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特集:処方箋の裏側 かぜ編
〔基本編〕かぜ処方のQ&A
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

Q.かぜとは?

 「かぜ」は、よく使われる病名だが、実は定義ははっきりしていない。一般には、鼻汁や鼻づまり、喉の痛み、咳などの上気道の局所症状や、発熱、倦怠感などの全身症状といった、いわゆる感冒様症状を呈するものを、便宜的に「かぜ」と呼んでいる(図1)。気管支などの下気道や消化器に感染が及んだものをかぜに含める場合もある。

 原因微生物の80~90%はウイルス。その内訳は、非常に多様だ(表1)。症状や経過、流行時期には、原因微生物によって違いがある。

 例えば、かぜの原因の30~40%を占めるライノウイルスは、春と秋に感染者が多く、鼻症状が強く出ることが多い。アデノウイルスは、高熱を伴う扁桃炎や結膜炎、胃腸炎を引き起こす。

 また、RSウイルスは、冬季に流行し、乳幼児に細気管支炎を起こしやすいウイルスとして有名だ。発症初期は感冒様症状を呈すが、炎症が下気道に達すると、強い咳や呼気性の喘鳴(ぜんめい)、多呼吸が出現する。

 こうした症状の多様性に加えて、(1)診察時に原因微生物が特定できないことが多い、(2)インフルエンザと細菌性のものを除いて原因療法がない─という特徴もある。そのため、症状や診察した医師の考え方などにより、処方される薬が大きく異なってくる。

 かぜは最もありふれた疾患であるにもかかわらず、標準的な治療方針の確立が最も遅れている領域といえる。

図1 かぜ症状とかぜに使われる主な薬(取材を基に編集部で作成)

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イラスト:山田 歩

表1 かぜ症候群の主な原因微生物

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(綜合臨床2009;58:1401-5.を一部改変)

Q.使われる薬は?

 前述のように、かぜを起こす病原体に対する原因療法は、インフルエンザなど一部を除いては未確立である。そのため、かぜには対症療法が行われる。

 急性期には、主に熱と鼻症状を緩和する総合感冒薬のPL配合顆粒や、葛根湯や香蘇散(こうそさん)といった漢方薬をベースに、鼻汁や鼻づまり、喉の痛み、咳といった上気道の局所症状を抑える薬が追加されることが多い。咳には鎮咳薬、痰には去痰薬、鼻症状には抗ヒスタミン薬、喉の痛みや熱には非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)─といったおなじみの処方だ。

 一方、発症から数日が経過しても治らない「こじれたかぜ」には、気管支拡張薬や抗アレルギー薬、強い抗炎症効果を期待した経口ステロイド、珍しい漢方薬など、通常のかぜには使わないような薬が処方されることがある(→実践編のど漢方)。

Q.抗菌薬が必要なかぜは?

 かぜの大半はウイルス性だが、中には抗菌薬が必要なケースもある。抗菌薬が使われる場合の主な特徴は、(1)細菌性である、(2)基礎疾患がある─の2点だ。

 かぜ診療で抗菌薬が処方されるのは、ウイルス性のかぜをきっかけに、細菌が二次感染を起こしたと考えられる場合が圧倒的に多い。細菌性の肺炎や咽頭炎、副鼻腔炎、中耳炎などが該当する(→実践編はなみみ)。

 ウイルス性か細菌性かは、症状のパターンにより、ある程度予測できる(表2)。手稲渓仁会病院(札幌市手稲区)総合内科・感染症科の感染症科チーフの岸田直樹氏は、ウイルス性のかぜの特徴として、「咳、鼻汁・鼻づまり、喉の痛みという3領域の症状が、急性に同時に同程度、存在する場合」を挙げる。咳が出て、鼻汁が止まらず、喉も痛むといった場合には、ウイルスが原因であることが多いという。

 一方、細菌感染は、一つの症状が非常に強く出る傾向があり、上記の3症状がそろうことは少ない。

 また、「肺炎や副鼻腔炎などで、二峰性の病歴がある場合には細菌性を疑う」と岸田氏は言う。例えば最初は咳、鼻汁、発熱があり、3日程度で改善傾向となったが、その後再び、鼻汁が悪化して熱が出た場合は、細菌性の疑いを強めるという。

 抗菌薬が必要となるもう一つのケースは、呼吸器などに基礎疾患がある患者や虚弱な高齢者がかぜを引いた場合など(→実践編高齢者)。

 例えば、慢性の呼吸器疾患があり、頻繁に肺炎を起こして入院しているような高齢者に対しては、「かぜをきっかけに、細菌が二次感染することで、呼吸器疾患が増悪したり、肺炎を起こすことが非常に怖い。そのため、積極的な抗菌薬の投与は十分あり得る」と清野・川畑診療室(東京都港区)の川端雅照氏は言う。

表2 ウイルス性と細菌性の違い

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(取材を基に編集部で作成)

Q.かぜと思ったら別の疾患?

 かぜは最も身近な疾患であると同時に、最も診察が難しい疾患でもある。その理由を川畑氏は、「緊急性が高い疾患や重篤な疾患も含め、万病の初期症状がかぜに似るため」と説明する。

 一般用医薬品(OTC薬)の販売時や投薬時に「かぜが治らない」と相談されたら、かぜ症状に別の疾患が隠れていないかを考えて対応しよう。

 表3にあるように、咳や鼻汁、咽頭痛を呈する疾患は多い(→実践編せき)。呼吸器疾患以外にも、例えば、長引く咳や咽頭痛の原因としては、消化器疾患の胃食道逆流症(GERD)が有名だ。また、片頭痛の前駆症状として、鼻汁が出ることもある。

 薬の副作用としての咳にも注意が必要だ。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による空咳は、咳の原因として案外多い。症状がかぜによるものではない可能性がありそうなら、医療機関への受診を勧めたい。

表3 かぜの鑑別疾患

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(レジデントノート2012;13(増刊):41-6.を一部改変)

Q.小児への診療のトレンドは?

 最近は、かぜの諸症状は生体防御反応であるため、治癒を促すためにも、解熱薬や咳止め、抗ヒスタミン薬などの対症療法を行うべきではないと考える医師が増えている。この考えは特に小児科医に多い(→実践編こども)。

 成人は、かぜを引いても対症療法で症状を緩和して社会生活を営む必要があるが、小児にはその必要性はないとの考えからだ。保護者に理解を求めるために、ホームページや待合室の掲示板で、治療方針を知らせるといった取り組みも広く行われている。

 子どものかぜに抗菌薬や解熱薬が処方されないことを心配する保護者に対しては、薬の服用よりも、症状が悪化したときに、すぐに受診することの方が重要であると伝えたい。

 最後に、にしむら小児科(大阪府柏原市)院長の西村龍夫氏が、かぜ診療で患者に説明することをまとめたのが表4だ。

 かぜを引いたときは、水分や糖分を取って安静にするのが最善の治療だ。これは大人のかぜにも当てはまる。かぜに特効薬はなく、基本的には、安静にして治癒を待つしかないというわけだ。

表4 かぜの時に大切なこと

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(提供:にしむら小児科ホームページhttp://www009.upp.so-net.ne.jp/tatsuo/top.htm

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