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薬理のコトバ
メラトニン作動薬
日経DI2013年11月号

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

講師:枝川 義邦
帝京平成大学薬学部教授。1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より現職。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 秋の夜長が楽しみな時期になった。月の美しさをめでながら、月光を浴びるのもこの時期のたしなみの一つだ。とはいえ、月明かりが霞むほど、街は光に満ちている。

 テレビにはまだまだ面白い番組が並び、それにも増してパソコンやスマートフォンの使用により、身体は光を浴びまくる。夜中でも目がさえて、今度は眠れないなんてことにも。睡眠は脳のメラトニンによるコントロールを受けているため、夜に強い光を浴びてメラトニンの作用が弱くなることも、不眠の一因だという。そこで、現代人の生活を支える意味からも、今回はメラトニンと睡眠との関連に加え、メラトニン受容体に作用することで睡眠を整える薬について取り上げよう。

夜の光がメラトニンを抑制

 睡眠は、生理機能と体内時計機構によるコントロールを受ける。生体の持つ生理機能の大きな目的は恒常性(ホメオスタシス)の維持であり、睡眠は、起きている間に生じた諸々の物事を精算するためにある。睡眠物質の蓄積による眠気は、生理機能に基づくものなのだ。

 一方、生理機能とは別に、体内時計の働きによって眠くなることもある。こちらは概日リズム(サーカディアンリズム)に基づく眠気で、このリズムの調整役の一つが今回のテーマであるメラトニンだ。

 メラトニンは脳の松果体で作られるホルモンで、トリプトファンからセロトニンを経て合成されるインドールアミン。強い抗酸化作用や免疫賦活作用を持ち、日本では医薬品に分類される。

 メラトニンはヒトでは1日の血中濃度に変動があり、昼に低く夜に高い。そして、睡眠との関連が深く、目覚めてから14~16時間ほどで分泌が起こる。これが脳の視交叉上核という、体内時計のセンター的役割を果たす部位のメラトニン受容体に作用することで、入眠のタイミングをコントロールしているのだ。

 しかし、メラトニンの分泌は、強い光で抑制される。つまり、冒頭に述べたように、夜中でも明るい環境にいると分泌が低下してしまう。特に可視光に含まれるブルーライト(波長が380~495nmの青色光)がメラトニン分泌を抑制する悪玉だ。スマートフォンの光のせいで、せっかく出かかったメラトニンが引っ込んで、眠気が訪れない─。現代型の不眠は、こんなメカニズムで起こっているのだ。

 不眠を引き起こす概日リズムの乱れには幾つかのパターンがあるが、ヒトの持つ概日リズムは24時間よりわずかに長く、リズムは“後ろ倒し”になりやすい。身体の機構として、入眠時刻が少しずつ遅くなる「位相後退型リズム障害」を起こしやすいというわけだ。乱れたリズムを調整するために役立つのが光。朝日をしっかり浴びて、夜にはテレビの視聴などを控える。これでメラトニンをしっかり分泌させることがリズムを保つには有用だ。

リズムを整え睡眠を促す

 概日リズムの調整をサポートする薬も開発された。2010年7月に発売されたラメルテオン(商品名ロゼレム)だ。メラトニンの受容体にはMT1~MT3の3種類が知られているが、視交叉上核で催眠作用や睡眠リズムに関連しているのはMT1とMT2。ラメルテオンはこの2つの受容体を選択的に刺激して、概日リズムを調整し、睡眠を誘発する。ラメルテオンのMT1受容体に対する親和性はメラトニンの約6倍、MT2受容体へは約4倍に達するという。血中からの消失半減期が1時間前後と比較的短いことも、入眠をコントロールするという意味では好ましい。

 ところで、受容体に作用する薬剤として実用化されているものの多くは阻害薬(アンタゴニスト)だ。阻害薬は一般に、受容体に対する特異性が高く、結合力が強い。狙った作用をピンポイントに出しやすいものだ。一方の作動薬(アゴニスト)は受容体に対する特異性が相対的に低いものが多く、想定外の副作用を生じやすいため、実用化へのハードルが高い。

 ラメルテオンは受容体の作動薬ではあるが、ターゲットであるMT1、MT2受容体の分布が視交叉上核に高密度であるため、あれもこれものスイッチを入れるような節操のないことにはならない。これで実に都合良く、睡眠という現象にターゲットを絞った作用が実現され、余計な副作用を生じにくいことにつながっている。もちろん副作用が皆無というわけではなく、傾眠、頭痛、体重増加やうつ病発症のリスクを高めることが指摘されている。

 体内動態としては肝代謝がメーン。主として肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)1A2で代謝される。そのため、CYP1A2を強く阻害するフルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール、ルボックス他)の併用は、血中濃度が上昇して作用が強く表れる恐れがあるために禁忌となる。このようなリスクとベネフィットを天秤にかけてもなお、現代社会においては魅力ある薬といえようか。

 月夜の散歩は情緒あふれてオツなもの。もちろんこれは健康な睡眠あっての物種だ。リズムを整え、秋の夜長を楽しんでいこう。

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