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副作用症状のメカニズム
代謝異常や中毒に注意
日経DI2013年12月号

2013/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年12月号 No.194

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 70歳女性。骨粗鬆症と診断され、リセドロン酸ナトリウム(商品名アクトネル、ベネット他)とビタミンD3製剤を服用している。その日、家族と一緒に薬局を訪れたが、いつもと様子が違っていた。ぼんやりとしていて、意識が朦朧とした感じで、自分がどこにいるか分かっていないようであった。家族に聞くと、数日前から食欲がなく、前日からこのような状態とのことだった。

 「意識」について医学では、覚醒の有無や刺激に対する反応などの量的な「意識の清明度」と、感情や意欲、心理的、主観的な側面の質的な「意識内容」の2方向から説明している(参考文献1)。

 意識の構成については、明確になっていない点が多いが、その中枢は上行性網様体賦活系(ARAS : ascending reticular activating system)といわれている1)。ARASは、延髄を基点に橋、中脳、視床、そして大脳皮質に至る部分で、多くの感覚系路から刺激を受けて、その刺激を視床や大脳皮質へ伝えている。青斑核のノルアドレナリンニューロン、背側縫線核のセロトニンニューロン、外背側被蓋核のセロトニンニューロン、外背側被蓋核と脚橋被蓋核のアセチルコリンニューロンなどが分かっており、これらが覚醒ニューロンを構成している。

 なお、一過性に起こる意識障害を一般に「失神」と呼ぶ。失神については、次回に解説する。意識障害に含まれる「せん妄」は第36回で解説した。

意識障害のメカニズム

 意識が障害されるメカニズムは、(1)ARAS自体が障害された場合、(2)ARASから大脳皮質に至る部分が障害を受けた場合─に分けられる。

 「意識障害」では、特に「意識の清明度」を問題とすることが多い。その評価指標として日本ではJapan Coma Scale(JCS)(表1)と、Glasgow Coma Scale(GCS)が利用される。医療従事者間での認識共有の手段であり、知っておきたい。

表1 Japan Coma Scale

 ARASの障害については、脳に何らかの障害が与えられた場合と、それ以外に分けることができる。脳障害の原因については、脳卒中、頭部外傷、脳腫瘍、髄膜炎などの感染症、精神疾患、痙攣やてんかん発作の頭文字をとった「CT-TIPS」と覚えるとよい(表2)。脳障害以外は「MD-HINTS」と覚える(表3)(参考文献3)。脳障害か否かは、血圧で大まかに判断できるとされている(参考文献3)。収縮期血圧が90mmHg未満の場合には、脳病変がある可能性は低いが、170mmHg以上であれば脳病変がある可能性が高く、急ぎ対応する必要がある。

表2 脳障害による意識障害の原因(CT-TIPS)3)

表3 脳障害以外による意識障害の原因(MD-HINTS)3)

副作用による意識障害

 CT-TIPSのうち、薬が原因となるのは、IのInfectionに挙げた症状が考えられる。実際には感染性ではないが、無菌性髄膜炎や脳症である。薬剤による無菌性髄膜炎は,造影剤などの異物の注入によるものや、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によるアレルギーで起こるものがある。発熱や頭痛、吐き気、光や音に対する過敏などの随伴症状がある。

 薬剤性の脳症には、メトトレキサート(メソトレキセート他)やカルモフール(ミフロール他)、インターフェロン製剤による白質脳症が有名である。長期投与による脳の器質的変化を伴う場合は、不可逆性となる。精神症状や運動障害などを随伴する。

 そのほか、インフルエンザや水痘の解熱にNSAIDsを使った場合などに起こるライ症候群、ワルファリンカリウム(ワーファリン他)の過剰投与による脳出血や、経口避妊薬、リスペリドン(リスパダール他)などによる血栓で脳梗塞を引き起こした場合には、意識障害が起こり得る。いずれも、意識障害以外の症状が随伴する。

 脳障害以外では、M(Metabolic)の代謝、内分泌が原因による意識障害がある。低血糖、高血糖、副腎不全、甲状線クリーゼ、高Na血症、低Na血症、高Ca血症、高Mg血症、腎不全のいずれも、薬の副作用で起こり得る。

 低血糖では、中枢抑制による意識障害が起こるが、動悸や冷汗などが随伴する。糖尿病治療薬はもちろん、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬、ジソピラミド(リスモダン他)、シベンゾリンコハク酸塩(シベノール他)、キノロン系抗菌薬、ペンタミジンイセチオン酸(ペナンバックス他)、ピボキシル基を有する抗菌薬(小児)などで起こる(参考文献4)。

 血糖コントロールが不良で高血糖状態が続くと、ケトン体が増えて血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスが起こる。呼吸が抑制され、ゆっくりと大きい息をするようになる。

 ステロイド内服薬の長期投与では、副腎不全が起こることがあり、その離脱症状としても低血糖が生じる。吸入薬でも起こることがあり、フルチカゾン(フルナーゼ他)での報告が多い(参考文献5)。

 甲状腺クリーゼでも意識障害が起こる。甲状線機能亢進症がうまくコントロールできていないときに、精神的なストレスや、手術や感染症、妊娠などによるストレスが加わると起こりやすい。また甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症の治療の突然の中止でも起こる。意識障害、痙攣、頻脈、不整脈、心不全など、あらゆる臓器の機能障害が起こる。

 Na、Ca、Mgの濃度のバランスが崩れると、細胞の恒常性や細胞膜の維持、神経細胞の興奮に異常を来すことになり、意識障害や痙攣が起こる。高Na血症は、脱水などによる水の喪失もしくはNaを含む輸液の過多によって起こる。低Naは、水の過剰やNaの欠乏で起こる。また、抗精神病薬や抗うつ薬、カルバマゼピン(テグレトール他)や抗癌剤、デスモプレシン酢酸塩(デスモプレシン他)などで抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が起こって、見かけ上、低Naになる場合がある。

 高齢者では、脱水を契機に腎機能低下が起こり、MgやCaの排泄が滞り、高Mg血症や高Ca血症が起こることがある。サプリメントなどの過剰摂取でも起こり得る。また高Mg血症は、便秘薬の酸化マグネシウムを長期間、服用し続けた場合にも起こる。高Mg血症は、頻脈や徐脈、筋力低下などを、高Ca血症では高血圧や不整脈、食欲不振、悪心、嘔吐などを随伴する。

 末期腎不全による尿毒症でも意識障害や痙攣が起こる。

 D(Drug)の急性薬物中毒による意識障害(参考文献6)を起こす薬物としては、γアミノ酪酸(GABA)作用増強薬であるベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系、プロポフォールなどの麻酔薬、アルコール、三環系および四環系抗うつ薬などの抗コリン作用薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬のフェノチアジン系抗精神病薬や非定型抗精神病薬、抗痙攣薬のフェニトイン(アレビアチン他)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン他)、カルバマゼピンなどがある。炭酸リチウム(リーマス他)は、治療域が狭く腎排泄であり、高齢者やNSAIDsなど腎障害を起こしやすい薬剤との併用で中毒が生じやすい。血中濃度測定の遵守が求められる(参考文献7)。

 また、医薬品ではないが、コリン作動作用のある有機リン系殺虫剤やカーバメート系殺虫剤、サリンや毒キノコ、ニコチンなども意識障害や昏睡を起こす。H(Hypoxis)としては、青酸化合物や硫化水素などによる細胞内低酸素で、意識障害や昏睡が起こる。

 N(Nutrition)では、長期間、ビタミンB1の投与を行わず糖類輸液を投与した場合に起こるウェルニッケ脳症による意識障害がある。

 T(Temperature)は、高体温を来す悪性症候群や悪性高熱によるものが挙げられる。悪性症候群は、ハロペリドール(セレネース他)などの抗精神病薬によって脳内ドパミン受容体を介する障害が生じて発症する。抗パーキンソン病薬やベンゾジアゼピン系薬の突然の中止、抗うつ薬、気分安定化薬、認知症用薬によっても意識障害が起こることがある(参考文献4)。この場合は、筋強剛、振戦、流涎、発汗、頻脈、動悸、血圧変動などが随伴する。Sのショックによる意識障害は血圧低下による。次回の「失神」で解説する。

* * *

 最初の症例を見てみよう。この患者は骨粗鬆症でビスホスホネート製剤とビタミンD3製剤を服用。さらに娘が購入したCaのサプリメントを摂取していた。その結果、1日許容量を上回るCaを5年近く摂取し続けていた。70歳以上の女性のCa摂取量は1日当たり600mgが推奨されており、許容上限は2300mgである(参考文献8)。また、活性型ビタミンD3製剤の服用によって、Caの腸管吸収が促進していたと考えられる。

 さらに、食欲不振によって食事からの水分摂取量が減っており、脱水による腎機能低下が高Ca状態に拍車をかけた可能性がある。

図 薬で意識障害が起こるメカニズム

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参考文献
1)久住呂友紀ら、臨床と研究 2013;90:267-71.
2)間中信也、脳神経外科速報2009;19:960.
3)山本舜悟、レジデントノート 2009;10:1635-40.
4)大津史子ら、『患者の訴え・症状からわかる薬の副作用第2版』(じほう、2013年)
5)Casale TB,et al, Ann Allergy Asthma Immunol 2001;87:379.
6)森博美ら、『急性中毒ハンドファイル』(医学書院、2011年)
7)PMDA『炭酸リチウム投与中の血中濃度測定遵守について』http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/tekisei_pmda_07.pdf
8)厚生労働省『日本人の食事摂取規準』 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4ac.pdf

イラスト:アイリス・アイリス

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