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検査値のミカタ
血液凝固能
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

中村 敏明、政田 幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部)

 近年登場した新規抗凝固薬は、細かな用量調節が不要であることから、急速に普及しています。一方で、これらの新薬による重篤な出血も報告されています。適正使用のために欠かせない、血液凝固能に関する検査値の見方について学びましょう。(中村)

検査値の意味と測定法

 生体内における血液凝固のメカニズムを図1に示す。

 血液凝固能に関する主な検査項目には、(1)プロトロンビン時間(PT)、(2)プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)、(3)活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、(4)トロンボテスト(TT)─などがある(補足説明a)。順に検査値の意味と測定法を解説する。なお、基準値は検査機器や試薬によって異なるため、各医療機関で設定されていることが多い。ここでは一例を示す。

図1 生理的血栓の形成機序(凝固カスケード)

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 血栓には、血管の傷害部位で形成される生理的な止血血栓(外因系)と、血液のうっ滞や血液成分の変化などの異常によって血管内で形成される病的血栓(内因系)がある。病的血栓の3大要因として、血管壁の性状変化、血流の変化、血液成分の変化─が挙げられる。いずれも、血液中の12種類の凝固因子(第I~XIII因子、第VI子は欠番)が次々と活性化されることによって血液凝固反応が進み、不溶性のフィブリンが生成される。

 外因系ではまず、外傷などによって血管や組織が傷害されると、内皮下組織から漏れ出した組織トロンボプラスチンが血液中の第VII因子と結合して、活性化第VII(VIIa)因子となる。一方、内因系では、皮下組織と血液の接触が引き金となって血小板が凝集し、さらに活性化血小板から放出される物質に第XII因子が結合して、活性化第XII(XIIa)因子となる。

 外因系、内因系とも第X因子の活性化以降の流れは共通であり(共通系)、最終的に大量のトロンビンが生成される。トロンビンは蛋白質分解酵素の一つであり、フィブリンの形成や凝固反応の増幅、血小板の活性化など、様々な生理機能を担っている。

プロトロンビン時間(PT):
 外因系・共通系の凝固活性化異常のスクリーニング検査のほか、ワルファリンカリウム(商品名ワーファリン他)投与時のモニタリングにも用いられる。先天性第II・V・VII・X因子欠乏症や先天性無フィブリノゲン血症、ワルファリン投与時などに、PTの延長(活性の低下)が認められる(補足説明b)。

 クエン酸加血漿にカルシウムと組織トロンボプラスチンの試薬を加えた時の凝固時間(フィブリン形成までの時間)を、溶液の濁度や粘度の変化などで測定する。基準値はPTで10~12秒(活性値で80~120%)。

プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR):
 PTの測定に用いる組織トロンボプラスチンが生物由来のため、PTの値は用いる試薬によってばらつきが生じる。そのため、標準化された値であるPT-INRを用いることが推奨されている。PT-INRは、試薬ごとに設定された国際感受性指標(ISI)を用い、PT-INR=(検体PT/コントロールPT)ISIという換算式から算出する。基準値は0.85~1.15。

 日本循環器学会は、血栓塞栓症の発症予防のためのコントロール目標値として、70歳未満では2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6を提示している。

活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT):
 内因系・共通系の凝固活性化異常のスクリーニング検査として用いられる。血友病A(第VIII因子欠損)および血友病B(第IX因子欠損)、先天性無フィブリノゲン血症、ヘパリン投与などでAPTTの延長が認められる。

 クエン酸加血漿に、リン脂質と活性化剤(セファリンなど)とカルシウムを加えた時の凝固時間を測定する。基準値は20~40秒。

トロンボテスト(TT):
 外因系凝固因子のうち、ビタミンK依存性凝固因子(プロトンビン[II]、VII、X)の活性低下を評価できる。

 トロンボテスト試薬(フィブリノゲンや第V因子を含む吸着血漿を組織トロンボプラスチンに添加したもの)を用い、凝固時間を測定する。標準血漿により検量線を作成し、活性を%で表す。基準値は70~130%。ワルファリン投与時に凝固時間の延長(活性低下)が認められる。

 一般にTTとPT-INRは逆相関の関係にあり、TTは値が小さいほど、PT-INRは値が大きいほど、抗凝固薬の効果が強い(血液凝固しにくい)状態であることを示す。PT-INRのコントロール目標域(1.6~2.8)はTTでは10~25%に相当する。世界的に、ワルファリン投与時のモニタリングにはPT-INRが用いられる傾向にあるが、フィブリノゲンや第V因子の影響を受けないTTを用いる医師もいる。

薬局における活用法

 血液凝固能の検査値は、抗凝固療法におけるコントロール状態の把握や出血リスクの評価、ワルファリンの用量調節の指標として用いられる。

 ワルファリンは、肝臓におけるビタミンK依存性凝固因子の合成を阻害する(図1)。一方、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ)は、トロンビンの活性部位に競合的かつ可逆的に結合し、フィブリノゲンからフィブリンへの変換を抑制する。また、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)は、活性化凝固第X(Xa)因子を阻害する。

 外因性の出血に対する凝固カスケード反応は、第VII因子の活性化から始まることから、第VII因子の合成を阻害するワルファリンが過剰に作用した場合、大出血を起こすリスクが高くなると考えられる。そのため、ワルファリンの導入時には、PT-INRやTTを指標とした厳格な凝固能の管理の下、維持投与量が決定される。

 外来におけるワルファリン導入では通常、1日1回1mgから開始し、週1回の血液凝固能検査の結果に基づき0.5~1mgずつ増減する。1~数カ月かけてPT-INRがコントロール目標域に収まるように維持量を決める。維持量に達した後も、月1~2回は血液凝固能検査を実施し、コントロール目標域にあることを確認するのが望ましい(補足説明c)。

 前述のように、血栓塞栓症の発症予防のためのPT-INRのコントロール目標値は、70歳未満では2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6である。ここで、PT-INRは国際的に標準化された値であるが、コントロール目標値は日本と海外では異なる点に留意したい。

 70歳未満の目標値は欧米と共通で、PT-INRが2.0を下回ると明らかに血栓塞栓症が増加し、逆に3.1~3.5を上回ると頭蓋内出血が増えるとする研究結果などに基づいている。

 これに対し、70歳以上の目標値は日本独自の指標である。欧米人に比べ日本人では頭蓋内出血のリスクが高いことから、致死的な出血性脳卒中を回避するため低めに設定されている。ただし最近は、70歳未満の患者や1次予防の患者を含む集団においても、至適PT-INRは1.6~2.6であることが示唆されており(Circ J.2013;77:2264-70.)、年齢にかかわらず1.6~2.6をコントロール目標値とする施設もある。

 薬局ではワルファリンを投与されている患者に対し、定期的に血液凝固能の検査が実施されているかどうかを確認すべきである。凝固能の変動が見られた場合は、服薬コンプライアンスや併用薬、体調、生活習慣などに変化がないかどうかを聞き取り、必要に応じて医師にフィードバックするようにしたい(ケース参照)。

ケース■77歳男性、Uさん

主な病歴:
慢性腎不全、高血圧、右膝窩動脈瘤、腹部大動脈瘤、大腸憩室炎、前立腺肥大
処方薬:
アムロジピンベシル酸塩、カルベジロール、タムスロシン塩酸塩、シロスタゾール、テルミサルタン、ワルファリンカリウム、乳酸菌製剤


 ワルファリン2.5mg/日を服用中のUさん。PT-INRは2.2~2.6の間でコントロールされていた。ある日、循環器科診療所の受診後に薬局を訪れた際、薬剤師がUさんにPT-INRを聞いた結果、4.8に上昇していることが判明した。出血傾向は認めていない。

 薬剤師がUさんに病状を確認したところ、6日前に胃痛のため別の消化器科診療所を受診し、H2受容体拮抗薬のシメチジン200mg/日が処方されていることが分かった。ワルファリンは肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)1A2、2C9、3A4などで代謝されるのに対し、シメチジンはCYP阻害作用を持つため、両者は併用注意となっている。

 そこで薬剤師は、Uさんに引き続き出血傾向に注意するよう指導するとともに、消化器科医に対し、シメチジンからプロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾールに変更するよう提案した。なお、PPIの中でもオメプラゾールはワルファリンの代謝を抑制して効果を増強させる恐れがあるため、併用注意となっている。

 UさんのPT-INRは、シメチジンの中止から2日後に4.1、10日後に2.8まで低下し、その後は併用前のレベルに落ち着いた。

 ダビガトランなどの新規抗凝固薬は、薬理作用上、共通系で凝固因子の作用を特異的かつ可逆的に阻害することから、ワルファリンに比べて大出血のリスクは低いと期待されている。

 ただし、抗凝固療法中は常に出血リスクに注意を払うことが重要である。薬局での服薬指導時に、重大な出血の兆候を聴取した場合は、すぐに処方医に連絡して対応法を協議したい。

補足説明
a)血液凝固に関する検査項目には、このほか、フィブリノゲン(Fbg)、フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)、Dダイマーもある。外来診療で用いられることはまれだが、薬局薬剤師も概要を知っておきたい。
Fbgは、肝実質細胞で産生される物質で、トロンビンにより活性化フィブリンモノマーとなり、さらに第XIII因子の作用を受けて安定化フィブリンとなる。基準値は200~400mg/dL。感染症などの炎症性疾患や妊娠によって増加する。肝硬変や劇症肝炎、播種性血管内凝固症候群(DIC)などで低下する。
FDPとDダイマーは、形成された血栓を溶解する線溶現象の指標であり、DICや血栓症(深部静脈血栓症、肺梗塞など)、凝固亢進状態などで高値を示す。いずれも標準化されておらず、測定法によって基準値は異なる。
線溶系亢進の原因を検索する際は、これらの3つの検査項目を総合的に評価する。
b)PTとTTは、ビタミンK欠乏症や肝疾患、DICなどでも延長(TTの場合は活性低下)を認める。
c)最近、ワルファリンによるPT-INRのコントロール状態の目安として、TTR(time in therapeutic range)が用いられつつある。TTRは、全投与期間に占めるPT-INR目標達成期間の割合を表したもの。近年の心房細動患者を対象とした大規模臨床試験でも採用されており、目標値はTTR≧60%とされていることが多い。

中村先生のひとくちコラム

 ワルファリンと異なり、新規抗凝固薬の効果や出血リスクを評価する指標は確立されていません。

 ダビガトランのモニタリング指標として、海外では、血中濃度と直線的な相関関係を示し、かつ反応性が良いエカリン凝固時間(ECT)が使われています。ただ日本では一般的ではなく、代わりに、血中濃度と曲線的な相関関係を示すAPTT比を使用する医師が増えています。

 その他の新規抗凝固薬については、薬理作用の面から抗第Xa因子活性の測定が有用と考えられていますが、こちらも測定は一般的ではなく標準化も行われていません。

 もっとも、PT-INRを含むいずれの検査値も、生体内の凝固能をリアルタイムに反映するものではありません。結局のところ、出血リスクを最小限にするためには、きめ細かな症状の聞き取りが重要なのです。

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