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ヒヤリハット事例に学ぶ
子どもの不適正使用と服薬ノンコンプライアンス
日経DI2013年11月号

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

 今回は、8月号に続き、子どもが関わる医薬品のトラブルを紹介する。子どもが起こす医薬品のトラブルで、家族に処方された薬の誤飲や誤使用と並んで多いのが、薬の不適正使用や服薬ノンコンプライアンスである。背景には、処方された剤形がその子どもの発達状況に合わない、学校で周りの目が気になり使用できないなど、子ども特有の問題がある。

 多くの子どもにとっては、薬は嫌なものであり、服薬拒否は普通の出来事である。子どもの薬の不適正使用や服薬ノンコンプライアンスは、保護者と薬剤師が責任を持って防がなければならない。

 今回は、筆者らがインターネット上で運営している薬剤師情報交換システム「アイフィス」の会員や全国薬剤師から寄せられた事例の中から、子どもの薬の不適正使用や服薬ノンコンプライアンスに関するトラブル事例を紹介する。

 なお、筆者らが収集した服薬指導におけるヒヤリハット・ミス事例は、無料で閲覧が可能である。入会申し込みは、NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンターのウェブサイト「アイフィス(薬剤師)」コーナーから(http://www.iphiss.jp/i-phiss/i-phiss.html)。

*薬歴によると、患者は気管支喘息と診断されている。

■何が起こった

 キプレス錠(一般名モンテルカストナトリウム)を、口の中で溶かして服用するものと思い込み、なかなか溶けないのでかみ砕いて服用した。

■どのような経緯で起こったか

 ここ2~3年、患児にはキプレスチュアブル錠が処方されていたが、患児が11歳になったため、前回からキプレス錠に変更された。薬剤師は患児と母親に対して剤形が変更になったことしか伝えていなかった。

 今回の来局時に、「前回もらった薬は、口の中で溶けにくいようです」と母親が話したため、薬剤師が確認したところ、患児はキプレス錠をガリガリとかみ砕いてから飲み込んでいたことが判明した。


剤形の変更時には、飲み方も必ず説明

 薬剤師は、チュアブル錠が処方された場合にはいつも、飲み方を詳しく患者に伝えていた。しかし、今回、チュアブル錠から腸溶錠に変更された際には、錠剤の特質(フィルムコーティング錠であること)や服用方法を説明しなかった。数年にわたりチュアブル錠を服用してきた患児にとっては、薬は口の中で溶かして服用するものであり、水と一緒に飲み込むものとは思わなかった。剤形の変更時には、服用方法の違いを丁寧に説明すべきである。

 また、例えば、8歳の子どもに、飲みやすいと思って粉薬を出したが、その子は錠剤の方がうまく服用できたという例もある。剤形については、患児や保護者と相談し、医師とも連携を図りながら、子どもが確実に飲めるものを選ぶようにしたい。

 今回のケースでは、薬剤師は患児の保護者に次のように説明すればよかった。「これまでは、口の中で溶かすか、かみ砕いて服用するタイプのお薬でしたね。ですが、今回からお飲みになるお薬は、錠剤の表面がコーティングされていて、おなかの中で成分が溶け出すタイプのお薬です。ですので、水または白湯と一緒に、そのまま飲ませるようにしてください。以前のように口の中で溶かしたり、かみ砕いたりしないよう、お子さんに伝えてくださいね」。

*薬歴によると、患者には食物アレルギーがある。

■何が起こったか

 給食前に服用すべきインタール(クロモグリク酸ナトリウム)を、食事の2時間前に服用し、食物アレルギーが悪化した。

■どのような経緯で起こったか

 患児は最近、父親の転勤に伴い転居し、別の小学校に転校した。それまで通学していた小学校のクラスメートや教諭は、患児が食物アレルギーであることをよく知っており、患児が給食の前に薬を飲んでも、それを気に留める生徒はいなかった。

 しかし、新しい学校では転校して間もないこともあり、患児が給食前に薬を服薬するのを、クラスメートが珍しがった。そのため患児は、食事の2時間前にトイレでこっそり薬を服用するようになった。その結果、十分な薬効が得られず食物アレルギーが急に悪化した。

 心配した両親が、服薬時点を守っているか患児に聞いたところ、本件が発覚し、医師や薬剤師にも報告された。


担任やクラスメートの理解を得る

 インタール細粒は、抗原食物の侵入前に服用することで、消化管をコーティングし、抗原食物の侵入を阻止する。そのため、食事の前に服用する必要があるが、服用から食事までの時間が長過ぎると、十分に効果を発揮しない可能性がある。

 患児は、転校という環境の変化によって、給食前の服薬が、食事の2時間前になった。同様に、9歳の子どもが、学校で吸入ステロイドを使用するのを恥ずかしがり、いつもトイレで使用していたが、友達から「トイレで何かやっているの?」と聞かれて、使用しなくなった例なども報告されている。

 子どもが学校や幼稚園などで薬を飲む必要がある場合には、服薬環境や周囲の理解があるかを確認する。服薬しづらい環境にいる場合は、保護者に対し、患児の疾患や服用する薬を担任教諭などに伝え、クラスメートの理解を得るための対応をしてもらうようアドバイスする。

 今回のケースでは、薬剤師は次のように説明すればよかった。「お子様はこちらの学校に転校してこられたのですね。このインタールは給食前に飲む必要がありますが、新しいクラスに慣れるまでは、お友達の前で薬を服用することに、少し抵抗を感じるかもしれないですね。お子様が食物アレルギーであることや、そのために給食の前に薬を服用しなければならないことを、担任の先生にお伝えして、先生からクラスメートに説明してもらうと、お子様は学校でお薬が飲みやすくなると思いますよ」。

■何が起こったか

 自宅残薬のセレスタミン(ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩配合薬)を子どもが自己判断で服用し、ステロイドざ瘡ができた。

■どのような経緯で起こったか

 患児は数カ月前から、顔のざ創(にきび)の治療のため、皮膚科診療所に通院しており、当薬局で処方箋を応需していた。ある日、〈処方箋1〉を持って、患児が保護者と来局した。ざ創が改善していたのでしばらく受診しなかったが、最近悪化してきたのでまた受診したとのことだった。

 薬剤師が併用薬を確認すると、患児は近隣の内科診療所で昨年処方された花粉症の薬を、1カ月ほど前から服用していることが分かった。花粉症の薬は別の薬局で受け取っており、その場で薬剤名は把握できなかった。またこのことは皮膚科医には知らされていなかった。

 薬剤師は、花粉症の薬はたぶん抗アレルギー薬なので、〈処方箋1〉の薬との併用は問題ないだろうと考えた。しかし、今後皮膚科で抗アレルギー薬が処方される可能性もあるので、帰宅したら服用中の薬の名前を電話で知らせるよう伝えた。同日、患児の保護者より薬局に電話があり、花粉症の薬はセレスタミンであると判明した。

 セレスタミンは、1年ほど前に患児の花粉症に対し処方されたものだった。それを患児が自己判断で服用していたが、昨年も飲んでいた薬だったので、保護者も特に気にしなかったという。薬剤師は、患児のざ創悪化がセレスタミン過量服用による可能性を考え、翌朝、皮膚科診療所に報告書を提出。その後、皮膚科医から薬局に電話があり、なるべく早く診察したいとのことだった。同日の夜に患児の保護者と連絡が取れ、すぐに皮膚科を受診させるとの回答を得た。

 患児は2日後に皮膚科を受診。その時には、残薬のセレスタミンはほとんどなくなり、1日1回夕食後に服用していた。セレスタミンは、患児や保護者の自己判断で突然中止すると離脱症状を起こす恐れがある。そのためセレスタミンは、引き続き5日間服用してから中止することになった。薬剤師は、皮膚科医と相談して残薬を整理した。患児の手元には残薬が1剤あったため、セレスタミンは4錠(4日分)処方された〈処方箋2〉。


残薬は事故の元。お薬手帳で服薬歴を把握

 薬剤師は、患児が残薬を服用することを想定しておらず、また、1年前に患児に処方された花粉症の薬がセレスタミンであるとは思いもよらなかった。また、このケースでは、お薬手帳の必要性を患者に十分に理解してもらえていなかったことも問題と考えられる。

 薬剤師は、自宅残薬を確認し、患者が残薬を自己判断で服用する可能性を常に考慮する必要ある。特に、子どもは、大人には想像できないような行動を起こすことがあるので注意が必要である。

 今回のケースでは、皮膚科診療所の初診時に、薬剤師は患児やその保護者に次のように説明すればよかった。「家に飲み残したお薬が余っていませんか。余ったお薬はご自分の判断で服用されると危険ですので、飲む前に医師や薬剤師に相談してくださいね。薬局でお薬を整理することができますので、よろしければ次回来局時に、余ったお薬をお持ちください」。

(東京大学大学院教授 薬学系研究科
医薬品情報学講座・澤田康文)

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