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検査値のミカタ
肝機能
日経DI2013年12月号

2013/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年12月号 No.194

中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部)

 肝機能のモニタリングは、薬の副作用を早期に発見する上で重要です。服用中に定期的な肝機能検査が義務付けられている薬剤も少なくありません。今回は、薬剤性肝障害の早期発見に役立つ肝機能検査値の読み方の基本を学びましょう。(中村)

検査値の意味と測定法

 肝臓は、エネルギーの貯蔵や蛋白質・脂質の合成、有害物質の解毒といった重要な役割を担っている。肝機能の評価に用いられる代表的な検査項目を以下に示す。

AST、ALT:
 AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、アミノ酸の代謝に関わる酵素である(補足説明a)。様々な組織に分布するが、ASTは心臓、肝臓、骨格筋、腎臓の順に多く、ALTは肝臓に多く存在している。

 健康な状態では、いずれも血清中に0~30 IU/L存在する(基準値は施設により異なる)。血清中に比べ、ASTは心臓や肝臓に約1万倍、ALTは肝臓に約2000倍存在する。そのため、急性・慢性肝障害や胆・膵疾患による胆道閉塞、筋疾患、心筋梗塞などにより、肝臓や心臓の細胞が障害されると、細胞内の酵素が逸脱して血清濃度が上昇する(補足説明b)。

γGTP:
 γGTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)は、肝細胞や胆管細胞に存在する酵素である。ASTやALTと同様、細胞障害により逸脱するが、アルコールや精神安定薬など一部の薬物によって産生が誘導され、血中に漏れ出ることもある。

 基準値は、男性50 IU/L以下、女性30 IU/L以下。胆道閉塞への特異性は高く、ASTやALT、後述のALP(アルカリホスファターゼ)が正常範囲内であってもγGTPが異常高値を示すことがある。過度の習慣飲酒やアルコール性肝障害でも上昇する。また、γGTP誘導作用を持つフェニトインやカルバマゼピンを服用している患者では、肝障害がなくても異常高値を示す。

ALP:
 ALP(アルカリホスファターゼ)は、アルカリ性の条件下でリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり、全身に広く分布する。特に骨、小腸粘膜上皮、肝臓、胎盤に多く含まれている。細胞障害による逸脱や酵素誘導(産生亢進)で血中濃度が上昇する。病態としては急性・慢性肝疾患や胆汁うっ滞、妊娠や転移性骨腫瘍などで上昇する。複数のアイソザイムが確認されているが、薬剤性肝障害の病態を特に反映するのはALP2(肝型)である。

 ALPの基準範囲は、測定法により大きく異なる。例えば日本臨床化学会(JSCC)準拠法ではおよそ110~350 IU/Lであるのに対し、スカンジナビア臨床化学会(SSCC)準拠法ではおよそ70~260 IU/Lとされている。

ビリルビン:
 ビリルビンは黄色の色素の一種で、生体内のビリルビンの大半は、古くなった赤血球が破壊された際に生成される。血中ではアルブミンと結合した間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)として存在し、肝臓でグルクロン酸抱合を受けて直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)になり、胆汁中に排泄される。

 基準値は、総ビリルビン0.2~1.2mg/dL、間接ビリルビン0.1~0.8mg/dL、直接ビリルビン0.4mg/dL以下。赤血球が異常に破壊される溶血性貧血では、総ビリルビンおよび間接ビリルビンが高値を示す。また、胆汁うっ滞をはじめとする肝胆道疾患全般では、直接ビリルビンが胆汁中に排泄されなくなり、総ビリルビンおよび直接ビリルビンが高値を示す。

薬局での活用法

 消化管から吸収された薬物は、肝臓を通過してから全身循環に入るため、肝代謝能が低下すると、体内に蓄積した薬物が毒性を発揮したり、プロドラッグの場合は十分な薬効を得られなかったりすることがある。薬局における肝機能のモニタリングの意義として特に重要なのは、薬剤性肝障害の早期発見である。

 薬剤性肝障害は、非常に多くの薬で起きている。報告例を見ても、原因薬剤は抗癌剤、抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、精神神経用薬、糖尿病治療薬、脂質異常症治療薬、痛風治療薬、睡眠薬、漢方薬など多岐にわたる。

 薬剤性肝障害は、アレルギー性特異体質によるものが多く、発症予測は困難である(補足説明c)。また、薬剤性肝障害を発症するまでの原因薬剤の服用期間の長さは、数週間から数年まで様々である。肝障害の主な初期症状には、倦怠感、発熱、黄疸、発疹、吐き気・嘔吐、痒みなどがあるが、無症状のうちに進行しているケースも少なくないため、早期発見のためには定期的な肝機能検査が不可欠である。

 薬剤性肝障害の病態や発症機序は、厚生労働省の『重篤副作用疾患別対応マニュアル:薬物性肝障害』(2008年4月)に詳しくまとめられているので、参照してほしい。

具体的な対応法

 肝障害の報告がある薬剤を服用中の患者に対しては、まず、定期的な肝機能検査が実施されているかどうか確認する。例えば、チクロピジン塩酸塩(商品名パナルジン他)の場合、投与開始後2カ月間は2週間に1回の肝機能検査を行うよう、添付文書の警告欄に記載がある。

 医療機関での検査結果が薬局で分かる場合は、日ごろから患者の肝機能検査値に留意し、薬歴などに転記しておくとよい。正常値から変動が見られた場合は、必要に応じて医師に情報提供する。

 日本消化器関連学会機構が04年にまとめた薬剤性肝障害の判定基準では、ALTが正常上限の2倍またはALPが正常上限を超えるケースを対象に、ALTとALPを基に薬剤性肝障害のタイプを分類し、その上で発症までの期間や経過を基にスコアリングを行うことを提唱している(表1、2)。

表1 ALTとALPによる薬剤性肝障害の分類

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この基準で扱う薬剤性肝障害は肝細胞障害型、胆汁うっ滞型もしくは混合型の肝障害であり、ALTが正常上限の2倍、もしくはALPが正常上限を超える症例と定義する。
(肝臓2005;46:85-90.を基に一部改変、表2とも)

表2 薬剤性肝障害の判定に用いる評価項目

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各項目につき-3~3点で評価。合計点数が2点以下の場合は薬剤性肝障害の可能性が低い、3~4点は可能性あり、5点以上は可能性が高いと判定する。

 薬剤性肝障害の症例を以下に示す。

ケース1/70歳代男性Aさん


 冠動脈狭窄があり、ステント留置術が予定されていたAさん。抗血小板療法として、アスピリン(バイアスピリン他)とクロピドグレル硫酸塩(プラビックス)の服用を開始した。

 服用前の肝機能はAST 25 IU/L、ALT 29 IU/Lと正常範囲内だった。服用開始後、徐々に検査値が上昇。1カ月後の検査では、AST、ALTはそれぞれ48、70 IU/Lと、服用前の約2倍に上昇した。

 医師は、クロピドグレルによる肝障害を疑い同薬を中止。1週間後にAST、ALTはそれぞれ28、34 IU/Lまで低下したため、チクロピジン塩酸塩(パナルジン他)を追加した。肝機能検査値は、直後には大きな変動はなかったが、約1カ月後から上昇し、6週間後にはそれぞれ140、164 IU/Lとなったため、チクロピジンの投与を中止した。その後、アスピリンのみで経過を観察したところ、肝機能検査値は正常範囲内に戻った。

 ケース1から分かるように、ある薬剤で肝障害の傾向が見られた場合、類似の薬効を持つ薬剤でも肝障害を起こす可能性は高いため、慎重に経過観察しなければならない。

ケース2/50歳代女性Kさん(身長160cm、体重70kg)


 Kさんは健診で肥満を指摘されたため、健康食品や一般用医薬品(OTC薬)の防風通聖散エキス製剤(ナイシトール他)の服用を開始。開始前の肝機能はAST 25 IU/L、ALT 21 IU/Lと正常範囲内だった。

 開始から約1カ月後、吐き気と全身倦怠感が出現。発熱なし。病院を受診したところ、AST、ALT、ALPはそれぞれ1377、1530、958 IU/Lと著明に上昇していた。医師は薬剤性肝障害を疑い、OTC薬を含む全ての薬剤の中止を指示。入院下で経過観察を行った。

 翌日もAST、ALT、ALPは1824、1938、942と依然高値を示したが、次第に自覚症状は消失。検査値も安定したため2週間で退院した。

 ケース2は、OTC薬の服用により肝障害を起こしたと考えられる事例である。ロキソプロフェンナトリウムやアセトアミノフェンなどの解熱消炎鎮痛薬、H2受容体拮抗薬のシメチジン、漢方薬(小柴胡湯、柴苓湯、葛根湯他)など、肝障害の報告があるOTC薬を販売する際には、医療用医薬品と同様、肝障害の初期症状について患者に説明しておくことが不可欠である。

 薬剤性肝障害は、軽度のうちに発見し原因薬剤を中止すれば、重症化を回避できることが多い。ぜひ肝機能のモニタリングに取り組んでほしい。

補足説明
a)従来は、GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)が用いられてきた。これらは、それぞれAST、ALTと同じ酵素を指す。名称が国際的に標準化された結果、現在ではAST、ALTが用いられている。
b)ASTとALTは同時に測定されることが多く、両者の比(AST/ALT)に着目することも重要である。肝細胞の壊死が急速に進んでいる間は、絶対量の多いAST上昇が優位となるが、ASTはALTに比べ半減期が短いため、非活動期の慢性肝炎などではALT上昇が優位となる。
 なお、心筋梗塞の場合は、ASTはクレアチンキナーゼ(CK)や白血球数に遅れて上昇する。
c)薬剤性肝障害は、発症機序の違いにより中毒性と特異体質性に大別される。中毒性は薬物またはその代謝産物が肝毒性を持ち、用量依存性に起こる。特異体質性は、さらにアレルギー性と代謝性によるものに分類される。薬剤性肝障害の多くは特異体質性である。
 アレルギー性特異体質では、薬物や中間代謝産物が担体蛋白と結合して抗原性を獲得し、T細胞依存性の肝障害を引き起こす。一方、代謝性特異体質の肝障害には、肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)の遺伝子多型などに起因する代謝能の個人差が関与している。
 なお、薬剤性肝障害は肝障害のタイプによって、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型にも分類できる。肝細胞障害型は検査値異常を示すものの、軽度であれば臨床上は無症状であることが多い。胆汁うっ滞型や混合型では、眼球黄染色などの黄疸症状や皮膚掻痒感が出現する。

中村先生のひとくちコラム

 ASTやALTは「肝機能検査値」と呼ばれていますが、実はこれらは肝細胞障害のマーカーであり、肝臓の機能そのものは評価できません。

 肝臓は余力が大きく、健康な人は最大能力の3~4割で生活しています。そのため肝機能は肝予備能とも呼ばれます。肝予備能は血清アルブミン値や総ビリルビン値、プロトロンビン時間、肝性脳症や腹水の有無で評価します(Child-Pugh分類)。

 また、肝臓が異物を取り込む能力を評価する方法として、ICG負荷試験もあります。ICG(インドシアニングリーン)という色素を静脈内に注射し、15分後に血中に残っているICGの割合を調べるというものです。

 このように病態を把握するためには、複数の検査項目を組み合わせて評価することが大切です。まずは、薬剤性肝障害の早期発見に役立つ本稿の検査値をマスターしましょう!

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