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早川教授の薬歴添削教室
服薬コンプライアンス不良な精神疾患患者へのケア
日経DI2013年11月号

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

 今回は、abc薬局せんげん台店に来局した47歳女性、坂本明子さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。坂本さんは病院の精神科を受診し、抗うつ薬を処方されています。

 精神疾患患者への治療管理では、患者背景が重要なカギを握る一方、病態や性格などに応じて、患者から聞き取るタイミングや方法などの対応には注意しなければなりません。

 今回は、来局日ごとにアセスメントを行い、プロブレムや確認すべき事項を明らかにしていく形でオーディットを行いました。より良い患者ケアのために、どのような点に留意すべきかを考えながら、読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A~E、症例検討会での発言者が薬剤師F~Jです。(収録は2013年2月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
abc薬局せんげん台店(埼玉県越谷市)

 abc薬局せんげん台店は、関東地方を中心に17店舗の薬局を展開する株式会社医療サービス研究所が1991年に開設した。

 応需している処方箋は月4700枚ほど。近隣にある順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院からの処方箋が多く、精神科、膠原病内科、神経内科を受診する患者が来局する。

 同薬局には、14人(20代4人、30代4人、40代4人、50代2人)の薬剤師が勤務している。

 電子薬歴を採用し、SOAP形式で記載している。薬歴を記載する際は、表書きを充実させるよう心掛けている。また、薬歴を通じて薬物療法の安全性を評価し、必要に応じて処方元の医療機関にフィードバックしている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 薬歴の表書きを見ていきます(【1】)。運転や喫煙の有無、食生活、副作用歴や既往歴など、一通り記入されています。これらは初回アンケートで得られた情報ですか。

A はい。

早川 ただ、表書きの情報のほとんどは2012年6月6日の初回来局時のもので、追記されたのは7月4日の併用薬の継続確認のみです。この表書きからは、具体的な患者像や、どのような医学・薬学的な問題点(プロブレム)があるのかが見えてきません。来局日ごとに気になる点を挙げ、患者像やプロブレムを明らかにしていきましょう。

 では、初回の経過記録を見ていきます。アンケートで得られた情報のほか、聞き取った内容もS情報に記載されています。気づいた点を挙げてください。

F 「禁酒を指示された」とあります(【2】)。パキシル(一般名パロキセチン塩酸塩水和物)とアルコールは併用注意です。また、今後他の抗うつ薬が処方される可能性もあるので、患者の性格や薬物への依存傾向を見る上でもアルコール摂取歴を知りたいです。

早川 そのほか、うつ病の要因が過度の飲酒である可能性もありますし、アルコールがうつ病の症状の一つである睡眠障害を悪化させる恐れもありますね。これまで飲酒習慣があった場合は、量や頻度についても確認しましょう。初回アンケートは、チェックを付けるだけで済ませてしまう患者も多いので、薬剤師の方から尋ねることも必要です。そのほか、気になる点はありますか。

B パキシルは通常、10~20mg/日から開始しますが、この患者への投与量は5mgと少ない。A情報に「母親が薬物療法に対して不安な様子」とあることと併せて考えると、医師はあえて少なめに処方した可能性があります【3】。

早川 大事な視点です。

B 患者本人からは、深刻さはあまり見受けられませんでしたが、付き添いの母親が薬の質問をしたので、「不安な様子」とアセスメントしました。その上で、副作用の説明は極力控え、まずは継続して服薬してもらうことに重点を置いて指導しました。

早川 他の意見はありますか。

A 副作用の経験が過去にあるのかもしれません。

F 患者に対する母親の干渉が強そうな印象を受けます。

早川 そのような見方は大事です。

G 過去に精神科や心療内科での治療歴があるかどうかを知りたいです。

C パキシルを処方する際、「吐き気が出るかもしれない」と医師が説明したのでは。フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)による悪心の経験があることから、副作用が不安要因の一つとなっている可能性も考えられます。

早川 色々な意見が挙がりました。そう考えると、「母親が不安な様子」というのは、プロブロムと捉えてよいのではないでしょうか。また、先ほど議論した飲酒習慣の有無についても、プロブレムと考えることができます。

症状から疾患名を絞り込む

早川 ところで、この患者の疾患名は何でしょうか。

B 最初の段階では、仕事に関連したうつ病だと考えました。

F 「1日仕事に行っては1日休んでしまう」と話していることから、意欲の低下があると推測されます【3】。

A パキシルなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はうつ病だけでなく、強迫性障害や社会不安障害にも使われます。

早川 それらの疾患を区別するためには、どのようなことを聞きますか。

F 強迫性障害を区別するために、人前で不安を覚えるかどうかを聞きます。

早川 私たち薬剤師は患者の自覚症状や、それを患者がどう捉えているかを詳しく聞き取り、そこから疾患名や病状を推測する姿勢とテクニックを持つ必要があります。できるだけ早い段階で把握することが望ましいですが、初回に聞き出せない場合でも、少なくとも次回以降確認すべき項目を表書きに挙げておきたいところです。そのほか、病態に影響する因子として、日常生活で困っていることがないかどうかも確認しましょう。

 既往歴に貧血があり、併用薬としてフェロミアが記載されている点については、どう考えますか。

F フェロミアは食後に服用した方が副作用を軽減できます。「食事が不規則」とあるので、食事を取らずに服薬していないかどうかを確認したいです。

早川 そうですね。もともと胃が弱い可能性も考えられます。まずは「気になること」としてリストアップしておきましょう。

 続いて、6月20日の薬歴を見ていきます。悪心やふらつきなどの副作用がないことを確認し、忍容性は問題ないとアセスメントしています。

D この日は男性と一緒に来局し、その男性も処方箋を持参していたので、同じカウンターで一緒に薬をお渡ししました【4】。同伴者への遠慮や早く帰りたいという思いがあって、患者本人が真意を話していない可能性があります。

早川 同伴者はどのような方でしたか。

D どちらかといえば怒りっぽく、イライラしている印象を受けました。

早川 2人の関係をどう見ましたか。

D ご家族ではないと思います。パートナーかどうかは分かりませんでした。

早川 このような情報は、患者のプライベートなことだからと掘り下げることを躊躇しがちですが、特にメンタル系の疾患を抱える患者の治療管理を行う上では、患者の周囲の人が、治療のサポーターになり得るのか、逆に治療の妨げになる可能性があるかどうかを押さえておく必要があります。この同伴者の男性はどのような印象でしたか。

G あくまで憶測ですが、患者が同伴者に依存しているように見えました。

早川 間違っていたら修正していけばいいので、その時々での印象を押さえておくことが重要です。表書きの「特記事項、気になること」に記録しておけば、次回以降、別の薬剤師が対応する時も、注意してアセスメントを行っていくことができます。

 7月4日には、マイスリーが追加されました。今回から、パキシルは後発医薬品のパロキセチンに変更、マイスリーも後発品のゾルピデム酒石酸塩が交付されています【5】。不眠について聞き取りを行った上で、指導内容や次回確認したい事項がきちんと記載されています。流れが分かる良い薬歴です。

 ここでは、服薬コンプライアンスに着目しましょう。他科・併用薬については、継続していることを確認した一方、お薬手帳には反映されていないようです。来局間隔は問題なさそうですが、広い意味でコンプライアンスが不足している可能性があります。その他に気になる点はありますか。

H 「眠質いまいち」とあります。仕事を休みがちであることからも、医師は仕事への影響を減らすために、ゾルピデムを選択したのかなと思います。勤務状況を再確認したいです。

B 飲酒状況についても、再確認する必要があると思います。

患者の質問の意図は?

早川 続いて8月1日。S情報に「パロキセチンは調節してはだめなのか」とあります【6】。

E 初回に「母親が薬物療法に不安な様子」とありましたが、患者自身もなるべく薬を飲みたくないと思っているのではないでしょうか。

F 調節したいというのは、「減らしたい」という意味では。眠気やだるさなど、何らかの副作用を感じ始めているか、逆に、そろそろ薬が効き始めて、「減らしてもいいのでは」と思うようになったとも考えられます。

H 前回の同伴者が薬を自己調節していて、患者も興味を持ったのかもしれません。前回から後発品に変更されているのも、同伴者の影響では……。

早川 後発品の使用に、経済的要因が絡んでいる可能性は考えられますか。

D 派手な身なりではありません。

B 仕事を休みがちであるなら、経済的に安定しているとは考えにくいです。

早川 このようなプロセスは、まさに服薬コンプライアンスに影響を与える因子の“鑑別”ですね。様々な観点から考えられる因子をまず挙げて、可能性や影響の度合いをアセスメントしていくわけです。前回、他院でもお薬手帳を提示するよう指導したにもかかわらず、今回も反映されていませんでした。以降は、コンプライアンスをプロブレムとして扱うことにしましょう。

E ただ、お薬手帳にはフェロミアの記載はありませんでしたが、他の薬局での投薬履歴は記載されていました。もしかすると、フェロミアは院内処方されているために、手帳に書かれていないだけかもしれません。

早川 そうなると、アセスメントは異なってきますね。その視点も薬歴に残しておきましょう。そのほか、「前回70分待ちだったので他の薬局へ行った」という情報も留意しておきます。

患者の病識不足が判明

早川 8月15日、処方内容に変更はありません。「目立った訴えなし。あまりしゃべらない」とありますが、どのように考えましたか【7】。

D 処方日数が21日に延びたことから、病状は安定していると思いました。

F 私は患者の性格上の特徴として、情報収集が難しいと捉えました。

C 70分待ちで他の薬局に行ったエピソードがあることからすると、この時も急いでいたのかもしれません。

早川 同じ薬歴でも薬剤師によって、異なるアセスメントになることが分かると思います。私自身は、「あまりしゃべらない」というのは、うつ病の病状の一つと捉えました。患者と薬剤師の間に、コミュニケーション上の障壁がある可能性も否定はできません。特記事項として記録しておき、次回以降も注意して見ていく必要がありそうです。

 9月5日には、パロキセチンが増量され、エビリファイ(アリピプラゾール)が追加されました。「ゾルピデムのみ使っていた」という言葉も得られていますが、コンプライアンスについてどう評価しますか【8】。

F 自己判断が強い方だと思いました。

B 「薬を飲んでいて妊娠しても大丈夫か」と質問しています。服薬への不安と関連しているのかもしれません。

I パロキセチンの効果に対して何かしら思うところがあり、自己調節はできないと分かった頃から、服薬をやめたのかなと思いました。

F 医師が、患者の自己判断による服薬中止の事実を知らずに、十分な効果が得られないためにパロキセチンを増量した可能性もあります。

早川 増量が適切かどうかをこの時点で判断しておきたいですね。そもそもパロキセチンは、どのような効果を期待して処方されていると思いますか。

F 意欲を上げるため。

早川 そうですね。薬歴からは分かりにくいかもしれませんが、症状の経過をモニタリングすることも大切です。

B 担当薬剤師が「どうして医師の指導が聞けないのか」とアセスメントしていることから、処方医との関係が良好ではないのかもしれません。

早川 一方で、ゾルピデムは服用しているようです。

B 睡眠状態についてのみ、効果を実感できているのではないでしょうか。

早川 コンプライアンスの観点から、全ての薬剤が就寝前服用になっているようですが、患者自身はパロキセチンも睡眠障害に効くと認識している可能性もあります。その場合は、パロキセチンの処方目的など、根本から認識を確認しなければなりません。患者の主訴は何でしょうか。

B 確認できているのは、睡眠障害だけです。

早川 本人にとっては、眠れないことが最もつらいのかもしれません。そうするとパロキセチンの服用意義を理解していない可能性があります。私たちもパロキセチンの効果や過去の副作用歴について、早い段階で確認しておけば、誤った認識のまま治療を続けることを防げますね。続く9月19日も、コンプライアンスをチェックしています(【9】)。S情報に「大体は飲めたと思います」とありますが、どの程度だと思いましたか。

J 8割くらいでしょうか。

早川 表情から抑うつ症状があるとしっかりアセスメントできています。「生活に疲れている」とは?

J 服装から受けた印象です。

H 患者は「気になることはない」と話していますが、パロキセチン増量の効果を確認するために、「仕事には行けていますか」と具体的に尋ねた方が、患者は答えやすいのでは。

早川 その質問で、生活状況も確認できますね。10月25日には、飲酒をしている可能性も浮上してきました(【10】)。どのように対応すべきでしょうか。

F 医師に飲酒の事実を伝えているか否かと、飲酒のタイミングを確認したい。

C 飲酒による睡眠の質の悪化も考えられます。

早川 患者の認識を確認した上で、具体的な行動に移していきましょう。

abc薬局せんげん台店でのオーディットの様子。

参加者の感想

青木 由美子氏

 日ごろから患者さんの待ち時間が長く、投薬前に過去の薬歴をじっくり振り返るのは難しいので、プロブレムをあらかじめ立てておき、必要な情報を患者さんに聞くことがとても重要だと思いました。

大竹 尚次氏

 日常生活の状況を掘り下げて探っていくことなどは、薬剤師に与えられた特権だと思います。待ち時間との戦いの中で、忘れかけていた薬剤師ならではの仕事を思い出すことができました。

全体を通して

早川 達氏

 全体的に薬歴はよく書けています。日ごろから待ち時間が長く、手際の良さが求められる中でも、患者の言葉をきちんと拾っており、うまくアセスメントにつなげている点は素晴らしいと思います。EPを実施事項、OPは次回実施予定事項として運用していますが、次回行うべき指導事項もあるはずですので、これもプランとして記載して引き継いでいくようにすることが望まれます。

 アセスメントから患者の全体像(病態、生活、心理など)を把握し、中長期的に確認していきたいこと、基本的方針や継続的に対応していきたいことなどをプランとして立案していくようにするとさらに良いでしょう。今回、経過記録の各場面でアセスメントしたことを表書きにまとめるよう意識してオーディットを進めました。患者の全体像を捉えようとする中で、多くのプロブレムや気になることなどが挙がりました。記事では項目が多過ぎて読みにくい印象を受けるかもしれませんが、実症例では、その都度整理され、その時点でアクティブな項目のみが表示されて見やすいものになると思います。ぜひ、今回のようなプロセスでアセスメントとプランを表書きに反映させて、患者ケアの充実に生かしていただきたいと思います。

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