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副作用症状のメカニズム
第39回 失神   一瞬、意識を失う原因は?
日経DI2014年1月号

2014/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年1月号 No.195

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 80歳女性、アルツハイマー型認知症と診断され、ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト他)を1カ月前から服用している。その日、患者は家族とともに来局した。

 家族によると、患者は数日前にテレビを見ているときに、急に顔色が真っ青になって意識を失ったらしい。慌てて救急車を呼ぼうとしたところ、すぐに意識を取り戻し、何もなかったように再びテレビを見ていたという。

 前回は、意識障害全般について解説した。今回は意識障害のうち、一過性に起こる「失神」について考えてみたい。

 脳循環が6~8秒中断されると完全に意識を消失する。収縮期血圧が60mmHgまで低下し、脳への酸素供給が20%減少した場合、または脳血流が35%低下した場合にも失神が起こる。意識消失が長くても1、2分で、意識を取り戻すと完全に意識消失前の状態に戻る場合を「失神」と呼ぶ。

失神が起こるメカニズム

 脳が危険にさらされないようにするため、体には(1)脳血管の自動調節機構、(2)脳血管局所の代謝性・化学性調節機構、(3)圧受容器反射機構、(4)循環血液量調節機構─の4つの防御機能が備わっている(表1)2)。これらの機能がありながら、なぜ失神は起こるのだろうか。

表1 脳を守るための4つの機能

 2012年に改訂された「失神の診断・治療ガイドライン」では、失神の原因を(1)心原性(心血管性)、(2)起立性低血圧性、(3)反射性(神経調節性)─に分けている。その割合はフラミンガム研究によると、心原性10%、起立性低血圧性9%、反射性21%とされる2)。それぞれを詳細に見てみよう。

(1)心原性(心血管性)失神

 心臓の軽快なリズムは、洞結節という自動性を持った細胞がペースメーカーとして機能することで保たれている。洞結節の興奮は、自動性を持った細胞を伝導路にして心臓全体に伝わり、房室結節からヒス束を通ってプルキンエ線維に至り、心筋細胞を動かす。この心臓の動きがどこかで狂うと、血行動態に異常が起こる。

 健康な人の心拍数は60~80/分程度で、この拍動数は全身の機能維持に必要な血液量の確保のために必要である。徐脈になると、心拍出量が減り必要な血液量が保てなくなる。反対に、ある程度を超えた頻脈では心臓が空回りするだけになり、同様に血液量が保てなくなる。血液量が保てなくなると血行動態の異常が起こり、一時的に脳血流が途絶えて失神する。つまり徐脈でも頻脈でも失神は起こる。

(2)起立性低血圧による失神

 立ち上がると、約500~800mLの血液が胸腔内から下肢や腹部内臓へ移動し1)、心臓へ戻ってくる血液量は30%程度減少する。そのため心拍出量は減少し、血圧が低下する。通常、体は圧受容器の反射系を賦活させることで対応している。圧受容器は頸動脈、大動脈弓部、心肺、大静脈にあり、迷走神経、延髄の血管運動中枢、交感神経を刺激して心拍数を上げ、心収縮力を増し、末梢血管抵抗を増加して、血圧の急激な低下を防ぐ。圧受容器に異常があったり、循環血液量が低下した状態になると、起立性低血圧が起こりやすくなる。

(3)反射性(神経調節性)失神

 心血管系や中枢神経系に原因のない失神の多くは、これに分類される。反射性失神には、血管迷走神経性失神、状況失神、情動失神、頸動脈洞失神などがある3)。

 朝礼などで起こる失神の大部分は反射性失神といわれている。長時間立っていると下半身に血液がうっ滞し、静脈還流量が減少して血圧が下がり、心拍出量が低下し、動脈圧が低下する。すると頸動脈洞や大動脈などの圧受容器の反射により交感神経が緊張し、副交感神経が抑制される。これにより心拍数、心収縮力、血管抵抗性が増加して、血圧低下を代償しようとする。しかし、下半身へのうっ滞によって容積が減少している心臓の左室の収縮力が増加すると、左室の機械受容器が刺激を受け、無髄性迷走神経を介して延髄の孤束核に入り、延髄の血管運動中枢を抑制して末梢血管を拡張し、血圧低下をもたらす。また、迷走神経核を刺激して心臓を抑制し、徐脈となり血圧が下がり、失神が起こる。これを迷走神経反射という。反射経路の感受性は人によって違うが、条件によっては誰もが朝礼で失神する可能性があるといえる。

 精神的心理的要因も大きい。状況失神とは、特定の状況もしくは日常動作によって誘発される失神をいう。例えば咳嗽失神は、咳により胸腔内圧が上昇し、静脈還流量が減少し、心拍出量が低下して脳血流が低下する。すると気道の圧受容器の反射により、上記と同様に迷走神経反射が起こり、失神する。排尿失神では排尿時の立位、排便失神では排便時のいきみなどが静脈還流量の減少をもたらし、それぞれ膀胱や腸管の機械受容器が刺激され、迷走神経反射が起こる。飲酒や脱水はこれらを助長する。その他に嚥下、息こらえ、嘔吐などが誘因となって失神することがある。また、強い痛みや針への恐怖心、興奮などにより迷走神経反射が起こることがある。

副作用で起こる失神とは

 副作用による失神も、薬が上記の(1)~(3)を引き起こすことによって生じる。

(1)心原性(心血管性)の失神

 心原性で失神が起こる例としては、不整脈の誘発がある。特に一過性心室細動(torsades de pointes:TdP)は、失神だけでなく死に至ることがある。2001年にスウェーデンで行われたコホート研究によると、医薬品によるTdPは人口10万人に4人/年と報告されている4)。これを日本の人口(1億2729万人)で換算すると、年間約5000人に薬によるTdPが生じていると推測される。心電図のQT間隔が薬剤を服用することで延長する状態を「薬剤誘発性QT延長症候群」と呼ぶが、QT延長はTdPを引き起こす。

 QT延長を誘発する薬剤の多くは、心筋細胞のhERGチャネルを抑制する。hERGチャネルは、脱分極を終了し、再分極させる役割を持っており、抑制されると再分極まで時間がかかり、QT間隔が延長する。

 特にTdPでは、相互作用に注意が必要である。(1)QT延長作用のある薬剤の併用、(2)QT延長を起こす薬の血中濃度を上昇させる薬の併用、(3)肝障害や腎障害によって不整脈を起こす薬の代謝や排泄が悪くなっていないか─などの確認が重要だ。QT延長作用がある薬に、抗不整脈薬、向精神薬、抗ヒスタミン薬、エリスロマイシン(エリスロマイシン他)、クラリスロマイシン(クラリス他)、アゾール系抗真菌薬、キノロン系抗菌薬、分子標的薬のスニチニブリンゴ酸塩(スーテント)、ボルテゾミブ(ベルケイド)などがある。また、女性、もともと心臓疾患や電解質異常がある人、透析患者、利尿薬の乱用者など、カリウムやマグネシウム、カルシウムのバランスに異常がある人も注意が必要である。

 例えば、甘草に含まれるグリチルリチンの過剰摂取では、偽アルドステロン症になり、低カリウム血症が起こる。グリチルリチンは漢方以外の薬にも多く含まれている。高齢者、もともと徐脈がある人、QT延長を起こしたことがある人などが危険因子となる5)。特に女性で多いことから、女性ホルモン周期の関与が研究されている6)。

(2)起立性低血圧による失神

 薬剤性失神で最も多いのが、血圧低下による失神である。起立したときに起こりやすく、降圧薬や血管拡張薬、勃起不全(ED)治療薬のシルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ他)、バルデナフィル(レビトラ)でも起こる。神経障害性疼痛の緩和に使用されるプレガバリン(リリカ)やガバペンチン(ガバペン、レグナイト)は、一種のカルシウム拮抗薬であり、血圧低下が起こることがある。

 また、アルツハイマー型認知症に使われるドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬は、中枢性と末梢性のコリン作動性神経に働き、その作用機序は複雑である。一般的には、末梢性の副交感神経系の活性化の方が優位であり、徐脈や血圧低下が起こる可能性がある。Gillら7)は、コリンエステラーゼ阻害薬を服用中の認知症患者を対象としたコホート研究で、コリンエステラーゼ阻害薬服用中の患者は、服用していない場合と比較して、失神が1.76倍、徐脈が1.69倍と有意に高かったと報告している。

 下痢や嘔吐、暑い日の大量の発汗による脱水があると、循環血液量が減るため血圧低下が起こりやすい。利尿薬の併用でも当然、起こりやすくなる。また、外傷や月経による多量の出血なども注意が必要である。

 起立性低血圧は、頭から血の気が引く感じがあり、眼前暗黒感や動悸、気分不快の前兆が見られることがある。

(3)反射性(神経調節性)失神

 薬が原因で反射性失神を起こす例としては、輸血やワクチン接種時の失神が知られている。米国食品医薬品局(FDA)のVAERS (Vaccine Adverse Event Reporting System) によると、報告された有害事象1万2424例 (2006年7月~08年12月)のうち、1896例が失神やめまいに関するもので、このうち293例が実際に失神に至り、転倒や外傷を起こしていた8)。

 特に、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンによる失神や意識消失は、他のワクチンの100倍超と高頻度であり、ウイルス様蛋白質(VLP)とアジュバントが、迷走神経節に直接作用している可能性が指摘されている9)。特に、HPV16型と18型の感染を予防する2価ワクチン(サーバリックス)に添加されているアジュバントは、水酸化アルミニウムと3-脱アシル化-4’-モノホスホリルリピッドAの新しいアジュバントなので、自己免疫疾患などの発症について、今後十分に評価する必要がある。

 反射性失神の場合、起立性失神と同様の前兆や交感神経興奮による頻脈、冷汗が先行し、次いで徐脈、血圧低下が起こり、失神する。

* * *

 最初の症例を見てみよう。患者の意識消失は一過性だったことから、失神が疑われた。家族から話を聞いた薬剤師は、すぐに受診させるように話した。患者は医療機関で検査を受けたが、心電図には異常がなく心原性は否定された。ドネペジルを服用していたことから、同薬による血圧低下が疑われ、服用を中止した。

図 薬で失神を起こすメカニズム

参考文献
1)間中信也 脳神経外科速報 2009;19:960.
2)循環器病の診断と治療に関するガイドライン合同研究班『失神の診断・治療ガイドライン 2012』 http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_inoue_h.pdf
3)水牧功一 Brain medical 2012;24:183-9.
4)DarpoB. Eur Heart J 3(Supplement K)2001;K70-80.
5)Gupta A,et al.Am Heart J 2007;153:891-9.
6)Rodriguez I,et al.JAMA 2001;285:1322-6.
7)Gill SS,et al. Arch Intern Med 2009;169:867-73.
8) 打出喜義ら、TIP正しい治療と薬の情報2013;28:17-27. http://tip-online.org/
9)Tomljenovic L, et al. Pharmaceutical Regulatory Affairs: Open Access 2012,S12:001.

イラスト:アイリス・アイリス

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