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検査値のミカタ
腎機能
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部)

 腎臓は肝臓と共に薬の排泄において重要な役割を担っていますが、肝臓に比べ予備能が小さいため、腎機能の低下は薬の排泄能に鋭敏に反映されます。腎機能を正しく評価し、薬学的管理に生かすことは薬剤師に不可欠のスキルです。 (中村)

検査値の意味と測定法

 腎機能の評価に用いられる代表的な検査項目を以下に示す。

血清クレアチニン値(SCr):
 クレアチニンは、筋収縮のエネルギー源となるクレアチンの最終代謝産物であり、産生量は筋肉量によって決まる。クレアチニンは、腎糸球体で濾過されて尿中に排泄されるため、糸球体濾過量が低下すると血清クレアチニン値(SCr)は上昇する(補足説明1)。

 SCrの測定方法には酵素法とヤッフェ法があるが、現在は酵素法が主流である。酵素法での基準値は男性0.6~1.1mg/dL、女性0.4~0.8mg/dL。ヤッフェ法では試薬がクレアチニン以外の物質とも反応するため、実際のSCrよりも高めに出る傾向がある。また筋肉量が少ない痩せ型の患者では、クレアチニンの産生量が少ないため、糸球体濾過量が低下してもSCrが大きく上昇しない点に注意が必要である。

クレアチニンクリアランス(CCr)および推算腎糸球体濾過量(eGFR):
 正確に糸球体濾過能を評価する検査指標として、イヌリンクリアランスがある。尿細管分泌のないイヌリン試薬を持続点滴で投与し、複数回の採血、採尿によって、糸球体で濾過され尿中に排泄されるイヌリン量を測定する。

 また、生体内物質であるクレアチニンも、イヌリンと同様、糸球体で濾過され原尿中に排泄されることから、24時間蓄尿により1日に尿中排泄されるクレアチニン量を測定し、クレアチニンクリアランス(CCr)を算出する方法がある(補足説明2)。イヌリンクリアランスに比べて侵襲が少なく簡便に測定できる。

 外来診療においては、SCr、年齢、体重から推算式(Cockcroft-Gaultの式が普及している)を用いて推算CCrを算出することが多い(表1)。

 また最近では、SCrと年齢から推算腎糸球体濾過量(eGFR)を算出するケースも増えてきた(補足説明3)。ただし極端な肥満や痩せ、低アルブミン血症などでは、eGFRの推計誤差が大きくなる。

表1 推算CCrおよびeGFRの求め方

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尿素窒素(BUN):
 尿素は、蛋白質の終末代謝産物のアンモニアから肝臓で合成され、腎排泄される。尿素窒素(BUN)は、血清中の尿素に含まれる窒素分を測定したもの(mg/dL)。BUNは蛋白質の摂取量、代謝量、腎機能によって規定される。日常診療では主に腎不全の指標として用いられるが、蛋白異化亢進、消化管出血、脱水、ショック、肝疾患などの診断補助に用いられることもある。

 BUNは食物や蛋白異化などの影響を受けやすいため、SCrと併せて測定し、BUN/SCrを評価する。BUN/SCrは通常10程度で、10以上の場合は尿素の産生亢進や尿細管での再吸収亢進、脱水といった腎外の因子が疑われる。一方、慢性腎不全の浸透圧利尿時や厳格な蛋白制限時、血液透析後などはBUN/SCrが10以下となる。

尿検査項目

 尿検査で確認できる腎機能障害のマーカーとして、尿中アルブミン、尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニナーゼ(NAG)、尿中β2ミクログロブリン、尿中α1ミクログロブリンがある。

 このうち尿中アルブミンは、糸球体障害のマーカーで、微量アルブミン尿は糖尿病性腎症の早期診断に用いられる。尿中アルブミン/尿中Cr比(mg/gCr)が30未満の場合は正常、30~299は微量アルブミン尿、300以上は顕性アルブミン尿と判断される(午前中の随時尿を用いることを推奨)。

 一方、尿中NAG、尿中β2およびα1ミクログロブリンは、尿細管障害のマーカーである。NAGは近位尿細管上皮細胞のリソソームに多く存在する加水分解酵素で、尿細管が障害されると尿中に排泄される。β2およびα1ミクログロブリンは、それぞれ全身の細胞と肝臓で産生される低分子蛋白である。アルブミンと異なり、ほとんどが糸球体を通過し、近位尿細管で再吸収されるため、尿細管障害により高値を示す。

薬局での活用法

 薬局における腎機能モニタリングの意義として特に重要なのは、(1)腎機能に応じた投与量調節、(2)薬剤性急性腎不全の早期発見─である。

 肝代謝を受けず、薬効を持つ未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型薬剤は、腎機能に応じた用量調節が必要である。薬局では患者のSCrと体重を聴取し、推算CCrを算出して腎機能を評価する。必要に応じて疑義照会を行い、適正用量を医師に提案する(ケース1)。

ケース1/腎機能低下を認めクラビットを減量した事例


 糖尿病の既往がある76歳の男性Aさん(体重66kg)に、クラビット(一般名レボフロキサシン水和物)錠500mg/日が5日分処方された。薬剤師がAさんのSCrを確認したところ、1.91mg/dLと高値であり、Cockcroft-Gaultの式で算出した推算CCrは約30mL/分だった。

 クラビットの通常用量は1回500mg/日だが、添付文書上、「腎機能低下患者では高い血中濃度が持続するので、必要に応じて投与量を減じ、投与間隔を空けて投与することが望ましい」とされている。減量方法として、(1)20≦CCr<50の場合は、初日500mgを1回、2日目以降250mgを1日に1回投与、(2)CCr<20の場合は、初日500mgを1回、3日目以降250mgを2日に1回投与──と記載されている。そこで薬剤師は、処方医に疑義照会を行い、2日目以降を250mg/日に減量することを提案。処方変更となった。

 なお、CCrとGFR(いずれもmL/分)は理論上は同等であり、相互に置き換えが可能。ただし、患者背景によっては、eGFRでは糸球体濾過能を過大評価することがある(ケース2)。

ケース2/eGFRによる評価が不適切だった事例


 85歳の女性Bさんに、プラザキサ(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)220mg/日が処方された。同薬は腎機能低下時(CCr30mL/分未満)は禁忌である。

 BさんのSCrは0.98mg/dL。eGFRは41.0mL/分/1.73mと算出され、腎機能低下を認めるが投与禁忌には該当しないと考えられた。

 しかし、Bさんが小柄だったため体重を確認したところ、40kgであると判明。SCrと体重から推算CCrを計算した結果、26.5mL/分であり、投与禁忌に該当することが分かった。薬剤師は疑義照会を行い、ダビガトランの中止と、CCr≧15mL/分の患者にも使えるリバーロキサバンまたはアピキサバン、ワルファリンカリウムへの変更を提案した。

 一方、腎臓は本来、体水分量や電解質バランスの調節という生命維持に不可欠な役割を担っている。薬剤による急性腎不全は、早期であれば原因薬剤の中止により機能の回復を期待できるが、発見が遅れれば回復が望めなくなることもある。そのため、薬局においても定期的に腎機能を評価し、異常を認めた場合は速やかに原因薬剤を究明、除去することが求められる。

 特に慢性腎臓病(CKD)や発熱、脱水がある患者、複数の薬剤の併用や過量投与などでは、急性腎不全を引き起こすリスクが高くなる。これらの患者では、薬剤の排泄遅延に伴う副作用リスクの上昇と、腎機能低下に伴う生体機能の変化の両面に注意を払いながら、適切な薬剤の選択と投与設計を行わなければならない。

 急性腎不全の起因薬剤には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬)などの降圧薬、アミノグリコシド系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、ヨード造影剤、抗癌剤(特にシスプラチンなどの白金製剤)などがある。

 薬剤性腎不全の初期症状には、浮腫、乏尿・無尿、倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐、発疹、発熱などがある。ただし、無症状のうちに進行するケースも少なくないため、特に腎毒性が高いシスプラチンやアミノグリコシド系抗菌薬、造影剤などを使用中の患者では、腎機能を十分に観察すべきである。

 薬剤性腎不全の分類方法は幾つかある(表2)。種々の検査値を組み合わせて評価することで詳細な病態を診断できるが、SCrとBUNの上昇は共通して見られる。腎前性は主にNSAIDsや降圧薬によって引き起こされることが多く、BUN/SCr>20を示す。薬剤性腎不全の典型的な事例は、厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル:急性腎不全」を参考にされたい。

表2 薬剤による急性腎不全の分類方法

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補足説明
1)健康な人のネフロン(腎小体とそれに続く1本の尿細管)には十分な予備能があるため、生体腎移植を受けたレシピエントやドナーは、片腎でもほぼ正常な腎機能が保たれる。つまり、腎機能低下がある程度進行して(GFR≦50mL/分)初めて、SCrは異常高値を示すため、SCrは早期の腎機能低下の指標としては適さない。
 より早期の腎機能低下を反映するバイオマーカーとして、2011年8月に尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)測定が保険収載された。L-FABPは近位尿細管の細胞質に存在する蛋白質で、組織障害が進行する前段階の、尿細管への様々なストレスによって尿中排泄が増加する。
2)クレアチニンは尿細管でほとんど再吸収されないが、尿細管分泌されることから、実測値のCCrは真の糸球体濾過量よりも高くなる(真の糸球体濾過量=実測値のCCr×0.789)。
3)一般に加齢に伴って腎機能は低下するが、その度合いは個体差が大きい(J Am Geriatr Soc.1985;33:278-85.)。糸球体濾過量は年齢やSCrなどから推算できるが、腎機能を正確に把握するためには、イヌリンクリアランスや24時間蓄尿によるCCr測定が重要である。
 また、最近、SCrの代わりに血清シスタチンC値(Cys-C)を用いる医師も増えつつある。シスタチンCは食事や筋肉量の影響を受けにくため、CCrによる評価が困難な事例で使われる。

中村先生のひとくちコラム

 ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)には、腎臓の輸入細動脈に比べ、輸出細動脈を強く拡張する作用があります。これにより、糸球体内圧が低下し、長期的には糸球体の損傷を抑制します。レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が「腎保護作用」を持つといわれるのは、このためです。

 一方、糸球体内圧が低下すると、糸球体濾過圧や腎血流量も低下します。そのため、RA系阻害薬の投与開始直後は、一時的にSCrの上昇やGFRの低下が見られます。

 ただし、高齢者に多い腎動脈狭窄症では、アンジオテンシンIIは輸出細動脈を収縮させてGFRを維持する方向に働いています。RA系阻害薬でこの作用を抑えてしまうと、腎虚血を招く恐れがあるので、高齢者にRA系阻害薬を用いる場合は、少量から開始することが推奨されます。

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