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漢方のエッセンス
当帰四逆加呉茱萸生姜湯
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)とは、実に長い名前である。およそ210種類ある薬局製剤漢方の中で最も長い。当帰四逆湯に呉茱萸と生姜を加味し、この処方が生まれた。

 「四逆」とは、四肢の冷えが主な冷えとなっている証を意味する。つまり本方は、当帰を主薬とし、手足の冷えなどを改善することにより、病気や体調不良を治していく処方である。この作用は、呉茱萸と生姜を加えることにより増強される。

どんな人に効きますか

 当帰四逆湯および当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、「血虚受寒(けっきょじゅかん)」証を改善する処方である。

 この証の根本にあるのは血虚証、つまり血(けつ)が不足している体質である。血は人体を構成する基本成分の一つであり、血液だけでなく、血液が運ぶ栄養、さらに身体を滋養する作用という概念も含む。血虚は、栄養が足りていない場合だけでなく、血液循環や自律神経系、内分泌系などが失調しても発生する。人体の隅々にまで血液や栄養が供給されなくなり、必要な所に必要な滋養分が供給されない体質や状態が、血虚である。

 この血虚の状態では、血が不足しているため、手足はもちろんのこと、身体全体が十分に養われておらず、外からの寒邪(かんじゃ)(用語解説1)の影響を受けやすい。その結果、寒邪は経脈(けいみゃく)(用語解説2)に容易に侵入して経脈中の血の流れを滞らせ、経脈の機能が阻害される(寒凝経脈)。寒冷刺激により末梢の血管が収縮している状態に近い。これが「血虚受寒」証である。

 身体を温める力(陽気)の流れが寒邪に阻害されるために四肢が十分温められず、手足の強い冷え(四肢厥寒:ししけっかん)が生じる。さらに手足の痺れや痛みが生じることもある。下腹部の冷え、腰の冷え、大腿部の内側や股間の冷え、腹痛(とくに下腹部痛)、腰痛、頭痛なども引き起こされる。お腹にはガスがたまりやすく、また生理痛も生じる。身体中を巡る経脈のどの部位が寒邪に侵されているかにより、症候が表れる場所や具体的な症状が異なってくる。

 血の不足により脳に送られる血液量が減ると立ちくらみが起こる。冷えによる蕁麻疹、しもやけ、胃腸の痙攣、不妊なども生じる。皮膚においては、うっ血が生じたり、唇や爪が紫色になったり(チアノーゼ)する場合もある。

 いずれの症候も、寒冷刺激により悪化し、温めると緩和する。

 舌の色は赤みが少なくて白っぽく、その上に白い舌苔が付着する。

 寒邪は、寒い環境や冷たい飲食物など、外界から侵入する場合もあれば、体質の悪化により、体内で生じる場合もある。気虚、血虚、陽虚(用語解説3)などの証の場合、体内で寒邪が生じやすい。

 臨床応用範囲は、坐骨神経痛をはじめとする神経痛、腰痛、末梢循環障害、レイノー病、しもやけ、蕁麻疹などの皮膚疾患、慢性関節リウマチ、慢性関節炎、生理痛、月経困難症、不妊症、胃・十二指腸潰瘍、下痢などで、血虚受寒の症候を呈するものである。

どんな処方ですか

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の配合生薬は、当帰、桂枝、芍薬、細辛(さいしん)、木通(もくつう)、甘草、大棗(たいそう)、呉茱萸、生姜の九味である。

 君薬の当帰は、不足する血を補い(補血養血)、経脈に滞る血を温めて脈内の通りをよくする(通脈)。同じく君薬の桂枝は、経脈を温めて血を巡らせ(通陽)、寒邪を排除する(温経散寒:おんけいさんかん)。体表部などの血管拡張作用に相当する。経脈における血の流れを改善する(活血通脈)ことにより、当帰の通脈作用を助ける。

 臣薬の芍薬は、血をはじめとする陰液(用語解説4)を補い(養血益陰)、当帰の養血作用を強める。同じく臣薬の細辛は文字通り細い形状の辛温薬で、温経散寒して桂枝をサポートする。鎮痛作用もある。佐薬の木通は、経脈を通じさせる。利水作用もある。使薬の大棗と甘草は、脾胃(ひい)の機能を高めて気を補い(益気健脾:えっきけんぴ)、当帰や芍薬の補血作用を高め、桂枝や細辛の通陽作用を補佐するとともに、諸薬の薬性を調和させる。

 呉茱萸は熱性が強い生薬で、散寒作用がある。胃を温めて嘔吐を止め、肝を温めて上逆を降ろし(降逆)、腎を温めて嘔吐と下痢を止める(用語解説5)。生姜は胃を温めて寒気を散らし(温胃散寒)、降逆して嘔吐を止め、呉茱萸の働きを助ける。

 当帰四逆湯の効能は「温経散寒、養血通脈」である。当帰四逆加呉茱萸生姜湯においては「散寒止嘔」の効能が強まる。血虚受寒による厥寒が長く続く場合(久寒)や、嘔吐や腹痛がある場合は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の方がいい。

 本方は、桂枝、細辛、呉茱萸などの辛温散寒薬と、当帰、芍薬などの温養補血薬とを組み合わせることにより、寒凝経脈を治療していく方剤(温経散寒剤)となっている。陽と陰の両方を補う名方である。

 冷えが強い場合は、人参湯や桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)を加える。痛みが強ければ、あるいは長く続くようなら、桂枝茯苓丸など、活血作用のある処方を合わせる。お腹を温めると楽になる生理痛には、当帰湯など、散寒作用の強い処方を合方する。

 出典は『傷寒論』である。原典では配合生薬に通草とあるが、これは現代の木通のことである。

こんな患者さんに…【1】

「不妊症です。基礎体温が低く、生理不順です」

 生理は遅れがちで、生理痛も強い。生理痛は、お腹と腰にカイロを貼って温めると軽減する。血虚受寒証とみて本方を使用。4カ月目くらいから生理が安定して来るようになり、1年後に妊娠、翌年、無事出産した。

こんな患者さんに…【2】

「腰痛です。病院に通っていますが、よくなりません」

 冷え症で、夏はクーラーが苦手、冬はお風呂に入ってもお腹や腰がなかなか温まらない。子どもの頃は、しもやけができていた。血虚受寒証とみて本方を使用。痛みは徐々に軽くなり、3カ月後から病院に行かなくてもよくなった。

用語解説

1)寒邪は病邪「六淫」の一つ。自然界には六気(風・寒・湿・熱[火]・暑・燥)があり、人はその中で暮らしている。また六気は人体内にも存在する。これらが強くなり、人に病気を引き起こす状態になったとき、六気は六淫(風邪・寒邪・熱邪…)と化す。
2)気・血・津液(しんえき)が体内を運行する通路を経絡(けいらく)という。経絡は全身にくまなく張り巡らされており、各部を密接に結び付け、身体全体を有機的に機能させる。この経絡のうち、その主幹部分を経脈という。気は生命エネルギー、津液は正常な水液に相当する概念。
3)気虚は、気が不足している証。陽虚は、気虚に加え、身体を温める機能も低下している証。
4)陰液とは、人体の構成成分のうち血・津液・精を指す。精は腎に蓄えられる生命の源。
5)肝には全身の生理機能が円滑に行われるように調節する機能(疏泄:そせつ)、腎には水分代謝の調節をする働きがある

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