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適応外処方のエビデンス
ラフチジンで舌痛症や乳癌術後の疼痛を軽減
日経DI2013年11月号

2013/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年11月号 No.193

疾患概念・病態

 舌痛症は、舌に明らかな器質的異常がなく、臨床検査値にも問題がないにもかかわらず、舌部に痛みを生じる疾患である。患者は舌尖部や舌縁部にひりひり感やぴりぴり感を訴える。心因性と考えられることも多いが、神経因性疼痛の可能性も指摘されている。

 乳房切除後疼痛症候群(Post Mastectomy Pain Syndrome:PMPS)は、乳癌手術後に患者が乳房、腋窩、上腕にかけてひりひりした痛みを感じる病態である。皮膚に衣服が触れただけで痛みが増強するなど、不快な感覚異常(アロディニア)を生じることもある1、2)。通常、抗炎症薬は奏効しない。原因は、肋間上腕神経の損傷による神経因性疼痛と考えられている。

治療の現状

 舌痛症には適応がある医薬品はなく、心理的な要因が強いことから、抗不安薬、抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬が適応外使用されている。

 PMPSには、消炎鎮痛薬では効果がなく、プレガバリン(商品名リリカ)が使用されるほか、神経因性疼痛に効果が認められている三環系抗うつ薬や抗てんかん薬が適応外使用されている。しかし、眠気、めまい、頭痛、複視、倦怠感などの副作用が問題になっている。

 いずれの疾患にも様々な治療が行われているが、効果が得られないケースがある。そのような場合に、H2受容体拮抗薬のラフチジン(プロテカジン他)を使った治療が試みられている。

 ラフチジンは、H2受容体拮抗作用による胃酸分泌抑制作用に加え、カプサイシン感受性知覚神経を介した胃粘膜防御作用を持つ胃潰瘍治療薬である。

 加えて、ラフチジンはカプサイシン感受性知覚神経に作用して、求心性の知覚神経を選択的に麻痺させる作用があると考えられている。そのため、舌痛症、PMPSに対して、疼痛への効果を期待してラフチジンが適応外処方されている(表1、PE18ページ別掲記事参照)。

表1 乳房切除後疼痛症候群患者へのラフチジンの処方例

ラフチジンの有効性

 舌痛症に対して、患者54例(男性14例、女性40例、年齢39~88歳、平均年齢64.7歳)を対象とし、29例にはラフチジン20mg/日、25例には抗不安薬のクロチアゼパム15mg/日を8週間経口投与した3)。

 その結果、疼痛の強さの評価指標であるビジュアル・アナログ・スケール(VAS、0~100、数値が高いほど痛みが強い)は、ラフチジン投与前は平均47.8±22.6、投与2週後25.6±23.5、4週後11.7±12.2、6週後12.2±16.3、8週後10.2±16.0と下がり、有意に改善した。

 一方、クロチアゼパム投与前のVAS平均値は47.0±21.6であったが、投与2週後40.5±21.5、4週後40.3±22.7、6および8週後40.2±22.7とほとんど変化しなかった。

 PMPSに対しては、乳癌手術後、乳房、乳頭や腋窩、上腕内側皮膚に焼けるような感じ、ぴりぴりとした痛み、ちくちく感、軽く擦れるだけで生じる痛み(アロディニア)などの不快な感覚異常を訴えた41例(年齢33~78歳、中央値50歳)を対象とした2)。原則として、ラフチジン1回10mgを1日2回経口投与し、術後のラフチジンの服用開始時期は2日~3年で、中央値は6カ月だった。

 その結果、自覚症状の評価は、有効33例、不変8例、増悪0例だった。ラフチジン投与後2~4日で効果が発現する場合が多く、2週間以上服用しても有効とならなければ効果が出なかった。

 感覚異常が改善し、一定期間服用後に服用を中止した23例では、中止後に痛みが増強しなかったが、4例は中止後に痛みが増強した。副作用は、頭痛2例、頭痛と嘔気1例、手の痺れ感1例だった。

作用機序

 ラフチジンの神経因性疼痛への作用機序は、完全には明らかになっていないが、ラフチジンが求心性の知覚神経を選択的に麻痺させることで、舌痛症やPMPSの疼痛や違和感に効果を示すと考えられている。

 また、ラフチジンは、カプサイシン感受性知覚神経にあるバニロイド受容体(VR1)を介して、神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を産生・遊離する。CGRPは粘膜血管に作用し、一酸化窒素(NO)による血管拡張作用を惹起して血流を増加させる。この作用も、舌痛症やPMPSなどの神経因性疼痛を軽減すると考えられている。

適応外使用を見抜くポイント

 ラフチジンが単独で処方されている場合、適応外使用であるかを判断するのは極めて困難である。従って、患者へのインタビューにより判断する。

 インタビューの際には、痛みというキーワードを聞き出すとよい。舌痛症では抗不安薬や抗うつ薬が、またPMPSの場合は乳癌治療薬や抗うつ薬などが併用されていることがあるので、その場合には見抜きやすい。ただし、胃腸症状など本来の適応症が目的の場合もあり注意が必要である。

口内炎の疼痛緩和と治癒促進を期待した使用も

 H2受容体拮抗作用による胃酸分泌抑制作用に加え、カプサイシン感受性知覚神経を介して胃粘膜を防御する作用を持つラフチジン。カプサイシン感受性知覚神経は、胃粘膜だけでなく口腔粘膜にも多く存在するため、口内炎の疼痛を軽減し、口腔粘膜の治癒を早める目的でもラフチジンが適応外使用されることがある。

 口内炎患者26例(男性10例、女性16例、年齢27~76歳、中央値47歳)に、ラフチジン1回10mgを1日2回、朝食後と夕食後あるいは就寝前に経口投与した4)。疼痛への効果判定は、フェーススケールを用いて5段階(数値が低いほど不満度が高い)で評価した。3段階以上の改善を著効、1~2段階の改善を有効とした。口内炎の病態は、4段階(0:病変なし、1:粘膜の紅斑、2:斑状潰瘍または偽膜、3:融合した潰瘍または偽膜、わずかな外傷)で評価した。

 その結果、フェーススケールによる疼痛スコアは治療前2.12±0.53から治療後4.12±1.24と上昇し、有意に改善した(P<0.01)。著効65%、有効以上81%で、ラフチジン投与1週間後から効果を認めた。口内炎病態スコアも、治療前2.12±0.6から治療後0.62±0.99と減少し、有意な改善効果を認めた(P <0.01)。

 口内炎タイプ別の検討では、アフタ性口内炎や通常の口内炎は、有意な改善効果を認めた(P<0.01)。また、難治性口内炎やウイルス性口内炎においても、有意ではなかったが改善効果を認めた。放射線性口内炎と扁平苔癬による口内炎では効果は認められなかった。

参考文献
1)矢形寛他編集「整合性からみた乳房温存治療ハンドブック」(メディカル・サイエンス・インターナショナル、2010)
2)乳癌の臨床 2011;26:593-6.
3)口科誌 2003;52:188-94.
4)Prog.Med. 2009;29:187-91.

講師 藤原 豊博
AIメディカル・ラボ、薬剤師
2000年から「月刊薬事」(じほう)で適応外処方に関する連載を開始。同連載をまとめた3分冊の『疾患・医薬品から引ける適応外使用論文検索ガイド』(じほう)が刊行されている。

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