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個別指導はこう行われる!
日経DI2013年11月号

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

 午前の調剤が終わってホッと一息ついた頃、事務スタッフが1通の封書を持ってきた。見ると厚生局からだ。こんな時期に何? 恐る恐る開けてみたところ、「個別指導」の文字が…… 1)。つ、ついに、わが薬局にも来た。うちの薬局は、大学病院の処方箋を持ってくる患者さんが多く、患者1人当たりの点数が高い 2)。なので、いつかは来ると覚悟はしていたが。

解説

1)保険薬局と保険薬剤師は、療養の給付と保険調剤に関して、健康保険法第73条、国民健康保険法第41条、高齢者の医療の確保に関する法律第66条の規定に基づいて、厚生労働大臣または都道府県知事の指導を受けることが義務付けられている。指導の形態は集団指導、集団的個別指導、個別指導など幾つかあるが、今回デーアイ薬局が受けたのは、地方厚生(支)局と都道府県が共同で、対象となる保険薬局を選定し、個別に面接懇談方式で行う「都道府県個別指導」だ。

2)選定薬局は、地方厚生(支)局によって設置された選定委員会によって決められる。原則として調剤報酬明細書の1件当たりの平均点数が高い保険薬局が対象となる。

 私、橋内和加子は、デーアイ薬局の管理薬剤師になって5年。不正請求なんて考えたこともなしいし、真面目に一生懸命、患者さんのために薬局業務に取り組んできた。でも、やっぱり個別指導は怖い。うちの県は、それほど厳しくないと聞くが 3)、それでも薬歴を見られてここが悪い、あそこが悪いと指摘されて、場合によっては何百万円と返還させられたり、保険薬局の指定を取り消されることもあると聞く。多額の返還をさせられた場合に、ボーナスを減らされたりしたらどうしよう。

解説

3)指導は、「指導大綱」(厚生労働省保険局長通知「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」)に沿って行われ、原則、全国同じ内容であるはず。しかし、実際には都道府県によって差がある。その理由として、地域の状況に合わせた指導が行われることや、悪質な薬局には厳しい指導が行われるなど指導を受ける薬局側の問題、さらには指導官の性格などもあるようだ。

 通知には、3週間後の火曜日に厚生局事務所の会議室に来るように書いてある。開設者と管理薬剤師は必ず、必要に応じて事務責任者も出席する必要があるらしい。また、持参する書類 4)についても記載されている。処方箋や薬歴30人分 5)、業務日誌など、これらを用意するだけでも結構時間がかかる。

解説

4)準備すべき書類は、施設基準にかかる届け出事項関連書類、調剤録、処方箋、薬歴、一部負担金の内訳が分かる日計表、お薬手帳や薬剤情報提供文書の記載内容が分かるもの、業務日誌、薬局の安全管理のための指針、医薬品の安全使用のための業務手順書、開設者と管理薬剤師の略歴、薬局付近の見取り図や薬局の平面図、調剤業務と調剤報酬請求業務の手順についての流れ図─など、多岐にわたる。

5)持参する処方箋や薬歴の対象患者名は、指導日の4日前と1日前に15人ずつに分けて、ファクスで送られてくる。薬歴などの期間は、都道府県によって違いがあり、「対象患者の1年分」とするところや、「対象患者の全ての記録」とするところもある。

 何を聞かれるのかが不安なので、知り合いに聞いてみた。その人は、以前、厚生局から委託されて指導官をしていた薬剤師だ。各地方厚生局のウェブサイトに、「個別指導での主な指摘事項」が掲載されていると教えてくれた 6)。探して目を通したところ、かなり細かいことが書かれている。うちのスタッフはここまで綿密にやっているかしら。また不安になってきた。

解説

6)各地方厚生局では、個別指導の参考になる資料を提供している。例えば、近畿厚生局のウェブサイトにある「保険調剤の理解のために」、九州厚生局や関東信越厚生局のウェブサイトにある「個別指導において保険薬局に改善を求めた指摘事項」など。

 個別指導に持参すべき薬歴の対象患者30人の名前が分かったので、早速、それぞれの薬歴と、処方箋を探した。

 そして薬歴を一人分ずつ見直す。患者さんの疾患や処方薬を確認し、相互作用や適応外使用などをチェック。さらに、薬剤師がどのような服薬指導を行ったか、薬歴にどう記載されているかを確認した。

 先日、相談した元指導官は「個別指導は、準備のときから始まっている」と力説していた。「薬歴に不備があってはいけないが、それ以上に大切なのは、薬剤師が個々の患者さんの状態を把握して、必要だと思う服薬指導を行っているかどうか。指導官はそこも見る」とも言っていた。薬歴の記載は今さらどうにもならないが、患者さんの状態を把握してきちんと説明できるようにしておくことは必要だろう。

 午後の調剤業務が終わった5時半ごろから薬歴を見始めて、既に9時だが、まだ半分も終わっていない。今日は、徹夜になりそうだ。ところで、明日は何を着て行けばいいんだろう 7)。

解説

7)服装は自由だが、相手に与える印象を考えるとあまりラフな格好ではない方がよく、男性はスーツが望ましい。ある指導官の話によると、白衣は不評とのこと。避けた方がよさそうだ。

 今日は、いよいよ個別指導だ。昼すぎに、開設者である社長と事務職員と一緒に会場へ向かった。

 部屋へ入ると、スーツ姿の男性が4人並んでいる。みんな怖そうで、やけに緊張感がある。横にいる社長も緊張の面持ちで、微妙に手が震えている。

 男性の一人が、「本日は、お忙しい中、健康保険法等に基づく個別指導にご協力いただき、ありがとうございます」と、意外なほど丁寧にあいさつをした。自己紹介によると、指導官は委託された薬剤師と、さらに厚生局の事務官が2人、立会人として県薬剤師会の理事が1人だ。

 まず、事務指導官が「薬局の住所、開局時間、管理薬剤師とスタッフの人数と名前をお答えください」と、開設者である社長に聞いてきた。え、そこ? 薬歴のことばかり考えていた私は、ちょっと拍子抜け。でも、社長ったら、スタッフの名前をきちんと答えられない。その人はもう辞めた人なのに。「届け出の名前と違いますね。人が入れ替わった場合にはきちんと届け出てください」と事務指導官。「すみません」と社長は小さくなっていた。

 さらに事務指導官が「調剤の流れを話してください」 8)と言ってきた。えっ、調剤の流れ? いつもやっていることだけど、改めて聞かれると、答えるのが難しい。「処方箋を受け取って、事務スタッフが入力をして、薬剤師が確認して、薬剤調製を行って、鑑査をして、患者さんに交付するときに、服薬指導をしながらもう一度確認をして、お会計をして、患者さんが帰られた後に薬歴を書きます」。「処方鑑査は、どこでするのですか?」「あ、すみません、薬剤調製する前の確認のときに」「会計の計算はいつするのですか」「最初に入力したデータが会計データになります。あ、もちろん、服薬指導をして薬学管理料などに変更があった場合には、データを修正する必要がありますので、最後に確認します」。慌てて、後会計処理であることを主張した。

解説

8)調剤の流れは、薬剤調製を行う前に薬歴を参照して処方しているか、会計処理は服薬指導の後に行うようになっているかなどをチェックされることが多い。事務職員に質問されることもあるので、スムーズに説明できるように事前に練習しておきたい。

 次はいよいよ薬歴のチェックだ。「Aさんですが、4月4日にノルバスク(アムロジピン)が追加になっていますが」。添付文書の用量を大きく超えて処方されているにもかかわらず、疑義照会していないことを指摘された。

 Aさんは、なかなか血圧が下がらず、処方医は降圧薬を変えたり、用量を変えるなど試行錯誤を繰り返してきた。朝食後にコディオMD(一般名バルサルタン・ヒドロクロロチアジド)、夕食後にエックスフォージ(バルサルタン・アムロジピン)が出ていたが、4月4日に「夕食後にノルバスク」が追加になった。

 処方医は循環器科の専門医で、あえて用量を多くしていることは明白だし、血圧が下がらずに苦労していたことも知っているだけに、疑義照会なんてとてもできない。実際、この患者さんは、この処方でやっと血圧が安定したのだ。それでも疑義照会しなくてはいけないのだろうか 9)。思わず抗議しそうになったけど、ここで指導官とけんかしても仕方がない。疑義照会しなかった理由を説明し、今後気を付けると伝えた。

解説

9)添付文書を逸脱した処方については、疑義照会し、その旨と回答内容を処方箋と薬歴に記載する必要がある。逆に言えば、医師への疑義照会の記録があれば、問題にならないことが多い。ただし、個別指導で「薬剤師としてどう考えるか」と聞かれることがあり、「照会してあれば何でも安心」という訳にはいかないようだ。

 そのとき、立会人である県薬剤師会の理事が話しに入ってきて「あーこりゃ、量が多い。疑義照会しないなんてあり得ないね」と一言。同業者なのだから、味方してくれるかと思いきや一緒になって責めるなんて、あんまりだ。何のために会費を払っているのやら。

 Bさんについては、一包化加算 10)を算定しているが、医師による一包化の指示が途中から出ていないこと、一包化の理由が記載されていないことを指摘された。実は、この医院のレセプトコンピューターは、薬が変更になると、一包化の指示が消えてしまうのだ。

解説

10)一包化加算の算定には、医師の指示とともに、一包化の必要性を記載しておく必要がある。治療上の必要がなく患者の希望による一包化は、原則認められないので注意。

 Bさんは86歳で独り暮らし。飲み忘れが多く、薬剤師が1年ほど前に一包化を提案し、医師の指示をもらうようになった。一包化によって残薬が減り、その後も継続して指示をもらっていた。それが、先日、かぜ薬が追加となったことで処方に変更が生じたため、一包化の指示が消えてしまった。その後、医師が、指示を再入力するのを忘れていたのだ。

 「すみません、以前は指示が出ていて、ずっと同じ処方だったので、指示があるものだと思っていました」「そうですか。一包化の指示は、毎回必要ですから。それと一包化の理由も書かれていません」「す、すみません。以後、気を付けます」。謝るしかない。

 Cさんの薬歴では、特定薬剤管理指導加算について指摘された。加算の算定日と、薬歴のハイリスク薬についての指導記録がある日がずれているというのだ。そりゃそうだ。大きな声では言えないが、うちの薬局では特定薬剤管理指導加算の算定は、来局3回に付き1回と決めている。実際は、ハイリスク薬を服用する患者さんには、副作用が出ていないかなど、毎回、確認している。でも、同加算を毎回算定すると査定されると聞いたから、3回に1回と決めているのだ。

 薬歴には特筆すべきことだけ記載するので、加算算定とのタイミングが合わないのは当たり前だ。繰り返し言うが、本当は毎回、副作用を確認して指導をしているのだ。でも、そんなことを言おうものなら、余計なことを突っ込まれかねないので、黙っておいた。

 さらに、特定薬剤管理指導加算については、単に、「ハイリスク薬について、副作用の確認を行った」といった記録ではいけないと指摘された。例えば、「ワーファリンの副作用について、出血傾向がないか、確認した」というように、どの薬のどんな副作用について確認したのかを記載しなければならないという。たった4点なのに、なかなか厳しい。

 Dさんの薬歴では、「手帳紛失」とメモ書きがあり、「患者さんがお薬手帳を紛失したのなら再発行すべき」との指摘を受けた。再発行しようとしたが、Dさんが「もう一度、家の中を探してみる」と言ったため保留にしていた。そのやりとりが3回も繰り返されており、しばらく手帳がない状態が続いていたのだ。「薬剤服用歴管理指導料は、手帳による情報提供も算定要件ですからねえ」と指導官。はい、おっしゃる通りです。

 他にも、ずっとユベラ(トコフェロール)が投与されている患者さんについて、漫然と投与 11)されているのではないかと指摘され、2週間ごとぐらいに効果を確認するよう言われた。

解説

11)他にメチコバール(メコバラミン)やビタミン製剤なども、漫然投与の指摘の対象となりやすい。定期的に効果を確認するようにしたい。

 薬歴の指導を受けている間に、横で事務職員が指導を受けていた。処方箋への鉛筆でのメモ書きについて、「処方欄に薬局が何かを書く権利はない」と厳しく言われたという。さらに、「処方箋に押す調剤済み印が不鮮明」「疑義照会を行った場合には、照会した日時、相手、照会内容、回答内容および照会した薬剤師名を処方箋の備考欄に書く」などを指導されたという。細かい指摘が多いが、事務職員に徹底させるには、良い機会だ。

 そんなこんなで、あっという間に予定の2時間が過ぎ、個別指導が終了した。あー疲れた。

 厚生局から封書が届いた。ドキドキしながら開けると、結果通知書と個別指導指摘事項書、自主返還のための手引などが入っていた。

 結果通知書には「調剤内容及び調剤報酬の請求に関して適正を欠く部分が認められましたが、調剤担当者等の理解も十分得られ改善が期待できるものと思料されますので、経過観察とさせていただくこととします 12)」と書かれていた。特に、大きなおとがめはないようだ。あー良かった。

解説

12)個別指導後は、「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」の4段階で評価される。再指導は、次年度の個別指導で、指摘事項の改善状況を確認される。要監査では、薬局への立ち入り監査が行われ、不正・不当な請求が明らかになれば、保険薬局・保険薬剤師の指定の取り消し、調剤報酬の返還などの厳しい行政処分が下されることがある。

 ただし、1カ月以内に個別指導指摘事項に基づいて改善報告書13)を、厚生局に提出しなくてはならない。また、1.一包化についての医師の指示と必要性の理由が記載されていないのに一包化加算を算定しているもの、2.ハイリスク薬についての指導要点の記載がなく、特定薬剤管理指導加算を算定しているもの、3.お薬手帳による情報提供がなされていないのに薬剤服用歴管理指導料を算定しているもの─について、調剤報酬の自主返還を求められた 14)。

解説

13)改善報告書は、指摘されたことに対してどのように改善するかを記載する。再指導では、改善報告書の内容を基に指導されるため、実行できそうにもない計画を書いてしまうと、自分の首を絞めることになりかねないので注意しよう。

14)自主返還は、指導対象となった患者分のみでなく、指摘を受けた事項に関しては、全患者分(1年間)が対象となる。例えば、薬歴の表紙のフォーマットが、必要な情報が網羅されていないものを使用している場合では、全ての患者の薬歴について不備があると見なされ、全患者分の薬剤服用歴管理指導料を返還させられるケースもある。

 改善報告書は、指摘事項ごとに、どう改善するかを記すもの。「疑義照会を確実に行うようにする」「一包化の理由を記載する」といった具合だ。こちらは、それほど難しくないが、問題は調剤報酬の自主返還だ。保険者別に返還書類を作成する必要があり、結構手間がかかる。そもそも、どれだけ返還すればいいのか悩む。とりあえず、今回、指摘されたBさんの一包化加算30点×3回分、Cさんの特定薬剤管理指導加算4点×2回分、Dさんの薬剤服用歴管理指導料41点×3回分を返還することにしたが、果たしてそれでいいのだろうか。

 それらの書類を送り、何も言われなければ、今回の個別指導に関する業務は終了となる。

 提出書類が多いことや、薬局の営業時間中である平日の午後に呼び出されることなど、薬局にとって負担が大きい点、適応外処方や漫然投与など医師に言ってほしいと思う指摘が多い点など、不満は多々ある。しかし、保険調剤の基本が再確認できて、それなりに勉強になったのも事実だ。

 いずれにしても、薬歴の記載や処方箋の扱いは日ごろから気を付けるように、薬局内で徹底する必要があるとしみじみ感じた。きっとそう思わせることが個別指導の狙いなんだろうな。

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※ここに示した内容は、複数の関係者から聞いてまとめたものであり、地域や状況によって違う場合がある。また、個別指導の内容を理解しやすくするために創作したもので、実際の業務に当たっては、薬剤師の責任に基づいて、実施されたい。

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