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ガイドライン解説 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
日経DI2014年1月号

2014/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年1月号 No.195

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症症状である。呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す」とガイドラインに記載されている通り、慢性で長期に服薬を要する疾患である。本稿では、本ガイドラインの概要について薬物療法を中心に解説していく。

全身性疾患との認識高まる

 COPDの主症状である気流閉塞とは、1秒率(FEV1/FVC)と1秒量(FEV1)の低下で示される機能的な呼気性障害を総称するものである。COPDの病型としては、気腫性病変が優位な「気腫型」と末梢気道病変が優位な「非気腫型」に大別される。また、COPDは肺以外にも炎症症状が表れ全身性の影響を誘発するとの考えから、全身性疾患として捉えられつつある。

 COPDの全身性の影響としては、全身性炎症、栄養障害、骨格筋機能障害、心血管疾患(高血圧症、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害)、骨粗鬆症(脊椎圧迫骨折)、抑うつ、糖尿病、睡眠障害、緑内障、貧血などが知られている。従って、COPDにおいては、併存症を含めた包括的な重症度の評価と管理を行う必要がある。

 COPDの有病率について、世界各国では10%前後とする報告が多い。この点、日本で行われたCOPDに関する大規模な疫学調査によれば、有病率は40歳以上で8.6%と推測され、世界各国と同程度であることが明らかにされている。また、高齢者に多い疾患であるため、死亡者数は年々増加傾向にある。2010年度の国内の死亡者数は1万6000人を超え、死因の第9位に位置している。

1秒率70%未満で診断

 COPDの診断には1秒率が用いられる。慢性的に咳、喀痰、労作時呼吸困難などが見られる患者で、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率が70%未満であり、気流閉塞を来す他の疾患が除外されれば、COPDと診断される。

 COPDとの鑑別が重要な主な疾患として喘息が挙げられる(表1)。ただし両者が併存する場合もあり、その場合は併存を前提とした治療を行う必要がある。

表1 COPDと喘息の鑑別ポイント(ガイドラインによる)

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 COPDの病期分類には、年齢や体格、性別ごとに設定された予測1秒量に対する比率を表す予測1秒量比率(%FEV1)が用いられる。I期は80%以上、II期は50%以上80%未満、III期は30%以上50%未満、IV期は30%未満である。

 この病期分類は、基本的に気流閉塞の程度の分類であり、疾患の重症度による分類でないことを理解しておく必要がある。すなわち、COPDの重症度の判定や予後予測は、労作時呼吸困難などの症状や運動耐容能、併存症の有無、増悪頻度などから総合的に判断され、それに応じて治療法を段階的に増強していく(図1)。

図1 安定期COPDの管理(ガイドラインによる)

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LAMAとLABAが第一選択

 COPDの薬物療法は、気管支拡張薬(抗コリン薬、β2刺激薬、メチルキサンチン[徐放性テオフィリン]など)が中心である(表2)。単剤で症状の改善が不十分な場合には、増量ではなく他剤併用が勧められる。また、使用する気管支拡張薬は効果と副作用のバランスから、吸入製剤の使用が望ましいとされている。

表2 安定期COPD治療に使用される主な薬剤(筆者作成)

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 安定期COPDにおける薬物療法としては、換気機能障害の程度(%FEV1)と合わせて患者の愁訴(労作性息切れ、咳、痰など)を考慮した治療法の選択が推奨されている。具体的には、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)、または長時間作用型β2刺激薬(LABA)が第一選択薬である。症状の悪化を来した症例では、LABAと吸入ステロイド(ICS)の配合薬も用いられる。

・長時間作用型抗コリン薬(LAMA)

 LAMAには、チオトロピウム臭化物水和物(商品名スピリーバ)、グリコピロニウム臭化物(シーブリ)がある。

 LAMAは、ムスカリンM3受容体に拮抗することにより迷走神経由来のアセチルコリンによる気管支平滑筋の収縮を抑制する。1日1回の吸入で作用(気流閉塞の改善や努力肺活量の増加など)が24時間持続する。

 チオトロピウムは、4年間までの長期使用でも気管支拡張効果が減弱することなく、症状の改善や増悪イベントの減少、運動耐容能改善などの効果が認められている。またグリコピロニウムも同様に、息切れの軽減、生活の質(QOL)の改善および増悪イベントの抑制、運動耐容能増加などの効果が認められている。

 LAMAは、体内への吸収率が低く、常用量であれば全身性の副作用は少ないとされる。しかし、内服薬を含めて閉塞性隅角緑内障や前立腺肥大の患者には禁忌であることに十分注意しなければならない。こうした疾患が疑われる患者には、事前に専門医への受診を勧めておく必要がある。

・長時間作用型β2刺激薬(LABA)

 LABAには、サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)、ツロブテロール(ホクナリン他)、ホルモテロールフマル酸塩水和物(オーキシス)、インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)がある。

 LABAのサルメテロールとLAMAのチオトロピウムの比較試験で、後者が優れていたため、従来のガイドラインでLABAはLAMAの次に位置付けられていた。しかし、その後発売されたホルモテロール、インダカテロールとチオトロピウムの比較試験では同等の成績が得られたため、LABAは第一選択薬に引き上げられた。

 LABAは、気管支平滑筋のβ2受容体を刺激し、細胞内cAMPの増加によるプロテインキナーゼAの活性化作用を介して気管支平滑筋を弛緩させる。効果としては、気流制限や肺過膨張の改善、労作時の呼吸困難の改善、QOLの改善、増悪の予防効果、運動耐容能の改善などが認められている。

 LABAは短時間作用型β2刺激薬(SABA)に比べてCOPDに対する臨床効果が優れているとともに、服薬回数が1日1~2回と少ないためアドヒアランスの向上が期待でき、長期間使用しても効果減弱がなく耐性の出現もほとんどないのが特徴である。なおツロブテロールは、日本では吸入薬がないため貼付薬が用いられるが、吸入薬のサルメテロールより気管支拡張効果で劣るものの、夜間症状およびQOLの改善効果は優れている可能性が示されている。

 また、ホルモテロールとインダカテロール以外のLABAの作用発現は遅く、最大効果が得られるまでに1~2時間掛かることから、SABAのような即効性は期待できないことに注意を要する。

・吸入ステロイド(ICS)

 ICSには、フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド)、ブデソニド(パルミコート)、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(キュバール)、シクレソニド(オルベスコ)、モメタゾンフランカルボン酸エステル(アズマネックス)がある。

 ICSには現時点でCOPDの適応がない。しかし、ガイドラインではIII期(高度の気流閉塞[30%≦%FEV1<50%])以上で増悪を繰り返す患者に対して使用が推奨されている。これは、今までの臨床試験などから中等度以上の気流閉塞を有するCOPD患者において、ICSが自覚症状、呼吸機能、QOLを改善し、増悪頻度を減少させたと認められていることによる。また、吸入ステロイドの長期使用に関しては、口腔カンジダ症、嗄声、口腔および咽喉刺激感(異和感、疼痛、不快感など)、気道感染症(肺炎など)などのリスク増加が報告されていることに十分注意する必要がある。

・長時間作用型β2刺激薬・吸入ステロイド配合薬(LABA・ICS)

 LABAとICSの配合薬には、サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル(アドエア)、ホルモテロールフマル酸塩水和物・ブデソニド(シムビコート)、ホルモテロールフマル酸水和物・フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルティフォーム)、ビランテロールトリフェニル酢酸塩・フルチカゾンフランカルボン酸エステル(レルベア)がある。

 これらの配合薬は臨床研究において、それぞれを単剤で使用するよりもCOPD患者の呼吸機能や運動耐容能、呼吸困難感を改善し、II期(中等度の気流閉塞)からIV期(極めて高度の気流閉塞)のCOPD患者において増悪頻度を減少させる効果が得られている。

・長時間作用型抗コリン薬・長時間作用型β2刺激薬配合薬(LAMA・LABA)

 13年11月に、わが国で初めてとなる、LAMAとLABAの配合薬であるグリコピロニウム臭化物・インダカテロールマレイン酸塩(ウルティブロ)が発売された。COPDの第一選択薬であるLABAとLAMA両剤の配合薬が登場したことで、両薬剤を併用する必要がある患者において、コンプライアンスおよび治療効果の向上が期待されている。

増悪期は「ABCアプローチ」

 COPDの増悪期とは、ガイドラインにおいて「息切れの増加、咳や喀痰の増加、膿性痰の出現、胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを認め、安定期の治療の変更あるいは追加が必要となる状態」と定義されている。他疾患(心疾患、気胸、肺血栓塞栓症など)の先行により増悪した場合は除く。増悪の原因は呼吸器感染症と大気汚染が多いといわれているが、臨床現場では約30%の症例で原因が特定できないとされている。

 増悪期における薬物療法としては、抗菌薬(antibiotics)、気管支拡張薬(bronchodilators)、ステロイド(corticosteroids)からなる「ABCアプローチ」が基本となっており、COPD増悪の80%超がABCアプローチで治療可能とされている。

・短時間作用型β2刺激薬(SABA)

 SABAには、プロカテロール塩酸塩水和物(メプチン)、サルブタモール硫酸塩(ベネトリン、サルタノール、アイロミール)などがある。SABAは呼吸困難の増悪に対する第一選択薬であり、症状に応じて1~数時間ごとに反復投与する。この場合、気管攣縮が強く、心循環器系などの問題がなければ30~60分ごとに頻回投与も可能である。なお、SABAで効果が不十分な場合には短時間作用型抗コリン薬(SAMA)の併用も行われる。

・経口および注射ステロイド

 ステロイドの全身投与(経口および経静脈投与)は、安定期の病期がIII期以上の増悪症例、入院管理が必要な症例、外来管理でも呼吸困難が高度な症例で、気管支拡張薬に加えて投与が勧められる。ステロイドは、呼吸機能や低酸素血症をより早く改善させ、回復までの期間を短縮させる。また、早期再発リスクを軽減させ、治療失敗頻度を減少させるとともに、入院期間の短縮も期待できる。投与量、投与期間については、プレドニゾロン30~40mg/日の10~14日間の使用が一般的であるが、それ以上の長期使用に関しては種々の副作用の面からも避けなければならない。

・抗菌薬

 COPDの増悪にはウイルスや細菌感染の関与が指摘されている。抗菌薬の使用に関しては議論があるものの、細菌感染が強く疑われる喀痰の膿性化が認められる症例や、人工呼吸など換気補助療法が必要な症例には勧められる。投与に関しては、原因菌の同定を早期に行い、的確な抗菌薬の使用が望まれる。その際には、薬物動態学(PK)や薬力学(PD)を考慮して、1回投与量や投与回数を決定することが必要である。

3剤併用はデータ蓄積中

 LABA・ICS配合薬と抗コリン薬(チオトロピウム)を併用することで、呼吸機能やQOLがさらに改善し、増悪頻度が減少する可能性が高いとする幾つかの臨床研究結果がある。これら3種類の薬剤による治療については、今後さらにエビデンスに基づくデータの蓄積が求められている。

 また現在、米国で11年3月に承認された選択的ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害薬roflumilast(日本では未承認)が新規のCOPD治療薬として注目されている。PDE4は、好酸球、好中球、T細胞などの炎症関連細胞に多く存在していることから、PDE4阻害によりCOPDの炎症反応を抑制する可能性が期待されている。

生活習慣の改善と服薬指導

 COPDの生活習慣改善および服薬指導においては、禁煙が最も重要な要素である。筋肉量が予後と関連しており、適切な運動療法と栄養療法の併用が望ましい。また、感染症予防用ワクチンの接種も効果的とされており、インフルエンザワクチンの積極的な接種によりCOPDの増悪による死亡率を50%低下させることが認められている。肺炎球菌ワクチンは、65歳未満で%FEV1が40%未満のCOPD患者の肺炎を減少させたというデータがある。

 COPDにおける薬物療法は、気管支拡張薬の吸入製剤が中心となっており、患者が吸入製剤を適正に使用できるか否かが、薬剤の有効性および安全性に非常に大きく関与している。そのことからも、各吸入製剤におけるデバイスの特徴(表3)を把握し、使用方法などを患者に十分理解させることが重要である。

(東京慈恵会医科大学病院薬剤部・北村正樹)

表3 定量噴霧吸入器とドライパウダー吸入器の比較(筆者作成)

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参考文献
1)日本呼吸器学会「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版」(2013)
2)橋本修 呼吸 2013;32:S1-32.

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