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副作用症状のメカニズム
口が乾く、喉が渇く 原因となる薬は多数
日経DI2013年11月号

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 75歳女性。高血圧で降圧薬を服用中。来局時に、「最近、口の中がひどくパサついて、食事がしにくく、何を食べてもおいしくない」と話し、いつもより元気がない様子だった。
 聞くと、以前から口の中のパサつきがあったため、水分を多く取るようにしていたとのことだった。

「口が乾く」と「喉が渇く」

 「乾き」と「渇き」は、ニュアンスが違う。広辞苑によると、「乾き」は水分、すなわち唾液が乾いてなくなること。一方、「渇き」は喉の潤いがなくなったように感じて、水を欲しがる状態とされている。つまり、「口がカラカラ」は「乾き」であり、喉がカラカラで水が飲みたいというのが「渇き」といえる。「口がカラカラ」と「喉がカラカラ」の違いがあることは、感覚的に分かるだろう。必ずしも、この両者は独立しているわけではないが、分けて考えることで理解がしやすくなる。 

 では、この違いは何から来るのか考えてみたい。まず、唾液の働きはなんであろうか。唾液には、様々な物質が含まれており、それぞれが様々な役割を担っている(参考文献1)。

 子どものころ、けがをすると傷口をなめたものだが、唾液には「抗菌」という大きな役割がある。ムチンやプロリンリッチプロテイン、免疫グロブリンなどの主な蛋白質がその中心的な働きをしている。

 それらに加えて、陽イオン性抗菌ペプチドと呼ばれるヒスタチンやディフェンシンなど、広いスペクトルの殺菌作用を持つ蛋白質が口腔防御システムの一員として働いている。これらは、細菌や真菌、ウイルスなどが最も侵入しやすい口において、第一次防衛隊として機能している。

 唾液は、アミラーゼやリパーゼなどの消化酵素を含み、「消化」にも関わっている。唾液に含まれる亜鉛は「味覚」の立役者である。

 また、唾液中のムチンやプロリンリッチプロテインは、歯の表面をフィルムのように覆って、カルシウムイオンの過飽和状態を維持し、エナメル質の脱灰を遅らせ、カルシウムやリンとともに再石灰化を促進している。つまり、歯の維持にも唾液は役立っている。

 その他に、2012年10月号に掲載した「嚥下困難」で述べたように、唾液は食べ物をうまくかんだり飲み込んだりできるように、潤滑性や適度な粘性も作り出している。

 唾液は成人の場合、1日に1.0~1.5Lが分泌されるが、呼吸によってどんどん蒸発する。最大で0.21mL/分が蒸発するというから、かなりの量である(参考文献2)。

 さらに、唾液の浸透圧は、細胞外液の1/6しかなく、水分は粘膜を介して吸収される(参考文献2)。その最大吸収速度は、0.19mL/分であり、呼吸で蒸発する分を合わせると、1分間に0.4mLもの水分が失われていることになる。従って、これを上回る唾液流量がないと、「口が乾く」と感じることになる。

 では、唾液の分泌はどのように制御されているのであろうか。唾液の構成成分は大部分が水である。残りは、前述の有機成分と無機成分(Na、K、Ca、Mgなどの塩化物、炭酸塩、リン酸塩)の形で存在している。

 では、唾液の大部分を占める水は、どこからやってくるのであろうか。唾液分泌のメカニズムは以下の通りだ。

 唾液腺は、耳下腺、顎下腺、舌下腺、小さな口腔腺からなっている。これら唾液腺の膜細胞にはM3ムスカリン受容体がある。耳下腺と顎下腺の膜細胞上には、アドレナリン受容体がある。

 水は、主にムスカリン受容体の刺激をきっかけに生成される(参考文献3)。アセチルコリンが唾液腺の血管側の膜細胞上のムスカリン受容体を刺激すると、膜が脱分極する。その刺激でカリウムイオンが膜細胞外に流出し、ナトリウムーカリウムー塩素共輸送体を活性化し、膜細胞内に塩素イオンが入ってくる。

 アセチルコリンの刺激は、膜細胞内のG蛋白質も活性化し、グアノシン三リン酸(GTP)に結合して、ホスホリパーゼCを刺激し、膜細胞内のカルシウム貯蔵庫からカルシウムイオンを放出させる。カルシウムイオンが膜細胞内で増加すると、膜細胞の腺腔側にある塩素イオンチャネルが開き、膜細胞内にたまった塩素イオンが腺腔内に分泌される。

 腺腔内の塩素イオンが増加すると、それに引っ張られてナトリウムイオンが、血管側から細胞間隙を通って腺腔内に移動してくる。すると、塩化ナトリウムが生成され、腺腔内の浸透圧が上昇する。それを薄めようと、細胞間隙を通るか、膜細胞内にあるアクアポリンという水チャネルによって、水が腺腔内に移動し、唾液腺腔に水分がたまり唾液となる。

 血液中にあるCO2は、炭酸脱水素酵素により重炭酸となって、唾液腺腔に分泌されて、唾液のpHの調節を行っている。

 一方、唾液腺膜細胞上のβアドレナリン受容体がノルアドレナリンに刺激されると、G蛋白質がアデニル酸シクラーゼを活性化し、サイクリックアデノシンモノフォスフェート(cAMP)が生成される。これは、プロテインキナーゼAを活性化し、標的蛋白をリン酸化することで、エキソサイトーシスを起こし、蛋白質が唾液腺腔内に分泌され、前述のメカニズムによって作り出された唾液の粘度を形成する。

 また、緊張して交感神経が優位になることで、分泌される蛋白量が増え、水分の産生が減る。蒸発する水分量は変わらないため、喉がカラカラで口がねばねばになり、「口が乾く」という状態になる。

 ゆったりした雰囲気でリラックスした環境で食事をするときは、副交感神経が優位となり、唾液が増え胃腸の働きもよく、消化吸収も良くなる。

 一方、「喉の渇き」は、視床下部や脳室周囲器官に存在する「口渇中枢」が活性化することによって起こる。大脳辺縁系で発生する「水を飲みたい」という欲求が中隔核に伝わり、アセチルコリンが分泌され、口渇中枢の一つである脳弓下器官に伝わる。ここには、ニコチン受容体とムスカリン受容体があり、飲水行動の開始と持続的に関わっているとされている(参考文献4)。

 また、緊張すると交感神経活動が高まり、脳内のノルアドレナリン細胞の活性が増加し、脳弓下器官にあるα1受容体、α2受容体、そしてβ受容体も刺激され、喉の渇き感が誘発されて飲水行動を促すことも分かっている。

 この脳弓下器官は、グルタミン酸、ドパミン、オレキシンなどの神経伝達物質を介した神経性の制御も受けている。また唾液腺には、γアミノ酪酸(GABA)やベンゾジアゼピンなどの抑制系の受容体が存在していることから、これらが刺激されると唾液分泌が抑制される(参考文献5)。

 また、アンジオテンシンII、血漿浸透圧、ナトリウムイオンの濃度などでも調節を受けている。脱水や水の飲み過ぎなどによる血漿浸透圧の上下や体積量の変化の情報は、口渇中枢に集められ、飲水行動やバソプレシン分泌などを制御している。バソプレシンは、腎臓で水の再吸収を促進し、生体の水バランスを制御している(参考文献6)。

 激しい嘔吐や下痢、発汗、バソプレシンの不足による尿崩症などで水分を喪失すると高ナトリウム血症となる。ナトリウムが145mEq/Lを超えると口渇のほか、神経系の症状が発現する。

副作用による「乾き」と「渇き」

 副作用による「口の乾き」では、唾液腺細胞への影響が最も大きい。抗コリン作用を有する薬は、ムスカリン受容体に作用し、唾液分泌のメカニズムにおける最初の刺激が封印されるため、「口の乾き」は必発となる。

 抗コリン作用を持つ主な薬剤としては、制吐薬、鎮痙薬、気管支拡張薬、抗不整脈薬、抗ヒスタミン薬、過活動膀胱治療薬、降圧薬、パーキンソン病治療薬、骨格筋弛緩薬、潰瘍治療薬、向精神薬などと幅広い。口の乾きを訴える患者がいた場合は、まずは抗コリン作用を持つ薬剤を服用していないかを確認すべきであろう。

 交感神経刺激作用の強い薬は、副交感神経の抑制を起こすため、当然、唾液の分泌量が低下する。

 さらに、ループ利尿薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、ナトリウム-カリウム-塩素共輸送系を抑制することによって、カルシウム拮抗薬やテオフィリン(商品名テオドール他)などのキサンチン誘導体などは、膜細胞内のカルシウム貯蔵庫からカルシウムイオンの遊離を抑制することによって、水の生成を抑制する。モルヒネなどの麻薬もカルシウムイオンチャネルを抑制し、外分泌腺の分泌を抑制する(参考文献7)。

 副作用で「喉の渇き」が起こるのは、口渇中枢に影響する薬が考えられる。当然、抗コリン薬、交感神経遮断薬によって喉の渇きも引き起こされる。

また、抗ドパミン作用を持つ薬やベンゾジアゼピン系の薬、セロトニンドパミン拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などでも喉の渇きが起こる。

 アミトリプチリン塩酸塩(トリプタノール他)は、唾液腺細胞のα、β受容体、ムスカリン受容体を遮断する。また、バソプレシンの不足によって中枢性尿崩症が起こることがある。炭酸リチウム(リーマス他)や、抗HIV薬のテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(ビリアード)、抗菌薬のイミペネム・シラスタチンナトリウム(チエナム他)、抗ウイルス薬のホスカルネットナトリウム水和物(ホスカビル)などで、バソプレシンの分泌障害が報告されている(参考文献8)。

 降圧薬や利尿薬は、血圧を下げることで、末梢血流量の低下が起こる。これは、水が足りないという、喉の渇きを引き起こす情報となる。

 アルコールの飲み過ぎ、コーヒーなどに含まれるカフェインの取り過ぎも、利尿作用による脱水が起こり、血漿浸透圧が上昇するため、喉の渇きが起こる。もちろん浸透圧性利尿薬や高浸透圧性の造影剤、高血糖を引き起こす副腎皮質ステロイドや抗精神病薬のオランザピン(ジプレキサ)などでも、血糖の上昇で浸透圧が上昇すると、血液から腺腔への水の移動が起こりにくくなり、唾液量が減る。

 一方、抗癌剤のシクロホスファミド水和物(エンドキサン)を術後補助療法に使っている場合、唾液がよく出ることが知られている(参考文献9)。これは、シクロホスファミドにコリンエステラーゼ阻害作用があり、副交感神経を刺激するためと考えられている。

 つまり、コリンエステラーゼ阻害薬の抗認知症薬でも唾液過剰、流涎が見られることがあるということである。涎が出るようであれば、薬が過量のサインと見るべきであろう。

図1 副作用で「乾き」や「渇き」が起こるメカニズム

* * *

 最初の症例を見てみよう。患者は、高血圧治療のために、ニフェジピン(アダラート他)を長期にわたって服用していた。ニフェジピンによる口渇が起こり、そのため水分を多く取っていたことで頻尿が起こった。気になった患者は、薬局でフラボキサート塩酸塩を成分とする一般用医薬品(OTC薬)である頻尿治療薬を購入して服用していた。

 そのことで、ニフェジピンによる口の乾きに、フラボキサート塩酸塩による抗コリン作用が加わり、口渇がよりひどくなったと考えられた。

参考文献
1)Van Nieuw Amerongen A,et al,Caries Res,2004;38:247-53.
2)Dawes C Caries Res 2004;38:236-40.
3)和田育男ら歯界展望2004;103:57-64.
4)稲永清敏ら九州歯会誌2010;64:38-44.
5)大久保みぎわら歯科薬物療法2011;30:126-7.
6)有馬寛Fuluid Management Renaissance 2013;3:62-6.
7)井関雅子ら綜合臨床2003;52:2428-32.
8)重篤副作用対応マニュアル腎性尿崩症
9)川口充DENTAL OUTLOOK 2010;98:722-4.

イラスト:長岡 真理子

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