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薬の相互作用としくみ
CYPの遺伝子多型が薬効や副作用に影響
日経DI2013年9月号

2013/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年9月号 No.191

後藤 道隆、杉山 正康 すぎやま薬局(福岡県久留米市)

 肝・消化管に存在する薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)の活性には、個人差があることが知られている。この個人差は主に、遺伝子多型に起因すると考えられている(表1)。

 一般に、ある集団に1%以上の頻度で認められる遺伝子変異のことを遺伝子多型(polymorphism)と呼ぶ。その多くは、1つの塩基の違いによる一塩基多型(SNP、スニップ)または2~4塩基からなる配列の反復回数の違いによるマイクロサテライト多型(STRP)である。遺伝子多型の変異遺伝子(変異型アレル)は、遺伝子名に*(アスタリスク)と数字を付けて表記する。*1は野生型アレルを示す。

 CYPは酵素活性(代謝能)の高い順にultra-rapid metabolizer(UM)、extensive metabolizer(EM、通常の代謝能に相当)、intermediate metabolizer(IM)、poor metabolizer(PM)に分類される。今回は、特に留意すべきCYP2C9、2C19、2D6の遺伝子多型を中心に解説する。

表1 CYPの遺伝子多型が問題となる主な薬剤

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CYP2C9の遺伝子多型

 CYP2C9遺伝子多型のうち、2C9*3による代謝阻害は日本人の約2~4%に認められるとされる(日薬理誌 2009;134:212-5.)。この多型を持つ患者では、フェニトイン(商品名アレビアチン、ヒダントール他)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの血中濃度の上昇に注意する。一方、代謝阻害により活性体の産生が低下するロサルタンカリウム(ニューロタン他)などは、薬効が減弱する。

 CYP2C9の代表的な基質であるワルファリンカリウム(ワーファリン他)の維持量は、2C9*1/*1患者に比べて、*1/*3患者で約50%、*3/*3患者で約13%に低下することが報告されている。

 フェニトインはCYP2C19でも一部代謝されるため、2C9*3/*3と2C19*2を併せ持つ患者では、フェニトイン中毒を発症する可能性が高くなる。

CYP2C19の遺伝子多型

 CYP2C19遺伝子多型の影響を受ける主な薬剤には、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、クロピドグレル硫酸塩(プラビックス)、エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ)などがある。

 表現型としては、代謝能の高い順にrapid metabolizer (RM)、IM、PMに分類でき、日本ではそれぞれ35%、49%、16%を占めると報告されている。RMは*1/*1、IMは*1/*2、*1/*3、PMは*2/*2、*2/*3、*3/*3を有する。

 PPIについては、PMでは十分な効果が得られるため問題ないが、RMでは代謝が促進して効果が減弱する。薬剤別には、オメプラゾール(主にCYP2C19で代謝)、ランソプラゾール(2C19、3A4)、ラベプラゾール(一部2C19、3A4)の順にCYP2C19遺伝子多型の影響を受けやすい。

 ピロリ菌の除菌成功率は、PMではほぼ100%であるのに対し、その他の患者は75~88%にとどまり、消化性潰瘍の治癒速度や逆流性食道炎の治癒率も低くなる。これは、RMではPPIの効果減弱により胃内pHが上昇しないことに起因すると考えられる。

 クロピドグレルは、複数のCYP分子種で代謝されて活性体となり、その効果は主にCYP2C19の影響を受ける。表現型では、UM、EM、IM、PMの順に効果が増強しやすく、PMとIMはEMに比べて、心血管イベントの発症率が高いことも示されている。

 エスシタロプラムはCYP2C19によって不活性化されるため、PMではQT延長などの副作用リスクが高まる恐れがある。国内薬物動態試験において、PMではEMに比べAUC0-∞が約2倍に上昇したため、PMにおいては投与量の上限を通常量の2分の1(10mg/日)とすることが推奨されている。

CYP2D6の遺伝子多型

 CYP2D6の遺伝子多型のうち、特に重要なのは、酵素活性が完全欠損する2D6*5、活性が低下する2D6*10である。*10/*10または*5/*10を持つ患者は、PM(*5/*5)とEMの中間であるIMを示す。頻度は、IMは約20%、PMは1%以下と考えられている。

 CYP2D6の遺伝子多型の影響を受ける主な薬剤には、神経系作用薬、β遮断薬、抗不整脈薬などがある。これらは代謝能の低下により重篤な副作用を引き起こす恐れがあることから、低用量から投与を開始し、数週間~数カ月かけて徐々に増量した方がよい。

 コデインリン酸塩水和物(コデインリン酸塩他)は、CYP2D6によって一部が活性代謝物のモルヒネに変換されるため、UMの授乳婦がコデイン製剤を服用すると、過剰なモルヒネが母乳を介して乳児に移行する恐れがある。日本ではUMの頻度は1%程度とされるが、その判別は容易でないため、授乳婦への投与は禁忌となっている。

 トラマドール塩酸塩(トラマール、トラムセット配合錠)もコデインと同様、CYP2D6によって活性体に変換される。UMでは活性体の血中濃度が上昇し鎮痛効果は増強するが、吐き気や呼吸抑制などの副作用の頻度も高くなる。

 また、タモキシフェンクエン酸塩(ノルバデックス他)は、主にCYP3A4によって脱メチル化された後、主にCYP2D6によって活性代謝物(エンドキシフェン)に変換される。PMではEMに比べて、無病生存期間および無再発生存期間が有意に短くなるとの報告もある。

 ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)のミルタザピン(リフレックス、レメロン)は、CYP2D6によりS体(活性体)が代謝される。そのため、UMにおいて十分な効果を得るためには、高用量投与が望ましいと考えられる。ただしこの場合、代謝を受けないR体が増えることによる、心拍数および血圧上昇などの副作用の発現には注意を要する。

 β遮断薬のメトプロロール酒石酸塩水和物(セロケン他)は、PM ではUMに比べてCmaxが5.3倍、AUCが13倍に上昇し、副作用の頻度も高まることが報告されている。代替薬としては、CYP2D6で代謝されないビソプロロールフマル酸塩(メインテート他)やアテノロール(テノーミン他)が考えられる。

薬効への遺伝子多型の影響

 その他のCYP分子種では、CYP2A6に関して、日本人の4%は活性が欠損または著しく低下する2A6*4アレルを持つことが示されている。喫煙により吸収されるニコチンの大部分はCYP2A6で代謝されるため、CYP2A6*4を有する喫煙患者は無意識のうちにニコチン摂取量を抑えるとされる。一方、このような患者が禁煙補助薬のニコチン製剤を使用すると、ニコチン過剰による副作用が増強する可能性がある。

 遺伝子多型は薬物相互作用の発現にも関わる。例えば、CYP2D6の遺伝子多型によって代謝阻害を受けやすい薬剤と、CYP2D6阻害薬を併用した場合、2D6の酵素活性が低下する変異型アレルを持つ患者では、血中濃度が上昇し、相互作用が発現する可能性が極めて高くなる(ケース1)。

 ピロリ菌の1次除菌に失敗するケースでは、CYP2C19遺伝子多型による代謝促進が関与していることがある。PPIの特性と遺伝子多型を考慮し、必要に応じて、PPIや抗菌薬の増量を処方医に提案する(ケース2)。

 一般に薬効は、代謝阻害により増強し、促進により減弱するが、ロサルタンやクロピドグレルなどの代謝活性体では、その逆になる点に留意する。

 当薬局での実際の対応を示す。

 ケース1では、アルツハイマー型認知症のAさんに対し、抑肝散とパキシル(一般名パロキセチン塩酸塩水和物)が処方されていたが、今回、夜間の徘徊やせん妄などの周辺症状が強くなったため、低用量のリスペリドン(リスパダール)が追加された。

 リスペリドンは主にCYP2D6(一部CYP3A4)で代謝されるため、PMでは血中濃度が上昇する恐れがある。また、パロキセチンは強いCYP2D6阻害作用を持つことから、相互作用によりリスペリドンの作用が増強する可能性が高いと予測された。

 そこで薬剤師は、付き添いの家族に対し、リスペリドンの主な副作用症状である立ちくらみ、めまい、眠気、口の渇き、便秘(イレウス)、尿が出にくい、動悸、体重増加、錐体外路症状(震えなど)、血糖値変動などについて説明し、特に飲み始めの頃に起こりやすい強い立ちくらみによる転倒には、十分注意するよう伝えた。

 ケース2では、ピロリ菌の1次除菌に失敗したBさんに対し、ランソプラゾール(LPZ)をラベプラゾールナトリウム(RPZ)、クラリスロマイシンをフラジール(メトロニダゾール)に変更した上記の処方で2次除菌療法が行われた。しかし、2次除菌も失敗したため、処方医から薬剤師に相談があった。

 1次除菌の失敗の原因としては、クラリスロマイシン耐性菌と、PPIの代謝酵素であるCYP2C19の遺伝子多型が考えられた。2次除菌ではフラジールに変更したため、クラリスロマイシン耐性菌の問題はない。RPZはLPZに比べてCYP2C19遺伝子多型の影響を受けにくいが、2次除菌も失敗していることから、BさんはCYP2C19の代謝が速いタイプである可能性があり、2次除菌ではRPZも効果不十分だったことが考えられた。

 そこで薬剤師は、投与量と投与回数の増加などが必要と考え、処方医に対し、RPZ 1回10mg(1日4回)+アモキシシリン1回500mg(1日4回)の2週間投与を提案した(Drug Metab Pharmacokinet.2005;20:153-67.)。現在、保険適用上の問題を含め、処方変更を検討中とのことである。

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