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症候からの疾患鑑別とトリアージ
日経DI2013年9月号

2013/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年9月号 No.191

 かつての薬局は地域の身近な健康相談窓口の役割を担っていたが、90年代に医薬分業が進み、処方箋薬の調剤や服薬指導の場となった。それが2000年代に入って医師不足や医師の偏在が目立つようになると、薬局には地域におけるチーム医療、つまり在宅医療や地域包括ケアなどに参加することが求められるようになった。

 一方、地域の健康管理の担い手として、プライマリケアの窓口の役割も求められている。すなわち体調に不安がある人の相談を受けてトリアージ(対応方法の判断)を行い、軽疾患であれば一般用医薬品(OTC薬)や健康食品などを活用してセルフメディケーションを支援するといったことだ。このように薬局薬剤師が、地域のチーム医療とプライマリケアに関わることを私は「第2ステージの医薬分業」と称している(表1)。

 その際には、「薬局は地域の主要な医療提供施設である」ということと、「薬局薬剤師は責任ある判断と行動をするプロの医療人である」ということが重要であると、まずは強調しておきたい。

表1 薬局薬剤師の業務の変遷

患者が最初に言うのは症候

 プライマリケアの窓口としての薬局でも、在宅医療の現場でも、患者が最初に訴えるのは症候だ。薬局では頭痛や腹痛、発熱、不眠などの症候を訴えるだろうし、在宅患者となるともう少し重い症候を訴えることもあり得る。

 それを聞いてどのように対応すればいいか。薬局薬剤師に求められるのは、症候から病名、病態を推測すること、あるいは重症度や緊急度を推測することだ。その上で、トリアージを行い、緊急対応をしたり、OTC薬を薦めたり、受診勧奨したり、在宅であれば医師に処方提案したりする。それも、「よく分からないから医師に診てもらいなさい」と言うのではなく、「この疾患の可能性が高いから診てもらいなさい」と、プロの医療人として責任を持って言う。そういう対応を適切に行うのが、第2ステージの医薬分業における薬局薬剤師の役割だ(表2)。

 そのためには、例えば頭痛という症候に対してどのような病気があるのか、体系的に思い浮かべられなければならない。患者は来局して病名を言うわけではなく、まずは症候を口にするからだ。

 症候から病名を推測して絞り込んでいくというのは診察の基本であり、医学部では頭痛という症候から30個の病名を思い浮かべることができなければ、ベッドサイドに出さないだろう。ところが、従来の薬学部の教育ではまず病名を学習するので、病気のことはよく知ってはいるものの、症候から病名を推測する“逆引き”のトレーニングができていない。まずは病名を数多く挙げられるようになることが重要である。

表2 症候を訴える来局者・患者への薬剤師の対応

LQQTSFAの順に質問

 続いて行うのは、情報を集めて病名を絞り込んでいく作業だ。その際には病名を自由にソーティングできるようになる必要がある。例えば重症度の高いものを上に持っていくとか、全身性疾患が疑われたらそれを上に持っていく、逆に頭の中が疑われたらそれを上に持っていくといった具合だ。そのためにはそれぞれの病名について十分に理解していることが必要である。

 情報収集については、適切な医療面接を行うことが基本である。将来的には薬剤師もフィジカルアセスメントを行えるようになることも望ましい。医療面接の標準的な手順を表3に示した。まずは自覚症状について、LQQTSFAの順に質問する。続いて職場環境や生活環境など、心理・社会的情報に関する質問を行う。さらに、既往歴や服薬歴も参考にするが、薬剤師には症状のことは質問せず、いきなり薬のことを質問する人が多い。

 頭痛を症候とする約30の病気から、LQQTSFAの質問を行うことで絞り込みができる(表4)。この質問には5分もかからないだろう。さらに、表3に挙げたことを全て聞いても10分もかからない。それでかなりの情報を得ることができる。なお、そうやって病気を絞り込む段階で1つにまで絞り込んでしまうと思い込みから医療過誤となりかねないので注意したい。3、4の怪しいものに絞り込むぐらいの感覚でいるといいだろう。

表3 医療面接の標準的な手順<

表4 頭痛に関する質問と推測される疾患の例

臨床判断のアルゴリズムを使う

 絞り込みを行う際に、ツールとして役に立つのがアルゴリズムだ。これを用いて「急性」「熱がある」といったLQQTSFAで得られる3つほどの回答で、2、3の疾患に絞り込める。アルゴリズムだけに頼るのは危険だが、参考にはなるし、全ての病気のことを完全に把握していなくても病気を絞り込めるので、手元に置いておくと便利だ。医学部で使っている診断学の教科書の中にはアルゴリズムも載っていて、昔から当たり前のように利用している。

 そうやって背景となる病気を推測したら、今度は最善の治療方法を判断するわけだが、残念ながら薬剤師はそのトレーニングを受けていない。これまでは「最適な治療法は医師が判断するもの」と、思い込んできたのではないだろうか。

 しかし、症候を訴えて薬局に訪れた人には、まず薬剤師がプライマリケアの窓口として治療方法を判断し、提案すべきだろう。病院でも、薬物療法の判断には、チーム医療の一員として薬剤師が関わるようになっている。在宅医療においても、次に医師が往診する時を待つよりも、訪問した薬剤師が患者の状態に基づいてその場で判断し、処方提案をした方が合理的だろう。

 最善の治療方法の提案は、従来は医師が経験に基づいて行ってきた面がある。しかし、現在はエビデンスに基づくガイドラインが出ているので、これをうまく用いればいい。従来の薬剤師はそのようなトレーニングが十分になされていなかったので困難に感じる人も多いかもしれないが、トレーニングを積めば薬剤師にも十分できるはずだ。病気を推測した後も、重症度などで対応方法は異なってくるので、ガイドラインなどに基づいて対応方法のアルゴリズムを作成しておくと、それを見て提案できる(図1)。

図1 臨床判断アルゴリズムの例

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卒後教育の活用を

 これまで薬剤師は症候から病名を推測し、情報に基づいて病気を絞り込むことや、最善の治療方法を判断・提案するトレーニングを受けてこなかったと述べたが、6年制の薬学教育ではプライマリケアやセルフメディケーション、在宅医療も含めて全国共通のモデル・コアカリキュラムに含まれ、全学生が学習している。昭和大学では、頭痛で1週間、腹痛で1週間と時間をかけて、グループで討議をさせ、アルゴリズムを作らせている。教え方は様々で、講義だけで教えている大学もあるが、6年制の教育を受けた学生は全員が学んでいる。

 そこで、薬剤師会や学会などを中心に、卒後教育としても臨床判断に関するワークショップや研修会が盛んに行われるようになっている。日本薬剤師会は、日本薬剤師研修センターや日本チェーンドラッグストア協会などと連携して、2013年度から「薬剤師の臨床判断と一般用医薬品適正使用研修事業」を立ち上げ、10月には指導者研修会を開催する。また、日本アプライド・セラピューティクス学会も、11月に臨床判断ワークショップを開催する予定だ。こうした卒後教育の機会などを利用して、地域のプライマリケア、セルフメディケーション支援と在宅チーム医療に関わる薬剤師を目指していただきたい。

(昭和大学薬学部教授・木内 祐二)

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