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医師が語る 処方箋の裏側
甲状腺機能低下例にチロナミンを投与する理由

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

 頸部の腫れと発熱のため、内科診療所を受診した森美雪さん(仮名、44歳)。甲状腺疾患が疑われ、当院を紹介受診した。

 初診時の血液検査では、甲状腺ホルモンの遊離サイロキシン(FT4)は5.79ng/dLと高値で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は0.008μIU/mLと低値であり、抗甲状腺自己抗体陰性やエコー検査の所見などから、亜急性甲状腺炎と診断した。

 亜急性甲状腺炎は、痛みを伴う甲状腺腫が特徴の炎症性疾患。多くは数カ月で自然軽快するが、発症初期の「甲状腺中毒期」に、頸部の激しい痛みや発熱、動悸や息切れなど甲状腺中毒症状が付随する。森さんはこの中毒期にあり、まず抗炎症作用を期待して経口ステロイドを投与した。

 亜急性甲状腺炎は、甲状腺中毒期を経て、約半数は一過性の「甲状腺機能低下期」に移行する。森さんも初診から2カ月後に甲状腺ホルモンが低値となり、むくみを訴えた。左はその時の処方箋である。

 永続性の甲状腺機能低下症の治療には、T4製剤のチラーヂンS(一般名レボチロキシンナトリウム)が最も広く用いられている。

 だが、亜急性甲状腺炎による甲状腺機能低下例には、T3製剤のチロナミン(リオチロニンナトリウム)が第一選択である。この甲状腺機能低下症のほとんどは一過性であるため、甲状腺で産生されるT4が自然に上昇してくるのを待つ必要があり、T4製剤を処方すると判定が困難になる。T3は甲状腺以外の末梢臓器でもT4 から変換され産生されるため、遊離トリヨードサイロニン(FT3)は甲状腺機能だけを反映していない。そこで、活性が強く、即効性も期待できるT3製剤(チロナミン)をFT4が正常化するまでの2カ月間、処方した。

 ちなみに、甲状腺中毒期には、プレドニン(プレドニゾロン)15mg/日を投与し、2週間単位で5mg/日ずつ漸減して約6週間で投与を中止。甲状腺機能低下期で症状が強いときだけ、チロナミンを投与している。(談)

西原 永潤氏
Nishihara Eijun
隈病院(神戸市中央区)内科医長。1994年長崎大学医学部卒業。同大第一内科、医学部附属原爆後障害医療研究施設・機関研究員などを経て、2008年から現職。甲状腺疾患の臨床だけでなく、遺伝子異常との関連など研究も積極的に行っている。

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