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DIクイズ1(A)
DIクイズ1:(A)抗癌剤による下痢の予防に緩下剤
日経DI2013年9月号

2013/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年9月号 No.191

出題と解答 近藤 悠希
(熊本大学大学院生命科学研究部[薬学系]薬剤情報分析学分野)

A1

(2)(a)正しい、(b)併用は避ける

 イリノテカン塩酸塩水和物(商品名カンプト、トポテシン他)は、植物アルカロイドのカンプトテシンから合成された抗癌剤で、DNA合成に関わるトポイソメラーゼIを阻害する作用を持つ。肺癌、胃癌、子宮頸癌、卵巣癌、結腸・直腸癌、乳癌、悪性リンパ腫など適応は広く、外来化学療法で使用されることも多い。

 イリノテカンの用量規制因子には、白血球減少と下痢がある。このうち下痢の副作用については、市販後調査で43%と高頻度に認められている。この下痢には、投与中または投与直後に発現する早発型と、投与後24時間以降から数日後に発現する遅発型がある。前者はイリノテカンのカルバミル基に起因するコリン作動性の下痢と考えられ、多くは一過性で、副交感神経遮断薬が有効とされる。

 一方、後者の遅発型下痢は、イリノテカンの活性代謝物SN-38が腸管粘膜を傷害することで起こると考えられている。イリノテカンは、肝臓のカルボキシルエステラーゼによってSN-38 に変換され、さらにグルクロン酸転移酵素UGT1A1によりグルクロン酸抱合体SN-38Gに変換される。胆汁を介して腸管内に排泄されたSN-38Gの一部は、腸内細菌が産生するβグルクロニダーゼにより脱抱合されてSN-38に変換し、再吸収される。

 また、SN-38の構造はpHに応じて可逆的に変化する。腸管内が酸性に傾くとSN-38の非イオン型が増えるのに対し、中性からアルカリ性ではイオン型になる。イオン型は非イオン型に比べ、腸管で再吸収されにくく、細胞傷害性も低い。

 今回、Aさんに処方された薬剤は、いずれもSN-38による腸管粘膜傷害を防ぐことを目的としている。ウルソデオキシコール酸(ウルソ他)と炭酸水素ナトリウムは、それぞれ胆汁と腸管腔内をアルカリ化する作用を持つ。酸化マグネシウム(マグミット他)は、炭酸水素ナトリウムによる便秘を防ぎ、SN-38を含む便の排泄を促すために使用する。このほか、SN-38Gの脱抱合を抑制する効果がある半夏瀉心湯を用いることもある。

 一方、新ビオフェルミンS錠などの生菌整腸薬は、乳酸や酢酸の産生を促進し、腸内pHを低下させて、非イオン型のSN-38を増やすと考えられている。従って、イリノテカンの投与を受けている期間は、生菌整腸薬や乳酸菌を含む健康食品などの摂取を避けることが望ましい。また、イリノテカンの一部は肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)3A4により毒性を持たない別の代謝物に変換されることから、CYP3A4阻害作用を持つグレープフルーツジュースの飲用も避けるべきである。

 軽度の遅発型下痢の場合には、ロペラミド塩酸塩(ロペミン他)が治療に用いられることがあるが、麻痺性イレウスを引き起こす恐れがあるため、同薬の予防的投与や漫然とした使用は推奨されていない。高度な下痢が持続すると脱水や電解質異常を来し、ショックを併発する恐れもある。水様便などの高度な下痢症状が続いたり、血便やおなかの張りが見られた場合には、早急に医療機関を受診するよう指導すべきだろう。

こんな服薬指導を

イラスト:加賀 たえこ

 先生からお聞きになったように、Aさんが今日受けた点滴は、腸の粘膜を荒らしてしまい、数日間にわたって下痢の副作用を引き起こすことがあります。腸の中が酸性になると、お薬の毒性が強まるので、こちらのウルソと炭酸水素ナトリウムというお薬で、腸の中をアルカリ性にします。また、点滴したお薬が腸の中に長時間とどまると、粘膜へのダメージも大きくなってしまいます。そこで便と一緒にお薬を体の外に出しやすくするために、下剤のマグミットを使います。

 新ビオフェルミンS錠などの乳酸菌を含むお薬や健康食品は、腸の中を酸性にするので、点滴を受けている期間は使用しないでください。脱水を防ぐために、水分を十分に取ってくださいね。もし水のようなひどい下痢が続いたり、逆に便が全く出なくなるようであれば、すぐに先生か私どもにご連絡ください。

参考文献
癌と化学療法2002;29:1171-7.

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