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いまさら聞けない栄養の話
90歳を超えても筋力は増やせる
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

太田 篤胤 Atsutane Ohta
城西国際大学薬学部教授
東京農工大学卒業。テルモ、明治製菓を経て、2004年から現職。「オリゴ糖のミネラル吸収促進作用」の研究で、トクホを商品化した経歴を持つ。趣味はフルマラソン。

 最近、ゴールシーンの写真をネットにアップしてくれるマラソン大会が増えている。ある大会に参加した私は、カメラを意識したガッツポーズでゴールし、写真を楽しみに待っていた。

 ところが、写真を見てがっくり。私のガッツポーズの手前に、既にゴールした高齢の男性が大きく写り込んでいたのである。男性は私より10歳以上は年上と思われた。

筋トレと栄養で筋力増

 要介護を増やさないためのロコモティブシンドローム(運動器症候群)予防の啓蒙活動が盛んだ。その中で、「40歳を過ぎたら1年に1%ずつ、60歳を過ぎたら1年に3%ずつ筋肉が減っていく」といった説明をよく耳にするが、この説明は必ずしも適切ではないと、この高齢ランナーの写真を見ながら思った次第である。

 実際、個人の努力次第では、高齢になっても相当高いレベルで筋力を維持できる上、筋力を増やすこともできることが、20年も前の研究で明らかになっている1)

 72歳から98歳(38%が90歳以上)の被験者に対して、下肢の筋肉に対する負荷運動(レジスタンストレーニング:いわゆる筋トレ)とサプリメントの摂取の2種類を組み合わせた介入を行い、筋力に対する影響を観察した研究である。結果は図に示す通りだ。

図 筋トレ、サプリメントの摂取による筋力の変化

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 これほどの高齢者においても、運動は筋力を著しく増加させた。運動を行うことにより筋力はほぼ2倍近く(+約90%)になり、運動にサプリメントの摂取を組み合わせることで更に筋力が増加した。90歳を超えても筋力は増やせるのである。

 一方、サプリメントのみを摂取した群や何もしなかった群では、筋力に大きな変化はなかった。

 さて、この研究で用いられたサプリメントは何なのか。実は、炭水化物60%、脂質23%、蛋白質(大豆)17%、ビタミン・ミネラル(推奨量の3分の1)を含有するエネルギーが360kcalの流動食だったのである。

 特別な機能性成分を摂取したわけではなく、栄養バランスが整った食事を取ることでこのような結果が得られたというわけだ。食品の機能性成分がもてはやされる昨今、この研究結果は注目に値するだろう。

 さて、昨年度の記録では、私よりも速い最高齢のランナーは、なんと77歳である。こんなスーパーシニアは、もはや特別な存在ではない。理屈無用の彼らの背中に大いに学ぶべきだろう。

参考文献
1)NEJM 1994;330:1769-75.

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