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医師が処方を決めるまで
発達障害
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

講師
山下 裕史朗
(久留米大学医学部小児科教授)

講師から一言
 ADHDやASDを持つ子どもの治療の基本は、子どもが集中しやすく、混乱しない環境を整えることであり、そのためには子どもの特性をよく理解する必要がある。保護者は子育てに悩み抜いて病院を受診するが、服薬を簡単に納得するわけでもない。薬剤については、インターネットなどから得た誤った情報を信じている保護者もいる。
 そこで医師は家族と時間をかけて信頼関係を築きながら、服薬が子どもにとってメリットが大きい場合に服薬を勧め、処方に至る。発達障害を持つ子どもに対する理解、正しい薬剤の知識の普及に、薬剤師の皆さんもぜひ協力していただければと思う。

 発達障害とは、生まれつき持った発達の偏りやひずみに伴って、乳児期から幼児期以降、行動やコミュニケーション、学習などに困難(機能障害)を来すものをいう。

 発達障害には、注意欠陥(欠如)多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)、学習障害(Learning Disabilities:LD)などがある。文部科学省が2012年に行った調査では、通常学級在籍児童において発達障害と考えられる児童の割合は6.5%で、10年前とその割合は変わっていない。

 発達障害の治療に当たっては、多動・衝動性、興奮性といった行動面や情緒面の問題と、睡眠障害などの身体面での症状に対して薬物療法を行うことが多い。しかしながら、発達障害に伴う機能障害を薬物療法で全て解決することはできない。生活環境を調整したり、行動療法やソーシャルスキルトレーニングなどの心理社会的療法も併用することが重要である。

 本稿では、発達障害のうち患者数の多いADHDおよびASDの小児に対する私の処方例について解説する。

即効性を求める場合はコンサータを選択
 最初に紹介するのは、ADHDを持つ小学3年生の症例である。

 ADHDは、行動面の症状(図1)から、(1)不注意優勢型、(2)多動・衝動性優勢型、(3)混合型─の3つに分類される。これはチェックリストで確認でき(表1)、「不注意」と「多動・衝動性」のどちらかの換算点の合計が6点以上の場合にADHDを持つ可能性が高い。どちらかが6点以上なら「不注意優勢型」または「多動・衝動性優勢型」、両方が6点以上なら「混合型」と考えられる。

 不注意優勢型は授業中にぼんやりする、忘れ物が多い、指示に従えないといった症状の点数が高く、多動・衝動性優勢型では授業中に席を立って歩き回る、順番を待てず割り込むといった症状が目立つ。

 本症例は、授業中に集中できず周囲の生徒にちょっかいを出しトラブルになる、母親や教師から注意されたことをしばしば忘れる、忘れ物が絶えないといった問題が続いていた。ADHDのチェックリスト(評価点、0~54点)は合計42点(不注意24点、多動・衝動性18点)、換算点では順に8点、6点で、診察の結果、混合型ADHDと診断した。また、家族が提案したことに反抗的な態度を示すことが多く、反抗挑戦性障害も併存していると考えられた。

 ADHDに使える薬剤には、長時間作用型のメチルフェニデート製剤のコンサータと、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のストラテラ(一般名アトモキセチン)がある。

 コンサータは、ドパミンとノルアドレナリンのトランスポーターに結合して再取り込みを抑制し、シナプス間隙のドパミンとノルアドレナリンを増加させて神経系の機能を亢進するとされるが、ADHDに対する詳細な作用機序は十分に解明されていない。同薬は、適正流通管理委員会に登録された医師、薬局のみが処方、調剤できる。

 ストラテラの薬理作用も完全には解明されていないが、シナプス前ノルアドレナリントランスポーターに結合し、選択的にノルアドレナリンの再取り込みを阻害すると考えられている。ノルアドレナリントランスポーターはドパミンの再取り込みもつかさどっており、動物実験でアトモキセチンが前頭前野のドパミン濃度を特異的に上昇させることを示すデータがある。処方医や取り扱う薬局の制限はない。

 ADHDの型によって、投与する薬剤の効果に違いはないとされているが、本症例は反抗挑戦性障害を伴っていたので、服用回数が1日1回で済み、ストラテラよりも即効性が期待できるコンサータを処方した。私は処方経験から、「効果が出るまでにコンサータは2週間程度、ストラテラは2カ月はみてほしい」と保護者に伝えている。

表1 ADHDの行動面のチェックリストと記載例
(文部科学省の「児童・生徒理解に関するチェックリスト」を一部改変)

評価点の欄には「ない、もしくはほとんどない」場合は0点、「ときどきある」は1点、「しばしばある」は2点、「非常にしばしばある」は3点を付ける。換算点の欄には評価点が0または1点なら0点を記載、評価点が2または3点なら換算点は1点とし、換算点の合計を出す。上記は症例1の初診時のもの。

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図1 ADHDに特徴的な行動面の症状

コンサータの食欲不振には減量か休薬
 初診時は、初期用量の18mg/日から投与を開始した。1カ月後の再診時、母親の話によると「家庭や学校で落ち着いて過ごせる時間が多くなった」とのことで、副作用は特に見られなかったため、増量した。

 コンサータは、増量が必要な場合は1週間以上の間隔を空けて1日用量として9mgまたは18mgずつ増やすことになっており、維持用量は18~45mgで、1日用量は54mgを超えないこととされている。

 用量調整のポイントとして、私は食欲不振、不眠、頭痛といった副作用が見られず、学校での効果が持続し、機能障害が十分減っているかを目安にしている。このケースでは、初診から2カ月後に36mg/日まで増量したところ、母親から「お昼ご飯が食べられなくなった」と食欲不振の訴えがあったため、27mg/日に減量した。

 食欲不振の程度によっては減量せずに、間食で栄養を補う、学校のない日だけ休薬してしっかり食べさせるといった方針をとることもある。食欲不振は増量して1週間程度で見られることが多いので、薬局の服薬指導時にも確認していただきたい。

不眠や夜尿症の合併例には追加処方も
 ADHDでは、興奮して寝付けないという睡眠障害や夜尿症がしばしば見られ、その場合は併用薬で対処する。

 睡眠障害には、小児への適応はないが、メラトニン受容体アゴニストのロゼレム(ラメルテオン)を成人の半量で投与している。個人輸入でメラトニンの服用を勧めることもある。高血圧治療薬のカタプレス(クロニジン塩酸塩)を投与することもあるが、これは脳幹部のα2受容体に選択的に作用して、交感神経の緊張を抑制し、スムーズな入眠をもたらすとされているからである。

 一方、夜尿症(多尿型)に対しては、デスモプレシン酢酸塩水和物の経口薬であるミニリンメルトや点鼻薬(デスモプレシン点鼻液0.01%協和)を処方する。

 本症例は、初診から半年後にはADHDのチェックリストで、評価点が18点(不注意13点、多動・衝動性5点)に改善した。落ち着いて授業を受けられるようになり、母親の言うことを聞くようになった。また、学業成績も伸び、中学受験では希望する中学に合格することができた。

併存障害があればストラテラを選択
 次に紹介するのは、ストラテラを処方したADHDの症例である。私はコンサータを処方することが多いが、保護者がメチルフェニデート製剤の依存性を懸念したり、チック障害やてんかん、うつなどの併存障害がある場合には、ストラテラを選択している。同薬は血中半減期が短く、服用回数が1日2回であるが、寝付きを悪化させるといった睡眠への影響はほとんどなく、夕方以降や起床後すぐの併存障害の症状を軽減させる特徴がある。

 本症例は、起床が困難で、親が何回起こしても目が覚めず、起きても登校の身支度に時間がかかって遅刻を繰り返すことが多いという。患児は幼稚園の頃から集中するのが苦手で、親の指示に従えないことも多かったという。

 初診時のADHDのチェックリスト(評価点)では、合計が36点(不注意20点、多動・衝動性16点)で、混合型ADHDと診断した。

 ストラテラは、通常1日0.5mg/kgで開始し、2週間後に0.8mg/kg、さらに2週間後に1.2mg/kgと増量し、1.2~1.8mg/kgで維持する。

 このケースでは、特に副作用を認めず、1.4mg/kg/日を服用するようになった1カ月後から徐々に症状が軽減。朝スムーズに起きられるようになり、2カ月後には自分で起きられるようになった。処方開始から1年後の現在も1.4mg/kg/日で維持している。

 なお、この患児では、十分な効果を認めている1.4mg/kg/日で処方量を維持したが、1.8mg/kg/日まで増量して効果を認める場合もある。

 ストラテラの最大効果が得られるまでには、維持量に達してから4週間前後かかるとされているため、患児や保護者には、その旨を伝えておくことが重要である。

ASDには非定型抗精神病薬の少量投与
 最後に自閉症スペクトラム障害(ASD)の症例を紹介する。本症例は、幼稚園でじっとしていられず、興奮して友人をたたいてしまうといったエピソードから、ADHDを疑われて受診した5歳男児である。

 ASDは社会性が乏しく、コミュニケーションが取りにくいといった障害のほか、状況の判断がつきにくく、時に攻撃的な行為や自傷行為などが見られる。感覚が敏感で、特定の音や皮膚に触れられることなどを嫌がるといった特徴もある(図2)。本症例もこうした特徴が見られたため、ASDと考え、治療を開始した。

 知的障害を伴うASDでは、1歳半ぐらいから健診で疑われることが多い。知的障害を伴わないASDは高機能自閉症と呼ばれ、落ち着きのない子どもが多いので、ADHDを疑って受診に至ることがある。実際、ADHDとASDが併存している子どもは多い。

 ASDの興奮、自傷、他害に現在保険が適用される薬剤はオーラップ(ピモジド)のみである。最近では非定型抗精神病薬のリスパダール(リスペリドン)やエビリファイ(アリピプラゾール)が適応外で処方されている。いずれもドパミン受容体とセロトニン受容体を遮断してシナプス間隙の濃度を上げ、興奮や自傷を抑える作用が期待できる。

 2010年に行われた自閉性障害児への薬物療法の実態調査では、リスペリドンの少量投与が最も多く行われており、未就学児では1日当たり平均で0.3mg~1.0mg、小学生では0.5~2.1mg投与されていた。

 リスペリドンで食欲が増し、体重増加が懸念される場合は、アリピプラゾールを選択している。前述の調査では、アリピプラゾールは未就学児の場合、1日当たり平均で1.2~3.4mg、小学生では2.0~8.8mgを投与されていた。

 抗精神病薬は眠気のほか、手の震え、体のこわばり・つっぱりなどの錐体外路系の副作用に注意する。

 リスペリドンとアリピプラゾールは海外ではASDの興奮性(攻撃、自傷行為、かんしゃくなど)に対する適応があり、日本では両剤とも臨床試験中である。

図2 ASDに特徴的な行動面の症状

成人ADHDの診療も進歩
 以上、ADHDとASDに関して、私の処方例を解説した。

 ADHDの治療薬では、コンサータは徐放錠で細かい用量調整ができないため、専門医の間では「処方しづらさ」を訴える声をしばしば聞く。ストラテラは内用液が承認されたので、カプセルが飲みにくい患児には朗報である。

 また、ADHDの小児が成人になった場合に適応がある薬剤がストラテラのみであることも、問題となっている。コンサータは日本において成人のADHDに対する臨床試験が終了し、成人期への効能追加承認申請中である。13年5月の米国精神医学会では、「精神障害の診断と統計の手引き第5版」(DSM-V)に、初めて成人のADHDの診断基準が明記され、注目を集めている。

 発達障害では心理社会的治療も小児期から併せて行うことが重要である。思春期を迎えると、治療をしっかり行わないケースが増えるが、薬剤師の皆さんには薬物療法の面からしっかりフォローしていただければ幸いである。

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