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適応外処方のエビデンス
トピラマートでアルコール依存症候群の断酒を支援
日経DI2014年1月号

2014/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年1月号 No.195

疾患概念・病態

 アルコール依存症候群(アルコール依存症)は、精神作用物質に対する依存症候群の一つである。脳は快感を好み、一度学習した快楽とそれを得るための方法を忘れない。飲酒によって心地よい酩酊状態になることを繰り返していると、再び飲酒して快感を得たいという欲求が生じ、これが常習的飲酒につながる。飲酒が常習化すると、脳はアルコールの作用に慣れ、それまでの量では満足できなくなる(アルコールへの耐性の形成)。こうして快感を得るために必要な飲酒量が増え、多量の飲酒が日常化する。

 多量の飲酒を繰り返すと、脳がアルコールに順応してアルコールが作用している方が調子が良くなる。そして脳にアルコールが作用しない状態になると、いらいら感、不安、抑うつなどの不快感情や心悸亢進、発汗、体温変化などの自律神経症状、手指、眼瞼などの振戦、一過性の幻覚や幻聴などの離脱症状が出現するようになる。

 アルコール依存が形成されると、飲酒したいという、非常に強く、抵抗できない欲望が生じ、飲酒をコントロールできなくなる。また、多量の飲酒を続けると、肝臓、膵臓、脳をはじめ様々な臓器に影響が出る。さらに、飲酒運転による交通事故、自殺、うつ病、家庭内暴力、虐待、犯罪といった社会問題を引き起こすこともある。

 身体症状が出たり、社会的な影響を及ぼすようになっても、本人はアルコールを飲めば気持ちが落ち着くため、アルコールを問題にすることに抵抗を示したり、自分はいつでも飲酒をやめられるので病気ではないと考えたりして、アルコール依存症であることを認めない傾向が強い1)。

治療の現状

 アルコール依存症の治療の根幹は断酒である。断酒目的の治療薬として、日本ではジスルフィラム(商品名ノックビン)、シアナミド(シアナマイド)、アカンプロサートカルシウム(レグテクト)が承認されている。

 ジスルフィラムは、肝臓中のアルデヒド脱水素酵素を阻害することにより、飲酒時の血中アセトアルデヒド濃度を上昇させて顔面潮紅、熱感、頭痛、悪心・嘔吐などの不快な急性症状を発現させて酒量を抑制する。服用後数時間から半日で効果が発現する。十分な効果を得るには1週間を要し、その後効果は1週間持続する。

 シアナミドも、肝臓中のアルデヒド脱水素酵素を阻害し、少量の飲酒でも直後に顔面紅潮、血圧低下、心悸亢進、呼吸困難、頭痛、悪心・嘔吐、めまいなどを起こす酒量抑制薬で、節酒療法および断酒療法に用いられる。同薬はジスルフィラムより即効性で効果の持続期間は1日である。

 アカンプロサートの作用機序は明確にされていないが、脳内のグルタミン酸作動性神経の活動を抑制することで、脳内神経のバランスを保ち、病的な飲酒欲求である渇望を抑えることにより、断酒維持の効果が得られると考えられている。

 一方、海外では、アルコール依存症における飲酒の渇望を抑える治療薬として、トピラマート(トピナ)の有効性が多く報告されている(表1)。

表1 アルコール依存症患者へのトピラマートの処方例

トピラマートの有効性

 Johnsonらは、アルコール依存症患者371例を対象に、14週間の多施設ランダム化プラセボ対照比較試験において、トピラマートの効果を調べた。対象患者は、男性では純アルコール14.8mL/杯(ビール295.7mL、ワイン118.3mLに相当)を35杯/週以上、女性では28杯/週以上を飲酒していた。

 183例にトピラマートを(T群)、188例にプラセボを(P群)、それぞれ14週間経口投与した。両群とも治療計画を遵守させるために心理・社会学的面接を毎週行った。トピラマートの用量は25mg/日から開始して1週間ごとに増量し、6週から14週までは300mg/日で維持した。

 治療期間中にT群で66人、P群で41人が脱落したが、全ての脱落者は治療開始時に戻って大量飲酒を持続したと見なし、1週間に占める深酒をした日の割合を毎週評価した。その結果、最初の週はP群が81.97%、T群が81.91%だったが、14週目には、P群が51.76%、T群が43.81%で、T群がP群より有意に減少していた(P=0.02)2)。脱落者を除いて解析した場合も、14週目には、P群42.44%、T群20.00%であり、T群がP群より有意に減少していた(P<0.01)。

 副作用についてT群がP群より有意に多かったのは、感覚異常(T群、P群の順に50.8%、10.6%)、味覚異常(同23.0%、4.8%)、摂食障害(同19.7%、6.9%)、集中力低下(同14.8%、3.2%)、掻痒(同10.4%、1.1%)だった。

 一方、大塚らは、アルコール依存症の患者32例にトピラマート100~200mg/日(朝夕)を1カ月間経口投与した。その結果、1例を除く全員が少量で満足して飲みたくなくなったと述べ、飲酒しないか、飲酒量が減少した3)。患者からは、「酒に弱くなった」「自然に酒量が減った」「夜中に買いに行って、一気飲みするような渇望がなくなった」「機会飲酒で一時連続飲酒の時期があったが、トピラマートを飲み続けたら断酒できた」「気持ちよく飲んで、短時間でやめている」などの自覚的な変化に関する述懐が得られた。

作用機序

 アルコール依存に寄与する神経メカニズムは完全には解明されていないが、アルコールはγアミノ酪酸(GABA)作動性神経などの脳の抑制系神経を活性化させ、興奮系のグルタミン酸作動性神経の働きを抑制する。長期間にわたり大量に飲酒を続けると、脳はこのアルコールの働きに抵抗するように抑制系神経の働きを抑え、興奮系神経の働きを活性化させて均衡を保つ。この状態で断酒すると、両神経の間に不均衡が生じて脳は興奮状態になり、離脱症状を引き起こすとともに飲酒欲求を増大させる1)。

 トピラマートの抗てんかん作用は、電位依存性ナトリウムチャネル、電位依存性L 型カルシウムチャネルの抑制作用や、AMPA(α-Amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4-propionic acid)/カイニン酸型グルタミン酸受容体機能の抑制作用、GABA 存在下におけるGABA 受容体機能の増強作用および炭酸脱水酵素の阻害作用に基づくと推定されている。このうち、AMPA/カイニン酸型グルタミン酸受容体機能の抑制作用とGABA 受容体機能の増強作用は、アルコール摂取により脳内で上昇して気分を高揚させるドパミンの分泌を抑制するため、アルコール依存症における飲酒行動や飲酒欲求の減少が期待できると考えられている1)。

適応外使用を見抜くポイント

 アルコール依存症の治療は、大半が精神科で行われるが、処方箋だけではてんかんへの処方と区別することは難しい。

ただし、トピラマートは、他の抗てんかん薬で十分な効果が認められない場合に、部分発作に対する抗てんかん薬と併用して使われるため、同薬の他に抗てんかん薬が処方されていない場合はアルコール依存症候群に対して出されている可能性がある。

 判断のためには患者へのインタビューも必要だが、患者によっては、説明が曖昧になったり躊躇した表現をすることがある。そうした場合には、患者の気持ちを察した対応が必要であり、特有の難しさがある。

参考文献
1) Kyo.2013;No176:1-9.
2) JAMA.2007;298:1641-51.
3) 新薬と臨牀 2010;59:984-92.

講師 藤原 豊博
AIメディカル・ラボ、薬剤師
2000年から「月刊薬事」(じほう)で適応外処方に関する連載を開始。同連載をまとめた3分冊の『疾患・医薬品から引ける適応外使用論文検索ガイド』(じほう)が刊行されている。

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