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特集:認知症
服薬支援と家族へのケア
日経DI2014年3月号

2014/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年3月号 No.197

ポイント1
認知症の早期発見にはちょっとしたズレをキャッチ

 認知症の対応の第一歩は、早期に発見し、適切な治療や支援に結び付けること。服薬指導時には、患者の認知機能に留意したい。

 「認知機能は、急に低下するように感じることが多いが、そう見えるだけで実際には徐々に落ちてきている」とふくろうクリニック等々力(東京都世田谷区)院長の山口潔氏。「75歳以上で5人に1人、90歳以上では半分以上が認知症であることを踏まえると、“高齢者を見たら認知症”と思うぐらい、疑ってかかった方がいい」と、早期発見のためには、認知機能の低下を念頭に置いた観察が必要だと強調する。

ふくろうクリニック等々力
院長
山口潔氏

「認知症は、日常の生活にちょっとしたズレが生じることから始まる」と話すのは、サクラコミュニケーションズ(東京都世田谷区)の看護師の小森由美子氏だ。高齢者施設のスタッフやケアマネジャーなどに認知症患者への対応の研修を行う小森氏は「その人の性格や日常生活を、日ごろから把握しておくことが、認知症の早期発見につながる」と言う。

 例えば、几帳面な人なのにボタンの掛け違いなどちょっとした着衣の乱れが増えてきた、家の中が雑然としてきたといった小さな変化を見逃さないことが大切だ。

サクラコミュニケーションズ
看護師
小森由美子氏

 小さな変化に気付くためには、「認知症患者に多く見られる症状を一覧にしたチェック表を活用するといい」と、愛知学院大学薬学部教授の山村恵子氏はアドバイスする。同氏は、名古屋大学医学部附属病院でアルツハイマー型認知症と診断され抗認知症薬が処方された患者と家族に対して、疾患や服薬、療養、介護などに関する説明と指導を行う、認知症薬剤師外来教室を実施している。

 そこで「他人の靴を履いて帰る」「いつも大きなお金で支払いをする」など、認知症に気付くサインとなる行動を列記したオリジナルのチェック表(表6)を家族に渡している。定期的にチェックしてもらい、認知症の進行度を確認するためにも使うが、薬局でもこうしたチェック表があると、患者の変化に気付きやすい。

愛知学院大学薬学部
教授
山村恵子氏

 認知症患者のスクリーニングといえば、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSE(Mini Mental State Examination)が有名だ。薬局で、HDS-RやMMSEを実施し、結果を医師に伝えれば、診療の助けになるだろう。ただし、これらの心理テストを実施するには、本人との深い信頼関係が必要だ。通常は、認知症と疑われることを嫌がる。怒り出す人もいるため、ハードルはかなり高いといえる。

 そこで、山口氏はHDS-Rの質問項目にもある、年齢を聞くことを勧める。「生年月日は言えても、毎年変わる年齢については、比較的早い時期で分からなくなることが多い」(山口氏)からだ。服薬指導時に、ときどき「○○さん、お幾つでしたっけ」とさりげなく聞いてみて確認してみるとよいだろう。

 さらに山口氏は、「認知機能が低下してくると、飲み忘れなど服薬に影響が出ることも多い」と話す。普段から残薬や受診間隔の確認をしっかり行うことは、認知症の早期発見という観点からも重要といえそうだ。

表6 早期発見のためのチェック項目(山村氏による)

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ポイント2
受診を促すときには具体的な方法を伝える

 認知機能の低下に気付いたときの、家族への伝え方にも配慮したい。早めに専門医を受診してもらう必要があるが、ここで家族に「早めに専門医を受診してください」と伝えても、家族は困ってしまう。

 「家族が精神科や認知症外来などを受診させようとしても、ほとんどの場合、強い拒否反応を示す」と、川崎幸クリニック(川崎市幸区)院長の杉山孝博氏。長年、認知症患者を診てきた同氏は、認知症の疑いのある人を受診させるための工夫を行っている。 

川崎幸クリニック
院長
杉山 孝博氏

 杉山氏は、家族が「私の受診に付き合ってください」と本人にお願いして、医療機関に付いて来てもらう風を装って、診察を受けさせる方法を勧める。本人に一緒に診察室に入ってもらい、医師に「せっかくなので、血圧を測りましょうか」などと話してもらい診察してもらう。認知症を多く診る医師であれば、事前に相談すれば対応してくれるという。「早めに受診を」と話すだけでなく、「薬局でもこうした具体的な手段を伝えて、受診できるようにしてあげてほしい」と杉山氏は語る。

ポイント3
周辺症状に困ったら薬の前にできることを探す

 認知症患者の周辺症状の対応については、薬に頼る前にできることを家族に伝えたい。

 認知症患者の困った行動は、なぜそのような行動を起こすのか、その理由を考えることで、適切な対応に結びつけられる。例えば、夜中に騒ぐという行動について、杉山氏は「健常人でも、旅行先などで夜中に目が覚めて一瞬どこだか分からず、不安やとまどいを感じることがある。普段と同じ生活をしていても、同じような不安を感じるのが認知症患者」と説明する。見当識障害のため、自分がいつもの部屋で寝ていることが分からず、不安や恐怖から大声で叫んでしまうのだが、周りには困った行動と映ってしまう。周りが明るかったり、音が聞こえると安心して静かに再び眠りに就くことが多いため、灯りやテレビを付けるなどを試すとよいという。

 認知症の困った行動は、怒ったり、説得したりして抑え込もうとしてもうまくいかない。「認知症の人の世界に合わせた対応を取ることで、薬を使わなくても済むことも多い」と杉山氏。薬で症状を抑えることを提案する前に、対応策を示し、試してもらうようにしたい。

 対応策を考える上では、「いつ、どこで、どんな状況で困った行動が起きるのか、そのとき家族が執っていた行動などをできるだけ細かくメモに取ってもらうように家族に伝えるといい」と、小森氏はアドバイスする。

 小森氏が研修を行う施設に、1日に何度も「帰りたい」と訴える認知症の入所者がいた。いつどんな状況でその患者が「帰りたい」と訴えるかをスタッフに、書き出してもらったところ、朝食後や昼食後、夕食前など、スタッフが忙しい時間に集中しているという傾向が分かった。その時間、その入所者は食堂の椅子に一人で座っていた。スタッフはそばを行き来するものの声を掛けることなく、取り残されたようになっていたことも分かった。そこで、その人の近くを通るときは必ず声を掛けるよう、スタッフ全員が心掛けたところ、1日に130回程度言っていた「帰りたい」という言葉が、20回程度に激減したという。

 「『帰りたい』は『安心できる場所に行きたい』という訴えの表れ」と小森氏。問題行動を起こすときの、その人と周りの様子を書き出すことで、どのような状況で起きるかが分析できる。それによって、「安心できるように、みんなで声を掛ける」といった対応方法を考えることができたというわけだ。

 書き留めることで、家族は患者の行動を冷静に見られ、そのことが家族のストレスの軽減にもつながるという。さらに小森氏は、薬局でメモを見せてもらいながら、一緒に対策を考えることを勧める。「答えが見つからなくても、一緒に考えてくれる医療者がいるだけで家族は心強く感じる」と小森氏は語る。

ポイント4
変化する状況に合わせて患者ごとの方法を模索

 認知症患者では、服薬管理のサポートが重要となる。「薬剤師には、患者が本当に薬を飲めているか、自分の目で確認してほしい」と、医師である山口氏は強く訴える。うおぬま調剤グループ(新潟県南魚沼市)グループ統括薬剤長の大平美保子氏は、「嚥下機能を確認し、錠剤が服用しにくい場合には、ゼリー状の経口補液を使って服薬する方法や、剤形の変更などを提案する」と話す。

 認知機能の低下とともに、飲み忘れが増え、服薬の自己管理が難しくなってきたときには、患者の性格や生活環境、認知機能の程度に合わせて、自己管理できる方法を個々に考えることが大事だ(表7)。

 まず、処方を整理して服薬回数を減らし、一包化を行うのが定石だ。一包化の薬包紙に、服用時点を書いたり、「朝の薬は赤」といったように線を入れたり、日付を入れる。「毎朝、新聞を読む習慣のある人であれば、新聞の日付と一包化薬に書かれた日付を突き合わせて、確認しながら飲める場合もある」(大平氏)。

 お薬カレンダーを活用することも多い。通常は、縦に曜日が示されていることが多いが、その部分に日付を書いた紙を入れておき、カレンダーを近くに置くことで、飲み間違いが減るケースもあるという。大平氏は、通常のお薬カレンダーで管理が難しい患者には、日めくりカレンダーを使って服薬管理を行う。お薬カレンダーを使っても飲み忘れが多い患者宅の日めくりが、毎日きちんとめくられていたのを見て、大平氏が思い付いたものだ。大判の日めくりを購入し、日付の下に左から朝、昼、晩用と、一包化した薬を貼りつけておくとよい。

 それでも飲み間違いが増えてきたら、「日めくりの横に、大きく日付が表示されるデジタル時計を置く」と大平氏。時計の日付を確認しながら日めくりに貼られた薬を取って服用できることもある。 認知症患者では、一度、うまくいった方法でもいずれ飲めなくなる。「常に確認して、そのときどきでできる方法を探す必要がある」(大平氏)。

 服用したことを忘れてしまい、不安になって何度も薬を飲んでしまうケースや、とにかく薬を飲みたがるケースもある。チューリップ薬局(名古屋市天白区)管理薬剤師の水野正子氏は、「どうしても飲み過ぎてしまう場合には、ビタミン剤などを一包化して渡しておき、飲み過ぎても問題がないようにしておく」。

 できることは自分でやってもらうことも大事だ。確実に服用してもらいたい薬だけは、服用時点を朝食後にまとめて家族に管理してもらったとしても、コンプライアンスが悪くても問題にならない薬を夕食後服用に残し、本人に管理してもらうこともあるという。

 「飲み過ぎや飲み忘れによって危険なことが起きる場合は関与するが、そうでなければ見守る姿勢が大切」と、水野氏は話す。

表7 認知症患者の状態に合わせた服薬支援方法

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ポイント5
具体的なアドバイスで家族の気持ちを楽にする

 家族の精神的なサポートにも関わりたい。一緒に住んでいる娘の顔が分からなくなったり、家にいるのに「帰りたい」と言い出すなど、常識では理解できない認知症患者の行動に振り回され、家族は身体的な疲れに加えて精神的なストレスを抱えている。

 誰にも話せずに、悩む家族も少なくない。山村氏は、「薬剤師外来教室で、涙ながらに訴える家族もいる。薬局でも家族の話をじっくり聞く時間を設けてあげてほしい」と語る。誰かに聞いてもらい、受け止めてもらうだけでも、家族は楽になる。

 杉山氏は「医療者としての具体的なアドバイスもしてあげてほしい」と話す。まずは、家族を孤立させないように、介護をサポートする社会資源とその利用方法などを伝えたい。

 家族の精神的な負担を軽くするようなサポートも大切だ。それには、杉山氏が提唱する「認知症患者を理解するための9つの法則、1つの原則」が参考になる(表8)。9つの法則は、同氏が長年にわたって多くの認知症患者を診察してきた中で、認知症特有の症状や行動を法則にまとめ、理解しやすくしたものだ。

 この中で、家族にまず伝えたいのは、第2法則の「身近な人に対してより強い症状を見せる」。認知症患者は、外の人には礼儀正しく接するが、身近で介護してくれている人に対して「なぜご飯を食べさせてくれないのか」「私のお金を取ったでしょう」など、ひどい言葉を投げかけることが少なくない。

 これについて、杉山氏は「子どもが母親に甘えたり、わがままを言って困らせるのと同じ。信頼している人に対しては、わがままが強く出してしまう」と解説する。

 また、第7法則の「作用・反作用の法則」では、認知症の人は、相手の気持ちを映す鏡のような存在であり、相手がイライラして接すると、気持ちが不安定になり、おかしな言動を取ることが多くなると示している。

 「認知症はこういうものだ」と理解できると、気持ちが楽になることが多い。認知症の介護に疲れ果てている家族には、表8を示してアドバイスしたい。

表8 認知症をよく理解するための9大法則・1原則(杉山氏による)

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ポイント6
受け入れてもらえるその人の“ツボ”を探す

 在宅で療養する認知症患者への対応にもポイントがある。訪問時、患者に暴言を吐かれて家に入れてもらえない経験をする在宅スタッフは少なくない。アクア薬局(長崎市)管理薬剤師の佐田悦子氏もその一人。「玄関先で、『お前なんか帰れ』と鬼のような形相で怒鳴られたことがあった」と話す。

 このまま帰るわけにはいかないと思った佐田氏が、「先生から薬のことを頼まれて、きちんとしないと私が怒られるので入れてほしい」と患者に頼んだところ、入れてくれたという。その患者は、数か月後には嘘のように暴言がなくなったが、その間、他の在宅スタッフは近寄れず、佐田氏だけが家に上がることを許されていたという。

 こうしたケースについて、「患者が怒ったり怒鳴るのには、不安にさせる何かがあることが多い。逆に、このスタッフの言うことだけは聞くといった場合があるが、そこにはその人を安心させる何かがある」と、さくらライフクリニック(東京都墨田区)訪問看護部グループ長の古屋則子氏。佐田氏だけが受け入れられたのは、「その患者にとって、『この人なら安心』と思わせる何かがあったのだろう」と分析する。その「何か」は、声のトーンやしゃべり方、話の内容など様々だ。患者が素直に応じる特定の介護スタッフのしゃべり方を、他のスタッフが真似たところ、コミュニケーションがうまく図れたケースもあるという。

 本人が好む話題を出すことで受け入れられることもある。例えば、古屋氏には、訪問時に必ず合気道の話をする患者がいるという。毎回、「○○さん、若いころ、合気道をやっていらっしゃったんですよね」と話すことから始める。以前は、ケアを一切拒否していたが、合気道の話をするようになって、応じてくれるようになったという。

 古屋氏は、「この人が来たら、何だか楽しいとか、気分がいいと思ってもらえたらうまくいくことが多い」と話す。認知症患者に「帰れ」と言われたり、ケアを拒否されても、それを言葉通りに受け取らずに、受け入れてもらえる「ツボ」を探すところから始めたい。

ポイント7
薬剤師だけで完結せずに地域で認知症を見守る

 認知症の服薬支援には、多職種連携が鍵となる。認知症では、最終的には薬の自己管理ができなくなるが、そうなったときには、「薬剤師だけで何とかしようと思わず、家族やヘルパー、訪問看護師、ケアマネジャー、デイサービス、場合によっては近所の人にも手伝ってもらい、服薬を支援する」と水野氏。まず服用を1日1回にしてもらうなど処方を整理する。そしてケアマネジャーに、患者が利用するサービスを聞き、例えば月、水、木はヘルパーに、火、金はデイサービスに、といった具合に、服薬の見守りをしてもらうようにコーディネートする。

 デイサービスの施設に薬を預けておいた方がよい場合もある。大平氏は「デイサービスで飲む薬を患者のバッグに入れておき、持っていけるようにしておいた。しかし、本人がバラバラにしてしまい、デイサービスのスタッフから薬が足りないと連絡を受けた。以来、その患者の薬はあらかじめデイサービスに預けている」と説明する。

 薬をデイサービスの施設に預けたり、薬局で預かる場合は、口頭で伝えるだけでなく、必ずメモに残して患者の目に付く場所に置いておくことも大切だ。「認知症の人は、何度伝えていても忘れてしまい、不安になってあちこちに電話を掛けたりする。本人がどんなに『大丈夫、分かった』と言っても、必ずメモを残す」(大平氏)。

 多職種に協力してもらう場合は、連絡を怠ると事故の元となる。「臨時でデイサービスに行くことになったときに、ヘルパーが薬を飲ませて送り出したことがあった。いつもはデイサービスで薬を飲ませてもらっているが、事前にスタッフが気付いて連絡をくれたので、事なきを得たことがあった」と水野氏。イレギュラーなことをするときは、特にしっかり連絡を取り合うようにしたい。

 医療・介護スタッフのみならず、地域の人たちの助けを借りるのも有効だ。「一緒に旅行に行く仲間が服薬を手伝ってくれるというので、お願いしたことがある。もっとも、一緒に行く仲間も高齢だと、忘れてしまうリスクがある」と水野氏。頼んだ人が、薬を入れた場所が分からなくなってしまったことが実際にあった、と笑う。

 「患者がよく利用する店と連絡を取っておくのもよい」と小森氏。患者が毎日、コンビニに行くことを把握していたケアマネジャーが、店員に「何か変わったことがあったら、知らせてほしい」と連絡先を伝えておいたところ、ある日、「○○さんが、3日ほど現れない」と連絡してくれた。ケアマネジャーが慌てて患者宅へ行ってみたところ、脱水症状を起こして動けなくなっていたことがあったという。小森氏は、「認知症患者の場合、地域でたくさんの人が関わって、生活を見守り、支えるという発想が必要。薬局も地域の一員として、認知症患者を見守る気持ちを持ってほしい」と話している。

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