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漢方のエッセンス
白虎加人参湯
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 熱邪は病気や体調不良の原因(病因)の一つであるが、その熱邪が患者のどこに存在するか、勢いはどれくらいか、などによって多種多様な症候や病変(熱証)が表れる。漢方では、熱証を呈する病気(熱病)に対し、一律に清熱剤で熱を冷ましてしまうのではなく、患者の証に従って様々な方剤を使い、熱病の根本治療を進める。

 例えば熱病の初期には悪寒や頭痛が見られるが、ひどくなると熱感が強まり、口の渇きが生じる。さらに悪化すると高熱を発し、うわ言を言うなど、意識にも影響が及び、さらに進むと出血を来すようになる。漢方では、それぞれの段階に応じて処方を使い分ける。

 白虎湯(びゃっことう)や白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)は、体内のやや深い所に存在する熱邪が、人の免疫力や抵抗力(正気[せいき])と激しく争っている時に使う処方である。

どんな人に効きますか

 白虎加人参湯は、「気分熱盛(きぶんねっせい)、胃熱、気陰両虚(きいんりょうきょ)」証を改善する処方である。

 熱病の証を判断する方法(弁証)の一つ「衛気営血(えきえいけつ)弁証」において病邪が裏に入った病態を「気分」証というが、「気分熱盛」証は、体内に侵入した熱邪が勢い盛んな状態で「気分」に滞在し、正気と激しく争っている状態を指す(用語解説 1)。

 熱病の別の弁証法である「六経(ろっけい)弁証」では、陽明病の「陽明経」証に当たる。陽明胃経(用語解説2)が走る頭部、鼻、口腔、咽喉部、頸部、脾胃、鼠径部に熱証が生じやすい。

 気分熱盛証においては、胃を中心に(胃熱)、体内に強い熱邪が存在している。正気は衰えておらず、まだまだ強い。従って、正気と邪気(熱邪)とが体内で激しく争っているため、比較的高い熱、あるいは熱感が出て、汗が多く出る。悪寒はない。顔面紅潮、ほてり、口渇、口臭、腹部膨満感、味覚の減退、体が重だるい、うわ言など精神の乱れ、不眠、尿失禁、脂性肌、頭痛、手足先の冷え(熱厥[ねっけつ])などの症状も表れる。舌は赤く、黄色い舌苔が付着する。ここまでが熱を体外に発散させる白虎湯の適応証である。高熱、口渇、多汗、力強い脈が四大症状とされる。

 さらに熱が強まると、津液が損傷する。津液の消耗が激しくなると口渇がひどくなり、水分を補給してもなかなか癒されない。胸部の熱感や閉塞感、胸苦しさ、胸部がざわざわとした落ち着かない不快感(心煩)、濃い色の尿なども見られる。また、熱に伴う発汗で津液が皮膚から失われる時に、気も一緒に漏れ出て消耗し、気虚証となる。これが「気陰両虚」証(気陰両虚の陰は、津液と同義)。この証になると、白虎湯が適する証で見られる症候に加えて、息切れ、無力感、疲労倦怠感、背部の軽度の悪寒など、気虚の症候が見られるようになる。舌は白虎湯の場合よりも乾燥が進むので潤いが少なく、黄色い舌苔も乾燥する。ここまで来ると、白虎加人参湯の適応証となる。

 臨床応用範囲は、慢性胃炎、急性肝炎、気管支炎、肺炎、インフルエンザ、熱中症、日本脳炎、糖尿病、甲状腺機能亢進症、高血圧、てんかん、慢性関節リウマチ、副鼻腔炎、歯周病、口内炎、咽頭炎、結膜炎、歯痛、皮膚炎、湿疹、乾癬、夜尿症、レイノー病などで、気分熱盛、胃熱、気陰両虚の症候を呈するものである。

どんな処方ですか

 配合生薬は、石膏、知母(ちも)、甘草、粳米(こうべい)、人参の五味である。

 白虎湯の君薬の石膏は胃熱を冷まし、熱を体外に発散させる(解肌透表[げきとうひょう])。特に陽明胃経の熱を冷ます働きが強い。心煩を和らげ、口渇を癒す。知母は臣薬として胃熱を冷まし(清熱瀉火[せいねつしゃか])、熱による陰液の消耗を防ぎ(滋陰潤燥[じいんじゅんそう])、君薬の働きを助ける。血糖降下作用もある。甘草と粳米は佐薬として気と津液を補って(益気生津[えっきせいしん])、胃を守り、君臣薬の働きを助ける。また寒性の強い清熱剤である石膏や知母の刺激から胃を守る。さらに甘草は使薬として、諸薬の薬性を調和させる。白虎加人参湯においては人参が気を補いつつ(補気)、胃の津液を補い、口渇を解消させる。

 以上、白虎加人参湯の効能を「清熱瀉火、益気生津」という。五味の生薬の相互作用により、正気を損傷することなく、邪気を除去する。中国では、人参の代わりに、人参より滋陰清熱効果が高い西洋参がしばしば使われる。

 石膏には、胃だけでなく肺の熱を冷ます力もある(肺・胃の経脈に入る)。胃熱を冷ます場合は本方のように知母と組み合わせるが、肺熱を除去したい場合は、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)のように、麻黄と組み合わせる。

 津液の損傷が激しい場合は麦門冬湯(ばくもんどうとう)を合わせるか、竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)を使う。糖尿病で腎陰虚証(用語解説3)が明らかな場合は六味地黄丸(ろくみじおうがん)を合方する。悪寒と熱感を繰り返す症状(往来寒熱)があれば小柴胡湯(しょうさいことう)などの柴胡剤を合わせる。のぼせなど陽気が強い場合は白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう)がよい。

 胃の熱が、今回の証のように体外に発散しようとせず、体内にこもって便を乾燥させ、便秘に至らしめる場合もある。この場合は陽明病の陽明腑証に当たり、「熱結(ねっけつ)」証と呼ばれ、大承気湯(だいじょうきとう)などの承気湯類を使う。本方と合わせてもよい。

 寒性が強く、冷え症、舌の色が白っぽいなど寒証が見られる人には使わない。また熱証でも、陰虚証で生じた虚熱(用語解説4)には用いない。

 出典は『傷寒論』である。前述の六経弁証は、この『傷寒論』で展開される弁証法である。

こんな患者さんに…【1】

「皮膚が痒くて仕方ありません。寝ている間に掻きむしっているようです」

 皮膚は乾燥気味で、患部は赤く、熱がこもっているように感じる。気分熱盛、陰虚証とみて本方を使用。痒みは次第に治まり、3カ月で完治した。熱感がなければ当帰飲子(とうきいんし)を検討する。

こんな患者さんに…【2】

「慢性的な鼻詰まりです。粘性の鼻汁が少し出ます」

 味の濃い料理や酒を好む。口内炎ができやすく、口臭がある。胃熱証とみて本方を使用した。4カ月で鼻が通るようになった。その後、口臭もなくなった。口内炎もできなくなった。

用語解説

1)熱病は、病邪が出現した発病初期を過ぎると、正気との争いが激しい熱盛期に入る。正気が強く病邪が衰えれば回復期に入る。正気が弱いと病状が悪化していく。
2)陽明胃経は経絡の一つ。経絡とは、気・血・津液が体内を運行する通路。
3)腎陰虚証は、成長・発育・生殖や体液の調節をつかさどる五臓の腎の陰液が不足した状態。糖尿病の場合、多尿、のぼせ、手足のほてり、寝汗などの症候が見られる。
4)虚熱とは、津液が損傷した(陰虚証)ために相対的に生じる熱証。熱そのものに勢いがある(実熱)のではなく、熱とバランスを取っていた津液が減ったために表れてくる。本方が有効なのは、虚熱ではなく実熱。

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