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副作用症状のメカニズム
怒りっぽくなった患者
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 60歳女性。心療内科でうつ病と診断され、パロキセチン塩酸塩水和物(商品名パキシル他)を服用中。最近、感冒によく罹患し、咳が止まらず、たびたび内科を受診しており、そのたびに総合感冒薬とデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(メジコン他)が処方されていた。いつもは穏やかな口調で話す人だが、その日はイライラした様子で手に振戦が見られた。そして薬剤師が薬の交付時に質問をしたところ、ひどく怒って薬局から出て行ってしまった。

 一般に、不安が募ると、イライラして怒りっぽくなることがある。イライラが生じるメカニズムは、前回に解説した不安や抑うつのメカニズムと、基本は同じといえる。図1は、情動の変化を示したもの(参考文献1)。これによると、不安が中心にあり、受け止め方によって、不安が焦燥、怒り(イライラ)、恐怖といった他の情動に転換することが分かる。

図1 不安を中心とした情動の相互関係

 双極性障害における躁状態では、興奮してよくしゃべるようになる。それが過ぎると怒りやすくなり、神経過敏となり焦ったり不安がる様子が見られる。焦りによって、不眠などの自律神経症状も併発する。

 イライラは、特に認知症の症状として研究が行われてきた。攻撃性は、大脳辺縁系において抑制系であるγアミノ酪酸(GABA)神経系の低下、興奮系であるグルタミン酸系やアセチルコリン系の亢進、前頭葉皮質におけるセロトニン系の低下、ドパミン、ノルアドレナリン系の亢進などが関わっていると考えられている(参考文献2)。実際、認知症の患者の剖検脳の検討により、側頭葉のセロトニン5HT1A受容体の密度の低下と患者の攻撃性に相関があったことが報告されている(参考文献2)。

 また、グルタミン酸受容体にはイオン親和性受容体(NMDA、AMPA、カイニン酸など)とG蛋白と結合する代謝型受容体があり、ニューロンの興奮や抑制にはClやNa+、K+、Ca2+といったイオンの出入りを調整する電位依存性チャネルや、Mg2+濃度が関係することが分かってきている。イオンのチャネル透過の方向性は、電気的勾配と濃度勾配に従って決まる。細胞外液にはNa+とClが多く、細胞内にはK+が多い。従ってK+は持続的にK+チャネルから細胞外へ流出し、静止電位を保とうとする。そして細胞内は、電気的に常にマイナスにチャージされる。

 グルタミン酸受容体は、Na+チャネルであり、Na+は細胞の外から中に流入し、膜電位を脱分極させる。そして、膜電位が活動電位の閾値に達すると、興奮を伝達する(参考文献3)。一方、GABAA受容体はClチャネルであり、濃度勾配が十分に大きいためClは細胞の外から内に流入して、膜電位を過分極させる。すると、活動電位の閾値から遠ざかることで発火確率が下がり、結果的に抑制系に働くと考えられている(参考文献3)。このように電解質濃度の異常は、精神活動に大きく影響する。

 Caもイライラに関与していると考えられている。骨という巨大な貯蔵庫と、その血中濃度を管理する副甲状腺ホルモン(PTH)とカルシトニンにより、血清Caは常に一定の濃度に保たれている。血清Ca濃度が下がりかけると、PTHの分泌が増加し、破骨吸収が亢進して、骨からCaが供給される。Ca濃度が上がりかけるとPTHの分泌は低下し、カルシトニンの分泌が増加して、破骨吸収が低下し、血清Ca濃度を一定に保つ。

 肝臓や腎臓におけるビタミンDの水酸化などの調節機構も影響している。細胞内のCaは、二次伝達物質として働く。骨:血液:細胞内におけるCa濃度は、1億:1万:1という激しい濃度勾配を保つことで、非常に早い刺激伝達を可能にしている。刺激によってCa2+チャネルが一時的に開くと、局所的にCa2+濃度が急上昇する。その刺激でCa2+応答蛋白が活動を開始し、細胞内情報伝達系が働き、神経の興奮、筋収縮、細胞分裂などが起こる。

 低CaになるとPTHが分泌される。PTHは、細胞膜の電位依存性Ca2+チャネルを開き、細胞内へCa2+を流入させる。すると細胞内の遊離Ca濃度が急激に上昇し、骨:血液:細胞内の激しい濃度勾配が失われ、通常はCa濃度が非常に低い血管や神経、膵臓などの細胞にもCaが流入することになり、細胞の情報伝達や機能遂行、増殖に障害を起こすと考えられている(参考文献4)。

 そうなると、全身的にはCa不足だが細胞内はCaが過剰な状態(Caパラドックス)となる。細胞内遊離Caの異常増加は、活性酸素を増加させ、細胞膜の膜成分の変化による神経細胞の興奮性を高め、神経細胞のアポトーシスを起こすとされる。アルツハイマー性認知症やパーキンソン病、筋萎縮性軸索硬化症などとの関連も知られている(参考文献4)。一方、高Ca血症では、精神症状は少ないが、イライラや抑うつ症状、意識低下などが起こることがある。

 甲状腺機能亢進症でもイライラが起こる。甲状腺ホルモンは、神経系においては、カテコールアミンの反応性を増強させるため、思考の迅速性や刺激に対する反応性が高くなる。これが、イライラの原因と考えられている(参考文献5)。

 月経前に、イライラや憂鬱を訴える「月経前不快気分障害(PMDD)」では、プロゲステロンが5HTの代謝回転を促進し、セロトニンが減少することが原因と考えられている(参考文献6)。低血糖でもイライラが起こる。これは、前回述べた緊急事態宣言に伴う反応である。ビタミンB1は、細胞で炭水化物をエネルギーに変換する際の補酵素であり、不足すると神経機能を正常に保つことができず、イライラや疲れを引き起こす。

副作用によるイライラ

(1)セロトニン症候群などによるもの
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)では、セロトニン症候群や賦活症候群、断薬症候群が起こる。主な症状は、神経・筋症状としては腱反射亢進やミオクローヌス、自律神経症状(頻脈、発熱、発汗、振戦、下痢など)と精神症状(不安、焦燥、イライラ、錯乱、躁状態など)である。

 セロトニン症候群は、脳内のセロトニン、特に5HT2A受容体の過刺激により、体と精神の両方に症状が現れた状態と考えられている(参考文献7)。錐体外路症状や自律神経症状も見られることから、ドパミン神経系やノルアドレナリン神経系の関与も考えられている。また、抗うつ薬の投与初期や増量後に、不安や焦燥、衝動、躁状態などの中枢刺激症状が現れることがある。これを賦活症候群と呼ぶ。セロトニン症候群と同様、5HT2A受容体の過刺激により精神機能への影響のみが現れた状態と考えられている(参考文献7)。

 起こりやすい薬はSSRI、SNRI、三環系抗うつ薬、Lドパ製剤、ブロモクリプチンメシル酸塩(パーロデル他)、炭酸リチウム(リーマス他)、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬のセレギリン塩酸塩(エフピー他)を併用した場合など。リネゾリド(ザイボックス)はMAO阻害作用を持つためSSRIなどとの併用には注意が必要である。

 デキストロメトルファンも5HT2A受容体への関与が考えられている。NMDA型グルタミン酸受容体への拮抗作用もあり、大量に摂取すると、幻覚剤であるフェンサイクリジンや麻酔薬のケタミン塩酸塩(ケタラール)と同様の精神障害を来す可能性が指摘されている(参考文献8)。

(2)電解質異常によるもの
 起こしやすい薬剤としては、抗利尿ホルモンであるバソプレシン分泌を亢進させるビンクリスチン硫酸塩(オンコビン)、シクロホスファミド水和物(エンドキサン)やカルバマゼピン(テグレトール他)、クロフィブラート、SSRI、三環系抗うつ薬、抗精神病薬など。服用により、バソプレシン分泌過剰症候群(SIADH)が起こり得る。SIADHでは、水分が貯留し血液が希釈され低ナトリウム血症を呈する。無症状のことも多いが、人格変化や嗜眠、錯乱などが生じることがある。電解質異常は、水分の過剰摂取(水中毒)でも起こる。

 シスプラチン(ブリプラチン、ランダ他)などは、尿細管障害によってCaの再吸収が阻害され、低Ca血症が起こり得る。フェニトイン(アレビアチン他)やビスホスホネート製剤でも低Caが起こる。反対に、サイアザイド系の利尿薬は、Caの再吸収を亢進し、高Ca血症を起こすことがある。Ca製剤やビタミンDの過剰摂取、エストロゲン、ビタミンA製剤などでも高Ca血症が起こり得る。

 また、高カロリー輸液を使用する患者のビタミンB1不足にも注意したい。乳酸アシドーシス、急性心不全、ショック、ウェルニッケ脳症、ウェルニッケ・コルサコフ症候群を起こすことがある。

(3)甲状腺機能亢進によるもの
 甲状腺ホルモン製剤、インターフェロン製剤、リチウム、アミオダロン塩酸塩(アンカロン他)などは、甲状腺機能亢進症を起こす。

(4)交感神経刺激によるもの
 交感神経刺激作用のある薬剤としては、β刺激薬、テオフィリン(テオドール他)などのキサンチン誘導体、塩酸エフェドリンなどが挙げられる。テオフィリンを服用している患者が、コーヒーやチョコレートの取り過ぎで、イライラなどが起こることがある。それらに含まれるカフェインとの相加作用で神経過敏になると考えられる。

(5)アカシジアによるもの
 フェノチアジン系やブチロフェノン系の抗精神病薬やリスペリドン(リスパダール他)などの非定型抗精神病薬は、錐体外路障害であるアカシジアを起こしやすい。焦燥感、不安、興奮、自律神経症状などを起こす。

(6)その他
 その他、乳癌などの治療に使用するプロゲステロン製剤でもイライラなどの精神症状が起こることがある。低血糖を起こす薬剤でも、低血糖の症状としてイライラが起こり得る。

図2 薬でイライラが起こるメカニズム

* * *

 最初の症例を見てみよう。患者は、SSRIのパロキセチンを服用しており、さらにデキストロメトルファンを頻繁に服用していた。パロキセチンとデキストロメトルファンは、いずれもセロトニン症候群を起こす可能性がある薬剤である。さらに、デキストロメトルファンもパロキセチンも薬物代謝酵素CYP2D6で代謝されることから、併用により代謝阻害が起こり、セロトニン症候群が起こっていた可能性も考えられた。対応した薬剤師は、家族に連絡し、すぐに医療機関を受診するよう勧めた。

参考文献
1)五田代信雄、臨床精神医学 1992;21:479-87.
2)高橋智、老年精神医学雑誌 2011;22:115-20.
3)福田敦夫、Epilepsy 2012;6:85-92.
4)藤田拓男、老年精神医学雑誌 2005;16:666-71.
5)『病気がみえる3 糖尿病・代謝・内分泌』第3版(メディックメディア、2012年)
6)田坂慶一、産科と婦人科 2011;78:1303-9.
7)西嶋康一、医学の歩み 2011;236:923-8.
8)足立裕史ら、麻酔 2009;58:1531-3.

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