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漢方のエッセンス
温清飲
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 温清飲の「温(うん)」には、文字通り温めるという意味があり、「清(せい)」には、清熱という言葉があるように、冷やすという意味がある。つまり本方は、温めて冷やす処方である。

 ただし、氷水とお湯を混ぜるとぬるま湯になるような、「温」と「清」がお互いに効果を相殺し合う配合ではない。温めるべきところを温め、冷やすべきところを冷やす妙方なのである。

どんな人に効きますか

 本方は「血虚、血熱」証を改善する。

 「血(けつ)」は人体を構成する基本成分の一つである。血液という意味だけでなく、血液が運ぶ栄養、さらに身体を滋養する作用、という意味をも含む概念だ。この血が不足している体質や病状を「血虚」という。

 血虚イコール貧血や栄養失調ではない。栄養が足りていても、血液循環や自律神経系、内分泌系などが失調していれば、人体の隅々にまで血液や栄養が供給されなくなり、血虚となる。必要なところに必要な滋養分が供給されない体質や状態が、血虚である。

 この血虚を改善するのが温清飲の「温」の役割である。身体を温めるというよりは、身体を滋養し、補う。血虚による症状や疾患は少なくない。

 一方、熱証を生じる疾患も多い。熱証は、熱邪(用語解説1)による症候である。熱邪の勢いが強く、炎症や、自律神経系の興奮、各種機能の亢進、充血などが生じる場合、これを実熱という。また、陰液(用語解説2)が足りないために相対的に熱邪が勢いを増している場合もあり、これは虚熱(用語解説3)と呼ぶ。

 このような実熱や虚熱の状態で、出血や発疹を伴う場合、その証を「血熱」と呼ぶ。そして、この血熱を改善するのが温清飲の「清」の役割である。

 血虚と血熱は、単独で表れる場合も多いが、同時に生じることも少なくない。

 血虚になると、肌が十分滋養されないので、顔色が悪い、肌につやがない、肌に潤いがなくかさかさする、痒い、唇が荒れるなどの症状が生じる。髪の毛が細く弱々しくなり、爪がもろく、爪の色が悪くなる。脳が血虚になれば頭の回転が鈍くなり、頭がぼーっとする。めまいやふらつき、耳鳴り、頭痛も生じる。

 血虚が神経系や筋肉に至れば、手足の痺れ、筋肉の痙攣、引きつり、こむら返り、関節痛などが生じる。血虚が長引くと、動悸、不安感、焦燥感、忘れっぽい、寝付きが悪い、眠りが浅い、夢をよく見る、などの症状もみられるようになる。卵巣などに血虚が及ぶと、生理が遅れ、経血量が減る。

 一方、血熱でみられる症状には、身体の熱感、痒み、口や喉の渇き、目の充血、口が苦い、顔面紅潮、いらいらする、不眠、各種炎症、発疹、皮膚炎、鼻血、喀血、下血、血便、血尿、不正出血などがある。

 熱邪が五臓の心(しん)や肝(かん)に至り、中枢神経系や自律神経系に影響が及ぶと、動悸、悶々として眠れない、あれこれ考えて寝つけない、夢をよく見る、そわそわ落ち着きがない、焦燥感、胸が暑苦しい、怒りっぽい、のぼせ、頭痛、めまい、難聴、口内炎、胸脇部の張痛、尿が濃い、便秘などの症状が出る。胃に及ぶと、上腹部の痛みや熱感、口臭、胸やけ、吐き気、呑酸、歯痛、歯茎出血などもみられる。舌は赤く、舌苔は黄色い。

 以上の血虚症状と血熱症状とが同時に表れることは、ことのほか多く、温清飲が活躍する。例えば皮膚に炎症があり発赤があるが同時に乾燥している場合や、女性性器の炎症で不正出血がある場合などである。炎症と乾燥が共存するアレルギー体質にもよい。

 臨床応用範囲は、慢性湿疹、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、尋常性乾癬、その他各種湿疹や皮膚炎、各種炎症、各種出血、各種アレルギー疾患、自律神経失調症、不眠症、神経症、高血圧、動脈硬化、生理不順、過多月経、不正性器出血、更年期障害、ベーチェット病などで、血虚、血熱の症候を呈するものである。

どんな処方ですか

 配合生薬は、地黄、当帰、芍薬、川きゅう(せんきゅう)、黄連(おうれん)、黄ごん(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)の八味である。これは血虚を改善する四物湯と、血熱を改善する黄連解毒湯(おうれんげどくとう)との合方である。

 四物湯の君薬、地黄は血、陰液を補い(滋陰補血)、止血にも働く。臣薬の当帰は血虚を補うとともに血行を改善する(補血活血)。佐薬の芍薬は補血と同時に五臓の肝の機能を調え(平肝)、止血作用もある。同じく佐薬の川きゅうは気血の流れを調える(活血行気)。川きゅうは使薬として諸薬が薬効を十分発揮できるようにも働く。

 黄連解毒湯の君薬、黄連は中焦(用語解説4)の熱を冷ます。臣薬の黄ごんは上焦(用語解説4)の熱を清する。佐薬の黄柏は下焦(用語解説4)の熱を冷ます。使薬の山梔子は三焦の熱を瀉し、諸薬を助ける。

 以上、温清飲の効能を「清熱瀉火(せいねつしゃか)、解毒、補血活血、止血」という。生薬八味の相互作用により体内の血を補い(本治[ほんち](用語解説5))、熱邪を除去し(標治[ひょうち](用語解説5))、本虚と標実の両方を改善する処方となっている(攻補兼施[こうほけんし])。従って慢性の炎症やアレルギー体質の改善などにも適している。

 熱証が強い場合は黄連解毒湯を合わせ、温清飲の中の黄連解毒湯の比率を上げる。痒みや乾燥があるが発赤を伴わない皮疹の場合は当帰飲子(とうきいんし)を検討する。体質改善には柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)など、本方を基本にした処方もある。

 出典は『万病回春』である。

こんな患者さんに…【1】

「湿疹が数年間治りません。塗り薬をやめると再発します」

 患部は赤く、痒みが甚だしい。一部落屑がある。のぼせやすく、いらいらしやすい。血虚血熱証とみて本方を使用。4カ月で完治した。痒みは本方の目標の一つ。血虚でも血熱でも痒くなる。

こんな患者さんに…【2】

「過多月経です。貧血気味です」

 月経量が多く、なかなか月経が停止しない。生理周期は28日よりも短い。血虚血熱証とみて本方を使用。半年ほどで状態が改善し、貧血も治った。生理周期短縮も血熱症状の一つ。

用語解説

1)熱邪は病邪「六淫」の一つ。自然界には六気(風・寒・湿・熱[火]・暑・燥)があり、人はその中で暮らしている。また六気は人体内にも存在する。これらが強くなり、人に病気を引き起こす状態になったとき、六気は六淫(風邪・寒邪・熱邪など)と化す。
2)陰液とは、人体の構成成分のうち血・津液(しんえき)・精を指す。これらが不足すると陰虚証になり、虚熱が生じる。津液は正常な水液、精は腎に蓄えられる生命の源。
3)陰液が足りず、熱がこもっている状態。虚熱の症状は、微熱、午後からの熱感、掌や足の裏のほてり、首から上ののぼせ、寝汗、唇や舌の乾燥などである。
4)漢方には三焦(さんしょう)という概念があり、人体を大きく三つに分け、胸から上を上焦、真ん中を中焦、臍から下を下焦という。
5)「本」は根本的な病気の原因、「標」は実際に外に表れる症状。本虚の治療を「本治」、標実の治療を「標治」という。

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