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症例に学ぶ 医師が処方を決めるまで
不整脈
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

講師
山下 武志
(公益財団法人心臓血管研究所[東京都港区]所長・付属病院長)

講師から一言
 心房細動の薬物治療は、ワルファリンカリウムのみだった抗凝固薬に新たな選択肢が増えて、ここ数年で大きく変わった。抗凝固薬の選び方については多くの方から質問をされるが、一定の基準があるわけではなく、「患者ごとに違う」というのが実情である。2014年1月に発表されたばかりの「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」でも、選択基準までは書かれていない。大規模スタディーを踏まえた薬剤選択の考え方だけでも、書籍一冊になるほどの情報量になるため、興味のある方は、私の著書『Old and New 心房細動の抗凝固療法』(メディカルサイエンス社、2012年)をお読みいただければ幸いである。

 不整脈には様々な種類があるが、その治療目的は、突然死を防いで患者の生命予後とQOLを改善することで、不整脈そのものをなくすことではない。

 治療の主目的による不整脈の分類を表1に示す。例えば、期外収縮のような生命予後に悪影響を及ぼさない不整脈に対しては、QOLが保たれる範囲で薬物を選択することを原則とし、場合によっては薬物治療を行わないという選択肢もあり得る。

 一方、心房細動のように生命予後に悪影響を及ぼす不整脈の治療では、患者の症状やQOLにかかわらず、生命予後を改善する治療法を選択する。しかし、薬物では完全な生命予後の改善効果は期待できないため、ペースメーカーや植え込み型除細動器などのデバイスを用いた後に、薬物を補助的に使用することが多い。

 いずれも、不整脈を完全に抑えようとすると、抗不整脈薬の副作用により、かえって患者のQOLを低下させかねない。その上、頻度は少ないが致命的な副作用で、生命予後に悪影響を及ぼすことがある。このため、臨床医は、使い慣れた、副作用を熟知する薬剤を選ぶことが多い。

 本稿では、不整脈の治療における処方例を解説する。

表1 治療の主目的による不整脈の分類

軽度の心房期外収縮に抗不安薬

 表2に不整脈治療の方法を、副作用や侵襲が少ないソフトなものから列挙した。QOLの維持や向上が目的である場合は、可能な限り副作用の少ないものから開始する。

 最初の症例は、QOLの向上を重視した典型的な処方例である。

 症例は会社員の47歳男性で、半年前から、睡眠不足や疲労がたまってくると時々動悸を感じることがあった。既往歴はなく、会社の健康診断で心房期外収縮があると判明し、精査目的で当院を受診した。ここ最近、動悸が悪化し、不安感が強くなっているという。

 当院初診時の12誘導心電図、胸部X線、心臓超音波検査では特に異常はなく、24時間(ホルター)心電図検査では心房期外収縮が1日約3000回起こっており、その一部は患者の自覚症状と一致していた。

 患者には、「心房期外収縮そのものは生命予後に悪影響を及ぼすものではない」とよく説明(患者教育)した上で、抗不安薬のリーゼ(一般名クロチアゼパム)を14日分処方した。

 心房期外収縮を治療する目的は、患者のQOL向上である。この患者は、健診で不整脈を指摘されて不安感が増したことが、QOLが低下した主な原因と考えられる。従って、患者教育に加え、不安感軽減のための抗不安薬を投与した。

 経験上、こうしたケースでは抗不安薬を14日分服用することで、症状が治まることが多い。2週間後の再診を指示し、調子が良いようであればさらに14日分処方する。患者には「症状が良くなったら飲まなくてよい」と指示し、1カ月以上の処方は行っていない。

 本症例では初診から2週間後の再診時には、「ほとんど動悸が気にならなくなった」と話し、3週間後に服用を中止した。

表2 不整脈治療の方法

QOL改善目的での抗不整脈薬は減量

 次の症例は35歳の主婦で、月に1回程度、疲労時に脈が不規則に打つような感じになったり、胸が引きつれるような不快感があったため、当院を受診した。既往歴は特にない。

 初診時の脈拍リズムは正常で、心電図、胸部X線、心臓超音波検査で特記すべき異常はなかった。しかし、ホルター心電図検査で、症状に一致して心室期外収縮が連発していることが判明した。1日心室期外収縮数は約3200回、連発は14回記録されていた。

 この患者の症状は心室期外収縮の連発が原因と考えられたため、まず、睡眠を十分に取り、ストレスを緩和するよう生活指導を行った。その上で、心室期外収縮の連発を減らす目的で、抗不整脈薬のメキシチール(メキシレチン塩酸塩)を投与した。

 抗不整脈薬を選ぶ際、可能な限り副作用を回避することを念頭に置く。ただし、本症例のように基礎疾患(器質的心疾患や肝疾患、腎疾患)がない若年者では、抗不整脈薬の副作用は出にくいので、使い慣れた薬剤を選ぶ医師が多い。

 初診から1カ月後の再診時、胸部の不快感は大幅に減ったという。さらに1カ月後には、ホルター心電図でも心室期外収縮総数は900回に減少し、連発は消失した。

 こうした経過から、初診から3カ月後にメキシチールを150mg/日に減量した。

 不整脈の出現は一過性のことも多い。この患者でも減量後に自覚症状の増悪はなかったため、初診から半年後に処方を中止した。初診から1年後の現在、生活面に注意するだけで症状は抑えられている。

 このようにQOL改善を目的とする治療では、患者の状態を確認して、可能な限り抗不整脈薬の減量を試みるのが一般的である。

発作性心房細動に抗不整脈薬を頓用

 次の症例は、発作性心房細動のため、生活に支障が生じている50歳女性である。器質的心疾患や甲状腺機能亢進症など、発作性心房細動を起こす原因疾患はない。数カ月に1回の頻度で、睡眠不足になると発作性心房細動が生じ、動悸が気になって家事も手につかないという。

 発作性心房細動は、数分から数時間心房細動が持続するが、やがて自然に停止するものを指す。この患者は発作時に当院を受診した。

 発作性心房細動は、多くの場合、特に治療しなくても24時間以内に停止するが、症状の程度が治療方針を左右する。

 症状が軽度なら、β遮断薬やカルシウム拮抗薬で心拍数をコントロールしておくだけでもよい。β遮断薬であればビソプロロールフマル酸塩(商品名メインテート他)を1回2.5mgで1日1回、カルシウム拮抗薬はベラパミル塩酸塩(ワソラン他)を1回40~80mgで、1日3回で処方している。しかし、この患者のように、症状が強く生活や仕事に支障のある場合には、抗不整脈薬で発作の早期停止を図る必要があり、頓用で処方した。

 抗不整脈薬の頓用で心房細動発作を止める場合、薬剤をある程度多量に服用させる必要があるため、副作用の出現に注意する。副作用には、抗不整脈薬の陰性変力作用による心不全や、心室頻拍、心室細動といった重篤なものが含まれる。そのため、必ず初回は病院内で服用させ、効果と安全性を確認する必要がある。高齢者や心疾患、肝疾患、腎疾患のある患者では、副作用出現率が高いことが知られているので処方を避ける。

 本例では、サンリズム(一般名ピルシカイニド塩酸塩水和物)100mgの頓用で、40分後に心房細動は停止した。停止後の心電図に乱れはなく(洞調律)、特記すべき異常はなかったため帰宅させた。また、数カ月に1回起きている発作を予防するために抗不整脈薬を毎日服用する必要はないと判断し、患者も希望していないため、頓用の5回分を処方し、次回の発作時に頓用するように指示した。

 このように抗不整脈薬を1回で1日量またはその3分の2を服用させる方法は、pill-in-the -pocket治療として確立されている。患者には頓用で心房細動が止まらない場合、2度目の頓用は禁止である旨を伝えている。

心房細動には抗凝固薬+抗不整脈薬

 次の症例は、近年急増している高齢者の心房細動である。心房細動は、重症脳梗塞の原因であり、実際に心房細動に起因する脳梗塞は、脳梗塞全体の2割以上を占めている。

 高齢者の心房細動では、持続性はもちろん、発作性であっても、“二段構え”で処方を組み立てる。まずは脳梗塞の予防のため抗凝固療法を行い、さらに患者のQOLを考慮した抗不整脈薬の投与を行うのが基本である。

 抗凝固療法に使用できる薬剤は、以前はワルファリンカリウム(商品名ワーファリン他)のみだったが、現在はダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)からも選択可能である。

 これらの使い分けについては、それぞれに特徴があり、患者の背景を考慮して選択している。具体的には年齢、体重、腎機能(クレアチニンクリアランス、eGFR)、コンプライアンス(1日服用回数)、薬価、塞栓症と大出血のリスクなどから総合的に決めているのが実情で、専門医の間でもコンセンサスがない。なお、新規抗凝固薬の用量選択と1日薬価は、種類とクレアチニンクリアランスにより異なるため(図1)、参考にしていただきたい。

図1 クレアチニンクリアランス別の抗凝固薬の1日薬価

 今回、紹介する症例は75歳の女性で、心房細動の症状は軽いが、脳梗塞を心配して受診した。

 この患者では、抗凝固薬としてワーファリン(一般名ワルファリンカリウム)1mg/日で治療を開始した。ワーファリンを選択したのは、患者が身内を脳梗塞で亡くしており、抗凝固療法を受けたいという意欲が高かったことと、低い薬価の薬剤を希望したからである。

 患者には、心房細動の症状はほとんどなかったため、“ソフト”な抗不整脈薬として、カルシウム拮抗薬のワソラン(ベラパミル塩酸塩)を投与し、安静時心拍数が60~80回/分となるよう調節した。

 本例ではワーファリンの代わりに新規抗凝固薬の選択もあり得るが、ワソランはP糖蛋白阻害薬で、ダビガトランの血中濃度を上げるため、ダビガトランとは併用注意である。

 また、抗不整脈薬のワソランの代わりに、ビソプロロールフマル酸塩を1.25~2.5mg/日を1日1回で投与してもよいだろう。

降圧薬の併用で治療満足度が向上

 発作性心房細動の症状が強く、抗不整脈薬ではなかなか抑制できない症例は少なくない。その場合、別の基礎疾患を治療することで、症状が改善し、患者の満足度が向上することがある。

 次の症例は68歳の男性で、近所の内科からワーファリンとシベノール(シベンゾリンコハク酸塩)が投与されていた。だが、心房細動の症状が良くならないため、もう少し効果の高い治療を望んでいる。65歳以上で既にワルファリン投与による脳梗塞予防もなされており、心房細動への治療は適切だった。一方で、血圧は144/88mmHgと高いが、当分は経過観察と言われていたという。

 本症例は脳梗塞予防に対する薬物療法は十分に行われており、QOLの向上が課題となる。シベノールをほかの抗不整脈薬に替えることも一法だが、シベノール以上の効果が表れるかは不確かで、新たな副作用で患者の信頼感を損なう心配もある。

 そこで、高血圧に注目した。心房細動の患者の7~8割に高血圧が併存しており、そのために心房細動が悪化している例は少なくない。

 患者には、血圧をコントロールすることで心房細動の抑制効果が期待できること、抗凝固療法を行う上で高血圧があると出血しやすいことを十分に理解してもらった上で、収縮期血圧の目標値を120mmHgとして、アムロジン(アムロジピンベシル酸塩)を追加処方とした。降圧薬は、ARBでもカルシウム拮抗薬でも血圧をコントロールできれば、どちらを選択しても構わない。

 本例では、血圧が110~120/75~80mmHgと低下して1~2カ月後に、心房細動発作の回数、持続時間が激減し、患者の満足度が著明に向上した。

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