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薬局経営と消費増税問題
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

 薬局業界は大きな転換点を迎えている。調剤医療費の膨張が医療費増加の原因として取り沙汰され、医療費抑制政策の最大のターゲットとなるのは確実な情勢である。今後、薬価引き下げ圧力が一段と強まり、各報酬項目の算定要件も厳しくなることが予想され、薬局の収益力低下は避けられない。

 そんな中、さらに薬局経営を悪化させ得る大きな問題が、消費税率の引き上げである。本稿執筆時点(9月25日)では、安倍晋三首相は10月に消費税率の引き上げを正式に表明すると報じられている。報道が正しければ、消費税率は2014年4月に8%へ引き上げられる。

 消費税率が引き上げられた場合、薬局にどのような影響が生じるのか。筆者は、書籍『医療と消費税』(徳間書店)を執筆する過程で、日本医師会や病院団体の関係者と深く議論を重ねてきた。そうした立場から俯瞰して、この問題を述べることにしたい。

薬局の消費税問題とは

 消費税引き上げによる影響を論じる前に、現時点で薬局が抱える“消費税問題”について解説しておこう。

 通常の商取引では、小売店などが、消費者から受け取った消費税から、仕入れ時に支払った消費税分を差し引いて(控除して)国税当局に納める。このため、小売店は消費税を負担せず、消費者が全額を負担することになる。

 一方、保険薬局は医薬品などを仕入れる際に消費税を支払っているにもかかわらず、保険診療による投薬を受けた患者からは、窓口で消費税相当分を受け取っていない。現行の消費税法では、保険診療にかかる費用に対して消費税は課税されないためである。このため、患者が負担するはずの消費税を、薬局が負担している。

 医療機関などの中でも特に、薬局は消費税の影響が大きい。なぜなら、薬局では費用の大半(約70%)を課税対象である医薬品などの仕入れ費用が占めるからだ。一般的な急性期病院では課税対象の費用がせいぜい40%程度であり、薬局の課税費用の割合は段違いに高い。その上、一般的な保険薬局では、売上高のうち保険診療による売上高が9割を超えており、一般用医薬品(OTC薬)などの課税取引分の売上高はわずかである。このため患者から支払われる消費税分(仕入れ時に支払った消費税から取り戻せる金額)はわずかにとどまり、医薬品の仕入れ費用などにかかる多額の消費税を薬局が負担しているのである。

薬局に生じている「損税」

 以上の点を、図1を基に詳しく解説しよう。

 薬局の売上高には、課税対象となるOTC薬などの売り上げ(A)も含まれており、その金額に応じた消費税(T1)を受け取っている。残りは調剤報酬に基づく非課税売り上げ(B)であり、消費税は受け取っていない。一方で、薬局は仕入れの際に医薬品の代金(C)プラス消費税(T2)を払っている。

 すると、薬局が負担する消費税は幾らになるのか。

 多くの薬局では課税売り上げが少ないので、患者から受け取る消費税(T1)よりも仕入れ時に支払った消費税(T2)の方が多い。支払った消費税が超過しているので税は還付されるが、その計算ルール上、T2のうちわずかしか返してもらえないところに問題がある。

 精算時に返してもらえる消費税(T3、控除対象消費税という)は、支払った消費税(T2)に、全売り上げ(A+B)に占める課税売り上げ(A)の割合を掛けた金額で計算される。

 すると、多くの薬局では課税売り上げであるAが少ないので、返還対象となるT3の金額はわずかにしかならない。このため、薬局はT2-T3=T4の税額、つまり仕入れに要した消費税のほとんどを患者に代わり負担していることになる。

 薬局が支払うこの税額(T4)は「控除対象外消費税」と呼ばれる。そして、そのうち国から補填されていない部分を一般に「損税」と呼ぶ。

 なお、詳しくは後述するが、控除対象外消費税に対しては過去の診療報酬改定時に点数を上乗せする形で補填され、損税を減らす努力がなされた。しかし実際には、その後の改定で上乗せされた点数項目の多くが包括化あるいは廃止されており、補填分がどれだけ残っているのか追跡するのは難しい。

図1 薬局が消費税を最終的に負担している仕組み

控除対象消費税(T3)=T2×A(/A+B)
控除対象外消費税(T4)=T2-T3=薬局が最終的に負担する消費税額
薬局が決算時などに国税当局に納める消費税額=T1-T3

利益率1.9%低下の可能性?

 では、消費税引き上げによる薬局経営への影響はどのようになるのか。具体的な例として、ある薬局の消費税負担分を表1に示す。売上高が1億円で、課税売り上げ割合(OTC薬の売上高など)を1割、非課税売り上げ割合(保険診療分)を9割の薬局を想定した。

 するとこの例では、消費税が5%の現在で、控除対象外消費税が315万円(売上高の3.15%)にも上っている。3.15%という数字は、一般的な多くの薬局において近似する数値だろう。

 そして、消費税が8%に引き上げられた場合は189万円(全売上高の1.89%)、10%に引き上げられた場合は315万円(同3.15%)の負担増である。つまり、政府による補填がなければこれら全てが「損税」となり、薬局の利益率がこの数値分だけ低下することを意味している。消費税の増税による影響の大きさをご理解いただけただろうか。

表1 一般的な薬局の収入と消費税負担額

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「調剤基本料に上乗せ」で対応

 こうした負担を軽減するため、従来から日本医師会が、社会保険診療にかかる費用についてゼロ税率を適用するよう政府に求めてきた。これは、保険診療分を課税対象にしながら税率をゼロにすれば、患者負担は増やさず、かつ控除対象外消費税を解消できるというものである(図1のT3がT2と同額になる)。しかし、これを導入すれば消費税収が大幅に減少するだけでなく、食品業界など、生活に必須となる物品を提供する他の業界も軽減税率の採用を主張することが目に見えている。そのため、政府として到底採用できるはずもない。

 そこで、ゼロ税率以外の方法で消費税率が8%に引き上げられた時に医療機関の損税をどのように解決するかについて、12年6月に中央社会保険医療協議会(中医協)の「医療機関等における消費税負担に関する分科会(消費税分科会)」が立ち上がり、激しい議論が交わされた。その結果13年8月、消費税率8%引き上げ時に診療報酬を引き上げることで補填することが決定した。これは消費税が創設された1987年、および消費税率が5%に引き上げられた97年と同様の対応だが、中身は若干異なる。

 この結論に至るまでに、消費税分科会では以下の4つの対応策の素案が提示された。(1)診療報酬の1点単価に反映させる案、(2)高額投資分に手当てする案、(3)診療報酬の個別項目に反映させる案、(4)基本診療料・調剤基本料に反映する案─である。

 (1)の1点単価に反映させる案は、各診療報酬単価に消費税相当額を上乗せするもので、最も明解である。しかし、全ての診療報酬に上乗せすることになるこの手法は、医療費の高騰を招く原因になるとして、あえなく消滅した。

 (2)の高額投資分に手当てする案については、高額な設備投資にかかる消費税負担が医業経営に影響が大きいため配慮する、という考え方であった。しかし、高額投資への負担を診療報酬体系において、将来にわたり公平に手当てすることは困難であり、全ての消費税分科会委員が反対の意向を示したため採用が見送られた。

 (3)は、特定の報酬項目に重点的に加点する方式で、1987年および97年に採用された対応策である。87年は12項目、97年は24項目の点数に上乗せして報酬額を改定した。しかし、上乗せされた点数はその後、減点、削除、加算廃止、包括化などが行われ、現在も算定可能な項目は数項目しか残っていない。また、個別項目で手当てすると、上乗せされた項目を算定できない医療機関もあり、不公平感が払拭できない。このため、個別項目での対応は難しいとの結論が下された。

 こうして残ったのが、(4)である。全ての医療機関に財源が公平に配分されるように、基本診療料に一括して加算する。この場合、医科・歯科は「初・再診料」に、病院に関しては「入院基本料」にも配分され、調剤は「調剤基本料」に配分されることとなった。

 なお、消費税分科会においては基本診療料などに加えて、消費税負担の影響が大きいと考えられている特定の項目に重点的に上乗せするといった折衷案も議題に上がった。特定の項目とは、高額な設備投資に関係する「画像診断」の項目などで、ここに配分される可能性は現時点でまだ残っている。ただ、そうした特定の項目に関する具体的な議論にはたどり着いていない。

増税分穴埋めには16点必要

 では、調剤基本料が何点アップすれば、消費税の負担額増加分をカバーできると考えられるか。その答えは16~18点である。

 表1に示した例で解説しよう。8%引き上げ時の控除対象外消費税の増加幅は、504万円-315万円=189万円である。調剤基本料の算定回数が処方箋枚数(月1000枚)と同じであるとすれば、年間1万2000回の算定でこの189万円を取り戻さなければならない。つまり189万円÷1万2000回=157.5円となり、16点のアップが必要になる。もし保険診療による収入が90%ではなく100%の薬局であれば、560万円-350万円=210万円を取り戻すために175円、つまり18点必要になる計算だ(実際は費用に占める課税費用の割合やその他が変化するため計算はこれよりも複雑になるが、単純化のため割愛した)。

 しかし国民医療費や薬局を取り巻く情勢から考えると、現実にはそれだけの引き上げ幅を確保するのは困難であろう。どれだけの点数が引き上げられるかは財源の配分比率次第であり、具体的な見通しはまだ立たない。

 仮に引き上げ幅が5点にとどまれば薬局の利益率は約1.3%低下、10点あったとしても約0.7%低下する計算である。カバーしきれなかった負担分は経営努力で挽回するしかなく、経済原理による薬局の淘汰が進む可能性も否定できない。

受診抑制などの影響も

 ここまで、消費増税による影響を薬局の負担増という観点で論じてきたが、増税の影響はそれにとどまらない。増税が経営悪化の要因を引き起こすトリガーになり得る。

 例えば、増税によって患者の財布の紐は固く閉じ、受診抑制が広がり処方箋枚数も減るだろう。患者が安価な後発品を選択するようになれば、薬価差益の収入分も減少する。あらゆる物品の購入額が押し上げられ、薬局の運営にかかるコストも増加する。

 薬剤師の人件費も上昇する可能性が高い。自民党政権は消費増税に必要な景気回復策として賃金の引き上げを奨励しているからである。必然的に医療界にもその波が押し寄せるだろう。

 医薬品卸会社との交渉にも影響が出そうだ。14年4月の診療報酬改定の議論の中心は、調剤報酬および薬価の引き下げ幅になるとの見方が大勢を占める。薬局は消費税引き上げ分の負担を医薬品卸会社に求めることが予想されるが、度重なる薬価の引き下げに見舞われている卸会社もそう簡単には値引きできないだろう。

 また、薬局の利益率が低下すれば、医薬品卸会社も与信管理を強化する方向に動く。支払条件の変更など、契約見直しによる対応を迫られる場面も見受けられ、いっそう納入価交渉が厳しくなると想像される。

 それぞれの薬局はこうした事態を想定して、調剤報酬・薬価の消費税相当分の上乗せ内容から、損税がどの程度カバーできたのかを算出し、その収益の減額幅をどう乗り切るかを総合的に検討する必要に迫られる。

10%引き上げ時の解決策

 最後に、15年10月に予定されている消費税率10%への引き上げ時の対応について触れておきたい。8%への引き上げ時は従来と同じく診療報酬への加算で調整されるが、今度は制度全体を見直す方向で議論が進んでいる。

 13年4月、自民党は野田毅・党税制調査会長を座長とする「医療と税制に関するプロジェクトチーム」(医療と税制PT)を立ち上げた。これは医療機関の消費税負担を軽減するための検討を行うもので、議論の焦点は消費税率10%時における抜本的な対応策の検討である。既に医療界に対してヒアリングが行われ、年末にまとめる14年度税制改正大綱に具体策を盛り込む方向である。

 抜本的な対応策として医療界は、前述したゼロ税率と同様の考えから、社会保険診療を課税取引にした上で税率を軽減するよう求めている。ただ軽減税率化については、低所得者対策や課税額の表記システムなどの整備が容易ではないことから、採用は難しいと考えられる。

 このため新たな案として、「税還付方式」が選択肢として浮上している。これは、各医療機関が控除対象外消費税を申請して還付を受けるというものである。

  控除対象外消費税の負担を軽減する手法として、カナダの「公共サービス機関(PSB)リベート方式」がある。この方式は、控除できない負担額を、事業者自らが計算して申請し、還付を受けるものである。ただ、これをそのまま採用する場合、還付手続きの関係上、消費税法の改正が必要となるため実現へのハードルが高い。

 そこで私は以前から「日本版PSBリベート方式」を提唱してきた(図2)。これは、還付を直接国税当局に求めるのではなく、厚生労働省による消費税負担返還金の予算化を行い、厚労省が医療機関の申請を受け付けて還付するというものである。具体的には、厚労省が「控除対象外消費税負担額返還交付金(仮名)」という名目で、補助金的な性格の予算を新設することが考えられる。

 このようにすれば、消費税法の改正を必要とせず、還付を厚労省の権限で行うことができるため、時間的に導入が容易である。行政上の手間もさほどかからず、全ての医療機関が公平に享受できるメリットもある。また、医療機関で生じる消費税負担を自らの計算に基づいて返還するので、医業経営の透明性も担保できる。

 医療と税制PTでは、日本歯科医師会がこうした方式を示唆し、その後日本医師会や病院団体などもこの方法が選択肢の一つであるとして、前向きな見解を示している。

 政府は、社会保険診療の課税取引化あるいは非課税申請返還方式のどちらかを選択することになるとみられる。いずれにしても、医療と税制PTは(1)財源、(2)公平性の確保、(3)各ステークホルダーにマイナス影響を与えない─といった点を十分に吟味し、長年にわたる医療機関の消費税負担問題に決着をつけることになるだろう。

図2 日本版PSBリベート方式の概要

1.医療機関などが前年度の控除対象外消費税負担額を集計し、還付を申請
2.申請を受け付けた厚労省が負担額を集計して医療保険制度内の予算案を作成
3.政府予算で確保した金額内に収まるよう還付率を設定
4.設定した還付率に基づき個別の病院や薬局に還付

(京都紫明税理士法人[京都市北区]社員税理士・船本智睦)

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