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Interview
鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科長・教授 大井一弥氏
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

おおい・かずや
1962年生まれ。86年城西大学薬学部卒業。三重大学医学部、四日市社会保険病院薬剤部を経て、2005年4月城西大学薬学部病院薬剤学講座助教授、07年4月同薬物治療管理学講座准教授、08年4月鈴鹿医療科学大学薬学部病態・治療学分野臨床薬理学研究室教授、10年4月から現職。

 薬物治療学の専門家として早くから貼付薬に着目し、皮膚の状態がその効果に影響することなどを論文として発表してきた大井氏。最近は、製薬企業の研究者らから貼付薬に関する相談を受けることも多いという同氏に、貼付薬の使い方の指導時の留意点などを聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本 宗明)

─合成麻薬フェンタニルの貼付薬に関して、皮膚が乾燥すると吸収性が低下するという論文を報告しています。

大井 あくまでも動物実験ですが、乾燥皮膚のモデルを作って貼付薬を貼り、薬物の血中濃度を調べたところ、正常な皮膚に貼った場合の半分以下でした。乾燥皮膚は、角層の下に保持している水分量が少ないために、皮膚の透過性が低下したものと思われます。

 フェンタニルの貼付薬は、3日間の持続製剤として2002年に発売されたのですが、当初「内服薬や注射薬に比べて効かない」という声が現場から噴き出しました。使い方に関する情報伝達にも課題があったと思いますが、皮膚の状態が薬効を左右するということにあまり注意を払っていなかったのもその一因でしょう。医療用麻薬を主に使うのは癌患者なので、乾燥皮膚の人が多いのですが、医師はそういうことを考慮せずに処方していたわけです。

─皮膚が乾燥していると、どんな薬物でも吸収しにくいものでしょうか。

大井 そうですね。ただ皮膚は水と油がバランス良く保たれている構造なので、水分量が多ければいいというものでもありません。皮膚の水分量は日によっても変化するし、季節変動もあります。また体の場所によっても水分量は違います。胸から上は安定していますが、心臓から離れるほど水分量は減り、腰から足にかけては乾燥しがちです。

 保湿剤で処置をしたかどうかでも水分量は随分と変化します。保湿剤のヘパリン類似物質を左足に塗布し、右足は何もしないで6時間後の水分量を測定したところ、同じ人でも左右の足で水分量は大きく違っていました。

─薬剤師が貼付薬の服薬指導をする際には、皮膚の水分量に気を付けるように説明することが大切ですね。

大井 そうです。ただ、乾燥皮膚も潤い過ぎも問題で、一定の水分量に保つことが重要だと考えています。特に高齢者は皮膚が乾燥する人が多いので、しっかりと保湿剤を使って水分量を一定に保つように指導した方がいい。

 乾燥肌は何が問題かというと、痒いので引っ掻くじゃないですか。すると傷ができて、そこに貼ると今度は薬が入り過ぎる危険が出てきます。また、最近は降圧薬や認知症、パーキンソン病などの慢性疾患に対する貼付薬が増えていますが、痒いからといって勝手に使うのをやめてしまっては問題です。

─保湿剤によるケアのほかに、薬剤師が特に気を付けなければならないことはありますか。

大井 まず、薬剤師には、「貼る位置を必ず確認してください」と言っています。患者が「効かない」というので確認すると、おへその下に貼って、いつの間にか剥がれていたということもありました。それから、貼る位置を毎回変えるように指導してください。同じ場所にばかり貼ると、角質をはがしてしまいます。ローテーションで別の場所に貼り、貼り終わった場所は保湿剤などで、しっかりケアするようにしてください。

 「赤くならないか」「痒みはないか」もしっかり確認してほしいですね。貼付薬は皮膚障害の副作用が多いですが、個人差がある理由など、まだ分からないことがたくさんあります。ただ、主薬より、基剤の粘着性や添加剤などが問題になっていることが多いですね。

 貼付薬を貼った後にできる「赤い」「痒い」などの症状は、薬のせいだとすぐに分かるので、訴えは薬局にダイレクトに来る可能性があります。だから、副作用が生じた場合に、代替薬にすべきかどうか、貼付するのをやめてもいいのかといったことも含めて、服薬指導を行うためのQ&Aのような情報が薬局に必要だと思います。特に降圧薬などの場合、「しばらくやめてください」というわけにはいきませんから。

 貼付薬は内服薬などに比べて、ちゃんと使う人と使わない人の差が激しいので、薬剤師がしっかりと指導することの意義がより大きいと思います。

─このところ、全身に薬効を示す慢性疾患用の貼付薬が増えていますが、何か技術革新があったのでしょうか。

大井 技術革新というよりも、製薬企業の研究開発体制が整ってきたことが大きいと思います。これまで日本の薬学研究は、内服薬や注射薬が中心で、貼付薬の研究は一部の製薬企業でしかやっていませんでしたが、ようやく製品化に取り組める体制になってきた。学会や大学の努力で、研究者が育ってきたことも要因として挙げられます。また貼付薬だと、薬効がより長期間持続するようコントロールしやすいと期待されていることも背景にあると思います。

 全身性の貼付薬については、高齢社会に適した薬剤という観点で注目しています。色々な慢性疾患に対する薬剤を幾つも体に貼って治療するようになると、例えば独居老人が居宅で倒れた際に、どういう病気でどういう薬を使用しているのかが一目で分かるようになる可能性があります。訪問看護の際に、服を脱がせるだけできちんと服薬しているかを確認できるかもしれません。

 これまで貼付薬には、「局所の痛みを取る」というイメージがありましたが、高齢化が進む中で、慢性疾患に対する使用は広がっていくと見ています。

─今後、開発が期待されている貼付薬はどんなものでしょうか。

大井 薬効のことではありませんが、今の貼付薬は無味乾燥というか、肌色や白が当たり前になっていますが、色を変えるなどの工夫をした方がいいと思います。特に全身性のものは、どの薬を使っているのかが一目で分かるようにした方がいいと思います。

 薬効では、生活習慣病に対するものが増えていく可能性があります。速効性を期待するものは内服薬でいいですが、慢性疾患に対する薬は貼付薬をベースにすると、高齢者施設などでの管理も容易になるかもしれません。それから、かゆみを抑える物質を入れた合剤のようなものも、開発の余地があると思っています。

─貼付薬が増えていくと、薬剤師の役割が変わったりするでしょうか。

大井 理想を言うと、剤形選択は薬剤師が行うべきでしょう。例えば、医師の処方は非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬でも、「坐薬にしてほしい」と訴える患者さんがいたりします。その際に、いちいち疑義照会せずに、薬剤師が患者に合った剤形を選択できるようにしてほしい。これから貼付薬が増えていくわけですから、権限を与えてもらいたいです。

 そのためには薬剤師には剤形に関する知識だけでなくコミュニケーション能力が求められます。貼付薬は貼った実感がある剤形なので、交付した患者が再来局した時に「どうでしたか」と問い掛けると、何かしらの感想を聞き出せます。そうやって、患者との信頼関係を築いていくことが大事です。

インタビューを終えて

 大学教員になる前、病院薬剤師として20年近く現場で臨床に携わった経験の持ち主です。現在は、貼付薬に詳しい大学研究者として、製薬企業の研究所に招かれることも多いとか。その大井氏は、「企業の研究者らに『患者の皮膚を見たことがあるか』と聞くと、ほとんどが黙っている。薄くていい製剤にする研究には一生懸命だが、患者の皮膚のことまで考えていない」と指摘します。企業研究者の頼れる存在であるのは、患者や医療現場をよく知るからこそなのでしょう。 (橋本)

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