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特集:全身性貼付薬の使い方指導
〔Step1〕全身性貼付薬の基礎知識
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

 貼付薬は古くから用いられてきた剤形で、その大半は局所に作用する「鎮痛用の貼り薬」だ。一方、薬物を経皮的に浸透させ、全身循環血流に乗せることを目的とした貼付薬(以下、全身性貼付薬と呼ぶ)の歴史は比較的浅い。「世界で最初の製剤は、米国で1979年に承認された、乗り物酔い予防に使用するスコポラミンの貼付薬。81年にはニトログリセリンの貼付薬が米国で承認され、一気に広まった。いずれも、経皮治療システムの著名な研究者であるアルベルト・ザッファローニ氏が設立した米国アルザ社の製品だった」と振り返るのは、経皮吸収型製剤の開発に特化した医薬ベンチャーであるメドレックス(香川県東かがわ市)代表取締役社長で、長年に渡り製薬会社で貼付薬の研究開発に携わってきた松村眞良氏だ。

30年前に実用化ここ数年で急増

 ニトログリセリンには強力な血管拡張作用があるが、初回通過効果が大きく、全身に循環する前に肝代謝でほとんどが分解されてしまう。初回通過効果を回避する目的で舌下錠が開発され、日本では53年に発売されているが、舌下に投与した場合の血中半減期(t1/2)は2.3分と短く、発作時の頓用薬としてしか使用できなかった。

 ニトログリセリンの初回通過効果を避け、かつ持続的に作用させる剤形として登場した全身性貼付薬は、「ニトログリセリンを狭心症の発作が起こってから使うのではなく、起こる前から使用して発作を抑制するという、全く新しい使用法を臨床現場にもたらした。その衝撃は大きかった」と松村氏は言う。

 日本での全身性貼付薬の第1号は、ニトログリセリンと同様の血管拡張作用を持ち、狭心症の治療薬として用いられてきた硝酸イソソルビド。今からちょうど30年前の84年に発売された。日本で販売されている主な全身性貼付薬の発売時期は、大きく3つに分かれる(表1)。80年代に狭心症治療薬が2剤発売された後、およそ10年の時を経て98~2002年に気管支拡張薬やニコチン製剤、医療用麻薬などの全身性貼付薬が相次いで発売された。ここから10年弱を経た11年から13年に掛けて、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、過活動膀胱などの治療に用いる全身性貼付薬が続々と登場し、慢性疾患の治療に用いる新しい剤形として定着しつつある。

表1 日本で販売されている主な全身性貼付薬(各社インタビューフォームより編集部作成)

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 さらに、統合失調症やアレルギー性鼻炎、化学療法による悪心・嘔吐を適応症とする全身性貼付薬の開発も、日本で第2相臨床試験段階にまで来ている。開発が順調に進めば、数年後には上市される見込みだ。

即効性はないが持続的に作用

 ただし、現在実用化されている全身性貼付薬の中に「貼ってすぐ効く」製剤はない。「血中濃度が治療有効域に達するには、一般に3~6時間かかる」と、外用薬に特化した製薬会社であるニプロパッチ(埼玉県春日部市)執行役員の山内仁史氏は言う。図1に、薬物を貼付薬で経皮投与した場合と、経口で投与した場合の薬物動態の違いを模式的に示す。経皮投与では、薬物は主として表皮への浸透を経て真皮内へと拡散し、皮下組織の毛細血管から吸収される。消化管の粘膜上皮細胞から吸収される経口投与と比べると、薬物血中濃度の立ち上がりには時間がかかるのだ。

図1 経口薬と全身性貼付薬の血中濃度推移の模式図

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「皮膚のかぶれなどが全身性貼付薬では問題になりやすい」と話すニプロパッチの山内仁史氏。

 半面、貼付薬を貼っている間はほぼ一定の速度で持続的に薬物が浸透・吸収されるため、最高血中濃度に達した後は理論的にはその濃度が維持される。この特性は、癌の持続痛やパーキンソン病の夜間症状(別掲記事参照)など、有効血中濃度を持続的に保つことで症状が軽減される病態の治療には特に有用だ。

 注意が必要なのは、貼付薬を剥がした後。「既に皮膚に浸透した分の吸収は続くので、薬物血中濃度はすぐには下がらない。しかし現場では『剥がしたらそこで作用は止まる』と思われがちで、フェンタニルの貼付薬を他のオピオイドに切り替える際に、剥がしてすぐに他薬を経口で投与してしまい、血中濃度が上がり過ぎて患者が意識消失するといった事態を経験する」と、東京逓信病院(東京都千代田区)薬剤部副薬剤部長の大谷道輝氏は警鐘を鳴らす。薬剤の切り替えや副作用発現時など貼付薬の剥離が必要となる場面では、添付文書で薬物動態を確認し、「剥がして何時間たてば血中濃度が十分に下がるか」というデータに基づいて対応したい。

東京逓信病院の大谷道輝氏は「全身性貼付薬は剥離後もしばらく作用が続く」と注意を促す。

皮膚のかぶれや痒みが高頻度で生じる

 貼付薬では貼付部位の接触皮膚炎や掻痒がしばしば生じるが、その頻度は薬剤によって大きく異なる。表2に、全身性貼付薬で生じる皮膚副作用の種類と頻度を薬剤別にまとめた。この表からは、11年以降に発売された全身性貼付薬で特に、皮膚副作用が高頻度に生じることが読み取れる。

表2 主な全身性貼付薬における皮膚副作用の頻度(各社添付文書より編集部作成)

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 皮膚副作用の頻度が高い理由として、山内氏は「主薬のほか、粘着剤や吸収促進剤などの添加剤による化学的な刺激が大きいため」と分析する。また、局所性の貼付薬と比べ、全身性貼付薬では確実な薬物送達のために皮膚への密着性が高められており、皮膚の伸展などの物理的な刺激や、貼付部位の汗や蒸れなど生物的な刺激も大きくなりやすいという。全身性貼付薬では、皮膚を介して薬物を全身に到達させるための製剤的な工夫が凝らされている分、皮膚トラブルを生じやすいのだ。

 こうした皮膚局所の副作用は、同じ場所に続けて貼らないといった適切な貼付方法の遵守や、保湿などのスキンケアで軽減できる。STEP2に示す患者指導を実施するとともに、かぶれや痒みの有無や程度をモニタリングして、無理なく使用を継続できるよう支援することが薬剤師の大切な役割となる。

皮膚の炎症や加温で吸収が亢進

 全身性貼付薬を有効かつ安全に使うためには、皮膚からの薬物吸収量を一定に保つことが重要だ。皮膚の炎症は血管透過性を上昇させるので、炎症部位への貼付は避けなければならない。

 また、全身性貼付薬では製剤中に飽和溶解している液状の薬物が吸収されるが、飽和溶解度は加温により上昇するため、「製剤の加温により吸収は亢進する」と大谷氏。「入浴など短時間の加温なら、一時的に吸収が亢進しても1日の薬物血中濃度-時間曲線下面積(AUC)にならせば臨床的な影響は無視できることが多い。しかし、電気毛布などで持続的に加温するのは避けるべき」と同氏は注意を促す。

多剤併用例では1剤でも貼付薬に

 経口薬と比べた場合の貼付薬の剤形的なメリットは、「飲まなくてもよい」ということ。服薬を嫌がる小児や、嚥下障害や認知症のため服薬が困難な高齢者には、特に適した剤形だ。

 高齢者療養型病院の総泉病院(353床、千葉市若葉区)で薬剤部長を務める棗則明氏は、「入院患者の平均年齢は84歳で、内服薬数は平均6.4剤だが、病状のコントロールのために薬が増えたり心身の機能低下により内服薬を飲むことが難しくなった時点で、『心臓は貼り薬にしましょうか』といった具合に切り替えを提案している」と話す。看護師には貼付薬を貼るという新たな業務が生じるが、「薬が飲めなくなってきている患者に服薬させるのは本当に大変なので、1剤でも減ることは助かる。使用の有無を目視で確認できる点も安心」と、病棟看護師長の鈴木真由美氏は言う。全身性貼付薬は、高齢社会にフィットした剤形としての地位を確立しつつあるようだ。

「多剤併用例では1剤でも貼付薬に切り替えるメリットがある」と話す、総泉病院の棗則明氏(左)と鈴木真由美氏(右)。

話題の新・貼付薬1
ビソノテープ

 2013年9月に発売されたビソノテープは、β遮断薬のビソプロロールの貼付薬。4mgと8mgの2規格があり、薬価はそれぞれ89.3円、123.0円だ。通常、成人には8mg製剤を1日1回、胸部、上腕部または背部に貼付する。

 ビソプロロールの経口薬(フマル酸塩、商品名メインテート他)は1990年から臨床に供されており、本態性高血圧や狭心症、心室性期外収縮、慢性心不全、頻脈性心房細動の治療に用いられている。一方、ビソノテープの適応症は本態性高血圧のみだ。国内で実施された第3相臨床試験では、高血圧患者へのビソノテープの貼付で24時間に渡り安定した薬物血中濃度と血圧コントロールが維持され、降圧効果においてビソプロロールフマル酸塩の経口薬(5mg錠)に対する非劣性が示されている。

 β遮断薬の貼付薬は世界にも例がなく、臨床現場でどう使われていくかは未知数だが、貼付薬に詳しい鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科長の大井一弥氏は「臨床医からは、心不全や周術期の心拍数コントロールに使えないかという意見を聞く」と話す(大井氏のインタビューを参照)。今後の効能追加に注目が集まりそうだ。

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