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お薬手帳無しの選択肢をなぜ作る 震災の教訓を忘れたのか
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

 「お薬手帳はお持ちですか?」。お薬手帳を用いた情報提供が調剤報酬で評価されるようになったのは2000年のこと。以来、われわれ薬局の薬剤師は窓口で患者さんにこんな言葉をかけ続けてきた。

 当初こそ、「こんなもの要らないよ」「毎回持ってくるなんて面倒な」といった声が聞かれたものの、日を追うごとに、患者さんのお薬手帳に対する意識は変化していった。とりわけ2年前の調剤報酬改定で、お薬手帳を通じた情報提供が薬剤服用歴管理指導料(以下、薬歴管理料)の算定要件となってからは、われわれ薬剤師の働き掛けもより活発になり、患者さんのお薬手帳に対する理解は急速に進んだ。

 そして、これからますますお薬手帳を活用していけると確信した頃、まさに“事件”は起きた。2014年度の調剤報酬改定に関する中央社会保険医療協議会(中医協)の答申に、「お薬手帳を必ずしも必要としない患者に対する薬歴管理料の評価の見直し」が盛り込まれたのである。つまり、お薬手帳を交付した場合としなかった場合で、2段階の薬歴管理料を設定するものだ。お薬手帳を持たなければ、料金(一部負担金)が安くなることになる。報酬体系こそ違うが、薬剤情報提供料が独立していた時と本質的には変わりない。

 この話を聞いた時、筆者は非常に大きな落胆を覚えた。同じように感じた方も決して少なくないはずだ。われわれが患者さんに訴え続けてきたことは、一体何だったのだろうか。

 確かに、一部薬局の怠慢ぶりは目に余るものがあった。お薬手帳を持たない患者に対して、十分な説明もせず、袋の中に手帳のシールを放り込んでおくだけであれば、薬局として十分な仕事を果たしたとは言えない。しかしその部分のみを取り出して、「手帳無し」の薬歴管理料を設定するというのは、あまりに性急ではないだろうか。

 2年前、お薬手帳への評価が薬歴管理料に包括された経緯を思い出してほしい。そこには間違いなく、東日本大震災での教訓があった。「お薬手帳があったから、普段飲んでいる薬が分かって、お薬を入手できた」というたくさんの声があったはずだ。震災により多くの人が亡くなったのは大変悲しい出来事だが、お薬手帳によって命が救われた人も間違いなくいたはずだ。

 「喉元過ぎれば熱さ忘れる」とはよく言ったものである。東日本大震災から約3年の歳月が経過したが、今回、薬歴管理料を見直し、お薬手帳を持たないという選択をできるようにしたのは、震災の教訓を忘れたに等しい。

 「必ずしもお薬手帳を必要としない患者」がいるというのであれば、そもそもお薬手帳を薬歴管理料に包括化したこと自体おかしな話だし、2年前の改定が失敗だったと言っているようなものだ。百歩譲って、急性期、あるいは若い患者でお薬手帳が必要ないケースがあったとしても、継続的な薬学的管理が必要な、慢性疾患を抱えた患者が「お薬手帳無し」を選択できるのは問題である。安いという理由で「お薬手帳無し」を選択できるようにすると、再び大きな自然災害が起こった際に多くの人の命が危険にさらされかねない。

 もっとも、「お薬手帳無し」の選択肢ができたからといって、手帳の有用性が揺らぐわけではない。われわれは今後も、薬局の窓口において、お薬手帳の有用性を説き、安全かつ有効な薬物治療の一環として、手帳を活用してゆくことに変わりはない。(十日十月)

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