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医師が処方を決めるまで
認知症
日経DI2013年12月号

2013/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年12月号 No.194

著者
長嶺 敬彦
(いしい記念病院[山口県岩国市]内科)

著者から一言

 薬局で調剤した薬剤を渡す場面は、患者や家族の状況を把握できる貴重な機会である。そこには、医師による診察場面では見せない患者の姿があり、服薬アドヒアランスや副作用に気づく情報がある。

 認知症の患者さんは症状の進行に伴い、嚥下機能の低下から服薬を拒否することも少なくない。口腔内崩壊錠、内用液、ゼリー剤、貼付薬など、患者に適した剤形に気づくのもそうした場面であり、医師に剤形変更などの提案をしていただければと思う。

 患者や家族の良き相談者としての、薬剤師の役割は大きい。ぜひ患者に寄り添うような医療を提供してほしい。

 認知症の患者数は高齢化に伴って急増しており、2013年で462万人(厚生労働省研究班調べ)と、65歳以上の高齢者の15%を占める。

 認知症の治療では早期介入が重要で、認知機能の低下が起こり始めたら、進行を抑制するために非薬物療法と認知症治療薬による薬物療法を行うことが大切である。

 アルツハイマー型認知症では、認知機能の低下が進むと、身の回りのことが自分一人でできにくくなり自立度が低下する。認知機能の低下や自立度の低下は、周囲の環境とのあつれきを生み、行動面での問題が顕在化する。ここで表れる徘徊や敵意、暴力などの問題行動をBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)という。BPSDは環境への不適応現象ともいえる。様々な介入が必要になり、場合によっては精神科的な治療が行われる。また、BPSDの治療中にはかなりの頻度で転倒、骨折、脱水、誤嚥性肺炎、褥瘡、心血管イベントなどが起こることがあり、ある時期からBPSDよりも、身体疾患が治療の中心になることに留意したい。

 本稿では、アルツハイマー型認知症とBPSDに対する私の処方と考え方を解説する。

初期治療はコリンエステラーゼ阻害薬から

 認知症治療薬には、アセチルコリンエステラーゼ(以下、コリンエステラーゼ)阻害薬のドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト他)、ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール)、リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)の3成分4品目と、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬のメマンチン(メマリー)がある(表1)。

 認知症治療薬を処方する目的は、記憶に関する神経伝達機能を調整し、残存する記憶・学習能力の維持増強を行うことである。その根拠は、大脳皮質に投射するコリン作動性神経系が記憶・学習に深く関与しており、コリン作動性神経系を賦活すれば認知機能が改善するという仮説にある(コリン仮説)。つまりアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害し、コリン作動性神経の伝達を良くすれば、認知症の治療ができると考えられている。

 図1は、アルツハイマー型認知症における薬物治療アルゴリズムの一例である。まず、初期治療として、コリンエステラーゼ阻害薬の一つを漸増法で投与する。漸増を行うのは消化器系の副作用回避などが目的であり、副作用で投与が続けられないか、効果がないようであれば、他のコリンエステラーゼ阻害薬に切り替える。

図1 軽度~中等度のアルツハイマー型認知症の治療アルゴリズム

表1 日本で使用できる認知症治療薬

 中等度以上ではコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用、あるいはコリンエステラーゼ阻害薬からメマンチンへの切り替えを考慮する。いずれの薬も、効果が認められなくなれば中止するのが基本である。

 最初の症例は、1年前から物の置き忘れが目立ち、夫と受診した76歳の女性である。最近、家族に同じことを何度も聞く、曜日が分からない、食事したことを忘れるなどが起こるようになったという。診察の結果、アルツハイマー型認知症と診断した。

 この患者は、初診時からアリセプト(一般名ドネペジル塩酸塩)を3mg/日で処方開始した。2週間後の再診時に、食欲低下と吐き気の訴えがあったため、レミニール(ガランタミン臭化水素酸塩)に替えて投与した。

 レミニールを処方して2週間後、特に副作用はみられなかったため、さらに2週間分を継続処方とし、初診から6週間後に16mg/日まで増量した。

 ガランタミンは、アセチルコリン系とグルタミン酸系の2つの神経系に作用する。グルタミン酸系では、NMDA受容体の電流増強作用が確認されており、これはガランタミンがNMDA受容体の感受性を増大させるためと考えられている。また、神経保護作用も認められている。

 なお、ガランタミンは半減期が短く、1日の服用回数が2回である。面倒なようだが、逆に薬理学的な利点となると推測される。というのも、長期間コリンエステラーゼを阻害すると、コリンエステラーゼが増加する可能性がある。これを「アップレギュレーションを起こす」と言い、アップレギュレーションは薬の効果が減弱する原因の一つとされている。ガランタミンは作用時間が比較的短いため、アップレギュレーションが起こりにくい可能性があり、アップレギュレーションを生じなければ薬の効果が減弱せず持続する。

 本症例は、レミニールの投与開始から症状の進行は抑えられていたが、初診から2年後に以前よりも判断力が低下し、時間の見当識障害が見られるようになったため、メマリー(メマンチン)を追加した。

 メマンチンは主にシナプス外NMDA受容体に作用し、細胞死を防ぐ。一方、ガランタミンはシナプスNMDA受容体に直接作用し、シナプス伝達を正常化する。このように、メマンチンとガランタミンはNMDA受容体に対する作用部位や機序が異なるので、併用で効果が期待できる。

拒薬がみられる患者は貼付薬に切り替え

 次に、コリンエステラーゼ阻害薬の貼付薬が適していたケースを紹介する。

 この患者は78歳の女性で、半年前から軽度の認知機能低下がみられ、アリセプトを3mg/日から開始したが、2週間後の再診時、「薬を吐き出し飲みたがらない」と家族から聴取したため、イクセロンパッチ(リバスチグミン)の1日1回4.5mgの貼付に変更した。その後4週ごとに4.5mgずつ増量し、現在は維持量として1日1回18mgパッチを背部、上腕部、胸部のいずれかに1回につき1枚のみ貼付し、認知機能の低下を遅らせている。

 リバスチグミンの貼付薬は副作用として、紅斑(皮膚のかぶれ、発赤)、痒み、皮膚炎、腫れ、吐き気、嘔吐、皮膚剥脱、食欲不振が知られているので、注意している。

BPSDには少量の抗精神病薬を投与

 次にBPSDに対する処方例を紹介する。

 BPSDには、患者の症状に合わせて抗精神病薬、漢方薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、睡眠導入薬などを投与している(表2)。これらのうち、中心となるのは抗精神病薬である。抗精神病薬は、認知症のBPSDには適応外使用であり、個別に有効な症例があると理解すべきである。

表2 BPSDの治療に用いる薬剤の特徴と注意点

 さて、この患者は80歳の男性で、3年前にアルツハイマー型認知症と診断され、アリセプトを近所の内科から処方されている。最近、「家に知らない人が尋ねてきてお金を取られそうになった」「団地の上の階に住む人が騒いでうるさい」などと言い出し、幻覚や妄想が目立ってきたため、当院に紹介受診となった。

 抗精神病薬には、ドパミンD2受容体を遮断することによる抗幻覚・妄想作用がある。重要なのは用量で、アルツハイマー型認知症に非定型抗精神病薬を使用する場合は非常に少ない量でも効果がある。私は、リスペリドン(商品名リスパダール他)では0.5mg/日、オランザピン(ジプレキサ)は2.5mg/日、クエチアピン(セロクエル他)は12.5mg/日と少量から投与を開始し、増量しても初期量の2倍(リスペリドンでは1mg/日)で十分だと考えている。

 それ以上の用量は、過鎮静などの副作用が出やすくなるため、長くても3カ月をめどに使うことが多い。本症例には、リスパダールを投与。2週間後の再診時には、だいぶ落ち着いたため、2カ月ほど継続処方して中止した。

 BPSDでの薬物療法は、常に効果と副作用のバランスを考え、最適な薬を必要最小量・期間で用いるという発想が大切である。このバランスとは、抗精神病薬を使う場合は天秤の一方にBPSDの精神症状、徘徊、問題行動などを乗せ、もう片方に誤嚥性肺炎、脳卒中、心筋梗塞、抗コリン作用による便秘・イレウス、転倒による骨折などの身体合併症のリスクを乗せる。そしてどちらがより重いかを、臨床的にその都度判断するということである。

抗精神病薬による運動不耐性発熱に注意

 BPSDの治療のため、抗精神病薬をアルツハイマー型認知症の患者に投与すると、急な高熱を来すことがある。その原因の多くは肺炎や腎盂腎炎などの感染症であるが、中には明らかな感染症を認めずに急激な高熱で全身状態が悪化することが時々ある。そんな一例を紹介する。

 患者は83歳の男性で、4年前にアルツハイマー型認知症と診断され、徘徊や暴力行為が目立ち入院となった。

 BPSDのうち徘徊や興奮には、ジプレキサ(一般名オランザピン)がよく効くと実感している。この患者にジプレキサを5mg/日で投与したところ、3日ほどで興奮はやや軽減したが、徘徊は続いた。ジプレキサの投与を開始して6日目に39.7℃の高熱が急に出現した。全身倦怠感とよだれが若干見られたが、血液検査でも炎症所見は認められず、感染所見に乏しい原因不明の高熱と考えられた。抗精神病薬投与後の高熱では悪性症候群を疑う必要があるが、筋硬直、発汗などの悪性症候群を疑う症状は認めなかった。

 この患者では抗精神病薬を中止し、輸液の投与で解熱したため、抗精神病薬が高熱の原因と推測された。この機序としては、放熱機構の障害による発熱が考えられる。ネズミを用いた実験では、薬剤でドパミンD1とD2受容体を遮断して運動させると、エネルギー代謝のバランスが崩れ、運動後に高熱を来すだけでなく、運動のパフォーマンスも低下することが明らかになっている。

 つまり、抗精神病薬により中枢のドパミンD1およびD2受容体遮断が行われたアルツハイマー型認知症の患者が長時間にわたり徘徊(運動に相当)すれば、熱放散障害で高熱を来す可能性がある。これを運動不耐性発熱といい、意外に多い印象がある。もちろん、外来患者でも起きる可能性はあるので、念頭に置いてほしい。

 このほかにも、BPSDへの抗精神病薬投与によるリスクが報告されている(別掲記事参照)。主たる薬理作用による副作用(オンターゲット副作用)はゼロにはできないが、異常を認めたら薬を中止することが大切である。薬剤師の方々には、抗精神病薬の使用中に新たな副作用が出ていないか、常に観察していただければ幸いである。

1)JAMA. 2005;293:2462.
2)N Engl J Med. 2005;353:2335-41.
3)長嶺敬彦『みんなで考える認知症』(中外医学社、2012年)

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