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早川教授の薬歴添削教室
橋本病と心房細動のある高齢患者へのケアの視点は
日経DI2014年1月号

2014/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年1月号 No.195

 今回は、仙台調剤薬局せきのした店に来局した78歳女性、津森笙子さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。津森さんには橋本病と心房細動があり、高コレステロール血症を指摘されてリバロ(一般名ピタバスタチンカルシウム)が追加されましたが、その後、表立った体調変化の訴えはなく、同じ処方が継続されてきました。

 津森さんのように病状の変化があまりない患者であっても、病態と患者像を把握し、アセスメントを行うことで、ケアの方向性が見えてきます。津森さんのプロブレムは何か、ケアの目標をどこに置けばいいのかを考えながら読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A~C、症例検討会での発言者が薬剤師D~Iです。(収録は2013年7月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
仙台調剤薬局せきのした店(宮城県名取市)

 仙台調剤薬局せきのした店は、宮城県など東北4県と北海道に30店舗を展開するシップヘルスケアファーマシー東日本株式会社が2000年9月に開局した。応需処方箋枚数は月に3000~4000枚で、小児科、内科を標榜する診療所2軒からの処方箋がほとんどを占める。

 同薬局に勤務する薬剤師は、20代2人、30代2人(いずれも常勤)。薬歴は開局時から電子薬歴を導入しており、SOAP形式で記載している。薬歴を記載する際は、具体的に、かつ簡潔に書くことを心掛けている。薬歴の【OP】欄は、次回来局時に確認すべきことを書いておく申し送り欄。記載を具体的にすることで、混雑時もスムーズに聞き取りを行えるようにしている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず薬歴の表書きから見ていきましょう。患者は昭和10年生まれの女性で、初回の2011年時点で76歳です。副作用、アレルギー歴など初回に取得しておくべき情報は取れています。

 病症状の欄に心房細動が2012年3月13日からと書かれていますが【1】、これは発病日ではないですね。

A はい。記入日です。

早川 書き方として気を付けた方がいいと思ったので確認をしました。いつからその病気にかかっているのかという情報は、他の疾患や症状との因果関係を判断する上で重要ですから、発病日、あるいは診断日をできるだけ把握していくようにしましょう。

 この表書きを見て、何を考えますか。気になることを自由に述べてください。

D 現疾患に橋本病と書かれている【2】ので、何か薬を飲んでいるのかと考えたが、併用薬はなしとなっている。

B 乳癌の既往歴が気になる。切除して取ったのか抗癌剤を使ったのか、どういう治療がなされたのかな。

E 患者の体質に「便秘しやすい」とあるが【2】、橋本病から来るものなのか、生まれつきの体質なのか。

早川 橋本病と便秘とを結び付けて考えたのですね。良い視点です。便秘のコントロールや既往歴に対する治療などを気に掛けつつ、患者対応に臨むという方針が見えました。これらを押さえた上で、2011年10月11日の初回の薬歴を見ていきましょう。

 S情報には「心房細動。不整脈で受診。健診で引っかかった」とあります【3】。この時点が心房細動の診断日でしょうか。

F 「ワーファリン(一般名ワルファリンカリウム)はやめていた」【3】とあるので、以前に心房細動と診断されていたようです。

早川 続けて「自覚症状もなかったし。左の背中に痛みがたまに出る」とあります。いつ心房細動になり、どういう管理を受けていたのか、心房細動の経過についてもう少し情報を得たいところです。

 バイアスピリン(アスピリン)はこの日に新たに出たのですか。

A そうです。

早川 昔ワーファリンを飲んでいたが、久しぶりに受診してバイアスピリンが出たというのが正しいのかな。

F 僕はそう捉えました。

早川 心房細動についてのプロブレムを挙げてください。

G ワーファリンをやめた患者なので、他の薬もやめてしまうかもしれない。服薬コンプライアンスが悪いんじゃないか。

H 「副作用とか食事制限とかあったから」【3】とあるが、やめた理由が副作用なのか、食事制限なのか、もう少し知りたい。

C 具体的な副作用を知りたい。

A 処方医が、ワーファリンの副作用があったという患者の発言をそのまま受け取って、バイアスピリンにしたという可能性もある。

F 副作用は、自分に出ていなくても怖いから飲みたくないという患者もいる。ワーファリンには怖いというイメージを持っているのかも。

早川 不安というイメージを持っているのなら、それを解消してあげるのが、われわれのケアプランになりますね。

 他にプロブレムはありますか。

F 「甲状腺は最近、薬を飲んでいない」【3】とありますが、治療をしなくてもいいことになったのか、勝手にやめてしまったのかが分からない。

早川 なるほどね。甲状腺の病気がどうなっているのかという着目点ですね。病態として服薬の必要がないのか、それとも本人が勝手にやめたのかを切り口にフォローしていくプランになりますね。

F はい。

早川 薬歴のOP情報に、次回に確認すべきこととして「甲状腺の薬増えた?」【3】とあります。次回の担当薬剤師はこのプランに沿って確認を行い、薬歴に記載しています。プランが次につながって、しっかり薬歴に書かれているのは大変良いと思います。

初回薬歴から患者像を推測

早川 初回の、つまりファーストコンタクトでの薬歴を読んで、この患者はどんな人だと推測しますか。

C S情報としていろんなことを聞けているので【4】、薬剤師に情報を提供してくれる患者だと思った。答えてくれる患者。

E 副作用や食事制限のためにワーファリンをやめていたというのだから、自分の生活に支障を来すような治療は好まないのかな。

I 自己判断で服薬をやめてしまう、医師の方針に従わずに自分の都合で決めてしまうタイプかもしれない。

F おしゃべり好き。しゃべるのは好きだけど、こっちの話は意外に聞かないのかも。薬の知識もあまりない。

早川 いろんな推論が出ました。患者像、第一印象のアセスメントは、ケアの目標を考えていく上で重要な要素です。この患者像を念頭に置きながら、以降の薬歴を見ていきましょう。

脂質異常症の原因は食事?

早川 11月22日の薬歴には、甲状腺について聞き取ったことがS情報として書かれています。「甲状腺の薬は出ていないから飲んでいない」【5】とあります。甲状腺を診ているのは別の医療機関ですか。

B そうだと思います。

早川 「血液検査でコレステロールが高かった」というのは、処方元のクリニックでの検査のことですね。

A はい。

早川 今回はコレステロール値が高いということで、新規でリバロ(ピタバスタチンカルシウム)が追加されたわけですね【5】。現在の病態について、皆さんはどう見ますか。

E 甲状腺ホルモン値が落ちていればコレステロールが高くなるので、橋本病が悪くなった可能性もある。

C 甲状腺の薬が処方されていないので、それほど症状は重くないのでは。生活習慣から来るのかなと考えます。

早川 甲状腺機能の低下は、食欲にどういう影響を与えますか。

B 食欲低下。

早川 一般には食欲は低下する方向に働く。食欲が低下したら油っこい物は食べたくなくなりますよね、普通は。

F 港町には魚卵が大好きな人が多い。食事の内容にもよるのでは。

A この処方医はLDLコレステロール高値にはリバロ、中性脂肪だとエパデール(イコサペント酸エチル)を処方する傾向があります。

早川 するとLDLコレステロールが高値である可能性が高い。となると、食事内容の影響を受けるわけですね。また、脂質が上がるということは心房細動にも影響がありますから、動脈硬化性疾患のリスク管理という視点からの対応も必要となりそうです。

 続いて、1月17日の薬歴です。S情報には「コレステロールはもういいんだけどね」【6】とあります。食事内容についてたくさん話していますから、食事の改善によってコレステロールが下がったと認識しているのでしょうか。

F 先生に「下がりましたね」と言われて、もう治った、薬を飲まなくてもよくなったと思ってしまっているのかもしれません。

早川 「もういい」という言葉は、患者の意思としても捉えられるということですね。薬を飲まなくてもいいと思ってしまいかねないことに留意する必要がありそうです。12月22日に受けたPET検査【6】は何のためですか。

F よく分かりません。もともと乳癌を持っているので、定期的にどこかの病院で検査を受けているのかも。

早川 結果は、ストレスとペプシノゲンと書いてあります。そんな病気って何ですかね。乳癌とペプシノゲンは関係ありませんし。ただ乳癌のフォローをする中でたまたまペプシノゲンが高いことが分かり、よく診てもらった方がいいと言われたということも考えられます。

 精査の結果を確認するよう次回に申し送りをして、3月13日の薬歴では、甲状腺疾患のことについて聞いています。きちんと次回の確認点をプランに書いて、次回に確実にやっている、いい流れになっていると思います。

手術を要する橋本病とは

早川 3月13日には手術に関しての情報が新たに得られました。S情報には「甲状腺機能低下は手術しなさいと言われたけど、心房細動だったので、手術しないでこのままで」と書かれています【7】。ここで改めて、甲状腺疾患の治療方針も含め、患者の状態をどう評価しますか。

E 甲状腺の状態としては、心房細動があるなら手術しないでそのままということなので、そこまでは悪くないのかな。

F 甲状腺機能低下症は、普通は手術をしない。腫瘍など、手術が選択肢に上るような何かがあるのでは。

I 心房細動があるなら手術しないということは、手術して甲状腺の機能が上がることで、心悸が亢進し、心房細動に悪影響が出る恐れがあるのかも。

F 手術というのが甲状腺の切除なら、術後には甲状腺の機能がなくなるので、チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム)をずっと飲むことになる。チラーヂンSが効き過ぎると心房細動に悪影響があるので、今のままにしておくということなのかな。

早川 橋本病で甲状腺ホルモンが上がるケースってありませんか。

A あります。1割弱の人で甲状腺機能の亢進が見られます。

早川 そうですね。橋本病では一過性に無痛性の甲状腺炎を合併することがあります。甲状腺の細胞が破壊され、中にある甲状腺ホルモンが一気に出ることによって甲状腺中毒症を呈します。もしこの患者がそうだったとしたら、また違った見方がありますね。

I そこまでの知識はありませんでした。

早川 「甲状腺の手術をすると心房細動に悪いから、手術しない」という患者の発言の背景にある病態をはっきりさせないと、薬物治療の効果を評価できないし、指導もできないことになります。でもこの言葉は、正確でないような気がしませんか。自分に分かる言葉で言っているかもしれませんね。

D 70代の方なので大いにあると思う。

早川 だから私たちも混乱しています。何をどのように聞けば、この人の病態が今どうなっているのかが正確に分かるのか。先にアセスメントした患者像と照らし合わせて、認識を深めておきましょう【8】。甲状腺ホルモンの検査値は、ここで知っておきたいですね。

ケアの目標をどこに置くか

早川 では、5月8日の薬歴に進みましょう。「調子は変わりなし」【9】とのことです。同じように7月3日も「調子は変わりない」【9】と言っています。状態が安定しているこのタイミングで、心房細動の治療と管理についてアセスメントを深めていきましょう。心房細動の患者に使われる第一選択薬は、一般には何ですか。

F ワーファリン。

早川 この患者にはアスピリンが出ている。そこはどう見ますか。

E 実は最初から、ワーファリンじゃなくていいのか、バイアスピリンで大丈夫なのかと気になっていました。食事制限が理由だとしたら、食事制限のないプラザキサ(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)などに変更する手もあるのでは。

早川 CHADS2スコア(表1)は1点ですから、この患者はワーファリンの積極的な適応ではないですね。そうすると何がいいのか。

E プラザキサ。

F イグザレルト(リバーロキサバン)。アスピリンよりは効果が高い。

早川 他の抗凝固薬に替えて、積極的に患者のリスクを低減させるという管理方針ですね。それ以外に選択肢はありませんか。

F 年齢も年齢なので、積極的な治療を行うより、現在の落ち着いている状態を維持する方が大事かもしれない。

C 食事療法はしっかりやっているので継続したらいいと思う。継続しているから調子がいい。

早川 患者の食事療法を支持してあげるというプランが出ました。体調がいいことを支持し、支援する。治療を大きく変えるのではなく、現状を維持できるよう支援するという管理方針です。

A 安定した状態を維持することが患者の望みなのか、確認しておきたい。もし「すごく長生きしたい」と望んでいるなら、低リスクの状態を維持するために抗凝固薬を使用するよう医師に掛け合う手もあります。

早川 本人が自分の残りの人生をどうしたいと考えているのか、対話を続ける中で把握して、患者が何を目指しているのかを探ることが大切ですね。その目標に向け、どういう治療や管理が望ましいか、修正しながら対応していくようにしましょう。

仙台調剤薬局せきのした店でのオーディットの様子。

参加者の感想

遠藤 夕貴氏

 今までも患者さん主体で見ていたつもりでしたが、その人本人がどうしたいかを踏まえて提案する方が、より患者に沿った支援ができるのだと感じました。患者に対応する前に薬歴を全部読み返すのは難しいかもしれませんが、少なくとも前回の薬歴はきっちり読んで対応しないといけないと思いました。

佐藤 啓太氏

 一言で言って「投薬って難しいんだな」と感じました。オーディットを通じて患者さんの状態や処方意図、治療方針などについて様々な見方があることが分かり、自分の考え方に偏りができていたことに気づかされました。すぐには変えられないかもしれませんが、これからは投薬の前に一歩立ち止まって、「もしかしたらこういう考え方もできるかもしれないな」と選択肢の幅を広げたいと思います。気仙沼市から往復4時間かけて来たかいがありました。

市川 佳奈氏

 私の働いている店舗も開業医のクリニックの前なので、今回のケースのような生活習慣病の患者さんが多く、処方内容も似ていました。普段は、ここまで考えて投薬できてはいません。ここまで深く考えて対応をしないといけないと、痛感しました。

全体を通して

早川 達氏

 病態と患者像をアセスメントすることで、次第に患者の問題点と目標到達点が分かってきました。これが今日のオーディットで得られた大きな成果だと思います。

 今回の患者は、心房細動があってアスピリンが処方され、2回目からは脂質異常症治療薬も追加されました。この処方内容からは、心血管疾患予防のために厳密に管理指導をしなければならない患者のように見受けられました。ところが、病態の面からアセスメントを進めていくと、処方内容や患者の言葉からの推測ではありますが、すぐに予後の悪化につながるような大きな変動はなさそうだということが分かってきました。ただし、心房細動、甲状腺疾患、脂質異常症、便秘など、患者が持つ種々の病態の相互関係に注意しながらフォローしていく必要性があることも見えてきました。

 さらに、78歳と高齢である患者本人が、自分の残りの人生をどのように過ごしたいと考えているかを対話を通じて把握していければ、より望ましいゴールに向かって一緒にたどり着くことができると分かりました。積極的な治療を進めるのか、現状維持を目標にするのか。薬剤師として望ましいと考えるいくつかの治療・管理のパターンを検討しておき、その上で、患者が考える目標を探り、修正しながら対応していくことが大切であると分かったと思います。これからは、このような管理・対応の基本姿勢をどの患者にも明確にして、個々の患者へのケアを向上させていくことを目標にしましょう。

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