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薬理のコトバ
マジンドール
日経DI2014年1月号

2014/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年1月号 No.195

講師:枝川 義邦
帝京平成大学薬学部教授。1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より現職。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 年末年始においしいものを食べ過ぎて、一年の計をダイエットにした人を散見するこの季節。多少の体重増加であれば、前向きな気持ちと自責の念だけで対処できるが、疾患としての肥満症ではそうもいかない。生活習慣の改善が最優先だが、薬物治療が必要な場合もある。

 日本で唯一、保険診療で使える抗肥満薬のマジンドール(商品名サノレックス)は、食欲を抑えるだけでなく消費エネルギー量を増やして、体重を積極的に減らすという。果たして、世にこんなうまい話があるものだろうか。今回は、マジンドールの話題を中心に、肥満症とその治療薬について取り上げよう。

肥満脱却への道を守る

 肥満症は、体格指数(BMI)を基準にして診断されることが多く、BMIが25以上の場合に肥満と判定される。肥満症治療の機運が高まったのは、体重を5~10%減少させることにより、肥満に伴う生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の改善や正常化がみられるという報告が1990年代から数多くなされるようになったことによる。現在の考え方では、必ずしも過剰体重を標準体重に戻すことだけに目を向けるのではなく、肥満に伴う病態の改善も肥満症治療の目的となっている。

 このような流れの中で、現在、臨床に供されている抗肥満薬は2種類。1つは膵リパーゼの阻害薬で、脂質の吸収を阻害することで抗肥満を狙うもの。日本でこのほど承認されたセチリスタット(オブリーン)はこのタイプだ。一方、今回取り上げるマジンドールは食欲抑制薬に分類されている。

 減量には食習慣の改善が第一、と分かっちゃいるけどやめられないから肥満症状を呈しているのが実情。食べることに対して脳の中で依存状態ができてしまうと、自分の意思だけで食欲を抑えることが難しくなる。このような状態に陥っている肥満症の人の減量補助に、マジンドールは威力を発揮するのだ。

 同薬が適応となるのは、肥満度が+70%以上またはBMIが35以上の人。ちなみに、肥満度は、(実体重-標準体重)÷標準体重×100という式で算出される数値(%表示)。BMIは身長(m)の2乗で体重(kg)を除した数値だ。マジンドールは、運動療法や食事療法を行っても十分な体重減少が得られない場合、3カ月間に限定して使用できる。

 誰でも気軽に使える薬というわけではないが、「食べちゃう習慣」からの脱出を助けてくれる存在があるというだけでも心強い。あたかも肥満脱却への道を守る大魔神のように、姿形は怖くとも、心優しく見守ってくれる。生活習慣の改善を図るように走り出したとしても、誘惑が多い道すがら。思わず食べ物に手が伸びがちになるものだが、憤怒の表情でくい止めてくれる。大魔神の造形は埴輪(はにわ)の武人像に着想を得ているというから、まさにマジンドール(スペルは違うが、“魔人の人形”)といえよう。

多面的な作用で減量を補助

 マジンドールは食欲抑制薬に分類されているが、その作用は食欲を抑えることだけにとどまらない。

 摂食を調節しているのは、脳の視床下部にある2つの中枢。摂食中枢(視床下部外側野)がアクセル、満腹中枢(視床下部腹内側核)がブレーキとして働き、それぞれの活動性のバランスで“食べたい欲求”をコントロールしている。摂食欲求は記憶情報や五感の刺激によるところも大きいが、それぞれの中枢の活動バランスを決めるさじ加減は主として血糖値に委ねられるものだ。マジンドールはこれらの中枢へ直接的に働き掛けることで食欲を抑制する。これが作用の一つ。

 もう一つの作用が、神経終末において神経伝達物質のノルアドレナリンの再吸収を抑制するというもの。ノルアドレナリン作動性神経を持続的に活動させることで、満腹中枢を刺激して食欲をより一層抑える。さらに、唾液や胃液の分泌抑制や消化酵素活性の低下により消化吸収活動を抑制することや、骨格筋などへのグルコース(ブドウ糖)の取り込み促進といった多面的な作用が表れる。食欲を抑えつつ、食物の消化吸収を抑制、さらには血糖値を下げるという、ダイエットには願ったりかなったりの作用を示すのだ。

 脂肪細胞への作用も見逃せない。脂肪細胞は白色と褐色に分けられていて、白色脂肪細胞は脂肪をため込むことで細胞自体が大きくなる。これが集まると“脂が身についた”体形に。一方の褐色脂肪細胞は、脂肪燃焼により白色脂肪細胞を小さくする働きを持つ。燃焼時には熱産生もあることから、褐色脂肪細胞が活性化すると“脂が燃えている”イメージそのものの効果がみられるようになる。マジンドールには、白色脂肪細胞が脂で大きくなることを防ぎ、褐色脂肪細胞の活性化により熱産生を促す作用もあるのだ。これほど至る所に目を付けて、身体の取り込むカロリーを「増やさない」そして「減らしていく」という、両面からのサポートにより体重減少を後押しする薬があるとは驚きの一言に尽きる。

 攻めるも守るも、あらゆる手を尽くしてくれる大魔神がいる─。そう安心し過ぎてしまわないよう褌(ふんどし)を締め直して、この一年も、季節季節のおいしいものを楽しんでいこう。

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