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Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
タミフルはインフルエンザの合併症予防に有効か? ほか
DIデジタル2014年2月号制作管理表

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

 インフルエンザにオセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)が効くという認識は、患者にも広く浸透している。多くの患者がインフルエンザを心配して来院し、診断が下るとオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬の処方を希望する。そこには、早く治したいという思い以外に、重症化を回避できるとの期待もあるようだ。

 オセルタミビルがインフルエンザを早く治す効果については、前回(2013年12月号)でも紹介したように、症状の持続期間を1日近く短縮するというメタ解析がある。しかし、これまで合併症や入院などを防ぐ効果は十分検討できていなかった。その理由の一つとして、製薬会社がデータを公表していなかったことが挙げられる。

 今回の論文は、そうした未公表のデータを入手し、メタ解析を行ったものである。著者らはこの研究の目的を明確に示しており、「これまでの公表データに未公表データを加えて分析し、製薬会社に無関係の立場で、有症状期間に対する効果、肺炎や入院などの重症化に対する効果を検討する」としている。出版バイアスの可能性が低い、質の高いメタ解析といえるだろう。

 有症状期間の短縮については、従来の試験結果と同様、オセルタミビルを服用した群で20.7時間短い結果が得られた。しかし、入院や合併症の予防効果についてはほとんど効果が見られなかった。臨床的に診断されたインフルエンザ患者の群が、実臨床のタミフル投与対象患者と近い。全ての要因による入院だけでなく、敗血症・呼吸器合併症・脱水による入院や、肺炎の発症は、いずれも有意差が出ていない。

 また、著者らは抗菌薬投与が必要な合併症として、急性気管支炎を含んだ解析と除外した解析の2つを示している。これは、気管支炎に対する抗菌薬の効果がはっきりしておらず、最近では抗菌薬の投与が必要な合併症とみなされないことが多いためである。急性気管支炎を除外すると有意差はなくなり、この方が実際の臨床に即しているといえるだろう。

 これらの結果からすれば、オセルタミビルに対して入院や合併症を回避する効果は明確に示されていない。

 この研究ではさらに、心疾患・呼吸器疾患を持つ患者や、高齢者での検討結果も示している。これらの患者は一般にはオセルタミビルの積極的な適応とされるが、重症化の予防どころか、有症状期間を短くする効果もはっきりしなかったと著者らは述べている。

 今回の論文はオセルタミビルに対して厳しい結論を突き付けたわけだが、読者はデータを見て疑問に思ったところはないだろうか。次回、この論文のもう一つの側面を紹介する。

表1 オセルタミビル群とプラセボ群におけるイベントの発生率と絶対リスク差

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表2 オセルタミビル群とプラセボ群の間における合併症と入院の絶対リスク差

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 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療において、抗コリン薬のチオトロピウム臭化物水和物(スピリーバ)は、症状を軽減する目的で使われ、第一選択薬に位置付けられる。しかし、生死に関しては意外なデータが出ている。

 今回取り上げた研究は、チオトロピウムを投与したCOPD患者の死亡率を調べた論文をメタ解析したものであるが、結果はチオトロピウムを使用するとプラセボに比べて死亡率が52%高まるというものであった。

 13年6月号で、長時間作動型β刺激薬が喘息患者の死亡率を高めることを紹介したが、β刺激薬にせよ抗コリン薬にせよ、脈拍を増やす傾向にある薬剤は、総じて死亡率に悪影響があるのかもしれない。COPDの患者には、チオトロピウムの吸入薬が寿命を縮める可能性も説明する必要があるのではないだろうか。

 ただ、80歳を過ぎたような高齢のCOPD患者の中には、症状が軽くなるのであれば、心筋梗塞で急に死んでしまっても構わないという人もいるわけで、それがまた臨床の難しいところといえる。

表3 チオトロピウム投与群とプラセボ群における死亡率と相対危険

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(本コラムは新連載です。隔月で掲載します。)

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