添付文書が改訂となった製剤 (1)黄連解毒湯、(4)辛夷清肺湯 3)サンシシ 2013年8月、黄連解毒湯、加味逍遙散および辛夷清肺湯の漢方製剤について、添付文書の重大な副作用欄に、腸間膜静脈硬化症を追記するよう、厚生労働省から通知が出された1)。また、添付文書には、Nさんのような便潜血陽性や腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感などが繰り返し出現した場合は、服用を中止してCTや大腸内視鏡検査などを行うことも追記された。 腸間膜静脈硬化症に起因した還流障害による慢性虚血性大腸病変を、突発性腸間膜静脈硬化症(IMP)という。IMPの主症状は腹痛、下痢、便秘、腹部膨満などであるが、Nさんのように便潜血陽性のみで上記のような症状は全くないといった報告もある。 IMPの病変は、腹部単純X線写真や大腸内視鏡などにより、右側結腸を中心に見られることから、水溶性の毒素や刺激性物質が、上腸間膜静脈支配領域の右側結腸からより多く吸収される過程で、静脈内膜障害を引き起こし、二次的に静脈うっ滞を来すことが病態として推察されている2)。 この疾患は原因不明とされてきたが、近年、その原因の一つとして、漢方製剤(特にサンシシを含む)の長期服用が疑わしいとする報告がされている。 その機序は仮説であるが、サンシシの成分である配糖体のゲニポシドの関連が示唆されている。ゲニポシドは、大腸の腸内細菌叢により糖が外れて、刺激性物質であるゲニピンとなり、上腸間膜静脈支配領域の右側結腸から吸収される。その際に、静脈の血管壁を傷害し、上腸間膜静脈壁肥厚、石灰沈着を引き起こすと考えられている3)。 また、筆者がメーカーの一社であるツムラに問い合わせたところ、副作用として文献や学会で報告されたIMP患者のうち、5年以上漢方製剤を服用していた患者が全体の約9割を占めていた。 従って、サンシシを含む漢方製剤を5年以上服用している患者では、IMPの可能性を念頭に置く必要がある(表1)。 では、なぜ黄連解毒湯、加味逍遙散、辛夷清肺湯だけが添付文書改訂に至ったのか。ツムラによれば、「腸間膜静脈硬化症の報告数に起因する」とのことだった。13年6月25日までに78例の報告があり、上位から加味逍遙散が24例、黄連解毒湯が18例、辛夷清肺湯が8例、防風通聖散が3例、その他の製剤では1~2例だったという。 Nさんは、整形外科から頓用で芍薬甘草湯が処方されているが、これにはサンシシが含まれていないため、服用を中止する必要はないと考えられる。 薬局では、サンシシを含む漢方薬を長期服用している患者がいないかどうか洗い出しを行い、医師と検査や処方内容の検討を行うべきだろう。 イラスト:加賀 たえこ 今日は精密検査を受けられたのですね。先生がおっしゃった「腸間膜静脈硬化症」は、サンシシという生薬が含まれている漢方薬を長期間服用した患者さんに見られる病気です。サンシシの成分が腸に負担を掛けるためだと考えられています。Nさんが飲まれていた加味逍遙散にもサンシシが含まれていますので、先生は、服用を中止するようにおっしゃったのでしょう。 参考文献
出題と解答 : 山本 雄一郎
(アップル薬局[熊本市北区])
同様の注意が必要な製剤 (2)防風通聖散
こんな服薬指導を
今、お調べしたところ、整形外科から処方されている漢方薬の芍薬甘草湯にはサンシシは入っていません。今まで通りに服用していただいて結構だと思います。
1)厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知(2013年8月6日付薬食安発0806第1号)
2)胃と腸 2009;44:135-6.
3)Pharmacol Ther.2012;36:575-86.
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