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薬剤師のための「在宅アセスメント」入門
認知機能
日経DI2013年12月号

2013/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年12月号 No.194

執筆:中里 壮志(シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社[仙台市泉区])
監修:早川 達(北海道薬科大学)
認知症と在宅医療・ケア

 わが国の65歳以上の高齢者における認知症の有病率は、10%程度と考えられてきた。しかし、2009~12年に実施された厚生労働科学研究の調査では、有病率が12~17%(推定値15%)と、従来考えられてきたよりも高いという結果になった。その背景には、急速な高齢化の進行があるとみられている。

 在宅医療・ケアを受ける患者が認知症に罹患していると、医学的管理計画やケアプランの遂行に支障を来すことが多くなる。これは、記憶障害などの認知症の中核症状に加え、妄想・幻覚や特異行動といった種々の周辺症状によって、本人だけでなく介護を担う家族にも様々な混乱が生じやすいためである。

初期アセスメントのポイント

 認知症の中核症状と周辺症状の概念図を、図1に示す。認知機能の初期アセスメントでは、まず、これらの症状が表れていないかを、表1の初期アセスメントシートに基づいてチェックする。いずれかの症状が過去90日において確認された場合は、認知症を疑い、治療が開始されていない場合は適切な治療が受けられるよう医師に相談する。

図1 認知症の中核症状と周辺症状(日本老年精神医学会監修『アルツハイマー型痴呆の診断・治療マニュアル』[2001、ワールドプランニング]を一部改変)

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表1 認知機能に関する初期アセスメントシート

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 中核症状のアセスメントでは、第一に記憶障害、つまり「物忘れ」の有無や程度をチェックする。記憶障害は認知症の初期から見られ、初期の段階では生活に大きな支障は表れないが、進行すると社会生活に大きく支障を来す。具体的な症状には、頻回の置き忘れや探し物、発話や動作の反復(同じ物を何度も買う、同じことを何度も言う・聞くなど)、なじみのない場所での迷子などがある。昨日の夕食や当日の昼食の内容、最近の大きなニュースなどについて尋ねると、記憶障害の有無を確認しやすい。

 失語、失行、失認も認知症の中核症状である。失語がある場合、「あれ」「それ」といった言い方が増える。言葉を取り違えてしまったり、聞き手の様子を見てすぐにごまかしたりすることが特徴的である。失行も重要な症状で、運動機能が障害されていないにもかかわらず、動作が遂行できない。初期では立方体の模写などが困難となる構成失行が見られ、進行するとこれまで使えていた電化製品が使えなくなる、衣服の着脱が困難になるといった支障が表れる。失認では、初期から視空間失認が生じ、車の車両間隔が分からなくなり車をぶつける、よく知っているはずの道で迷うなどの状況が生じる。

 周辺症状のアセスメントでは、まずはうつ症状の有無を確認したい。これは、認知症の初期から中期にかけて、うつ症状や不安、心気症状(自分の体のどこかが病気であることを心配する症状)を呈することが多いためである。具体的な症状は表1に列挙しているので参照してほしい。

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 また、せん妄などの意識障害についても確認が必要である。せん妄の背景に認知症がある場合は、日常生活動作(ADL)の自立度が著しく低下する。本人の「ぼうっとする」「集中できない」といった訴えや、家族やホームヘルパーからの「会話がかみ合わない」といった情報、日中の傾眠と夜間の不眠症状などが、せん妄に気づくきっかけになりやすい。また、これらの症状は日内変動があり、夜間に増悪しやすいという特徴がある。

 焦燥や攻撃的態度は、記憶障害などの認知機能障害に起因する焦りや不安が原因となる。物事を自分が思ったようにできない、大切なことを思い出せないといった事態をきっかけに、焦燥感や不安感が生じ、男性の場合は暴力行為に及んで、家族や介護者が悩むケースが多い。

 妄想には様々なパターンがあるが、特に問題となりやすいのが「物盗られ妄想」である。家族などの介護者が犯人扱いをされて、精神的につらくなるケースがある。徘徊などの特異行動は、転倒による骨折や、失踪(家を出て無目的に歩き回り、戻ってこられない)といった事態につながる。

 なお、女性では、食品の購入や管理、調理に関連した支障が生じるケースが見られる。例えば、冷蔵庫に同じ生鮮食料品ばかり増えたり、腐った食品が目立ったりするようになる。また、食事の好みが変化し、味の濃い物を好むようになる。同居の家族がいる場合は、冷蔵庫の状況や味付けの変化について確認しておく。

薬剤師による支援のポイント

 日本神経学会の『認知症疾患治療ガイドライン2010』には、s認知機能低下を誘発しやすい薬として、表2に挙げる薬剤群が提示されている。

表2 認知機能低下を誘発しやすい薬剤群(日本神経学会監修『認知症疾患治療ガイドライン2010』[医学書院、2010]を一部改変)

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 抗精神病薬は、認知症の周辺症状への対症療法薬としてしばしば使用されるが、それ自体に認知機能を低下させる副作用があることに留意したい。抗精神病薬は定型、非定型ともに認知症患者の死亡率などを高めることが報告されており、米国や英国では認知症患者への漫然とした使用を避けるよう警告が出されている。

 三環系抗うつ薬には強い抗コリン作用があり、口渇や尿閉のほか、認知機能の低下やせん妄を引き起こし得る。四環系抗うつ薬では抗コリン作用は弱まるため認知機能への影響は少なくなるが、催眠作用が強いため転倒に注意が必要となる。

 三環系抗うつ薬による認知機能への悪影響が疑われる場合、代替薬としてはフルボキサミンマレイン酸塩(商品名デプロメール、ルボックス他)などの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、ミルナシプラン塩酸塩(トレドミン他)などのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が選択される。ただし、フルボキサミンは肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)の複数の分子種を阻害する。そのため、併用禁忌や併用注意の薬剤が多いことに注意したい。

セルフチェックテストの回答 A1…(3)、A2…(7)、A3…(8)

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