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特集:処方箋の裏側 かぜ編
〔実践編〕はな:ぶり返した「鼻かぜ」に抗菌薬を重ねた理由
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

 「鼻かぜがぶり返した」と言って受診した沢村博仁さん(仮名、34歳)。1週間ほど前に咳や鼻汁、発熱などの症状が出て、OTCの総合感冒薬を服用したところ、軽快した矢先だったという。38℃の熱、左頬部の強い痛み、膿性の鼻汁が左鼻から多量に出ていた。

 通常、かぜの患者には抗菌薬は出さないが、沢村さんにはこの日、2剤の抗菌薬を処方した。経緯や症状から細菌性副鼻腔炎を疑ったからだ。膿性鼻汁に加えて、発熱や片頬の痛み、軽快傾向が見られた後に再び症状が強くなる二峰性の病歴、鼻汁が片側に限られていたことなどが、細菌性副鼻腔炎と診断した根拠だ。副鼻腔炎に限らず、二峰性の病歴がある場合、二峰目は細菌性の疑いが強いと考えられている。また細菌感染は、一つの臓器に1種類の菌の感染が原則で、左の副鼻腔だけに限られた沢村さんの症状は、これに合致していた。

 実は、副鼻腔炎は細菌性であっても軽症であれば、自然治癒が望める。抗菌薬が必要なのは、症状が強いか持続して改善しない場合のみだ。沢村さんは頬の強い痛みを訴えていたため、抗菌薬治療の適応と考えた。

 細菌性鼻副鼻腔炎の主な起炎菌は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。これらの菌に感受性のあるβラクタム系のサワシリン(アモキシシリン)とオーグメンチンとを処方した。オーグメンチンは、アモキシシリンの働きを阻害する細菌酵素を失活させるクラブラン酸と、アモキシシリンとの配合剤だ。この2剤の併用はアモキシシリンの重複投与と思われるかもしれないが、これには意味がある。

 通常、副鼻腔炎にはアモキシシリン500mg/回を、1日3回投与する。オーグメンチン250RSには、アモキシシリン250mgが配合されている。だが、2錠投与すると、下痢などクラブラン酸による副作用のリスクが高まる。そのため、アモキシシリンの単味剤であるサワシリンを併用するのである。アモキシシリンとクラブラン酸の比率は4:1となるが、米国ではこの比率の配合剤が使われており、クラブラン酸の量は十分だと考えられる。

 症状がそれほど強くない場合には、アモキシシリンの単味剤だけを投与することもある。副鼻腔炎の治療目的は菌の全滅ではなく、少々耐性菌がいても軽快することが多いからだ。

 なお、副鼻腔炎には、気道粘液調整薬のムコダイン(カルボシステイン)を処方することが多い。鼻汁の粘りを取り排出しやすくする効果があるためだ。副鼻腔のような体表に近い部位への感染症は、鼻をかんで菌を排泄することで治癒が早まる。薬局でも、副鼻腔炎にムコダインが出されている患者には、しっかり鼻をかんで、鼻汁を排出するよう指導してほしい。(談)

手稲渓仁会病院[札幌市手稲区]
総合内科・感染症科
感染症科チーフ兼感染対策室室長
岸田 直樹氏
2002年旭川医科大学卒業。10年から現職。近著に『だれも教えてくれなかった「風邪」の診かた』(医学書院、2012)。

写真:吉田 悟

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