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薬剤師のための「在宅アセスメント」入門
痛み
日経DI2014年2月号

2014/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年2月号 No.196

高橋 康晃(シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社[仙台市泉区]
監修:早川 達(北海道薬科大学)
痛みの分類と評価

 痛みには急性疼痛と慢性疼痛があり、急性疼痛は通常、原因が完治することで痛みが治まる。一方、慢性疼痛の多くは、外傷や疾病に起因する急性疼痛からの「移行した痛み」で、疼痛を誘発する刺激(侵害刺激)が持続的あるいは断続的に存在する。表1に、慢性疼痛の5分類を示す。この分類の把握は原因追究に有用であり、一度完治したと思われていた症状が再燃した際に、継続的なケア・治療を行う上で参考となる。

表1 慢性疼痛の5分類

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 また、痛みの程度を評価する上で有用なツールとして、図1に示す各種の評価スケールがある。特に視覚的評価スケールは簡便であり、痛みの強さを把握し、経過を観察する上で使いやすい。他の職種と共通の評価スケールを使用して、患者本人に痛みの程度を指し示してもらうようにすると、評価者によるバイアスを減らし、痛みの程度を客観的な情報として共有できる。

図1 痛みの程度を評価するスケール

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初期アセスメントのポイント

 痛みの初期アセスメントにおいては、痛みもしくはしびれの有無や程度を確認するとともに、それが食事や運動、睡眠、精神症状など、どのように日常生活へ影響しているかも含め聞き取りを行う。「慢性か急性か、いつからか、どのような時に起こるか、部位はどこか」などを、細かく聞き取るとよい。

 痛みだけでなくしびれについても聴取を行うのは、特に末梢神経障害性疼痛に関して、患者が痛みとしびれを切り離して認識しているケースが少ないためである。末梢神経障害性疼痛を痛みとして認識し、「ぴりぴりと痛む」と表現する患者もいる一方で、しびれとして認識して「ぴりぴりとしびれる」と表現する患者もいる。「痛みや、しびれはありませんか」と問いかけることで、確実な把握が可能になる。

 高齢者に多い足や腰、膝などの慢性的な痛みに関しては、「痛みの頻度・程度の変化」に注目してアセスメントを行うとよい。痛みの増強が見られる場合は、生活に支障が出るようになっていないかを聞き取り、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)を維持できるよう、必要に応じて薬物療法の見直しなどを医師に提案する。

 痛みの付随症状や、血圧や脈拍数、呼吸数などのバイタルサインのチェックも、痛みの初期アセスメントでは重要になる。狭心症の発作時など、痛みがあってもおかしくない病態でも、本人が痛みを訴えない場合があるためである。自律神経失調症などで痛みの訴えが変動する場合に、状態の変化をくみ取る上でも有用である。

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 また、痛みがあっても認知機能やコミュニケーション能力の低下により訴えられないケースがあることにも留意したい。この場合、付随症状やバイタルサインを参考にしつつ、認知機能やコミュニケーション能力についてもアセスメントして、痛みの有無や程度などを総合的に判断し、対応を進めることになる。

 なお、痛みのアセスメントにおいては、「日本の文化的特徴」への配慮も必要である。日本人は従来から、精神的・肉体的な苦痛・痛みを我慢することが美徳とされてきた。そのため、高齢者の中には鎮痛薬を使用することに抵抗感を持つ人や、「多少の痛みは仕方がない」と痛みをあえて訴えない人がいる。このような場合、まずは患者と薬剤師との信頼関係を築き、患者が話しやすい環境を整えることから始めるとよい。

表2 痛みに関する初期アセスメントシート

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薬剤師による支援のポイント

 痛みのアセスメントやケアプランを立てる際に認識しておきたいのが「痛みの閾値」という概念である。痛み刺激の強度がある閾値を超えると人は痛みを感じるが、この閾値は様々な因子により変化する。

 閾値を低下させたり、上昇させる種々の因子を表3に示す。不安や悲しみ、怒りといったネガティブな心理状態や、不眠や疲労は痛みの閾値を低下させ、痛みを感じやすくさせる。一方、友人や家族からの共感や理解があるといった良好な療養環境では痛みの閾値が上がり、痛みを感じにくくなる。

表3 痛みの閾値に影響する因子

(Sylvia A Lack著『末期癌患者の診療マニュアル 第2版』[医学書院、1991]を一部改変)

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 従って痛みへのケアを進める上では、患者の痛みの閾値を変動させている因子を把握・推測し、閾値を低下させる因子の解消・改善や、閾値を上昇させる因子の増強・追加を図ることが大切になる。

 薬剤は基本的に疾患の症状を和らげるために用いられるものであり、薬剤自体が痛みを引き起こす頻度はそれほど多くない。しかし、緩下薬のように使用頻度が高い薬剤では、時に漫然と連用することで下剤性腸炎を来し、それが腹痛につながっている例に出合う。処方されている緩下薬の種類や量、使用頻度などが適正であるかをアセスメントし、必要に応じて処方内容の見直しや生活指導、便通に関する正しい情報の提供などを行う。

 また、高齢者は、腸蠕動運動の低下や大腸内容物の通過遅延、筋収縮力の衰えなどにより、容易に便秘を発症しやすい。抗コリン作用を持つ薬剤や医療用麻薬が高齢者に処方されている場合は、便秘により腹痛や排便痛が起こっていないかをアセスメントし、緩下薬によるケアを行う。

 抗菌薬の服用による下痢や腹痛は、腸内細菌叢の変化が原因であり、必要に応じて抗菌薬耐性整腸薬を併用する。αグルコシダーゼ阻害薬は、腹部膨満感による腹痛を引き起こすことがあるため、便秘や放屁の有無について聞き取りや観察を行う。

 薬剤に起因する痛みの原因としては、薬剤性の代謝異常にも注意が必要である。例えば強心薬や利尿薬、降圧薬などにより尿酸値が上昇すると、痛風の発症リスクが高まる。

 また、抗てんかん薬や抗精神病薬などは糖代謝異常による高血糖を引き起こすことがあり、末梢神経障害性疼痛のリスクを高める。基礎疾患に糖尿病がある場合はもちろん、ニューロパチーやアルコール依存症などにより末梢神経障害を有する場合には、薬剤性末梢神経障害のリスクはさらに高まる。

 厚生労働省の『重篤副作用疾患別対応マニュアル』には、薬剤性末梢神経障害について、「手や足のしびれ感など日常よく見られる症状で発症することが多く、原因となる薬剤も多彩である」と記載されている。原因薬剤の多くは中止が難しく、長期間の服用を要するため、生活習慣の是正を指導して糖尿病の発症リスクを下げると同時に、血糖値のモニタリングを続ける。

 このほか、抗パーキンソン病薬、降圧薬、抗血小板薬など多くの薬剤で頭痛が報告されている。鎮痛薬による対症療法に加え、表3に示した痛みの閾値を下げる要因の改善や、閾値を上げる要因の強化などを考慮する。

セルフチェックテストの回答 A1…(2)、A2…(5)、A3…(8)

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