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副作用症状のメカニズム
せん妄:「認知症になった?!」
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年8月号 No.190

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。

症例
 65歳女性、大腸癌の手術を受けて入院中。娘が、一般用医薬品(OTC薬)を購入するために来局した。薬剤師が母親の様子を聞いたところ、「手術はうまくいったが、少し様子がおかしい」と不安を見せた。さらに聞くと、昨晩、見舞いに行ったところ、イライラしていて「殺される」と口走ったり、点滴のチューブを引き抜こうとしたという。慌てて看護師を呼び、その後、睡眠薬を服用させてやっと落ち着いた。看護師によると、ここ最近、夕方になるとこういう状態になるが、翌朝には落ち着いて、暴れたことを全く覚えていない様子とのこと。娘は「手術で人格が変わってしまったようだ。痴呆になったのではないか」と心配していた。

せん妄とは

 精神障害の診断基準であるDSM-IV-TRによると、せん妄とは「認知症では説明できない認知機能の障害(具体的には、記憶が欠けていたり、どこにいるのか分からなくなる見当識障害、言語障害など)を伴う、急性で可逆的な意識水準の変化した状態」をいう(参考文献1)。

 意識レベルの低下を背景に、イライラ、不安、不眠を伴ったり、幻覚や妄想を認めたり、興奮することもある。興奮が軽症で独り言を認める程度の場合もあるが、激しい場合には徘徊や暴言、暴力を認めることもある。

 通常は、数時間から数日で急に発症し、1日のうちに状態が変動する。また、夕方から夜間にかけて悪化する傾向がある。

 認知症との大きな違いは、この時間的経過である。認知症は発症が緩徐で、経過も慢性的で日内変動は少なく、意識障害や幻覚が少ない(参考文献2)。

 癌で入院中の患者では約25%、終末期では85%もの患者でせん妄が認められるといわれている(参考文献2)。特に、入院中の高齢者の10~30%程度は、入院期間中にせん妄を経験するといわれている。

 さらに、高齢者の入院患者でせん妄が起きた場合、入院中の死亡率は、20~75%にも達するとされている(参考文献3)。高齢者が入院中にせん妄を起こした場合、合併症により入院期間が長期化し、退院後にも影響する。

せん妄のメカニズム

 せん妄がなぜ起こるのかは、完全には解明されていない。しかし、主な機序として、コリン作動性およびドパミン作動性の神経伝達の変調が密接に関与していると考えられている(参考文献1)。

 例えば、何らかのストレスがかかるとノルアドレナリンやドパミン、グルココルチコイドなどの分泌亢進や活性亢進が起こり、交感神経の緊張が亢進する。すると、コリン作動性機能は過剰に抑制され、バランスが崩れる。これがせん妄の一因とされている(参考文献4、5)。

 せん妄は、興奮や幻覚などが主体となる「過活動型」と、無気力で日中でももうろうとしているような「低活動型」がある。これらの症状の違いは、トリプトファンの代謝異常が関与しているといわれている(参考文献6)。

 トリプトファンは、睡眠や認知、情動に大きな役割を果たしているセロトニンやメラトニンの材料である。いずれにしてもアセチルコリンやドパミン、セロトニン、γアミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸などによる作動性神経系は相互にネットワークを構築し、その上で神経伝達機能が正常に制御されている。

 従って、これらの機能に影響を与えるような慢性疾患、急性疾患、患者特性、環境などが重なり合うと、せん妄が起こりやすくなる(参考文献7)。

 慢性疾患では、脳機能の低下(脳梗塞や脳炎、髄膜炎、痙攣など)、低酸素状態(呼吸器疾患、心疾患など)、低血糖状態(糖尿病)、電解質異常(甲状線機能亢進症による低カリウム、アルドステロン症による高ナトリウム、尿崩症による低ナトリウム、癌末期などの高カルシウム)、ビタミン不足(チアミン、B12などの不足)などを引き起こす疾患が危険因子となる。

 急性疾患では、過剰な炎症性サイトカインが産生されるような状態が挙げられる。例えば重症の感染症、敗血症、糖尿病のコントロール悪化による高血糖や代謝性ケトアシドーシス、肝不全による高アンモニア血症、脱水による電解質異常などが危険因子となる。

 患者特性としては、高齢や家族の有無などの社会的背景、喫煙歴、飲酒歴などが挙げられる。高齢者では、加齢に伴う脳の変化により、前述の神経系の機能が変化する。特にコリン作動性の伝達機能の低下に敏感で、せん妄の危険性が増加する。

 環境因子としては、例えば集中治療室(ICU)への入院や身体抑制、手術、激しい痛み、視力や聴力障害による感覚遮断、音や光の状態がいつも過ごしている状態と違うなど、非日常的な環境が影響する。

副作用によるせん妄

 せん妄の原因が薬剤によることも少なくない。せん妄を起こす医薬品は、多岐にわたる。アセチルコリン、ドパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸などの作動性神経系のバランスに影響する医薬品は、当然、全て原因となり得るからだ(参考文献3)。

 薬剤性のせん妄は、軽い症状のうちに原因薬剤を中止することが肝心だ。しかし、薬剤性せん妄が見つけられずに、認知症と診断されるケースも少なくない。さらに、認知症治療薬や周辺症状に対して抗精神病薬が処方され、さらにせん妄が起こることもある。認知機能の障害が見られた場合には、服用薬を確認して、副作用ではないかを考える必要がある。どのような薬剤にせん妄のリスクがあるかを見てみよう。

コリン作動性に関与する薬
 抗コリン作用を持つ抗パーキンソン病薬や抗ヒスタミン薬では、抗コリン作用によって副交感神経を抑制し、交感神経を刺激することによって、せん妄を起こすことがある。せん妄がある患者と認知症の患者を比較した研究では、抗コリン薬が投与されていた患者に、せん妄が有意に高くみられたとの報告もある(参考文献8)。

 一方、コリン作動薬(コリンエステラーゼ阻害薬)である認知症用薬、重症筋無力症薬、ジスチグミン臭化物(商品名ウブレチド他)などでも、せん妄が起こる。

アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン作動性に関与する薬
 β刺激薬、テオフィリン、エフェドリン、漢方の麻黄、OTC薬に含まれるプソイドエフェドリンなどは、交感神経を興奮させ、せん妄を起こすことがある。ドパミン作動薬である抗パーキンソン薬でもせん妄がみられる。

 また、フェノチアジン系などの抗精神病薬や、α遮断薬やβ遮断薬などの降圧薬などでは、脳内ドパミン作動系を抑制して脳の活動を抑制することで、せん妄を起こす。

セロトニン作動系の薬
 リスペリドン(リスパダール他)やオランザピン(ジプレキサ他)などの非定型抗精神病薬は、抗セロトニン作用と抗ノルアドレナリン作用があり、脳内のドパミンを抑制する。

 一方、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、セロトニンの再取り込みを阻害することで、脳内のセロトニン濃度を高め、抗うつ作用を示すとされている。いずれもせん妄を起こすことがある。

ヒスタミン作動系の薬
 ヒスタミンは、急激なストレスが加わったときの過剰な神経の興奮を抑制し、覚醒を促す。従って、抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)やH2受容体拮抗薬は、せん妄を起こし得る。

 特に、腎機能が低下している場合、腎排泄型であるファモチジン(ガスター他)やラニチジン(ザンタック他)で起こりやすい。術後などで、点滴で投与されている場合にも注意が必要である。

GABA受容体を抑制する薬
 GABA受容体抑制作用のあるアルコールや睡眠薬、鎮静薬、抗不安薬、抗痙攣薬などは、当然、せん妄が起こりやすい。

 特に、ベンゾジアゼピン系薬剤はせん妄を起こしやすい。抗菌薬のイミペネムやキノロン系では、GABA受容体阻害やNMDA受容体刺激の作用があり、せん妄につながることがある。

オピオイド
 モルヒネやコカイン、コデインもせん妄を起こしやすい。特にモルヒネは、肝臓において代謝を受け、活性代謝物であるモルヒネ6グルクロニド(M-6-G)ができ、腎臓で排泄される。M-6-Gは、鎮静作用を有している。腎機能が低下している患者では、M-6-Gの排泄が遅れ、せん妄をはじめとする副作用を起こしやすい(参考文献9)。

サイトカインの誘導を増強する薬
 インターフェロンやインターロイキンなどのサイトカインは、せん妄を引き起こす因子の一つである。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、プロスタグランジンの合成を阻害することで、かえって炎症性サイトカインの誘導を増強することがある。例えば、インフルエンザ感染時にNSAIDsを使うことで脳症が起こる場合などが、これに当たる。

その他のせん妄を起こしやすい薬
 アシクロビル(ゾビラックス他)、オセルタミビル(タミフル他)などの抗ウイルス薬、抗癌剤などは、直接的な神経障害によって、せん妄を起こす場合がある。

 副腎皮質ホルモン、男性ホルモン、タモキシフェン(ノルバデックス他)やゴナドトロピン、排卵誘発剤などもせん妄を起こしやすい。

依存からの離脱時に起こるせん妄
 薬物やアルコール依存からの離脱症状でもせん妄が起こり得る。アルコール依存からの離脱では、コリン活性が増強しGABA活性が低下する。ベンゾジアゼピンからの離脱でもGABAの活性低下によりせん妄が起こることがある。

図1 薬でせん妄が起こるメカニズム

* * *

 最初の症例を見てみよう。大腸癌の術後の患者である。手術は、せん妄の大きな危険因子の一つである。さらにこの患者には、術後のストレス潰瘍の防止に、せん妄を起こし得るヒスタミンH2受容体拮抗薬が点滴で投与されていた。

 また、せん妄が起こった後、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が投与されており、さらに拍車を掛けたと考えられた。

 翌日に、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の点滴が中止され、その後、せん妄症状は起こらなくなった。

参考文献
1)布宮伸 ICUとCCU 2012;36:507-13.
2)井上真一郎ら がん患者と対症療法 2011;22:6-11.
3)浜六郎 正しい治療と薬の情報 2009;24:147-50.
4)Cole MG, Am J Geriatr Psychiatry 2004;21:7-21.
5)古賀雄二ら ICUとCCU 2012;36:167-79.
6)櫻本秀明 呼吸器ケア 2012;10:535.
7)神山純子 呼吸器ケア 2012;10:536.
8)Tune Le, et al. Dement Geriatr Cogn Disord 1999;10:342-4.
9)玉井英子ら がん患者と対症療法 2011;22:19-25.

イラスト:長岡 真理子

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