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Interview 
日本薬剤師会会長 児玉孝氏
日経DI2014年1月号

2014/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年1月号 No.195

こだま・たかし
1947年生まれ。70年、京都薬科大学卒業。塩野義製薬勤務を経て、74 年から和歌ノ浦薬局(大阪市中央区)法人代表者。2000年4月から06年3月まで大阪府薬剤師会会長。08年4月から現職。厚生労働省の新薬剤師養成問題懇談会、医道審議会、健康日本21推進国民会議などの委員などを務める。

 日本薬剤師会が2013年4月に発表した「薬剤師の将来ビジョン」は、薬局薬剤師の向かうべき方向の一つとして、「地域における活動の強化」を挙げた。少子高齢社会が本格化する中で、薬局の役割はどう変わっていくのか。日薬会長の児玉孝氏に、地域に根差した薬局の在り方を聞いた。(聞き手は本誌編集長、橋本 宗明)

─2006年の医療法改正で「調剤を実施する薬局」が医療提供施設に位置付けられるなど、以前は薬局の役割として調剤業務がクローズアップされていましたが、「薬剤師の将来ビジョン」ではむしろ地域における健康支援拠点としての役割が強調されています。

児玉 もともとは地域に根差した薬局が多かったと思うのですよ。一般用医薬品(OTC薬)から化粧品、日用雑貨までを扱うのが、町の薬屋さんのイメージでしょう。しかし、医薬分業が進展する中で、それに対応して処方箋調剤を行うべきだということを日薬として進めてきた。処方箋をもらった患者さんがどこへ行けばいいのか分からないという問題が、当時はありましたからね。

 つまり、OTC薬や日用雑貨の販売を通じた地域への貢献はできていたので、並行して調剤業務の推進を言ってきたつもりが、皆さん調剤業務の方にシフトしてしまった。処方箋応需の体制づくりを急いだのでやむを得なかった面もありますが。

 いずれにしても、地域の人の健康づくりを支えるのが薬局の本来の役割です。処方箋調剤を受ける一方、セルフメディケーションへの対応としてOTC薬や健康食品、化粧品を扱うことも必要になる。それを改めて確認してくださいと言っているのです。

─その際に、全ての薬局が町の薬屋さんの役割を果たすべきなのか、役割分担をして、調剤だけをやっていくところもあってもいいのか。どうですか。

児玉 調剤を一生懸命やって、どんな処方箋もちゃんと受けて、服薬指導もきちんとできているということなら、調剤に特化した薬局があっても構わないと思います。地域の人から見れば、それも選択肢の一つなわけですから。

 このところ、調剤専門の薬局に対して批判の声が上がっているのは、ポリシーが問われているのだと思います。地域の患者さんのための薬局として、ポリシーを持って調剤に特化しているとは思われていないのが問題です。

 地域には赤ん坊から高齢者までいるので、それらのニーズにどう対応するか考えていくべきです。子育て支援を求める人もいれば、在宅での訪問指導を求める人もいる。そうした色々なニーズに対して何をしていくのかを決めて、それを外から見て分かるようにすれば、地域の人に選択肢を示せます。

 消費者に聞くと、薬局は処方箋を持っていく場所で、ドラッグストアはOTC薬を買うところといわれ、処方箋がなくても相談できる町の薬屋さんという選択肢が消えてしまっています。それを早く作らないと、少子高齢化に対応できなくなると危惧しています。

─地域の健康支援拠点となるべき薬局は、どのぐらいの数になりますか。

児玉 例えば厚生労働省の健康日本21の第二次計画では、地域住民が専門的な支援・相談を受けられる拠点を10年間で1万5000カ所作っていこうと言っている。一方で、私どもは基準薬局の制度を設けて、1万2000~1万3000カ所認定してきた。そこからすると、全国5万5000カ所の薬局の3分の1程度、約1万5000カ所が1つの目安になると思います。

─OTC薬はインターネット販売の登場で価格競争が激化しています。時間を掛けて相談に応じてOTC薬を販売して経済的に成り立ちますか。

児玉 現実に、相談薬局に特化して、経済的に成り立っているところはあります。そういうところは恐らくネット販売の影響を受けません。消費者が10人いたら、少しでも安いものを求める人もいるでしょうが、店頭に行って対面で買いたいという人もいるからです。

 消費者の立場から見ると、ネット販売の登場でOTC薬購入の選択肢が1つ増えたことになる。大切なのは、多少面倒であっても店頭で買った方がいいと、複数の選択肢の中から選んでもらえるような努力をすることです。

─従来、調剤のみに関わっていた薬剤師がOTC薬販売を手掛けようとすると、これまでとは異なるノウハウやスキルが必要になりそうです。

児玉 薬剤師が意識を変えるのはそう簡単なことではありません。調剤業務は受け身になりがちで、患者さんが処方箋を持って来局してからがスタートです。ところが、OTC薬の販売は、消費者との対話から入って、何を求めているのかを聞き出さなければならない。そこではコミュニケーションのスキルが求められます。また、「トリアージ」と言いますが、医療機関への受診を勧めるべきか、OTC薬でいいのか、それすら必要ないのかを判断する必要もある。

 セルフメディケーションを、OTC薬を売ることと勘違いしている人もいますが、セルフメディケーションは消費者が自分の健康を自分で守ることであり、薬剤師はそれをお手伝いするだけです。だから、OTC薬も何も売らないこともある。ネット販売とはそこが違うのです。

─薬剤師がバイタルサインのチェックなども行う必要がありますね。

児玉 薬を選択するときに、あるいは服用後に副作用が出ていないか、有効性がどうかをチェックするのは当然、薬剤師の仕事です。それを把握する手段として血圧を調べたり、患者に触れるということは、10年4月のチーム医療の推進に関する厚生労働省医政局長通知の中で否定されてはいません。昔は都市伝説のように、患者に一切触れてはいけないといわれていましたが、今は誰も駄目だとは言いません。

 しかも薬学部の教育は随分変わってきて、脈を取ったり、血圧を測ったりという訓練を受けた薬剤師が出てきています。そういう薬剤師が実績を積み、患者さんや医療関係者の理解を得た上で、取り組んでいくべきだと思います。

─最近は、脳年齢や肺年齢の測定など、装置を利用して、いわゆる健康相談よりもさらに突っ込んだ取り組みを行う薬局も増えています。

児玉 面談にプラスして、薬局店頭で色々なチェックをやっていくのはこれからの健康相談の一つのパターンでしょう。社会保障制度改革の議論の中でも、疾病予防や未病対策、重症化防止という言葉が重視されています。

 チェックをどこでやるのかというと、ルールがまだきっちりできていません。ワンコイン健診のようなものが登場していますが、今はルールがないので、ルールが必要ではないかと政府に言っています。そして、薬局の薬剤師がその役割を果たしますよと申しています。現時点でも患者さんが自己採血することは違法ではありませんが、医師法や臨床検査技師法との関係で不明確な部分もあるので、薬局での自己採血を含む簡易検査について、政府の産業競争力会議でも検討されています。

インタビューを終えて

 OTC薬のインターネット販売を巡る議論では、「店頭でも文書による説明はなされていない」と指弾され、診療報酬改定に向けては「もうけ過ぎ」と突き上げられ……。このところ押され気味の薬剤師団体のトップである児玉氏の弁は、「ピンチこそチャンス」。「批判されて意気消沈している人もいますが、逆に言うと、それだけ期待されているということですよ」。そうきっぱりと言い切る表情に、約10万人の会員を束ねるリーダーとしての自信がたっぷりとにじんでいました。(橋本)

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