ尿酸値8mg/dLの時点で治療を開始してもよかったのでは。

早川 特に高尿酸血症と糖尿病は関連性が高く、腎障害を進展させないためにも治療管理方針をしっかりと立てる必要がありますね。

A ただ、フェブリク20mgは初回投与量としては多い印象です。急激に尿酸値を下げると痛風発作を起こす恐れがあるので、患者に注意を促します。

G フェブリクの重大な副作用として肝機能障害もあります。

早川 S情報にも「肝機能が良くない」とあるので、より慎重に見ていく必要があります。そのほか高尿酸血症の観点で確認すべきことはありませんか。

H 飲酒状況を聞きたいです。

早川 「週2回」という記録はありますが、飲酒量は不明ですね。飲酒量を確認できたらどう対応しますか。

H 摂取制限を指導します。尿酸値への影響を抑えるには、1日当たり日本酒で1合、ビールで500mL、ウイスキーで60mLが目安とされています。

E  炭水化物や塩分も制限した方がいいと思います。

早川 特に単糖類・多糖類ですね。コントロール不良の高血圧も最終的には腎機能の悪化につながるので、このタイミングで塩分の摂取を控えるよう指導しておくといいでしょう。

長期的なケア方針の立案へ

早川 続く3月19日には、以前の検査結果を聞き取っており、「尿酸値とHbA1cが気になる」という薬剤師のアセスメント結果が残されています(【6】)。この時点での病状についてアセスメントしてみましょう。脂質値についてはどう評価しますか。

F 中性脂肪(TG)が239から76mg/dLに低下した点が気になります。

H 食事の影響でしょうか。

A 1月16日の検査結果をフリードワルドの式に当てはめると、LDL-Cは約130mg/dLとやや高めです。それがクレストール(ロスバスタチンカルシウム)に切り替わった後、68mg/dLまで低下しています。TGの低下は食事の影響かもしれませんが、LDL-Cの低下は薬の効果ではないでしょうか。

B 検査値を記録する手帳に、「1月20日より運動・減塩開始」と決意表明のように書いていたので、運動面で努力した成果が現れたのかもしれません。

D HDL-Cもわずかですが上昇しています。

早川 全体的に、脂質管理は良い方向に行っていると評価できますね。さらに1カ月後の4月19日には、前回の申し送り事項を受け、運動状況を聞き取っています【7】。また、4種類の資材を使って、リスク因子を減らす指導や運動に関して患者教育を行っています。検査値はどう評価できますか。

一同 HbA1cは良好です。

早川 尿酸値は厳密には目標を達成していないものの、ほぼ満足できる値ですね。その上で、どう対応しますか。

F 脂質に関しては目標値を達成しているので、まず褒めてあげたい。焦らず治療していくことも伝えたいです。

早川 目下のところ死亡リスクは下がったので、今後は長期的なスパンで管理していくという見方ですね。

C 「室内サイクル30分×3本」という運動量は、生活習慣病予防の観点では週3回で十分なレベルです。できれば続けてほしいが、無理はしないよう伝えたいです。

H 「肝機能は相変わらず悪いと言われた」とあります。心配性で運動に懸命に取り組んでいるのかもしれません。「良い方向に向かっています」と伝えた方がいいのでは。

G 一方で、目に見える成果である検査値が改善してきているからこそ、油断する恐れもあります。無理させてはいけませんが、検査値が良くなったからといって運動を減らすのではなく、継続の重要性はきちんと伝えたいです。

早川 具体的なプランが挙がりました。続いて5月15日【8】。4カ月目に入り、今挙げてもらったような対応を伝えていく時期です。ここでは、「散歩など外を歩くのは足が痛くなってしまって難しい。室内での自転車こぎは続けています」と聞き取っています。さらに、「服用中止で悪くなるので、この調子で続けていきましょう」とも指導しています。

D ただ、足の痛みの原因として、脊柱管狭窄症だけでなく、PADや閉塞性動脈硬化症(ASO)の可能性も念頭に置いておきたいです。

早川 新たな視点が出ました。動脈硬化性の疾患として、PADの可能性は考えられますし、間欠性跛行の原因疾患としてASOもあります。モニタリングプランに入れておきましょう。

 さらに1カ月後の6月19日を見ていきます。処方変更はなく、残薬もないことを確認しています。

B いつもに比べ来局する間隔が空いていたので確認したら、「飲み切った」ということでした。それまでは薬がなくなる前に受診していたようです。

早川 一方で腎障害が指摘されました(【9】)。ステージ3、G3aのCKDです。蛋白尿の観点では?

C  蛋白尿はないのでA1です。

早川 私たち薬剤師としてはどのようにサポートとしていきますか。

F 塩分と蛋白質の摂取制限を指導します。

早川 さらに運動も制限されるようになると、治療への意欲が一気に低下する恐れも出てきますね。食事や運動の制限の見通しや、予後についての教育・支援をプランに入れておきましょう。

エルム調剤薬局名取店のオーディットの様子。

参加者の感想

猪股 秀文氏

 薬局内ではカンファレンスを日常的に行っていますが、今日のオーディットを通じて、改めて内容を精査したり、具体的にどのような点に注意して指導していけばよいかを考えたりして視点を広げることができました。この患者さんだけでなく、他の脂質異常症患者さんのケアにも応用していきたいと思います。

森 聡恵氏

 処方内容はずっと同じでしたが、来局の度に色々な情報が得られ、その都度ケアプランが増えていくことを実感しました。投薬の前に、何を聞くべきか、どのような点が心配かについて、薬歴からある程度まとめておき、スムーズに話すことができれば、患者さんも具体的な目標を立てやすくなると思いました。

横田 敬子氏

 今回の症例は検査データが豊富でした。他の患者さんも、検診結果など多くの情報が得られますが、それらを私が持て余していた面があったので、今回のオーディットで、検査値を含めたアセスメントの方法を学べて良かったです。

全体を通して

早川 達氏

 患者の長期予後の改善に貢献するために、薬剤師が積極的に介入していることがよく分かる薬歴でした。必要な検査値や聞き取った内容が記録されていたことで、オーディットでは様々な観点が挙がり、具体的なケアプランの立案につながりました。また、患者像によって色々なアプローチの仕方があるということも、今日の議論の中で挙がり、非常に良かったと思います。

 オーディットでは、最初に、薬歴から受ける患者の印象を、担当者以外の方にアセスメントしてもらいました。最後の担当者のアセスメントと突き合わせてみましたが、それほど大きな乖離はありませんでした。むしろ良い捉え方をしていたように思います。担当者が患者の発言のニュアンスや行ったアセスメントをきちんと薬歴に記録していたからこそ、患者に会ったことがない参加者も同様の印象を持てたのだと思います。読者の皆さんもぜひ、患者像についてアセスメントを行い、それを「性格」として薬歴に記載してみてください。

 本患者に対しては、3カ月後、6カ月後にサロゲートエンドポイントである検査値やADL・QOLを維持していることはもちろん、最終的なエンドポイントである心血管イベントや腎機能低下の抑制などを実現できるよう、引き続き対応していってほしいと思います。他の患者についても、このような視点で見ていくことで、満足の行く業務が展開できるはずです。「この薬局の薬剤師はこんなに手厚い対応をしてくれるのか」と患者に感じてもらうことは、目に見える成果にほかなりません。今後も継続されることを期待しています。

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