3日前から微熱があり、鼻汁と鼻閉が続いていると受診した鈴木和也君(仮名、3歳)。夜に少し咳もあるという。 診察すると、鼻汁が多く、鼻粘膜が腫れており、かぜを引いたと考えた。 私はかぜ診療では、抗菌薬はもちろん、周辺症状に対しても、ほとんど薬は使わない。鼻汁や咳、発熱など、かぜ症状の多くは必要だから出る体の防衛反応であり、そのような症状を抑えるべきではないと考えるからだ。 また、抗ヒスタミン薬、去痰薬、鎮咳薬、気管支拡張薬など、小児のかぜに使われる薬の大半には、ほとんど効果がないというのも理由の一つだ。 その代わりに、当院でいつも処方するのが、ハチミツと鼻洗水だ。 意外に知られていないが、ハチミツは保険診療で処方できる。夜間の咳症状を緩和させるというデータもあり、喉の痛みや、喉がいがいがして咳が出るときに使用すると、喉の粘膜が湿潤になる、後鼻漏による夜間の咳を軽減するなどの効果が得られる。 ハチミツは、スプーンですくってなめたり、お湯で薄めて飲んでもらう。ただし、ボツリヌス菌が含まれる可能性があるので、1歳未満には使わない。 一方の鼻洗水は、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを溶かした精製水に、点鼻用血管収縮薬のトラマゾリン点鼻液を加えた自家製剤だ。鼻粘膜の浮腫を抑えて鼻の通りを良くし、鼻腔を洗浄するために使用する。 小児はウイルスが副鼻腔に入って副鼻腔炎になりやすく、症状が長引くことが多い。また、年齢が小さいほど鼻呼吸が主体であるために、鼻づまりは食欲不振や夜間不眠の原因となり、生活の質(QOL)を大きく落とす。 鼻洗水を、1日3~4回、両鼻に1~2回噴霧すると、トラマゾリンの血管収縮作用により鼻粘膜の浮腫が取れ、鼻が通る。鼻汁の吸引後、もしくは患児に鼻をかませた後に噴霧すると効果が高まる。トラマゾリンは、過量投与により発汗や徐脈といった症状が出る可能性があるため、3歳未満ではトラマゾリンを抜いて処方している。 かぜはほとんどの場合、自然治癒する。子どものかぜに必要なのはホームケアだ。ハチミツと鼻洗水という処方には、家庭でのケアを知ってもらうという狙いも込めているのである。(談) にしむら小児科[大阪府柏原市] 写真:直江 竜也
院長
西村 龍夫氏
1991年奈良県立医科大学卒業。同大小児科、奈良県立奈良病院小児科を経て、97年から現職。
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