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ヒヤリハット事例に学ぶ
吸入薬使用時にはトラブルが起こりやすい
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

 吸入器の操作や吸入薬の管理は、患者にとって難しく、吸入薬使用時におけるトラブルは枚挙にいとまがない。特に高齢の患者は、一度説明を聞いたくらいでは、使い方を理解できない。薬剤師は吸入薬使用時にはトラブルが非常に起こりやすいことを肝に銘じるべきである。

 吸入薬の服薬指導では、使い方を口頭で説明するだけでなく、実際に吸入薬を見せたり、メーカーが配布している練習用のデバイスなどを使ったりしながら、患者の前で操作を行い、操作方法を懇切丁寧に説明すべきである。

 今回は、筆者らがインターネット上で運営している薬剤師情報交換システム「アイフィス」の会員や全国の薬剤師から寄せられた事例の中から、吸入ステロイド使用時におけるトラブル事例、中でも操作方法が分からず使用を断念した事例や自分が正しく操作が行えているか不安になった事例を紹介する。

 なお、筆者らが収集した服薬指導におけるヒヤリハット・ミス事例は、無料で閲覧が可能である。入会申し込みは、NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンターのウェブサイト「アイフィス(薬剤師)」コーナーから。

■何が起こったか
 フルタイドロタディスク(一般名フルチカゾンプロピオン酸エステル)を処方されたが、使い方が分からなかったため全く使用しなかった。

■どのような経緯で起こったか
 患者には、初めてフルタイドが処方された。薬局薬剤師は、患者に吸入薬を処方した医師がいる医療機関では、吸入薬が初めて処方された患者に対し、吸入指導を行っていることを知っていたため、吸入薬については概要を説明するだけにして交付した。

 しかし、その後、患者から「吸入薬は使い方が分からないし、症状がひどくなければ使わなくてよいので、もういらない。貼り薬だけでいい」との訴えがあった。薬剤師が薬の使用状況を尋ねると、患者は処方されたフルタイドを全く使用しておらず、ホクナリンテープ(ツロブテロール)だけを使用していることが判明した。


患者の理解度を把握して説明

 本事例は、服薬指導における情報収集と情報提供に問題があった。薬剤師は吸入薬の使い方を一通り説明したが、患者の理解度は把握していなかった。また、吸入ステロイドの治療上の意義や重要性も伝えていなかった。

 服薬指導では、医療従事者からの一方的な説明にならないように、患者や家族と一緒に薬剤のセットの仕方や吸入方法を練習する。薬剤師がまず実演して見せて、その後患者にも吸入させ、手技上の重要なポイントをチェックし、その都度コメントしながら改善していく。また薬歴には、使用法への理解が十分か、使用していて気になることがないかを確認するチェック欄を設け、他の薬剤師も毎回確認できるようにしておく。

 喘息治療は、毎日の吸入ステロイドの使用による気道炎症の抑制が基本である。吸入薬は内用薬と異なり直接気道に届くので、炎症を抑える作用に優れ、全身の副作用も少ないことを説明する。喘息の症状がないからといって自己判断で薬を中止したり、減量しないよう指導する。

 今回のケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

 「この吸入薬は、喉の炎症を抑えて空気の通りをよくするお薬です。吸入薬を使うと、発作の『ゼーゼー、ヒューヒュー』が起こりにくくなりますが、吸入をやめると、また発作が起こりやすくなります。お薬は症状がひどいときだけ使用するのではなく、必ず毎日使用してください。それでは、吸入の仕方についてご説明します。まず、私が実際に吸入しているところをご覧ください」。

■何が起こったか
 患者は吸入感が得られず、うまく吸入できたか不安になった。実は、フルタイドロタディスク(フルチカゾンプロピオン酸エステル)に吸入器(ディスクヘラー)の針を十分に貫通させないまま使用していた。

■どのような経緯で起こったか
 患者は今回、初めてフルタイドロタディスクを処方された。薬剤師の説明では、薬がうまく吸入できると、口の中にわずかな甘味と粉の感覚を感じるとのことだったが、患者が自宅で吸入を行ったところ、甘味や粉の感覚を口の中に感じなかったため、うまく吸入できていないのではないかと不安になった。その後、吸入器の蓋を立ててディスクに穴を開ける操作が不十分で、穴の開き方が足りなかったことが分かった。


操作の背景にある目的も説明

 薬剤師はフルタイドロタディスクの吸入方法として、吸入器を水平に保ち、蓋を立てディスク(薬)に穴を開けて再び蓋を閉じるという説明をした。しかし、垂直に蓋を立てることでディスクの上面から下面まで針を貫通させるという操作の意味までは患者に伝わらなかった。患者は十分に立ち上げると逆に吸入器が壊れてしまうのではないかと思い、蓋を垂直になるまで立てなかった。その結果、十分な薬剤が放出されず、吸入が成功した場合に感じる「わずかな甘味や粉の感覚」を口の中に感じなかった。

 フルタイドロタディスクは、飲み薬ではなく、吸入器を使って吸う薬であること、吸入の直前にディスクに穴を開けて吸入することなど、実際の吸入方法について丁寧に説明する。特に、吸入器の蓋を「垂直になるまで立ち上げる」ことを十分に指導する必要がある。

 今回のケースでは、薬剤師はこう説明すればよかった。

「吸入する時には、吸入器を平らにして、蓋を垂直になるまで十分に立ち上げ、そして再び蓋を閉じてください。この操作により、薬の入っているディスクの上面から下面まで針が貫通し、薬を吸入できる状態になります。蓋を垂直に立ち上げる時は途中で止めないで『ざくっ』と刺さるまで十分に行ってくださいね」。

■何が起こったか
 患者にパルミコートタービュヘイラー(ブデソニド)の吸入法を説明する際に、病院では音の鳴る練習用吸入器を用いて説明を行った。しかし、患者が持ち帰った吸入薬(吸入器)では何回行っても音が鳴らなかったため、吸入できないと諦め、本剤の使用を自己判断で中止した。

■どのような経緯で起こったか
 病院の薬剤師は、患者に対してパルミコートタービュヘイラーの使用方法を、練習用吸入器を用いながら説明した。練習用吸入器は正しく吸入すると「プー」という音が鳴るようになっていた。

 薬剤は薬局で交付された。薬局薬剤師は、その病院で吸入指導が行われていることを知っていたため、交付時に吸入の指導を特に行わなかった。

 患者は自宅に帰って、病院薬剤師に指導された通りに吸入を行ったが、何度行っても音が鳴らなかったため、吸入を諦めた。使用を中止しても特に症状が悪くならなかったため、病院や薬局の薬剤師に申し出なかった。1カ月後の再診時に上記の事実が判明した。


薬局でも吸入方法を再度確認

 本事例は薬局薬剤師が薬剤交付時に、病院でどのような吸入指導を受けたかをチェックし、患者の理解度を確認していれば、防ぐことができた可能性がある。

 患者の理解が十分でない場合は、薬局で再度練習用吸入器を用いて吸入方法を説明する。また、薬局薬剤師は、練習用吸入器には音が鳴るタイプがある一方、患者が使用する吸入薬や他の練習用吸入器には音が鳴らないものがあることを把握しておく必要がある。

 今回のケースでは、薬剤師は次のように説明すればよかった。

「病院でパルミコートタービュヘイラーの使い方を練習されたのですね。お使いになった練習用吸入器の色は紫色だったと思いますが、実際に吸入される薬剤はこのように茶色です。また、練習用では吸入がうまくできると音が鳴りますが、実際の吸入器は、音が出ないので注意してください。吸入方法について分からない点や不安な点があれば、ここでもう一度説明させていただきますが、いかがですか」。

■何が起こったか
 スピリーバ(チオトロピウム臭化物水和物)は正しく吸入すると、カプセルの震える音が聞こえるが、1週間に数回音がしないことがあった。患者は、きちんと吸入できていないのではないかと不安になった。

■どのような経緯で起こったか
 スピリーバの吸入方法の説明書に、「カプセルが震える音が聞こえる、あるいは震えを感じる程度の速さで息を吸い込む」と記載がある。このため、患者はその音が吸入成功の目安と考えていた。だが1週間に数回、吸入しても音がしないことがあり、製剤の不具合で正しく吸入できていないのではないかと不安になった。

 来局時に、薬剤師は患者とともに吸入方法を再確認したが、使用方法に問題は認められなかった。そのとき、薬剤師は患者が補聴器を付けていることに気付いた。薬剤師が自宅でも常時付けているか尋ねると、「自宅では時々外している」と患者は答えた。

 結局、吸入時の音が聞こえなかったのは、補聴器を外していたからだった。幸い、吸入時に音が聞こえなかった場合に、新たに1カプセルを追加吸入はしていなかった。COPDの悪化も認めなかった。


補聴器を付けて吸入するよう指導

 今回のケースでは、薬剤師は次のように説明すればよかった。

 「○さんは補聴器を使用されているのですね。お薬を正しく吸入すると、お薬を吸っている間に、吸入器の中のカプセルが震える音がします。音を聞きながら吸入する必要がありますので、必ず補聴器を付けて吸入してくださいね。お薬を吸入する際に、補聴器をしていても音が聞こえない場合は、吸入時、鏡を見ながら、吸入器具の外窓よりカプセルが振動しているか確認してください。これはご家族に確認してもらってもよいでしょう。吸入する際、器具をくわえる角度によっては音がしない場合もあります。また、吸入器具の不具合の可能性や器具を洗った後に十分乾燥させずに使用した可能性も考えられますので、音が聞こえないようでしたら、薬剤師にご相談ください」。

 その他、吸入薬をうまく使えなかった事例として次のような報告がある。

・フルタイド100ロタディスク(フルチカゾンプロピオン酸エステル)を使用する際に、吸入器(フルタイドディスクヘラー)の開け方が分からなかった。

・フルタイド100ディスカスを使用している患者が、最後の方は濃度が薄くなると思い込んだ。

・シムビコートタービュヘイラー(ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物)は吸った感じがしないと感じた。

・シムビコートタービュヘイラーで残量表示が動いていないと思った。

・アドエア250ディスカス28吸入用(サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル)は吸った気がしないと感じた。

・メプチンエアー10μg吸入100回(プロカテロール塩酸塩水和物)は100回分入っているはずなのに、新しい吸入器のカウンターの表示が102回となっていることを疑問に思った(実際は、表示が100になるまで2回空噴霧してから使用する)。

(東京大学大学院教授 薬学系研究科 医薬品情報学講座・澤田康文)

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