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Interview 
日本薬剤師会相談役 漆畑稔氏
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

うるしばた・みのる
1946年生まれ。68年明治薬科大学卒業。79年ユーアイ薬局開局。静岡市薬剤師会理事、副会長、静岡県薬剤師会理事、日本薬剤師会常務理事、副会長を歴任。1998年から05年にかけて中央社会保険医療協議会の委員を務めた。現在、日本ジェネリック医薬品学会理事なども務めている。

 2014年4月の調剤報酬改定では、大型門前薬局の調剤基本料の引き下げや、基準調剤加算の要件見直しなどの厳しい内容が目立つ(12ページ参照)。日本薬剤師会の常務理事、副会長時代に7年間にわたって中医協委員を務めた現日薬相談役の漆畑稔氏に、今回の改定をどう見るかを聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本 宗明)

─今回の調剤報酬改定に際しては、「薬局はもうけすぎ」などと批判する声が、議論が本格化する前から高まっていました。

漆畑 調剤医療費の伸びが大きく、日本医師会も厚生労働省も、いよいよ黙って見てはいられなくなってきたということでしょう。何しろ調剤医療費は7兆円近くに伸び、薬剤費と変わらない規模になってきています。この規模になると、1%減らすだけで他の施策の財源を賄えるかもしれません。これまでの診療報酬改定では、薬価の引き下げをお財布代わりにしてきたわけですが、調剤医療費もそういう規模に達しているということを意識する必要があります。

 それから、医薬品の納入価格の妥結が遅いことが批判を受ける一因でした。これに対してチェーン薬局の経営者からは「安く買おうとするのは当然」などと反論する声も出ていますが、過去の経緯や置かれた立場をきちんと理解すべきです。医薬分業を進める理由は薬価差を圧縮することだったのに、今度は薬局が分業を利用して薬価差を求めようとしているのですから、批判されるのは当然です。

 妥結していないのは薬価差が大きいところだと考えられるわけで、そのデータが反映されていない薬価調査結果に基づいて薬価を引き下げても、十分には下げられません。厚労省や財務省にしてみれば、「薬局のせいで薬価を下げられなかった」ということになります。にもかかわらず、「妥結が遅いのが何が悪い」みたいな言い方をしていては、役所に喧嘩を売っているようなものです。行政の言いなりになれというわけではありませんが、言い方を考えるべきです。

─調剤報酬の改定率は+0.22%で、このうち消費増税への対応分が100億円、本体分が100億円という数字になりました。

漆畑 財源は中央社会保険医療協議会(中医協)で決めているわけではなく、政府の専権事項ですが、調剤医療費の伸び率が高い状況で、政治家も「調剤もプラスに」と言える状況ではありませんでした。財源論が厳しい中で、日本医師会の横倉義武会長が頑張って交渉を行い、それが調剤にも機械的に配分されたというのが実態でしょう。

─調剤基本料では、処方箋受付回数月2500回超、集中率90%超の薬局が新たな「特例」とされるなど、大型門前薬局に極めて厳しい内容です。

漆畑 横着して稼いでいる薬局の調剤基本料を引き下げようという意図でしょうが、逃げ道のない方法はよくありません。枚数で機械的な線引きをして、「それでもこの薬局は頑張っている」というところを評価する方法がないと、薬局を疲弊させるだけです。

 例えば田舎に行くと病院が1つしかなく、そこに昔からある薬局は、門前でなくても集中率が90%を超えていたりします。今回の方法では、そういうところも巻き込んで一緒に下げてしまいます。また、2500回超4000回以下の薬局では24時間開局していれば特例になりませんが、4000回を超える従来から「特例」の薬局では24時間開局してもだめというのはおかしな話です。十分に整理しきれていないと感じます。

 在宅患者訪問薬剤管理指導料で1人5回までしか算定できなくなった件もそうです。施設と契約するなどして、患者と顔を合わせず薬を届けるだけで指導料を算定しているところがあるから回数制限されたわけですが、在宅の患者がたくさんいる薬局の中には、実際に頑張っているところもあります。日薬や厚労省は、「1日5人で週に5日行けば25人を在宅で管理できる」と言いますが、それができるのは薬剤師がたくさんいるチェーン薬局で、小さな薬局では決まった曜日に薬局を閉めて在宅に行っています。今回の制限はそういうところを追い詰めかねません。

─薬剤服用歴管理指導料では、お薬手帳を伴わない場合として、34点という低い点数が設定されました。

漆畑 お薬手帳の利用に対しては、2000年に初めて5点という点数が付いたのですが、水面下での議論の期間も含めると、点数化までに11年間もかかっています。そうやって苦労して作ったものだし、東日本大震災後にはお薬手帳の有用性が認識されつつありました。今回の改定を受けて、現場の薬剤師が「面倒だから」と手帳を伴わない方を算定し始めたら職能放棄と言わざるを得ません。自分たちが必要だと言ったのだから、お薬手帳の活用をもっと進めるべきです。

─中医協の元委員として、全体の議論に対する感想をお聞かせください。

漆畑 日薬は、医薬分業に対する批判に反論するのに終始して、提案的な議論が少なかったのが残念です。今回の改定の中では、小児患者用の無菌製剤の処理に薬剤師が関わっていくという話は、患者の視点で見ても分かりやすかったと思います。ああいう議論をもっとするべきです。今回は認知症や精神疾患などに重点が置かれていたので、そういうところで「薬局はこういうサービスができる」と提案すれば、点数が付きやすい環境だったはずです。

 それから、調剤報酬にしか目が行っていなかったことも反省すべきです。今回、医科の診療報酬改定で、主治医機能の評価として月1503点の地域包括診療料が設けられました。中小病院と診療所で算定できるもので、算定すると服薬管理や指導も原則、医師の仕事になります。しかも、診療所で算定する場合は院内処方を原則とすることとされました。調剤基本料で新しい特例を作ったことよりも、こちらの方が薬局への悪影響は大きいと思いますが、医科の点数に関心が薄かったために、タイムリーな議論をすることができませんでした。

 ただし、現在薬局が批判されているのは、中医協の委員のせいではなく、薬局自身が当事者です。また、批判を受けるにはそれだけの理由があるということも認識するべきです。そんな中で安易に薬価差を求めれば、批判は大きくなるだけです。むしろ重要なのは、今70%で足踏みしている医薬分業率をさらに高めることです。地域包括診療料のような医薬分業になじまない仕組みが増えると厄介なことになりますから。

 いずれにしても、調剤医療費に圧力がかかるのは今回で終わりではありません。結果的に利益は圧縮されるでしょうから、薬局経営は転換期を迎えたと言ってもいいでしょう。

 一方で、調剤報酬改定は点数のことだから、工夫をすれば何とかなります。後発医薬品調剤体制加算では後発品の数量シェア65%という高いハードルが設けられましたが、越えられないハードルではありません。大事なのは行動変容をすることです。今までと同じことをしていては仕方がありません。

インタビューを終えて

 口調は一貫して穏やかですが、漆畑氏の口からはチェーン薬局経営者や日薬幹部への苦言が次々に出てきました。調剤報酬改定の議論が進む中で、いわゆる町の薬局と、大手チェーンとが足を引っ張り合う格好になっていたことに、もどかしい思いがあったのでしょう。一方で「日医や厚労省にそれなりに人脈がある」と言うだけあって、改定交渉の表裏はさすがによくご存知です。そんな漆畑氏には、日薬に限らず、業界全体のご意見番としての役割が期待されます。 (橋本)

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