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電子版お薬手帳が本格普及へ
日経DI2013年10月号

2013/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年10月号 No.192

 日本薬剤師会は10月1日、開発を進めてきた電子版お薬手帳のスマートフォン用アプリ(Android版)をリリースした。iPhone版の公開はまだ先になるが、日薬のアプリ公開は、電子版のお薬手帳が本格的に普及する大きなきっかけになりそうだ。

日薬版は「三師会共通」に
 日薬はこのアプリを、日本医師会と日本歯科医師会から公認を得て「三師会共通アプリ」にしたいと考えている。日薬副会長の小田利郎氏は「現在、日医や日歯の関係者と最終的な調整を行っている。医師らにも浸透していけば、病院や診療所などの院内投薬情報も電子版お薬手帳で一元管理しやすくなる」と期待を込める。

 電子版お薬手帳はこれまで話題に上りこそすれ、多くの薬局にとってあまり身近な存在ではなかった。地区薬剤師会やチェーン薬局などで試験的に運用されていたり、限定された薬局のみで使われてきたからだ。しかも、これらは方式が統一されておらず、どれが“本命”になるか判断がつきにくかった。しかし日薬が公式のアプリを出したことで、一気に身近なものになってきた。

 日薬の電子版お薬手帳は、薬局が費用をかけずに導入できるのが大きなポイントだ。後述するように、レセコンのソフトウエアをバージョンアップすれば、全国ほとんどの薬局で対応可能になるからだ。診療報酬改定が行われる2014年4月には、レセコンのソフトウエアが一斉にバージョンアップされる。そのため電子版お薬手帳を使用する環境が自動的に整うことになる。

 ここ1~2年で、スマートフォンが急速に普及した。また、課題となっていた電子版お薬手帳に記録する基本情報の標準化も、医療システム関連の業界団体である保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)が12年9月に仕様書を公表したことで解決している。患者が自分の医療・健康情報を手軽に持ち歩くための下地が整ってきた中で、電子版お薬手帳はその先駆けとなる。

QRコード活用がまず主流に
 日薬の電子版お薬手帳がどのようなものか説明する前に、電子版お薬手帳の方式の違いについて簡単に解説しておこう。電子版お薬手帳には現状で様々なタイプがあるが、情報の出力方法や読み取り方法、閲覧方法などによって図1のように主に4つに分かれる。

図1 電子版お薬手帳の主なタイプと採用状況

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図1 電子版お薬手帳の主なタイプと採用状況

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 (1)は、2次元バーコード(QRコード)で情報を出力して薬局の領収書や明細書に印刷し、カメラで読み込むタイプ。ほとんどのスマートフォンおよび携帯電話(携帯端末)にカメラが搭載されているため、QRコードは現状で最も汎用性が高い。なお、情報は携帯端末のみに保存する場合と、オンライン上のサーバーにも保存する場合が考えられる。サーバーに保存すれば、情報がバックアップでき、パソコンからも閲覧できるなどの点で利便性が高い。

 (2)は、ICカード情報で出力して、「おサイフケータイ」などICカード機能が搭載されている一部の携帯端末で受信するタイプ。カードリーダーにかざせば情報を受信できるが、ICカード機能の普及がネックとなっている。(1)と同様に、情報は携帯端末のみに保存するタイプと、サーバーにも保存するタイプの2種類が考えられる。

 (3)は、領収書や明細書に印刷されたQRコードを薬局のバーコードリーダーで読み取り、情報をサーバーに保存するタイプ。患者や薬剤師は、パソコンや携帯端末などから専用ページにアクセスして情報を閲覧できる。

 (4)は、ICカードを患者の個人認証を行う「鍵」として使い、患者の携帯端末を介さずに、薬局から情報をサーバーに保存するタイプ。患者や薬剤師は、パソコンや携帯端末から専用ページにアクセスして情報を閲覧できる。

 これらのうち、日薬の電子版お薬手帳は、(1)と(2)の両方に対応している。情報はスマートフォンに保存して専用のアプリで閲覧する。使用方法は図2の通り。アプリを立ち上げて、「カレンダー」や「お薬履歴」などをタップすれば、もらった薬の情報が表示される。開発はソニーと共同で行ったという。

図2 日薬の電子版お薬手帳アプリ画面

(1)のカレンダー画面の薬マークをタップすると(2)の画面になり、その処方内容の欄をタップすると、調剤の情報が詳しく表示される(3)。なお、画面は9月末時点のものであり、今後変わる可能性がある。

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図2 日薬の電子版お薬手帳アプリ画面

(1)のカレンダー画面の薬マークをタップすると(2)の画面になり、その処方内容の欄をタップすると、調剤の情報が詳しく表示される(3)。なお、画面は9月末時点のものであり、今後変わる可能性がある。

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大阪府は既に体制整う
 ただ、現段階では日薬のアプリを持つ患者が来たとしても、対応できる薬局は限られる。理由は、まだ多くの薬局はレセコンがQRコードやICカード情報の出力に対応していないからだ。

 そんな中で唯一、都道府県単位で対応が可能になっている地域がある。それが大阪府だ。府下3500店舗の薬局のうち多くがレセコンでの対応を済ませた。理由は、大阪府薬剤師会が大阪府の予算を得て、電子版お薬手帳の普及事業を進めてきたからに他ならない。

 大阪府薬は今年9月に、府下全域の会員薬局を対象に「大阪e-お薬手帳」事業を本格的にスタートさせた。大阪市で9月に開催された日本薬剤師会学術大会では、大々的にお披露目した(写真1)。

 大阪府薬の電子版お薬手帳の中身はデザイン以外、日薬アプリとほぼ同じだ。「大阪e-お薬手帳」の名称でAndroid版とiPhone版の両方がリリースされている。いずれ日薬アプリとソースコードを統合するなど共通化が図られる予定だ。大阪府薬はこの事業を、大阪府から補助金(地域医療再生基金、12年度と13年度の合計で1億7600万円)を得て実施している。

 大阪府薬のアプリも日薬アプリと同様、レセコンが対応していなければ薬局で使用できない。そのため大阪府薬は昨年9月から、大阪府下の会員薬局に納入実績があるレセコンメーカー約30社を対象に、QRコードの印刷機能とICカード情報の出力機能などを付加するよう要請した。その結果、今年9月までにほとんどのメーカーが対応を済ませたという。多くの薬局では既にバージョンアップが済み、必要な情報を出力できるようになっている。

 大阪e-お薬手帳事業の担当役員である大阪府薬理事の堀越博一氏は、「現時点で大阪府下の薬局がどれだけ運用を開始しているかはまだ分からないが、府薬で用意したICカードリーダーは希望した薬局1500カ所に配布しており、手応えは感じている」と話す。

写真1 日薬大会での「大阪e-お薬手帳」PRの様子

いずれはサーバー保存に
 大阪府薬や日薬の方式はまだ完成形ではなく、さらに発展させていく余地がある。現在実験的に使用されている他の方式にも長所があり、今後それらが本命になっていく可能性もある。

 日薬や大阪府薬のアプリの課題は、情報を携帯端末に保存している点。患者が携帯端末の機種を変更したり紛失すると、バックアップを取っていなければデータが失われてしまう。災害などで携帯端末を失った場合でも情報を得られなければ、電子化の魅力も半減する。また、薬以外の情報もたくさん詰まった携帯端末を、投薬情報の確認を理由として薬剤師に手渡すことに抵抗を感じる患者もいるはずだ。

 これらの理由から、電子版お薬手帳では、データはオンライン上のサーバーに保管する方式が理想的と考えられている(下掲記事参照)。情報のバックアップが容易で、薬局のモニターで情報を確認できるようにもしやすい。

 一方で、この方式は電子版お薬手帳の事業主体が費用を払ってサーバーによるデータ保管体制を構築しなければならず、また情報漏洩が起きないようセキュリティー対策も万全にしなければならない。つまり、各個人の携帯端末に情報を保存するよりもハードルは高くなる。日薬もこのハードルを乗り越えるべく検討を進めている。

 「あの薬局では使えたのに」と患者に言われないために、電子版お薬手帳の“波”に乗り遅れないようにしたい。

サーバー保存型の電子版お薬手帳

 データをサーバーで保存するタイプの電子版お薬手帳も既に開発・使用されている。日本調剤が導入している「ポケットカルテ」、イオン薬局の「からだメモリ」、保険薬局協会(NPhA)の「電子お薬手帳」、川崎市宮前区薬剤師会がソニーと共同で実証実験中のものなどが、この方式を採用している。

 この中で、地域や企業グループを問わず、どの薬局でも使用可能なのが、NPhAの「電子お薬手帳」だ。会員・非会員とも、年2万円の利用料と初期費用(バーコードリーダー2万5000円など)を支払えば利用できる。QRコードをバーコードリーダーで読み込むタイプで、薬局で情報をサーバーに取り込み蓄積する。患者は16桁の番号が書かれたカードを渡され、それを薬局で個人認証の「鍵」として用いるとともに、自宅のパソコンや携帯端末からIDとパスワードを入力すれば、自分専用のページにアクセスしてデータを閲覧できる仕組み。

 NPhA専務理事の皆川尚史氏は「この10月からサービスを本格的に提供する。13年度中には参加薬局を200軒程度に広げたい」と話している。

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