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副作用症状のメカニズム
第40回 不安、うつ症状 神経伝達物質のバランスが鍵
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 40歳女性。全身性エリテマトーデス(SLE)と診断されて、プレドニゾロン(プレドニン他)を服用中。薬局で薬を受け取るときに、薬剤師に「最近、不安になったり、気分がめいったりすることが多い」と訴えた。

不安、抑うつとは

 五木寛之は、『不安の力』(集英社)で不安について、「これまでの経験や知識、新たな出来事から今後の自分に起こりそうな困難や危険、苦痛の可能性を感じて生じる不快な情動現象の総称。元来は、適応に有利で、問題解決のために必要な感情。適度の不安は、作業能率の向上に役立つ」としている。

 さらに「不安が起きても解決可能と見通せるものは適度の不安だが、解決不可能に思えると、生理的変化、主にアドレナリンによる反応が起こる」と説明し、具体的な反応として「皮膚や胃腸への血流を犠牲にして、脳に酸素をつぎ込むため、皮膚は青ざめて冷たくなり、胃腸の働きが悪くなり、口が渇き、吐き気や腹部の不快感、動悸、息切れ、脈が速い、胸が詰まった感じ、やるせなさ、呼吸困難、窒息感、過呼吸、身震い、振戦、筋緊張、筋肉痛などを感じる」としている。さらに、一時的で回復するものは病的ではないが、「不安が状況の解決に向かわない不合理な反応となると病的」としており、必ずしも薬物治療とは限らないが、治療が必要になるとしている(参考文献1)。

 不安や抑うつは、本来、危険から身を守り、生存するために必要なシグナルであり、それが環境の変化に伴い、過剰かつ不適応的なものになったとする説がある。この考え方は、進化生物学や進化精神医学でも説明されている。人間を含む動物が今持っている特性は、進化の結果であって、心の動きも例外ではないとする考え方である(参考文献2)。

 もともと抑うつは、不適切な行動の停止や争いの回避、他の個体からの援助行動の誘発などを生じ、生体に有利に働いた。しかし、人類の文化的発展と環境の変化から、必ずしも有利ではなくなり、病的特性として理解されるようになったという。

不安や抑うつのメカニズム

 不安や抑うつが発生するメカニズムは明確にはなっていない。ただ、不安形成や制御機構には、脳の海馬や扁桃体を中心とする大脳辺縁系が深く関わっていることは間違いなさそうである。

 脳において伝達を担う物質には、興奮性伝達物質と抑制性伝達物質がある。興奮性伝達物質にはグルタミン酸、ドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなど、抑制性伝達物質にはγアミノ酪酸(GABA)などがある。何らかの形で興奮性伝達物質と抑制性伝達物質のシナプス活動のバランスが崩れると精神活動の異常が生じる(参考文献3)。

 生命の危険を感じたり、大きなストレスが掛かったりすると、人は脳で対処方法を考え、筋肉を使って行動する。それらをスムーズに実行するために次のような仕組みがある。まず交感神経が興奮し、副腎髄質を刺激してアドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンなどのホルモンを分泌する。アドレナリンは、副腎髄質に存在する酵素を利用して、ノルアドレナリンから合成される。

 神経系は、電気的信号系であるため伝達速度が早い。しかし、持続するには多大なエネルギーが必要となる。そこで、ホルモンという内分泌物質を作って細胞に貯蔵し、緊急事態が起これば、まず神経によって電気的な信号を送り初期対応をしておき、ホルモンを分泌して本格対応を行う。

 アドレナリンは、交感神経をさらに興奮させ、筋肉や脳に酸素とブドウ糖を多く含んだ血液を供給するために気管支を広げて血糖値を上げ、心臓を早く強く動かす。脳は非常事態を宣言するとともに、神経を興奮させる伝達物質であるグルタミン酸をたくさん作り、ドパミンやノルアドレナリン、セロトニンを働かせて事態の収拾を図ろうとする。

 非常事態であるという情報は、大脳内にとどまることなく視床下部にも送られ、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を介して脳下垂体へ、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を介して副腎皮質へと送られ、副腎皮質ホルモンが分泌されて全身的なストレスに対応する(参考文献3)。

 しかし、興奮性の伝達物質が過剰になると、かえってニューロンを傷付けてしまう。そこで、抑制性伝達物質であるGABAが同時に分泌され、興奮系神経の働きに支障のない程度に、適度なブレーキを掛ける。

 このバランスが重要で、興奮性伝達物質に比べてGABAの活性が不十分だと、興奮し過ぎたり不安が強くなる。GABAの活性が不十分となる原因には、GABAの絶対的な不足やGABA受容体の減少が考えられる。

 余分な興奮系の伝達物質は、興奮毒となってニューロンを傷害し、アポトーシスを引き起こす。日常的にもニューロンが傷付くことがある。通常は、休息によって回復するが、ひどく傷付いたり、傷付いた状態が長く続いたりすると、病的な不安状態になることがある。さらに、ドパミンやセロトニンなどの興奮性伝達物質を分泌するニューロン自体が傷害されると、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンが不足し、うつ状態が生じるとも考えられる(参考文献3)。

 また、GABA活性が強過ぎると抑制が強くなり、起きていなければいけないときに眠ってしまうようなことが生じる。

 興奮性の伝達物質であるグルタミン酸は、通常の濃度では神経細胞のNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)型グルタミン酸受容体に結合し、電気信号を伝達して記憶や学習などの脳高次機能に重要な役割を果たしている。しかし、ニューロン周囲のグルタミン酸濃度が危険な濃度にまで達すると、ニューロンはアポトーシスを起こし、これがパーキンソン病やうつ病の発症に関わっているといわれている。

 ノルアドレナリンは、脳幹の青斑核でチロシンを基点としてドパミンを介して合成される(参考文献4)。うつ病患者では、青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンの数が減少し、神経終末からのノルアドレナリンの放出と作用が減弱していることが分かっている。ノルアドレナリンは、再取り込みされて前シナプスに貯蔵される。

 セロトニンは、延髄縫線核ニューロンで、トリプトファンを基点として合成される。うつ病患者では、ドパミンと同様、セロトニンの減少や作用の減弱が起こっている。セロトニンは、脳以外にもあらゆる部位に存在していて、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン(この3つをカテコラミンと呼ぶ)に続く危機脱出の担い手として、情動や摂食、睡眠、神経内分泌を制御している。

副作用による不安、抑うつ

 不安や抑うつは、興奮性と抑制性の伝達物質の量や分泌、バランスに影響を及ぼす薬物を服用することによって起こる可能性がある。不安やうつ病の治療薬も例外ではなく、抗精神病薬、抗うつ薬でも起こり得る。その他、β遮断薬(脂溶性のもの)、副腎皮質ステロイド、インターフェロン製剤などでも起こることがよく知られている。

 末梢性交感神経抑制薬のレセルピン(アポプロン他)は、ノルアドレナリンやセロトニンの取り込みを阻害するため、ノルアドレナリンやセロトニンの枯渇をもたらす。しかし、実際にうつ病の有病率を上げるかどうかは、明確ではない(参考文献2)。

 統合失調症患者を追跡した調査では、抗精神病薬による治療群の方が、抑うつ症状を多く呈していたという報告がある(参考文献5)。特に高力価の抗精神病薬であるハロペリドール(セレネース他)では、その血中濃度が抑うつ症状の重症度と正の相関にあったという報告がある(参考文献6)。ドパミンアゴニストやアリピプラゾール(エビリファイ)などでも、10~30%に不安が起こるとされている(参考文献7)。一方で、抗精神病薬による治療の有無によって、抑うつ症状に差異がなかったとする報告もある。

 抗てんかん薬においても、高用量のトピラマート(トピナ他)などでプラセボと比較して抑うつ症状の発現の割合が高かったという報告がある(参考文献8)。

 抗不安薬や睡眠薬でも抑うつ症状が起こることがある。ベンゾジアゼピン系薬は、抑制系伝達物質であるGABAとよく似た働きをするためである。通常、体内のGABAは、興奮系の伝達物質の過剰を抑えるために必要なときだけ分泌される。しかし、外から長期間投与されると、受容体が刺激を受け続けることになり、その刺激を回避するために体は受容体を減らす。すると、大きな興奮が来たときに対応できず、かえって不安などが起こると考えられる(参考文献3)。

 メチルフェニデート塩酸塩(コンサータ、リタリン)やアンフェタミンなどの中枢神経刺激薬は、以前はドパミンを増やすことを目的に、抗うつ薬として使われていた。しかし、現在では、アンフェタミンはもちろんのこと、メチルフェニデートの効能からうつ病が削除された。また、現在は重症うつ病には禁忌となっている。興奮して傷付いている神経細胞を休ませる必要があるにもかかわらず、ドパミンを増やすことによって、さらに強い興奮毒にさらすことになり、ニューロンがますます傷害され、症状が悪化する恐れがあるためである。

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はセロトニンとドパミンの、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)はセロトニンとノルアドレナリンの濃度を上昇させる。従ってこれらの長期使用は、ニューロンの疲弊や傷害を大きくし、不安や抑うつを起こす可能性が指摘されている(参考文献3、7)。

 当然、抗パーキンソン薬でも不安や抑うつが見られる。脂溶性のβ遮断薬では、不安が10~40%に起こる(参考文献7)。

 副腎皮質ステロイドによる抑うつ症状は,投与開始後10 ~60日くらいで発現する。副腎皮質ステロイドの使用は、抑うつ症状の発現を3.1倍高めるとされている(参考文献9)。

 副腎皮質ステロイドは、前述したようにストレスに対応するホルモンである。しかしストレス負荷が持続しグルココルチコイドの上昇が遷延すると、海馬のニューロンが傷害される。またグルココルチコイドの上昇は、海馬における神経栄養因子の減少と神経新生の抑制を引き起こす(参考文献10)。しかし反対に、興奮を起こし躁状態やせん妄などを引き起こすこともある。

 片頭痛治療薬のトリプタン製剤、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)やタモキシフェンクエン酸塩(ノルバデックス他)、プロゲステロン製剤などでも不安や抑うつが見られる。甲状腺ホルモン製剤の投与でも高頻度に不安が起こるが、一方で甲状腺ホルモンが低下しても抑うつが起こる。

 インターフェロン製剤は、インフルエンザ様症状に続いて、抑うつ症状が起こることが知られている。インターフェロンは、視床下部-下垂体-副腎皮質系や視床下部-下垂体-甲状腺系を介する作用のほか、オピオイド作用、ドパミンアンタゴニスト作用やアゴニスト作用、ノルアドレナリンやトリプトファン、セロトニンを介する作用などを持ち、これらが関連すると考えられている。

 また、脳内の免疫が賦活化され、セロトニン神経の傷害や海馬の萎縮が起こるためとも考えられている(参考文献11)。

図 不安や抑うつを起こしやすい薬

* * *

 最初の症例を考えてみよう。患者は不安や抑うつを訴えているが、これは果たして副作用によるものなのだろうか。

 SLEは、しばしば精神症状を伴う疾患である。従って、抑うつ症状が出た場合、それが薬によるものかどうかの鑑別が必要である。鑑別には、服用しているプレドニゾロンを減量して、症状がどう変化するかを見る必要がある。

 そこで薬剤師は受診を勧め、主治医に情報提供を行った。

参考文献
1) 五木寛之、『不安の力』(集英社、2005)
2) 野村総一郎、臨床精神医学, 2011;40:831-5.
3) 大津史子ら、『患者の訴えから考える薬の副作用』 (じほう、2013)
4) 松尾理監訳、『症状の基礎からわかる病態生理2ed.(メディカルサイエンスインターナショナル、2011)
5) Fakhoury WK, et al., Int Clin Psychopharmacol, 2001;16:153-62.
6) Krakowski M, et al.,Psychiatry Res 1997;71:19-26.
7) TisdaleJE『Drug-Induced Diseases, American Society of Health-System Pharmacist』 (Maryland、2010)
8)尾鷲登志美ら、臨床精神医学 2007;36:57-61.
9) Patten SB,et al.,Can J Psychiatry 1995;40:264-9.
10) Nestler EJ, et al.,Neurobiology of depression Neuron 2002;34:13-25.
11)厚生労働省『重篤副作用疾患対策マニュアル 薬剤惹起性うつ』

イラスト:長岡 真理子

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