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生活保護受給者「薬局登録制」の波紋
日経DI2013年9月号

2013/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年9月号 No.191

かかりつけ薬局制度を担当する、東大阪市役所の福祉部。

 大阪府東大阪市は2013年8月、生活保護受給者を対象に「かかりつけ薬局制度」を開始した。処方薬の交付薬局を受給者ごとに1カ所にまとめるという、全国で初の試み。7月下旬に、市内の生活保護受給者およそ1万4000世帯(約2万1000人)に、かかりつけ薬局制度の説明書と届出書(写真)を送付。7月末には、市内の約750軒の生活保護法指定医療機関と約190軒の指定薬局に、同制度の内容と具体的な流れを説明する文書を送付した。

 14年1月末をめどに全ての受給者にかかりつけ薬局を届け出てもらい、14年4月にかかりつけ薬局名を記した「確認証」を発行、以後は確認証記載の薬局でのみ処方薬の交付を行う。

 同制度を担当する東大阪市福祉部生活福祉室室長の平田厚之氏は、「かかりつけ薬局制度導入の第一の目的は、重複投薬の抑制による受給者の健康管理。だが、医療費抑制という狙いももちろんある」と話す。

「かかりつけ薬局制度の第一の狙いは重複投薬の抑制」と話す、東大阪市福祉部の平田厚之氏。

写真 東大阪市が生活保護受給者に配布した「かかりつけ薬局制度」の説明書と届出書

医療扶助費が市財政を圧迫
 全国の生活保護受給者数は、08年9月のリーマン・ショック(米国発の世界的な金融危機)以降、急激に増加した。そのおよそ100人に1人が東大阪市に居住している。

 東大阪市が全国平均と大きく異なるのは保護率、つまり住民に占める生活保護受給者の割合だ。表1に示すように、市民の実に25人に1人が生活保護を受けている計算になる。保護費の約42%を占めるのが医療扶助費で、「今回の制度導入を、受給者だけでなく医療機関や薬局、ケースワーカーにも、医療扶助の適正なあり方を考える契機にしてもらいたい」と平田氏は期待を寄せる。

 東大阪市では、14年3月までを同制度の周知期間と位置付けており、生活保護受給者は自分のかかりつけ薬局以外の薬局でも処方薬の交付を受けることが可能だ。ただし、薬局にはこの制度に対応した確認業務が発生する(図1)。東大阪市在住の受給者が来局したら、自分の薬局がかかりつけ薬局か否かを確認し、別の薬局をかかりつけとして届け出ている場合は福祉事務所に報告しなければならないのだ。

 受給者は全国のどこの薬局をかかりつけとしてもよいため、市外の薬局でも同様の対応が必要となる。「大阪府薬剤師会には会員薬局への周知をお願いした。奈良県や兵庫県など、大阪府以外にある薬局をかかりつけにする場合は、担当ケースワーカーが薬局に個別に説明している」(平田氏)という。

表1 全国と東大阪市の生活保護状況(2012年、保護費は11年)

(出典:厚生労働省『福祉行政報告例』『生活保護費負担金事業実績報告』、東大阪市『生活保護行政適正化行動計画』。数値は概数)

図1 東大阪市の生活保護受給者に対する薬局での対応

「1カ所限定」「院内」が課題
 だが、かかりつけ薬局を1カ所に限定することが困難なケースもある。東大阪市内にある大阪府薬剤師会の3支部(河内、布施、枚岡)の1つ、河内薬剤師会会長の川口秀子氏は、「特に精神科を含む複数科を受診している受給者では、精神科の薬は自立支援医療の指定薬局、他科の薬は近所の薬局からもらっているケースが多い。1つには決められないと、パニック状態で相談に来た人もいた」と話す。

 川口氏らが市内3支部合同で8月20日に会員薬局170軒に対して実施した緊急調査では、この「精神科と他科」というパターンのほか、慢性疾患への定期薬とかぜなど急性疾患への臨時薬を別の薬局でもらっている受給者からの問い合わせが多いことが分かった。「かかりつけ薬局を2カ所登録できるようにすれば解決するので、薬剤師会から市に要望している」と川口氏。これに対し東大阪市は、「事情に応じて例外は許すが、2カ所登録を全例に認めると制度が骨抜きになりかねない」(平田氏)と慎重な姿勢で、両者の主張は平行線をたどっている。

 もう一つの悩ましい問題が、院内処方医療機関の存在だ。東大阪市の医療機関は院外処方箋発行率が52%と低い(全国平均は12年で65.8%)。河内薬剤師会前会長で大阪府薬剤師会理事の鴨池伸治氏は「薬の半分しか把握できない状態では、かかりつけ薬局として重複投薬のチェックに責任が持てない」と指摘する。

 この問題の解決に向けて東大阪市内3支部が提案するのが、お薬手帳型の確認証だ(図2)。お薬手帳の2ページ目にかかりつけ薬局名などの記入欄を設け、院内処方の医療機関には処方内容の記入または院外処方箋の発行を要請する。「手帳型なら、院内投薬分も含めて薬剤情報を一元管理できる。行政にはぜひ前向きに検討してもらいたい」と鴨池氏は力を込める。

 東大阪市の制度には他の自治体からの関心も高く、「兵庫県尼崎市や奈良県の複数の市、京都市、東京都足立区などから問い合わせを受けている」と平田氏。生活保護行政適正化策の一つとして全国に波及する可能性を秘めた制度だけに、今後の動向を注視したい。

図2 大阪府薬剤師会の東大阪市内3支部が提案する「お薬手帳型確認証」

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生活保護者への後発品調剤で新たな通知
「先発品希望理由の聴取と報告」求める

 13年5月16日、生活保護受給者の後発医薬品使用促進に向け、医療機関や薬局に協力を求める通知が厚生労働省から発出された。この通知「生活保護の医療扶助における後発医薬品に関する取扱いについて」(13年5月16日社援保発0516第1号)と同名の通知は08年4月、12年4月にも出ているが、今回の通知は受給者が先発品を希望する理由の聴取と報告などを薬局に対して新たに求めている(表2)。生活保護法の改正法案に受給者への後発品使用が盛り込まれたことを受けた通知で、法案は廃案となったが「通知の効力と法改正は別の話であり、通知は有効」(厚労省社会・援護局保護課)という。

 ただし、薬局における理由の聴取・報告は、同時に出された事務連絡に「受給者への周知が前提」と記されており、実施の開始は十分な周知がなされた後となる。理由の記録と福祉事務所への報告方法は「薬局での作業が過大にならないよう配慮・工夫する」とされており、具体的な手順の調整には時間がかかっているようだ。

表2 生活保護受給者への後発品使用に関する通知のポイント

(厚生労働省社会・援護局保護課長通知[13年5月16日社援保発0516第1号]より編集部まとめ)

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